日産ノートe-POWER メダリスト(FF)
今日における電動カーの最適解 2017.01.11 試乗記 日産が、満を持して投入したシリーズ式ハイブリッドシステム「e-POWER」。コンパクトカー「ノート」の好調を支える新しいパワープラントの実力を、最上級グレード「e-POWER メダリスト」の試乗を通して確かめた。エンジンで発電しモーターで走る
話題のe-POWERの採用に加え、見た目にもマイナーチェンジで少々キリリとした顔つきとなった日産ノート。サイズはBセグメントの標準的なもので、ライバルはトヨタの「アクア」という構図は変わっていない。e-POWERのシステム概要は発表時のニュースに詳しいので割愛するが、1.2リッターのガソリンエンジンは発電専用で、この出力がそのまま駆動力とならない点が、e-POWERのノートを日産が電気自動車と呼ぶゆえんだ。
補助バッテリーは小さく1.5kWhとリーフの20分の1程度の容量だが、おかげでコンパクト。助手席の下に配置できる大きさになっている。反面バッテリーの電力のみで走れる距離は数km。パーキングスピードならいざ知らず、条件が良くても、ほとんどのシーンでエンジンが掛かる。
ということで、走行中はエンジンがせっせと回り、発電に次ぐ発電を行い、その電気をバッテリーに一瞬ためて、モーターがそれを使い走る──を繰り返す。アクセルペダルから足を離している=回生ブレーキが利いている時以外は、ほとんどエンジンが動いている。おまけにそれは「BMW i3」のレンジエクステンダーのような小さなもの(スクーター用の2気筒647cc)などではなく、発電専用にチューニングされているとはいえ、純ガソリン車のノートと変わらない1.2リッター直列3気筒という立派なものである。
こうした、他のノートと(基本が)同じ(発電用とはいえ大きな)エンジンを搭載しており、なおかつポルシェ博士が戦車の発動機としても採用した古くからある技術を、さも新しぶって「エコしてますよ」的に最先端技術として触れ回っているあたりが、気に入らない人は気に入らないらしい。
充電可能な動力システムのジレンマ
技術系に強い自動車評論家先生は「だってシリーズハイブリッドでしょ。何も新しくないじゃん」と一蹴。しかし、量産モデルのシリーズハイブリッドは日本ではノートe-POWERが唯一であり、これまで発売されてこなかったのも事実。私自身は、電気自動車にはつきものの充電をスッパリ諦め(理由は後述)、エンジンを発電専用と割り切り、なおかつこのサイズのクルマでシリーズハイブリッドを実用的なレベルで量産した日産は、技術も気合も相当スゴイと思っている。
例えば、似たようなシステムを採用するモデルにGMのプラグインハイブリッド車(PHEV)「シボレー・ボルト」がある。PHEV=外部からの充電が可能とはいえ、こちらも機構はe-POWERに近く、同じようにエンジンは直接車軸につながっていない。しかし、Cセグメントのボルトの初代モデルは、車重が1700kgオーバーとEセグの「日産スカイライン」(のガソリンエンジン車)並みに重かった。ピュアEVとしての航続距離を伸ばし、先進的なイメージをもたらす充電式とするためには、それなりの容量のバッテリーを積む必要がある。ノートは重量増を嫌い、小さなバッテリーを搭載すると割り切り、反対に電力不足を起こさないようにそこそこのエンジンを積む作戦に出た。これ、結構逆転の発想ではないか。
エンジンはガソリン車と同じ。トランスミッションがない代わりに小さなバッテリーとモーターを積む。発電用のエンジンに供給する燃料のタンク容量もガソリン車と同じ41リッター。差し引きイーブンかと思った車重は、想像よりも重く、同一グレードの単純比較でガソリン車のプラス130kgとなる1220kgだった。今どきのCVTは軽くコンパクトであることをもう一度思い出させてくれると同時に、やはりガソリン車と同レベルの重量には収まらず、かといって充電式とするためにはさらに重いバッテリーを積まなくてはならないというジレンマを抱えた、日産開発陣の思いが一瞬にして頭をかけ巡った。既存のプラットフォームを使用する限り、限界がある重量削減。スッパリと充電式を諦めた理由はそこにもあるだろう。
意外と大きいエンジンの存在感
と、そんな足し算と引き算の末に誕生したのがe-POWERだ。さすがに日産のコマーシャルのように発明だとまでは思わないが、実は相当苦労してスゴイことをやってのけたと敬礼したいほど感心している。純粋なシリーズハイブリッドを、これまでどこのメーカーもやってこなかったのには大きな理由がある。リーフが売れなかったゆえの苦肉の策だろうが、ハイブリッド化に乗り遅れた読みの甘さが背景にあろうが、それをクリアして量産モデルの販売にこぎ着けた日産には敬意を表したい。
しかし、である。今回試乗車となった上級グレードのメダリストでは遮音ガラスを採用し、遮音材を多く採用したというが、それでもやはりエンジンの存在は隠しきれない。いや、通常のガソリン車と比較してパワーユニット系の発するノイズは格段に静かに感じるため、必要以上に隠すつもりはないのかもしれないが、もっとエンジンが動いている事実を抑えることはできなかったのか? とはたずねたい。ハイブリッドに乗っていて、加速シーンでエンジンが掛かって興ざめする……と言ってしまっては大げさかもしれないが、バッテリー容量が小さく、走行中はほぼ発電のために回っている必要があるとは分かっていても、常にエンジンの存在を乗員に意識させる限り、100%電動という未来感がどこか薄いのだ。
そもそも期待値が大きかったがゆえの(勝手な)残念感なのだが、もう少しエンジンが黒子に徹していたのなら、印象は大きく違っていただろう。ただし、通常のガソリンエンジン車であれば、アクセルの開度とともに上昇するエンジン回転数(これがまたドライビングの際は気持ちよかったりするのだが)が、高速道路でも一般道でもある程度一定で、スピードが上がってもエンジンサウンドが大きくならないe-POWERはいかにも不思議な感じ。同様に発進時の強大なトルク感もEVのそれで、やはりこのクルマが“電動”であることを理解させる。
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有用で現実的なワンペダルドライビング
