第30回:実は激動のディーゼルワールド
2017.02.21 カーマニア人間国宝への道欧州ディーゼルのめざましい進化
前回は、「ルノー・エスパス」に搭載の1.6リッターツインターボディーゼル(160ps)に震撼(しんかん)したという話だったが、お値段はコミコミ約600万円するし、ミニバンなので私の購入対象外であった。
ルノーはこのエンジンを「タリスマン」という最上級セダン/ワゴンにも搭載しているようだ。タリスマンはかつての「サフラン」などの後継モデルで、私としてはこっちの方がストライクだが、当然日本未導入。ルノーの大型セダン/ワゴンなんざ買うヤツは日本に20人もいないだろう。
ついでに書くと、ルノーサムスンはタリスマンの兄弟車「SM6」を釜山工場で生産しているらしい。そんなのに日本で乗ってれば、即座にカーマニア人間国宝になれそうだ。
いずれにせよ、日産とのアライアンスの関係上、日本にはまったく正規輸入されていないルノーのディーゼル乗用車だが、現在のエンジンラインナップは1.5リッターと1.6リッターのみ! なんちゅーダウンサイジングぶり!
で、1.6のトップチューン版がこのツインターボの160馬力仕様なのだ。本国サイトを見て知りました。フランス語チンプンカンプンですが数字だけはわかりますので。
ディーゼル番外地ともいえる我ら日本人の知らないところで、ディーゼルワールドは激動しているようである。
ちなみに、エスパスに試乗させてもらった「CARBOX横浜」では、「クリオ エステート」のディーゼルも並行輸入している。1.5リッター90馬力仕様、5段MT(左ハン)で289万円! 300万円以下でウルトラ欧州土着な実用ワゴンが新車で買える! こっちの方が1000倍現実的ですね。人生いたるところに青山あり。
中古車市場にもお宝あり
さらに中古車にまで範囲を広げると、CARBOX横浜では昨年9月、「DS 5 2.0HDi 160」なるステキなおクルマが、なんと249万9000円で売られていた。
2012年式で走行4.2万km。私には、クリオ エステート ディーゼルよりさらにどストライクだった。なにしろ憧れのDS 5で、ディーゼルで、左ハンドル6MTなのだから! このマニアックさ! カーマニアとして胸を張れる。
そのクルマで、お店の周囲を軽く試乗もさせていただいた。実にすばらしかった。軽くガラガラ言うトルキーなディーゼルを、よいしょよいしょとマニュアルで操れば、脳裏によみがえるのはアウトバーンのクルージング。欧州コンプレックスのカーマニアならこれを買わないのはバカ! という感じでしょうか?
しかし私は買わなかった。なぜなら、「ランチア・デルタ1.6マルチジェット」を買ってまだ1年もたっていなかったからだ。ゼイタクは敵。
それと、私にとっては6MTよりも、セレスピード系のセミATの方が、思い通りにならない分チャレンジングだという超カーマニア的な理由もあった。
MTの左ハンディーゼルなんかに乗ってたら、見るからにカーマニアっしょ? そこをあえてシロートっぽくセミATに乗る。脱力の美学である。
注目はプジョー/シトロエンの1.6 BlueHDi
DS 5に関しては、つい先日、ディーゼルモデルの正規輸入も始まった。「DS 5シック BlueHDiレザーパッケージ」というグレードだ。
2リッターのBlueHDiエンジンは、アイシン製6段ATとの組み合わせでも絶品であった。まぁ絶品といっても特に特徴のない今どきのディーゼルなんですけど、ディーゼルのトルクはあまねくスバラシイ! ということです。
ただ、お値段は497万円。これが中古で300万円を切るのはえーと、3~4年後でしょうか? 本当の本音を言うと私、右ハンドルATが好きなので(だって便利なので)、超欲しいのですが、まだまだ買えません。
その他正規モノディーゼルで、いま最も現実的に注目すべきは、プジョー/シトロエンの1.6 BlueHDi搭載モデルでキマリだ。これはもう絶対! 新車でも300万円以下だし!
PSAの1.6ディーゼルは、2.0に比べてぐっと重量が軽い。ノーズは断然軽快になる。回転フィールも軽い。2.0よりストレスなくクーッと回る。
「プジョー308 BlueHDi」の2.0と1.6を乗り比べたが、価格差も考えると断然1.6の勝ちだった。スペック上は2.0の方がはるかにパワフルなのだが、実用域ではほとんど差を感じないし、逆にフィールは1.6の方が軽やかでステキ。乗り心地はプジョーらしい猫足が戻っており、軽めのノーズと相まって、走りには非の打ちどころがなかった!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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