トヨタ86 GR(FR/6MT)
スポーツカーかくあれかし 2018.04.05 試乗記 モータースポーツで培ったノウハウを生かし、足まわりやシャシーに特別なチューニングが施された「トヨタ86 GR」。市街地からワインディングロードまで走らせてみると、このモデルならではの“ピュアな味”に驚かされることになった。トヨタ入魂の新ブランド
2017年11月に発表されたトヨタの新しいスポーツカーブランド「GR」の中核に位置する一台、86 GRは「もっといいクルマをつくろうよ」という豊田章男社長が掲げるマントラにふさわしいクルマだった。
GRは、モータースポーツを通して、もっといいクルマづくりに挑む、現社長直系のプロジェクトであり、冒頭に記したごとく、それゆえに実現したトヨタの新しいスポーツカーブランドである。推進するのはTOYOTA GAZOO Racingと名付けられたトヨタ社内のバーチャルカンパニーで、GAZOO Racingは、トヨタワークスとしてWEC(世界耐久選手権)やWRC(世界ラリー選手権)に参戦するほか、「86」や「ヴィッツ」によるワンメイクレースのオーガナイズを行い、モータースポーツ活動を通して得られたノウハウを生産車に生かした車両を開発するという重要な役目を担う。GRと名の付くモデルの味付けに際してはトップガンのテストドライバーが担当する。
2018年3月のジュネーブモーターショーで公開された「GRスープラ レーシングコンセプト」はレーシングカー仕立てながらその最新の成果であり、2018年1月の東京オートサロンで発表された「GRスーパースポーツコンセプト」はGRブランドの将来を示すシンボルといえる。後者の中身はWECで活躍中のレーシングカー「TS050 ハイブリッド」とほぼ同じというから、最高出力1000psのハイブリッドスーパースポーツの誕生である。これはもうワオ! と快哉(かいさい)をあげるほかない。スポーツカーへの過激なロマンチシズム、闘魂アントニオ猪木のクルマ版ではあるまいか、って意味不明ですけど。
平熱で申し上げれば、ようするにトヨタはGRブランドを、メルセデス・ベンツのAMGとかBMWのM、あるいは日産のNISMOのような存在にまで育てあげる方針を決定し、実行の端緒についたわけである。
味づくりに歴史あり
トヨタのオリジナリティーは、GRブランドをあらかじめ4階層のピラミッドに構想していることで、その頂点の「GRMN」は限定生産とし、「走りの味を追求した究極のスポーツモデル」と位置付ける。“MN”はトヨタのマスタードライバー、故・成瀬 弘氏を指しているとも、開発の聖地であるニュルブルクリンクのマイスター(Meister of Nürburgring)という意味であるとも説明されてきた。MNの名前が最初に用いられたのは、2009年に限定100台が発売された「iQ GAZOO Racing tuned by MN」だったことを考えると、すでにそれなりの歴史を重ねている。
GRMNはエンジン、ドライブトレイン、ボディー&シャシー、そして専用デザインまでをチューニングの範囲とするもので、過去には2012年に「iQ GRMNスーパーチャージャー」が限定100台、2013年に「ヴィッツGRMNターボ」が限定150台、2015年には「マークX GRMN」が限定100台、2016年には「86 GRMN」が同じく限定100台で販売されている。最新のヴィッツGRMNは限定150台で、2018年の4月9日から申し込みの受け付けが始まる。WRCに参戦しているヴィッツ、欧州名「ヤリスWRC」のノウハウを取り入れたホットハッチで、400万円もするけれど、アッという間に申し込みが殺到し、抽選になることが想定されている。
ピラミッドの2層目に位置する「GR」は、限定生産という縛りはなく、エンジンには手をつけないけれど、それ以外はGRMNと同じで、「操る喜びを日常的に実感できる量産型スポーツモデル」と定義されている。
この下に「GRスポーツ」という、エンジン、ドライブトレインはノーマルのままで、足まわりとボディーにのみ手を入れ、後付けのスポイラー類等による専用デザインをまとわせた、ピラミッドの3番目の層が広がる。それまで「G's」と呼ばれていたモデルの名称変更というべき存在で、トヨタでは「多彩なカテゴリーに展開し、ライフスタイルに合わせて選べる拡販スポーツモデル」と位置付けている。「プリウスPHV」や「アクア」、あるいは「プリウスα」「ノア/ヴォクシー」と、およそスポーツとは縁遠いモデルまでをも対象とする。大衆車メーカー、トヨタの真骨頂というべきだろう。ご存じのように、ミニバンのメーカーによるカスタムバージョンはあまた存在していて、トヨタに限らず、ようするに売れている。
4層ピラミッドの底辺となるのが「GRパーツ」で、アフターパーツとして売り出される。
見た目の変化は控えめ
で、いよいよ本題の今回試乗した86 GRだけれど、その前に細かいことで恐縮ながら、トヨタのオフィシャルサイトを見ていて解せないのは、GR 86なのか86 GRなのか、表記にバラツキがあることだ。ブランド構築上、これはマズいのでは……という疑問を投げかけつつ、ここではなんとなく86 GRと表記する。
