第35回:カーマニア人生劇場
ある激安中古車専門店オーナーの夢(その1)
2017.04.04
カーマニア人間国宝への道
筋金入りのフェラーリ少年
カーマニアの夢、フェラーリ。
私もフェラーリに取りつかれた者のひとりだが、異色の形でそれを実現した男がいる。
これからしばらく、その男の生きざまをリポートさせていただきたい。
男の名はリュウ(仮名)。年齢は34歳。切れ長の目にやさしさを湛(たた)えた一匹狼(おおかみ)だ。
リュウは、富士山の見える地方都市で、中古車販売業を営んでいる。
現在、フェラーリは所有していない。しかし心は常にフェラーリとともにあり、気合を入れる時はおもむろにフェラーリ・オフィシャルのブルゾンを身に着ける。
「こんなの着てると、お客さんにはよく思われないので、接客の時は着ませんけど」
リュウは、小学生の頃からフェラーリウエアを着、フェラーリキャップをかぶり、フェラーリの傘をさして学校に通っていたという。
「幼稚園の頃、テレビでF1を見たのがきっかけです。あの赤いのにやられたんです。グッズは親にねだって少しずつそろえました」
時はF1ブーム真っ盛り。世間的には断然マクラーレン・ホンダだったが、リュウが心を奪われたのはフェラーリだった。
「F1の流れで、市販車のフェラーリにも興味が行って、幼稚園時代から『GENROQ』とか見てました。もちろんいつか絶対買ってやろうと思ってましたよ」
中古車ブローカーとして独立
ここまでなら、スーパーカーブーム当時のチビッ子にはそう珍しくない話だ。ただしリュウは、スーパーカーブーマーより15年ほど遅く生まれている。周囲にはフェラーリ狂いの少年など皆無だった。
また、スーパーカーブーマーのほとんどが、ブームの終焉(しゅうえん)と同時にスーパーカーを過去のものにしたのと違い、彼は現在に至るまで、一度たりとも忘れたことはない。彼の脳内の多くは、今でもF1グランプリとフェラーリとで占められている。
フェラーリが値段の高いクルマであることは、小さい頃から理解していたので、「やっぱりいい学校を出ていい仕事に就いた方が、フェラーリに近づけるんだろうな」とは思っていたが、うまいこといかず、本人いわく「三流四流大学の機械工学科」へ進学し、地元に戻って自動車修理屋に就職した。
「就職してその日に思いました。いずれ独立しなきゃ絶対ダメだって」
メカニックは一般に薄給である。リュウは5年間ほどいくつかの職場を渡り歩いたが、年収は最高でも約300万円。地方ではそれで普通に暮らしていけるので、早々に結婚し子供も作ったが、フェラーリは買えない。
「そろそろ自分で板金塗装屋を始めようと思ったんですけど、貯金は5万円しかないし(笑)、独立しようにも場所はないし、工具はないし、人脈も技術も大してない。できるわけないですよね」
仕方なくリュウは、当座しのぎとして、中古車のブローカー業を始めた。
「なにせ金がないじゃないですか。高いクルマなんか仕入れられないんで、1万円とかそれくらいの、廃車寸前のクルマばっかですよ。それを5万円くらいでヤフオクで売ってました」
激安中古車専門店オーナーに
しかしこれが意外とうまくいった。激安車は早く確実に売れたのだ。
普通なら、ある程度元手が貯(た)まれば、「次はもうちょっと高いクルマを」と思うだろう。実際多くの中古車業者が、そういう道をたどって成り上がっている。もちろん途中で堕(お)ちる者も数多いが。
しかしリュウは違った。そこから上昇しようとしなかった。
「オークションに行けば、廃車寸前のクルマもいっぱい出てます。1万円で落札しても、オークション手数料とかなんやかんやで、仕入れ原価は5万円くらいになっちゃいますけど、それを10万円で売れば、利益率50%じゃないですか。でも100万円で仕入れたクルマを200万円で売るなんてできっこないし、仕入れ資金もかさみますよね。ならずっとこれやってた方がいいなって思ったんです。1台あたりの利益の額は小さいけど、数をこなせば」
こうして彼は、そのまま激安中古車屋になった。
中心価格帯は車両本体10万円以内。支払総額で20万円以内の商品が多くを占める。
当初は実家の駐車場をベースにしていたが、しばらくして現在の場所に移転した。面積はかなりのものだ。クルマが50台は置ける。
ただし、彼の店には建屋はない。看板も柵もない。のぼりが何本か立っているだけで、他にはほとんど何もない。ただ砂利が敷いてあるだけだ。
建物が建てられない土地なのである。その代わり、賃貸料は激安のヒトケタ万円!
ここで彼は、激安中古車とともに、夢のフェラーリへと昇り詰めていく。
(つづく)
(文=清水草一/写真=清水草一、リュウ/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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