そんなノートe-POWERならではの特徴がもうひとつ。ウワサのワンペダルドライビングだ。「ノーマル」モードの「D」レンジでは、回生ブレーキはガソリン車と同等の減速Gを発生するが、「B」レンジではそれよりもやや強めにブレーキが掛かる。さらに「S」モードと「エコ」モードの選択時には、最大で通常の3倍にあたる減速Gを発生。回生ブレーキが強烈に利く。したがって、慣れは必要になるが、Sモードとエコモードでは、アクセルペダルの踏み加減ひとつで通常走行時で必要とされる発進はもちろん、停止さえもコントロール可能なのだ。ノートe-POWERのオーナーとしてこのテクニックを習得すれば、確かにブレーキペダルを踏む必要もなくなり、完全停止までをアクセル操作のみで実現できるだろう。
さらに、停止直前に軽く減速Gを弱め、“カクン”とならないような制御まで行われている点にも感心する。その動きはまるでベテランドライバーの所作である。ただ、信号の停止線ピッタリに止めようとすると、そこはやはり錬度が必要。半日やそこらの試乗では、すべての加減速をコントロールできるまでにならなかったが、慣れてしまえばワンペダルドライビングは十分現実的に思える。日産は「これでブレーキとアクセルの踏み替えが70%程度減る」と言っているが、決して無理なハナシではない。ワンペダルドライビングは“電気自動車”的な走りとして、オーナーの満足度を上げてくれるだろう。
“呼び方”にとらわれる必要はない
2016年12月の頭、マイナーチェンジ後のノートが月間販売台数で「トヨタ・プリウス」を抜いて1位になったというニュースが大きく報じられた。日産が月間販売台数で1位になるのは「サニー」(6代目だそうだ)以来、実に30年ぶりの快挙なのだという。2016年11月2日の発売から約3週間で月間販売目標の2倍となる2万台を受注し、このうちなんと約8割がe-POWERだったのだ。しかもノートはフルモデルチェンジではなく、マイナーチェンジである。キャッチーな新型ではなく、改良モデルがこうした形で1位に躍り出るのも異例だ。
日産ではノートに続き、ミニバンの「セレナ」でもこのe-POWER搭載モデルを準備中だという。「e-POWERを電気自動車とは言わない」とか、「現在の日本では発電に化石燃料を使用せざるを得ない以上、そもそもEVは決して純度の高いエコカーではない」など意見はさまざまあろう。いずれにせよ、今のインフラがそのまま使え、しかもBセグに収まる価格帯でノートe-POWERが発売されたことは単純に素晴らしい。今後、電気を発電するエンジン音がもっと抑え込まれるようになれば、なお良い。
EVと言うべきなのかハイブリッドなのか、当の日産自身も訴求にはまだ迷いがあると思う。しかし、従来の枠を超えた何かをやりたいという意気込みと、技術と現実に折り合いを付けてそれを実現した日産は、“カタチにとらわれず”評価すべきだろう。他のメーカーが電化の山の5合目あたりまでハイブリッドで勢いよく登り、そこでのんびり天候判断をしている間に、日産は信念に従って単独登山を着々と進めている。EVに乗りたい、乗ってみたいと思いつつ、電欠の不安がぬぐえないユーザーは少なくないだろう。今まで通りの使い方(ガソリンを給油)で電気を作り、EVを体験させるというコペルニクス的発想は、そんな層にリーチするはずだ。シリーズハイブリッドを昔からある技術と一笑した人は、サニー以来の月間販売台数をマークしたこの結果をどんな顔で見ているのだろうか。ざまあ見ろ、である。
(文=櫻井健一/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
日産ノートe-POWER メダリスト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4100×1695×1520mm
ホイールベース:2600mm
車重:1220kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:79ps(58kW)/5400rpm
エンジン最大トルク:10.5kgm(103Nm)/3600-5200rpm
モーター最高出力:109ps(80kW)/3008-10000rpm
モーター最大トルク:25.9kgm(254Nm)/0-3008rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ブリヂストンB250)
燃費:34.0km/リッター(JC08モード)
価格:224万4240円/テスト車=282万9878円
オプション装備:ボディーカラー<ガーネットレッド>(4万8600円)/日産オリジナルナビ取り付けパッケージ<ステアリングスイッチ+リア2スピーカー+GPSアンテナ+TVアンテナ+TVアンテナ用ハーネス>(2万7000円)/SRSカーテンエアバッグシステム(4万8600円)/インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物 検知機能付き>+スマート・ルームミラー<インテリジェントアラウンドビューモニター表示機能付き>+踏み間違い衝突防止アシスト+フロント&バックソナー(9万7200円)/プレミアムホワイトインテリアパッケージ(5万4000円)/PTC素子ヒーター+リアヒーターダクト+高濃度不凍液(1万4040円) ※以下、販売店オプション ETCユニット 日産オリジナルナビ連動モデル MM516D-W、MM316D-W用<SRSカーテンエアバッグシステム付き車用>(2万6179円)/日産オリジナルナビ取り付けパッケージ付き車用 MM516D-W(21万8667円)/デュアルカーペット<ブラック>e-POWER車用、e-POWER寒冷地仕様車用(2万4300円)/マルチラゲッジボード(2万7052円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2542km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:237.9km
使用燃料:10.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:22.0km/リッター(満タン法)/20.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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