マツダ・デミオXDツーリング Lパッケージ(FF/6AT)
理想の“アシ”を求めて 2016.12.12 試乗記 理想とするドライブフィールの実現に、並々ならぬ執念を見せるマツダ。今回の「デミオ」の一部改良でも、前後のサスペンションにはマニアックな変更が加えられていた。公道での試乗インプレッションとともに、変更のポイントをつぶさに紹介する。リアサスにおけるチューニングのキモ
「フルチェンジでもないのにまたデミオかよ!?」な人もいることでしょう(もっというと、「CX-3」の試乗記も近々アップロードされます)。マイナーチェンジ……ではなくてネンカイこと年次改良……でもなくて商品改良。でデミオ、今回ナニがどう変わったのか。
人馬一体関係でいうと、「TBAブッシュの特性を変更」というのがある。「すぐり角変更で前後入力を吸収、インパクトショックを低減」。資料より。TBAとはTorsion Beam Axleの頭文字で、左右のトレーリングアームをビーム(レーザー光線ではなくて鉄のパイプや鉄の板を曲げた部材)でつないであるタイプのリアサスペンションをまとめてそう呼ぶ。いわゆるリジッドアクスルか独立懸架かでいうとその中間で、だから半独立式とか呼ばれたりもする。左右のトレーリングアームをつないでいるビームがねじれるタイプのアクスルだからTBA。ビームがねじれるぶん左右輪がインディペンデントに動けるから半独立。
TBAにもいくつかあるなかで、デミオ用のはトレーリングアームの付け根=車体側取り付け点の近くで左右のトレーリングアームがビームでつながれている。なのでコンパウンドクランクとかH型トーションビームとか呼ばれたりもする。FF車のリア用としてすごくよく使われているタイプ。スタンダード、といってもいい。シンプル設計で部品点数が少ないので部品代は抑えられるし組み付けの手間もラクだし、あとFFで肝心なリアのロール剛性的にも高くできるので(なにしろサスペンションというかアクスルの全体がスタビ=アンチロールバーみたいなもんなので)いろいろと有利。
そのトレーリングアームの付け根のブッシュが、ここでいうTBAブッシュ。もちろんバネやダンパーを介してもアクスル側と車体側はつながっているわけだけど、狭義の連結点はTBAの場合、そのブッシュ×2のみ。オトシン対策重視でブッシュのゴムをヤワくすればヘタをすると車輪の位置決めがアマくなって真っすぐ走らなくなるし、逆に車輪の位置決め重視でゴムをカタくするとオトシンがキツいことになったりするし……なのですごいキモになる部分。TBA全体でいうと、取り付け点の高さ(で決まる、横からみた際のトレーリングアームの後ろ下がりの度合い)やその左右の間隔(取り付けスパン)や揺動軸の角度の設定(横Gを受けた際の旋回外輪のトーアウト方向への動きを抑制するために、車体中心線に対して直角ではなく少しかもっとナナメに設定するのがフツー)や車体側の取り付け部のガッチリ度なんかでもって、デキのよしあしが決まってくる。形式が同じだから性能も同じ、ということは全然ない。
路面からの入力を後ろにいなす
TBAブッシュの「すぐり角変更で前後入力を吸収、インパクトショックを低減」とは、サテなんのことか。ブッシュの「すぐり」とは簡単にいうと穴というかスキ間で、要は一部、ゴムが詰まっていないところがある。なんのためかというと、たわみやすくするため。ゴムがみっちり詰まっているところはツブす方向のチカラに対して変形しにくく、ゴムが一部ナシにされている部分はツブす方向のチカラに対して変形しやすい。ある特定の方向からの入力に対してだけはたわみやすくするためにすぐりを入れる。
今回、そのTBAブッシュのブツそのものはなにも変わっていない。いままでのと同じ部品。なのだけど、組み付ける際の位置というか角度を変えた→「すぐり角変更」。どう変えたかというと、後輪が路面の凸を踏んだ際に後ろへいきやすいというか逃げやすい、いいかえるとホイールベースが伸びやすいように変えた。1個のブッシュに2カ所あるすぐりの配置というか位置関係が、従来はどっちかというと上下に近かった。それを今回は、もっと左右に近い感じに変えた。で、それによって「インパクトショックを低減」。ショック入力のカドを丸くした。で、「初期ショック(G)を25%ダウン」。
