BMW135iクーペ(FR/7AT)【試乗記】
“熟車”の耐えがたき魅力 2011.09.26 試乗記 BMW135iクーペ(FR/7AT)……614万5000円
直6エンジンを積む数少ないコンパクトモデル「BMW135iクーペ」。BMWの代名詞である「ストレートシックス」の味わいを、マイナーチェンジモデルで再確認する。
煮詰まったうまみ
すでに新しい「1シリーズ」が発表されて、年内にも日本に導入されることが明らかにされている。そんな今、何で従来型の1シリーズの、それもクーペにあらためて乗るのかというと、ずばり、気になるからである。年ごとに改良されて、どれだけBMWのうまみが煮こごっているか、すごく気になるからである。その昔、よく言ったもんじゃないですか。「初モノのガイシャには手を出すな」って。気に入ったものに本当に長く乗りたいのなら、「むしろモデル末期はチャンスなんだ」と。
パッと見、何も変わっていないように見える「135iクーペ」だが、去る6月、(おそらくは最後の)マイナーチェンジを受けている。まずは、フロントとリアのライトユニットにLEDが仕込まれた。フロントでは“目玉”の上にまゆ毛のようにLEDが並べられ、顔つきがちょっとだけキリッと今っぽくなったように感じられる。
さらには……とテンポよく次の改良を紹介していきたいところだけれども、今回試乗するMスポーツパッケージを装着する135iクーペについては、外から見て変わったことがわかる部分は、実はもうほとんどない。資料を見ると、オーディオにiPodなどをつなげる「USBオーディオインターフェイス」が標準装備となった、とあるぐらいだ。
となると、いよいよ本番、中身のチェックに移ろう。スペック的には従来型と何も変わらないようだが、煮詰まったうまみというものは店のメニューには表れないものである。大いに期待して、3リッターのストレートシックスに火を入れた。
「ロッパツ」に思う
ところでいま、直列6気筒ではなく「ストレートシックス」と書いてハッとしたことがある。このカタカナ、ここんとこ書いてなかったなあと、しばし感慨にふけってしまった。筆者の中では、「ストレートシックス」と記した場合はたいがいBMWを意識しているのであって、たとえばボルボやTVRのことはあまり考えていない。昔ありましたよね、「ビッグシックス」とか「ライトシックス」とか。あの流れである。同じように「フラットシックス」と言ったらポルシェの気分であって、「レガシィ3.0」や「アルシオーネ」のときはそうは言わない。そっちには「ボクサー6」なんて言葉が似合っている。
それで今回の主役、135iクーペの3リッター“ストレートシックス”ターボ(ちょっとクドいか……)だが、これがもういいあんばいに熟している。思わずニヤッとさせられる。いちだんとスムーズで、音色が心地よくて、1500rpmぐらいで十分以上のトルクのツキを見せて、回せばレッドゾーンちょい手前の6800rpmまで見事に線形に吹け上がり、いやぁー期待どおりである。この時点でもう筆者は、ターボユニットであることを完全に忘れてしまっている。
直列6気筒エンジンというものが、機械工学的に振動面で有利なことはよく知られている。しかし、そういう情報が知識のスパイスとなり、直6神話がどんどん強化されていった時代は、ここ日本においてはもうとっくに終わっている。「クラウン」が直6をやめ、「スカイライン」がやめ、そのあたりで「やっぱ、ロッパツはいいねえ」と必ずやうなっていたオジサンがたは、どこかに行ってしまった。コンパクトカーの遮音があれだけ進み、ハイブリッドカーが普及して、「リーフ」の時代が始まりかけているいま、静かで無振動なことは、それ自体、もはや特別な価値は持たない。
それを承知でストレートシックスの価値を論じるなら、エンジンの「存在感」ということになるだろうか。エンジンの「気配」でもいい。そこにはV6エンジンで表現するのがきわめて困難な(少なくとも、そういうV6に出会ったことはない)、ビシッと芯の出た、毅然(きぜん)とした滑らかさがある。
クルマにおいては静粛さと無振動はほぼ同義に考えられているフシもあるが、そういう意味ではストレートシックスは結構うるさいエンジンである。この135iクーペにおいても「クォーッ」と硬質なサウンドを奏でる。いまやもう、ストレートシックスはエンジンが回ること自体にエンターテインメント性があるといわざるをえない。「BMWストレートシックス劇場」と言ってもいいくらいである。
この足を表現するなら……
「ストレートシックス」で思い出したことだが、かつてBMWの6気筒はその滑らかさが絹にたとえられ、「シルキーシックス」なんて言われたことがあった。では、問題です。その感触を「熱いナイフでバターを切るような」などと、たとえられたものは? ポルシェシンクロである(そういう時代もあったんです)。しなやかな乗り心地を「ネコ足」と表現すればジャガーかプジョーのことだし、アルファ・ロメオの官能的なエンジンサウンドのことは……これは文豪がいなかったらしく、単に「アルファサウンド」である(オーディオショップみたいだ)。シトロエンの船のようなクルージングフィールは……これも詩人不足で、ストレートに「シトロエンライド」か……。
何が言いたいのかというと、昔のクルマ好きは考えたのである。感動を言葉に封じ込めたのである。それを読んで、「へぇー、そんな感触なら、一回乗ってみたいもんだ」という思いになって、実際乗って「ホントだ」ということになって、感動が後世に口承伝承されていったわけだ。クサい表現も、ときにクルマ文化にとっては肥やしとなりうるのである。クルマの動きがプログラムでコントロールできるようになった今、そういう言葉は不要になってしまったのだろうか。
というわけで、筆者は135iクーペの足まわりを「クモ足」(?)とたとえたい。路面をヒタッととらえて離さないクモ足。路面からのキツい入力をしなやかに受け止めて、丸め込んでしまうクモ足。クモというと足が細くてちょっと華奢(きゃしゃ)なイメージもあるが、ステアリングから伝わってくる135iクーペの足腰はかなり骨太だ。
微低速でステアリングがガシッと重く(ステアリングの重さは従来の1シリーズ共通の特徴だ)、Mスポーツサスペンションによる乗り心地はそれ相応に硬い。しかし突き上げるような不快さはないし、ランフラットタイヤ(テスト車はブリヂストン・ポテンザRE050Aを装着)を履きこなすノウハウもだいぶ心得てきたものと見える(タイヤ自体の進化も目覚しいものがある)。GTカーとして、十分に快適といえる範疇(はんちゅう)におさまっている。
全長約4.4mのコンパクトなボディに、BMWの熟成しきった技術が盛り込まれた135iクーペ。このクルマには、BMWと聞いて期待するものがひととおり詰まっている感じだ。“いま旬BMW”のイチオシ。ストレートシックスを搭載する新型1シリーズが出てくるという話は聞かないので、気になっている人はお早めにどうぞ。
(文=竹下元太郎/写真=小河原 認)

竹下 元太郎
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