マツダCX-5 XD Lパッケージ(4WD/6AT)/CX-5 25S Lパッケージ(4WD/6AT)
2代目は正常進化 2017.02.23 試乗記 フルモデルチェンジを受けた「マツダCX-5」のキーワードは「すべてのお客さまを笑顔にするSUV」。マツダが持つ技術のすべてを投じて、あらゆる領域で「走る歓び」を深化させたという自信作だ。2.2リッターディーゼルエンジン搭載の「XD」と2.5リッターガソリンの「25S」に試乗し、その完成度を確かめた。“彫り”が深くなった
CX-5が登場したのは、2012年2月。クリーンディーゼルを主役に据えた初の国産SUVは、国内外で支持されて、いまやマツダのグローバルセールスの4分の1を占める基幹車種になった。
うまくいった先代を、大きく変える必要はない。そう感じさせるのが、4年ぶりのモデルチェンジである。ボディーサイズはほとんど変わらない。パワートレインや足まわりは、基本的にキャリーオーバー。いちばんこだわったのが“CAR AS ART”を謳うデザインで、フロントピラーを35mm後退させるなどして、よりロングノーズのプロポーションを得た。プレスラインのエッジはシャープになり、“彫り”の深いボディーになった。もちろん外板はすべてが新しい。だが、ひとめでCX-5とわかる“印象”は変わっていない。そんなところはBMW流のスキンチェンジともいえる。
ひと枠2時間の横浜みなとみらい試乗会で乗ったのは、2.2リッターディーゼルと2.5リッターガソリンの、いずれも4WD。旧型との違いを体感してもらいたいということで、いままで使っていた先代の広報車も用意されていた。試乗用に旧型がこんなに並べられている試乗会というのも珍しい。
軽快で静かな2.5ガソリン
開発主査の児玉眞也氏によれば、こんどのモデルチェンジのテーマは「上質化」だという。
ドア閉めの音が、旧型の半分で減衰するようになったというドアを閉めてキャビンに入ると、水平基調に変わったダッシュボードが目新しい。加飾プレートや革シボ風の細工なども上等だ。コックピットでの“包まれ感”を増すために、センターコンソールの“山脈”は、ATセレクターの位置で6cm高くなった。車室のサイズは変わっていないが、新しいダッシュボードデザインのせいか、少し横方向に広くなったように感じる。
最初の試乗車は、25S・AWD Lパッケージ(321万3000円)。ガソリンCX-5の最上級モデルである。
旧型の経験から持っていたCX-5のイメージからすると、このクルマは上着を1枚脱いで、身軽になったCX-5、という印象だ。184psの直噴2.5リッター4気筒は、すごくパワフルというわけではないが、軽快で静か。次に乗ったディーゼルより車重は50kg軽く、実際、同じ19インチタイヤを履くバネ下の動きも少しかろやかに感じた。
先代の実績だと、2リッターと合わせて、ガソリンモデルの販売比率は2割ほどだという。少数派だが、しかし、クリーンディーゼルの性能や、国策の軽油価格優遇などを考えると、ガソリンモデルが2割も売れている、という見方もできる。
おもしろいことに、CX-5全体の販売台数が落ちると、ガソリンの比率が上がるそうだ。ガソリンの人は、断固としてガソリンを選んでいるということか。
日常性能に優れる2.2ディーゼル
XD Lパッケージ(352万6200円)に乗り換えると、アイドリング時のエンジンの存在感は、やっぱりディーゼルである。
だが、つい最近まで広報車として使われていた旧型XD Lパッケージと比べてみると、濁点のつくノック音がなくなって、明らかに静かになっていた。175psのパワーや42.8kgmのトルクは変わっていないが、新型のエンジンには、ピストンピンにダイナミックダンパーを組み込んで、ディーゼルノックのガラガラ音を抑えるナチュラルサウンドスムーザーなど、新たな静音対策が施されている。
ただ、キックダウンで回転が跳ね上がったときのうなりは、旧型より大きくなっているように思えた。
2.2リッター4気筒ディーゼルターボの力強さは相変わらずだ。2.5リッターガソリンほどアクセルを踏み込まなくても、より力強い加速が得られる。上級モデルには今回から全車速対応のレーダークルーズコントロールが付いたが、町なかで前走車に追従走行するときも、トルクに勝るディーゼルのほうがテキパキしている。
試乗中にトリップコンピュータの燃費をチェックすると、2.5ガソリンは9km/リッター台後半。ディーゼルは13km/リッター台を示していた。軽油単価の安さを掛け合わせると、ディーゼルの燃料コストの優位は言うまでもない。
後席中央がGVCの特等席
荷室のタテヨコをメジャーで測ってみたら、新旧、ぴったり同寸だった。ボディー全長を変えず、ロングノーズにしたのに、しわ寄せがきていないのは立派というか、不思議だ。
CX-5初のモデルチェンジは、いわゆる「正常進化」である。小さな改良を積み上げて、洗練度を深めたのが新型だ。ただ、劇的に変わったところや、明らかにお得な何かが備わったというわけではないから、旧型オーナーが地団駄踏んで悔しがることはない。1万8000kmあまりを走っていた旧型XD Lパッケージの試乗車に乗っていると、まだまだぜんぜんやるじゃん! と思った。
新型には、G-ベクタリングコントロール(GVC)が付いた。ステアリング操作に連動してエンジンの駆動トルクを変化させ、G(加速度)の発生を滑らかにして、結果として乗員すべてに快適な乗り心地を与える、というデフォルトの制御技術である。
だが、この日、旧型と乗り比べてみても、GVCの恩恵はとくに体感できなかった。試乗前の技術説明会で流されたGVC有る無しのコーナリング比較動画では、助手席に座る外国人女性モデルの体の傾きが歴然と違っていたが、「効果には個人差があります」と注意書きを入れたほうがいいと思った。
児玉主査によれば、いちばん効果を感じられるのはリアシートの真ん中で、しかもCX-5はヒップポイントが高いから、「アクセラ」や「アテンザ」よりもGVC効果を実感できるはずだという。こんどチャンスがあったら、後席中央に座ってみたい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
マツダCX-5 XD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1840×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1680kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:175ps(129kW)/4500rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:17.2km/リッター(JC08モード)
価格:352万6200円/テスト車=361万2600円
オプション装備:特別塗装色<マシーングレープレミアムメタリック>(5万4000円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1490km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
マツダCX-5 25S Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1840×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1610kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:184ps(135kW)/6000rpm
最大トルク:25.0kgm(245Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:14.6km/リッター(JC08モード)
価格:321万3000円/テスト車=340万7400円
オプション装備:特別塗装色<ソウルレッドクリスタルメタリック>(7万5600円)/BOSEサウンドシステム<AUDIOPILOT2+Centerpoint2>+10スピーカー(8万6400円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1281km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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