なんでそんなことをやったかというと、もちろん「インパクトショックを低減」するため。ぶっちゃけた話、「リアの突き上げが……」系のコンプレインがあったから。あるいは、マツダ車内でもなんとかしたいと思っていたから。ガツン系のキツい入力は、指摘するにあたって非常に都合がいい、というかわかりやすい。誰にでも。そういうのがあると、「マツダ車は、走りはイイけど乗り心地が……」みたいな感じでジャーナリストあたりにシタリ顔をされやすい。商品力上、小さくない減点要素。
基本の話として、インパクト入力を逃がすには、その原因となる凸を踏んだ際にタイヤが後ろへスッと動けるといい。有利。シロート感覚だとショックがもっぱら下からくる感じなわけだけど、クルマ的には前後方向の問題でもあるのである。凸を踏んだタイヤが後ろへ逃げながら、同時に上へも動く。トレーリングアームの後ろ下がりの角度がうんぬんというのも関係があって、例えばの話、凸を踏んだ際にトレーリングアームが水平だったとしたら、そこから先サスペンションが縮むにつれて、車輪は上だけでなく前へも動く。ホイールベースが短くなるほうへ。その前への動きはショックを逃すのではなく逆に迎え撃つ方向。キツくする方向。このへんは、SKYACTIV初期の技術プレゼンでなんべんも説明されたところでもある。
日本車のダンパーに見る“傾向と対策”
もうちょっと深い話としては、ダンパーの減衰値の設定。突き上げがキツいといわれないように、あるいは少しでもいわれにくいようにするために、従来は、簡単にいうと減衰を抜いていた。ダンパーの減衰値を低めに、あるいはユルめに設定することでショックを逃がしていた。でもTBAブッシュの「すぐり角変更」でショックのピークのカドを丸めることができたので、そのへん、今回はちょっと(かもっと?)上げることができた。ヨリ具体的には、伸び側は(ほどんとかまったくか)そのままで、圧側の減衰値を高めに設定。低速高速でいうと、どっちも。つまり、圧側の減衰を全体的に上げた。盛った。で、それに合わせてフロントのダンパーの減衰値の設定も変更(おそらく圧側をちょっと上げてるはず)。
日本車に乗っていて「ああ、日本車だあー」となってしまう現象というか乗り心地のひとつに、ダンパーの圧側の減衰のユルさというのがある。特にわかりやすいのはリア。路面が波打ってるところを走ると、ダフ~ンとだらしなく車高が下がる。落ちる。ケツが落ちて戻ってこなかったり、あるいは反転して戻ってきたと思ったらキュッと急に伸びが止まったり。いずれにせよ快適やシャキッとのハンタイで、ダフ~ンを体験すると、なんだか自分がヨボヨボの老人になったような気分になる。あるいは、キュッと止まって揺すられて不快さを味わうことになる。ヒドいと、酔う。
ちゃんとウラをとったわけではないのでアレだけど、「バネ下の振動は圧側の減衰で、バネ上は伸び側で」みたいなセオリー(?)が日本車界にはあるらしい。でそこから、「圧側の減衰はホドホドに」みたいな。圧側の減衰がしっかりあってもショック入力がガツガツにならないためには実は車体がキモで、日本車はそこがというかそこも弱い。なので、結果的に圧側ユルめの設定とある意味相性がよかったりもする。「破れ鍋に綴じ蓋(われなべにとじぶた)」的に。
ということで「日本のメーカーの人たち、圧側の減衰つけるの、キライですよね」といったら、操安開発担当エンジニアの人は笑っていた。でいわく、「でもマツダは圧側の減衰、ちゃんとだしたいほうなんです」。
明らかに改善された乗り心地
乗った感じ、最新デミオは乗り心地がよくなっていた。ごく簡単にいってしまうと、ピッチングが減っていた……ということになるのかな。車体が常に地面と平行でありながら、その平行なまま上下にゆったり揺れる……のが理想ないし目標だとすると(実車的には「フォード・フォーカス」がそれにかなり近い)、そこに近づいた。そうではない雑多な、あるいは何種類かの揺れが従来型ではユサユサふらふらずっと起きていて、それが快適さの大きなマイナス要因になっていたのが、なくなった……わけではないけど、減った。リアの突き上げのピークが下がったというのはもちろんウソではないにしても、もっと印象が強いのは揺れというか揺さぶられかたが整理されたこと。もっとぶっちゃけた話としては、酔わない感じになった。あるいは酔いにくい感じに。
仕様的なことだと、今回借りたディーゼル6ATは乗り心地的にデミオのなかではキツいほうだといえる。なぜなら、全体の重量がたいしたことないなかでハナ先がすごく重たいので。同じFFの1.3ガソリンと比べると、車重は90kgも違う。その重量増ぶんのほとんどはフロントに載っかっている。なので、前後の重量アンバランス度も高い。でもってたしかダンパーの減衰値の設定は1.3ガソリンも1.5ディーゼルも同じときている。さすがにバネは同じではないはずで、ということはフロントが重たいぶん前後のレートの格差はデカくなる方向。フロントをゆったりしっかり支えるのと前後のアシの伸び縮みのバランスをうまくとって車体を平行に上下させることの両方において、ディーゼル6ATはツラいはず。実際というか、そのツラさがモロにでている感じが従来型にはあった。前に乗ったとき、正直、ちょっと酔った。
