アウディR8クーペ V10プラス5.2 FSIクワトロ(4WD/7AT)
これは民主化されたレーシングカーだ! 2017.09.12 試乗記 アウディスポーツのレーシングマインドを具現したスーパースポーツカー「R8」。いまや貴重ともいえる自然吸気のV10ユニットを搭載する4WDスポーツの実力を、あらためて富士スピードウェイで解き放った。その実力をサーキットで解放
アウディのフラッグシップスポーツであるR8。その高性能版であるV10プラス5.2 FSIクワトロに、サーキットで試乗することができた。とうとう610psのパワーを、全開で路面にたたきつけられる日が来たのである。
そのステージとなったのは、国内最長の1.5kmに及ぶストレートを持つ富士スピードウェイ。ただし当日はアウディのカスタマー用のイベントプログラムにわれわれジャーナリストの試乗も組み込まれていたため、セッション数が2回と少なかった。また超高額車の習わしとしてだろう、プロドライバーによる先導車が付く試乗形式とされたことから、その最高速もメーター読み260km/h付近、正確に言えば「パナソニック看板からアクセルオフ」というシチュエーションでしか試せなかったことを、最初にお断りしておこう。
しかしそれでも、とてもオープンロードでは試せない領域のチェックが少なからずできたつもりなので、それをみなさんに熱くお伝えできればと思う。
まずR8で感心したのは、速度が上がるほどに高まる快適性だった。ロードユースで若干の硬さを感じたサスペンション、もっと言えば20インチで30偏平というハイトの低いタイヤのサイド剛性は、しかるべき速度域でR8の速さを支えるためのものだったということが、この試乗でハッキリと証明された。
なめらかで軽やか
たとえアウディドライブセレクトを「ダイナミック」へと切り替えても、ダンパーが突っ張る感触はまるでない。ブレーキングで荷重をかければしなやかに縮み、タイヤのグリップ感をじわりと上げてから舵を切れば、スムーズにGは横方向へと移行する。
そのなめらかな“裏ごし感”は圧倒的だ。同族のRS系モデルたちが言葉は悪いが“筋肉バカ”に思えてしまうほど摺動(しゅうどう)性はまろやかだった。ちなみに磁性流体ダンパーは4輪の減衰力を1000分の1秒単位で制御するという。そして当たり前なのだがその乗り味は、同じコンポーネンツを使う「ランボルギーニ・ウラカン」と非常に似ていた。
この快適性の核となっているのは、シャシー性能の高さだと思う。全体の14%をカーボン、86%アルミとしたボディーは、カーボンモノコックほど圧倒的な剛性を感じさせはしない。しかし1670kgという重量に対する剛性は保たれているように感じ、またアルミシャシー特有の反発感も感じられない。
またオイルパンを廃することでエンジン重心を下げるドライサンプユニットの採用や、クワトロ4WDシステムと7段Sトロニックがもたらす駆動系の遊びのなさ、そして床面をフラット化した空力など、すべてのシャシー要素が総合的に作用しながら、そのパフォーマンスを発揮しているのだと思う。その動きは非常に軽やかなのに、操縦性には不安がないのである。
もう少し“筋力”が欲しい
このシームレスな乗り味に華を添えるのはエンジンだ。いまや貴重な自然吸気のV10ユニットは、その回転の精緻さと、みなぎるパワーで自らの存在を純朴に、しかし力強くアピールする。その音色は高すぎず低すぎず乾いており、サウンドによる演出が感じられない代わりに5204ccの潤沢な排気量が、610psの最高出力を生み出す7800rpmまで、一気にそのクランクシャフトを回しきる。
540Nmのトルクを“圧倒的”と感じないのは、シャシー性能の高さによるものだろう。クワトロシステムのトラクションを強く意識することがないのは、4WDシステムだけがR8のスタビリティーを高めているわけではないからだと思われる。
この5.2リッターV10ユニットは、決してヒステリックに叫ぶわけではない。のけぞるような加速をするわけでもない。しかし右足のアクセル開度に忠実にパワーを絞り出し、力強く、そして伸びやかにパワーを解放する。総じてこのパワー感に身を委ねると、とことんピュアな快楽を味わうことができる。
一方、惜しい部分がこのR8 V10プラスにあるとすれば、それは「サーキットでの快適性」だろうか。これだけのパフォーマンスをつなぐフットワークが、簡単に言えばダルなのである。
サーキットの荷重領域では全体的なスプリングレートが低く、操舵に対する反応はやや鈍め、つまりアンダーステア基調だ。ステアリングギア比はダイナミックモードで13:1までクイック化されるとのことだが、それに見合ったサスペンション剛性が得られないため、ハンドリングにシャープさが足りない。それでもR8の評価が低くならないのは、ダブルウイッシュボーンや、ステアリングといった骨格部分の支持剛性が高いからだろう。
なおかつメンバーブッシュの剛性なのかエンジンマウントなのかはわからないが、高速領域からのフルブレーキングでは、リアアクスルがぐにゃりと動いてしまう感触がある。端的に言うと、シャシーとエンジンのパフォーマンスの高さに対して、それを結ぶサスペンションとブッシュの剛性が足りない。その上でクワトロシステムが高い安定性を保ってしまうから、マシンをコントロールしている感覚が薄いのである。
心臓は素晴らしく、骨格もたくましいアスリート気質。しかし筋力だけが、少し足りないとでも言おうか。
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ここから先は「GT4」の役目
しかしこれは、アウディの意図的なセッティングだと思う。これだけのパワー、そしてシャシー性能の高さを、オープンロードで解放させないためのそれは自主規制であり、乗り心地要求の最低ラインなのだと思う。
はたまた、もしかしたら今のままでも、まっとうに走らせればR8 V10プラスは、ロールスピードこそ遅めでも、素晴らしい身のこなしでサーキットを駆け抜けるのかもしれない。しかし先導車付きのテイスティング走行では、その本性をチラ見することしかできなかった。
資料によればダイナミックモードではクワトロシステムがドリフトを安全に楽しめるようにサポートするらしい。要するに、ヨーモーメントを積極的に発生させながらスポーツドライビングができるということだと思うが、それを味わうまでには今回は至らなかった。
それでもハードブレーキングからの1コーナーや、セクター3の曲がり込んだレクサスコーナーや最終コーナーは、きれいにリアタイヤをスライドさせながらクルリと回り込み(ミドシップならではの動きだ)、アクセルオンで4WDのトラクションを生かして立ち上がるという、理想的な4WDスポーツの挙動を味わうこともできたから、その素性はやっぱり素晴らしいと言うことができる。
これだけの性能を持つスポーツカーは、一昔前なら間違いなく乗り手を選ぶモンスターか、レーシングカーしかなかったと思う。しかし恐ろしいもので、時代はそれを富裕層へ解放するようになったわけである。
ただR8の本性を解き放ちたいのであれば、ポルシェでいう「GT3」のような存在が必要だ。そしてそれは、当日パドックにひっそりとたたずんでいた「GT4」の役目なのかもしれない。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
アウディR8クーペ V10プラス5.2 FSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4425×1940×1240mm
ホイールベース:2650mm
車重:1670kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:610ps(449kW)/8250rpm
最大トルク:560Nm(57.1kgm)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:2906万円/テスト車=--円
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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