ホンダ・フィット ハイブリッドS Honda SENSING(FF/7AT)
軽やかなハイブリッド 2017.09.27 試乗記 モデルライフ半ばのテコ入れが実施された、「ホンダ・フィット ハイブリッド」に試乗。目玉となる運転支援システムの使い勝手や実際に計測した燃費データも含め、売れ筋コンパクトカーの実力を報告する。ガソリン価格は大きな決め手
フィットがマイナーチェンジした。このカタチにフルチェンジしたのは2013年夏。過去4年間の販売実績を聞いて、驚いた。1.5リッターハイブリッドとただのガソリンエンジン(1.3および1.5リッター)との比率は、半々だという。4年前の登場直後は、7割以上がハイブリッドだったはずである。
今回、マイチェン後1カ月の受注はやはりハイブリッドが優勢だが、55%にとどまる。この差は何か。理由は簡単だ。4年前、「アクア」をしのぐ好燃費で鳴り物入りのデビューを飾ったときは、ここ5年間で最もガソリン価格が高騰していた。全国平均160円台後半(レギュラー)を超すなか、もっぱらハイブリッドに注目が集まり、売れたのである。
しかしその後、ガソリン価格は下降に転じ、ノンハイブリッドモデルが盛り返し、ならすと半々というわけだ。そういえば、筆者の身近にひとりいる現行フィットオーナーも、一番安い1.3リッターのMTである。アクアはハイブリッド専用車だが、フィットは、イコール、ハイブリッドというわけではないのだ。
という話の流れだと、今回の試乗車はガソリンモデルになりそうだが、乗ったのはやっぱりハイブリッド。220万5360円のシリーズ最上級モデル「S Honda SENSING(ホンダセンシング)」である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
昔の「シビック」を思わせる
アクアと違って、フィットのハイブリッドは1モーター式である。アトキンソンサイクルの1.5リッター4気筒エンジンにモーター内蔵の7段DCT(デュアルクラッチ式変速機)を組み合わせている。
アクアがJC08モードで40km/リッターを超えてきたら、ウチも2モーター式を考えなくてはいけないかもしれない。かつてフィットのエンジニアがそう言っていたが、現在、フィットをわずかにリードしているアクアのカタログ燃費は最良38.0km/リッター。大台には達していない。マイチェンした新型フィットも、パワートレインは基本、キャリーオーバーである。
EV走行も可能なシステムで、EVボタンも備わるが、アクアほどEVっぽくない。カラカラ楽しいエンジンに、電動アシストが付いている感じだ。かつての「シビック」のポジションは、フィットが引き継いでいると、今度のシビックお披露目のときにホンダの役員が言っていたが、たしかにそのとおりだ。あらためて乗ると、昔のシビックのような、ホンダ車本来の“軽さ”を感じて、好感が持てた。
ハイブリッドSは、シリーズで唯一、16インチホイールを履く。そのせいか、乗り心地は多少、ゴツゴツしている。7段DCTもアクアの変速機のようにシームレスではないが、クルマ全体のキャラクターのなかでは気にならない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
世話を焼かない安全装備
今度のマイナーチェンジの要目は、上位グレードに安全運転支援システムの「ホンダセンシング」が標準装備されたことである。ハイブリッドでは、207万9000円の「L」以上、ガソリン車ではベーシックモデルの「13G-F」を除くすべてに搭載された。
単眼カメラとミリ波レーダーを使って行うのは、ACC(アダプティブクルーズコントロール)、レーンキープ、誤発進抑制、先行車発進お知らせ機能などをはじめとして8項目に及ぶ。
ただし、ACCの作動域は約30~100km/hで、ETCゲートを足操作フリーで通過することはできない。前走車をロックオンして停車や発進まで自動でやってくれる機能もない。
高速道路でレーンキープをオンにして、手放し運転を試みると、15秒ほどで警報が鳴り、ハンドルを操作せよというメッセージが出て、その後、アシストはキャンセルされた。最新の国の指針に沿ったシステムである。
スバルの「アイサイトver.3」ほど手厚くはないが、ガソリン車でいうと165万円のモデルから標準装備にしたことは、新型フィットの売りになるだろう。
「使えること」こそ美点
ふと忘れがちだが、フィットの大きな魅力は、人と物を載せる能力の高さである。後席の膝まわりの広さは、たまたま撮影に同行していた「カムリ ハイブリッド」よりも広い。
センタータンクレイアウトによる低床設計と、高めの全高のおかげで、荷室の容量も大きい。背もたれを倒せば、後席がダイブダウンして、低く平らな荷室になる。アクアにも「ゴルフ」にもないフィットのお家芸である。
約330kmを走って、満タン法で測った燃費は19.0km/リッター(満タン法)。2.5リッターのカムリ ハイブリッドに及ばなかった。ちなみに、車載燃費計も19.1km/リッターを示していた。
マイナーチェンジ前のフィット ハイブリッドでは、25km/リッター台を経験したことがある。今回、とくべつ燃費に悪い運転をした記憶はない。パワートレインとエアコンを省燃費制御にするECOモードは、特に不都合がないのでオンにしたままである。一度の計測でそのクルマの燃費をウンヌンすることはできないが、今回はこういう結果だった。
でも、フィットだと、こうした情報を参考に、安いガソリンモデルを選ぶこともできる。ハイブリッドを買わなくてもいいのは、アクアに対する絶対的アドバンテージである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=菊池貴之/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ホンダ・フィット ハイブリッドS Honda SENSING
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4045×1695×1525mm
ホイールベース:2530mm
車重:1170kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:134Nm(13.7kgm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:160Nm(16.3kgm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ダンロップSP SPORT 2030)
燃費:31.8km/リッター(JC08モード)
価格:220万5360円/テスト車=246万6504円
オプション装備:Hondaインターナビ+リンクアップフリー+ETC車載器<ナビゲーション連動>(21万1680円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(2万1384円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(2万8080円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2626km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:334.0km
使用燃料:17.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.0km/リッター(満タン法)/19.1km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。