カメラマンK氏の証言
なお今回、ご丁寧にもマツダは同じ仕様の改良前バージョンをいっしょに貸してくれた。なので乗り心地の違いがいっそうよくわかったのと、それとおもしろかったのはカメラマンのコメント。いわゆるヘーソー(並走)の撮影をやった際のカメラカーが改良前バージョンのディーゼル6ATのデミオだったので、コーゴさんはその後席から写真を撮った。でいわく、「デミオってあんなに揺れるんですね。止まらなかった」。「止まらなかった」とはつまり写真機が(それをもって構えている写真家および彼が乗っているクルマごと)盛んにブレたということで、被写体=改良後デミオの車体がピタッと止まってかつ背景がキレイにザーッと流れている画像をゲットできる率が低かった。OKカットの歩留まりが悪かった。
ブレを止めるにはシャッタースピードをうんと速くすればいいわけだけど、あのテの撮影の場合、シャッタースピードはあまり速くできない。なぜなら、速くしすぎると背景がキレイに流れて車輪がガーッと回っている画像にならないので……ってことで、合ってます? コーゴさん。一発のガツンは目につくけど、多少あっても、すぐに減衰→収束すれば実質ナンてことはない。でも、ピッチング系のユサユサやフラフラはタチが悪い。そのスジの人以外の人でヘーソーの撮影をやる人はあまりいないだろうけど、酔う原因にはなるから。余談ですが、こないだコーゴさんの「ルノー・セニックRX-4」の後ろに乗ったら、乗り心地、めっちゃくちゃヨカッタ(「だからいまのクルマに乗り換えられないんですよ」←本人談)。
マツダがこだわる“ロールの仕方”
人馬一体関係のブッシュ関係ではフロントも。こちらはロワーアームの“No.2”つまり後ろ側のジョイントのブッシュが新規部品。どう変わったかというと、すぐりが大きくなった。資料にいわく「こじり剛性40%低減」……とはすなわち、アシが伸び縮みする際の抵抗を減らした。で、「スムーズなストローク→スムーズな初期応答」。バネもダンパーも車輪もついてない状態で車体というかサブフレームにくっついているアームを手でもって動かしてみるとわかるけど、たいがい、スコスコするするとは動かない。ゴムブッシュという名前の(プログレッシブレートの)バネの反発が感じられる。グイッと。「こじり剛性」を減らしたとは、その反発を弱くしたということ。簡単にいうと、フロントのロール剛性を低くした。「(キレイにノーズをダイブさせるために)フロントのブッシュをやりたい」とは現行デミオがでた当初からいっていたことで、でもこのテのゴム部品の場合、耐久試験やなんかの確認を経る必要がある。そのため導入までに時間がかかった。
マツダの説明によると、カーブでハンドルをきった際に「横への応答の後にフロントの沈み込み」があると、それは「感性と異なる(違和感ある)初期応答」だそうで、じゃあどうならいいかというと、「フロントが沈み込み横への応答(ロールと応答が連動)」。それだと、「人馬一体を実現する初期応答」。「感性に合う自然な反応」とはすなわち、「ダイアゴナルなロール姿勢と応答が連動して、気持ちの良い旋回」。んー……。簡単にいうと、もっとノーズダイブさせたい模様。んー。乗った感じの違いもふくめて、このへんの説明は正直、よくわからない。わかりませんでした。
でもというか、「ダイアゴナルなロール」がマツダのコダワリないしポリシーであることは知っている。なにしろ、でてくるクルマでてくるクルマ、どれでもいっているので。で、FRのクルマで「ダイアゴナルなロール」をあんまりやられると、それこそ違和感あるんだけどなー……というのはある。例えば左旋回でいうと、右フロントがグーッと沈んで左リアがビヨーンと伸びる。FRのリアって駆動輪なんですけど……みたいな。左右ベタッとくっついていてほしいんですけど的な。駆動輪のリアはトラクション重視=接地性重視でカタくしすぎちゃダメよ、で、そのぶんフロントでロールに対して踏ん張る。スタビをしっかり効かせる。それがFRのアシのセットアップのセオリー(実車的にはリアがリジッドアクスルの「フォード・マスタング」あたりがそのお手本)じゃないですか?
同意できない部分もある
デミオはFF(およびFFベースの4WD)なのでまたちょっとかもっと話は違ってくるのだけど、でも、それにしても。実際乗ってみての印象としてデミオ(にかぎらずマツダ車……にもかぎらないのだけど実は)、直進中というかコーナリングしてない中なのに車体がロール方向に傾く現象が出がち。で、乗員のアタマがフラッと。あるいは、ハンドルを動かすのと同時にロールも始まってしまう。まだロクに横Gなんてでてないのに。で、そこはゼヒなんとかしてもらいたい。なぜなら、ひとつには快適さ的に明らかにマイナス要因だから。それと、ハンドルきると同時にロールするタイプの場合はロールの終わりのほうもうまくいかない。ハンドルをちゃんと真っすぐに戻さないとロールが消えない。ということは、ロールのさせ始めと戻し終わりをハンドル操作でコントロールしないといけなくて、運転手的には手間が増える。一見曲がりやすくてナイスそうでいて、その実キレイに旋回させるのがイッキに難しくなる。そのへんのところは、改良前と改良後で特にハッキリとは違っていなくて大筋相変わらずな感じだった。少なくとも今回、筆者は乗ってもあまりよくわからなかった。すいません。
細かい話として、乗り心地関係の話を技術者としているなかで「デミオのフロントのロールセンターは地面上」というのがあった。「地面上」とはすなわち地上ゼロmm地点。それが筆者の聞き間違いや空耳ではなかったとすると、デミオのフロントはマクファーソンストラットなので、1G(静止)状態ですでにロワーアームに上反角がついていることになる。上反角とはすなわちバンザイ状態。それだと、直進時やロクに横Gがでてない状態(あるいはスタビがまだ効いてくれない状態)でロール方向の姿勢変化の抑え込みをしっかりやるのは難しい(主バネをガチガチにカタくするテはあるけれど、それをやると乗り心地や接地性がヒドいことになる)。逆にいうと、1G状態でフロントのロワーアームに上反角がつくところに車高を設定できればそのへんがすごくしっかりして運転がラクになる。真っすぐも、曲がりも。
ちょっとハンドルを動かすだけでパキンとフロントが横方向へ反応するようなのがいい曲がり、いい走り……「なのではない」とマツダが考えているらしいことは、そっち方面の彼らの説明からわかる。わかるのだけど、直進状態から旋回状態へ、旋回状態からまた直進状態へといった一連の操作がホントにラクなクルマにするためにやっていることが、主にかもっぱらかフロントのロール剛性を下げること(やノーズダイブが起きやすくすること)……なのだとすると、それはどうかというのはある。
とにかくデミオ、今回の改良でベターになったことは間違いないと思う。自分たちの考える「いいクルマ」に近づけるべく製品をしつこく改良していくのは、それも間違いなくベターである。
(文=森 慶太/写真=向後一宏、マツダ/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
マツダ・デミオXDツーリング Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1695×1525mm
ホイールベース:2570mm
車重:1140kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:105ps(77kW)/4000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-2500rpm
タイヤ:(前)185/60R16 86H/(後)185/60R16 86H(トーヨー・プロクセスR39)
燃費:26.6km/リッター(JC08モード)
価格:201万9600円/テスト車=231万0120円
オプション装備:i-ELOOP(6万4800円)/セーフティパッケージ<ブラインドスポットモニタリング[リアクロストラフィックアラート機能付き]+車線逸脱警報システム+アダプティブLEDヘッドライト>(11万7720円)/セーフティクルーズパッケージ<スマートシティブレーキサポート[後退時]&AT誤発進抑制機能[後退時]+スマートブレーキサポート&マツダレーダークルーズコントロール+リアパーキングセンサー[センター/コーナー]+ドライバーアテンションアラート>(7万5600円)/DVDプレイヤー+地上デジタルTVチューナー[フルセグ](3万2400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1739km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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森 慶太
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