86 GRは2016年に発売された86 GRMNをベースに開発された。86 GRMNは、2012年にクラス優勝、2013年クラス2位、そして2014年に再びクラス優勝というニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦のノウハウを投入したとされる、限定生産のコンプリートのチューニングカーで、車両価格は648万円だった。
86 GRはGRグレードでの発売ゆえ、限定生産ではないカタログモデルで、エンジンはそのままだけれど、アンダーボディーに補強ブレースを追加してボディー剛性を高め、専用チューニングのザックス製ショックアブソーバーがおごられている。
さらに86 GRMNと同じトルセンLSDと、前6ピストン、後ろ4ピストンの高性能ブレーキを装備して、価格は496万8000円。GRMNは最高出力219psに強化されていたけれど、86 GRは207psのままということで、150万円ほどお求めやすくなっているのだからバーゲン価格である。一方、フツウの86と比べると、一番高いモデル、「GT“リミテッド・ブラックパッケージ”」の6MT車が335万6640円だから、それよりさらに160万円ほど高いことになる。人間、どちらを見るかによって、価値判断は大きく変わってくるわけである。
フロントスポイラーは86 GRMNゆずりの専用のエアロパーツで武装している。控えめなところが好ましい。86 GRMNみたいに大きなリアウイングがあってもよかったと思うけれど、ま、ないから大人っぽいわけである。
コーナリングが気持ちいい
ドアを開けて乗り込んだら、86の最大の欠点であるダッシュボードの安っぽさには目をつぶろう。レカロに体を預けたら、ただ前だけをまっすぐ見つめる。トヨタ車でありながらダッシュボードの質感なんぞに金がかかっていないことにこそ誇りが込められている。その分、メカニズムにコスト配分されている。おそらく、トヨタ車で最もエンジンが高い一台だろう。上州群馬県産だから、ではあるけれど。
走り始めると、実にスッキリしたクルマである。雑味がない。ピュアである。本物の高級スポーツカーから乗り換えても嫌な気持ちにならないほどに。フラット4の採用によって生まれた低重心その他がすべてをよい方向に導いている。
乗り心地は硬めだ。タイヤはミシュランの「パイロットスポーツ4」という高級な舶来物を履いている。前215/45、後ろ235/45のZR17サイズからして、第一印象はそうなる。けれど、大きな入力が入るとしなやかに受けて止めてくれる。ストローク量はそれほど大きくない。ボディーがしっかりしているから、硬めの脚の設定でも許容するのだろう。ロールの感じもごく自然かつ穏やかで、コーナリングが気持ちいい。ブレーキの剛性感も高くて、ブレーキングそれ自体が喜びとなる。
エンジンには手が入っていないはずだけれど、5000rpmまでは低音で、そこからは金属的な高音に音色が変わり、快音を控えめに発する。2リッター自然吸気のフラット4は7400rpmあたりまで、ごくスムーズに回り切る。直4と異なり、振動を発しない。フラット4エンジンの美質である。
最高出力207ps/7000rpm、最大トルク212Nm/6400-6800rpmは、少々物足りないとも言えるけれど長所でもある。おかげで遠慮なくアクセルペダルを踏み込むことができるからだ。フルスロットルの快感がある。深々と踏み込んでも加速は、登りだとゆっくりめで安心感がある。86の走らせがいというのは低重心がもたらすハンドリングを味わうことにある。6段マニュアルのシフトダウンがスパッと決まったときの気持ちよさときたら、スポーツカーかくあれかし、である。
サウンドに混じり気がない。繰り返しになるけれど、そこが86 GRの真骨頂である。ビビリ音とか低級音がまったくない。丹精込めてつくり込まれた製品ならではのしっかり感がある。
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わかるひとにはわかる
チューニングカーというのは、感覚のところが大で、数値で論ずべきではないと筆者は思う。もちろん自動車というのはなんでも数値のみで論ずべきではないと思うけれど、例えば、BMWアルピナとフツウのBMWとどっちがよいか、という質問に対して筆者はうまく答えることができない。アルピナはとてもよいチューニングカーだけれど、BMWで十分と言えば十分であるように思われるからだ。
同様に、86 GRはとてもよいクルマだけれど、普通の86で十分とも言える。2016年8月に86は後期型に移行しているわけだけれど、その発表会だか試乗会だかの席で、マイナーチェンジに当たってはニュルブルクリンク24時間耐久で得たノウハウを投入した、と開発担当者が語っていた、と記憶する。そして、富士スピードウェイのショートコースで試乗して、「意のままに走る」という開発担当者の狙いがよくわかった。
その86後期をさらに磨き上げた86 GRは、現在トヨタが生産しているクルマの中で最もファン・トゥ・ドライブな一台である。……と書いたところで、そりゃそうだろう。86は現時点でトヨタブランドにおける唯一のスポーツカーなのだから、と思い直した。
チューニングというのは、手間暇かけて、フツウのひとが価値を見いださないところに価値を作り出すマニアックな世界である。マニアックなだけに、わかるひとにはわかるし、わからないひとにはわからない。
じつのところ、筆者はわからないひとの方でありまして、そのわからないものに対して大枚をはたく、わかるひとに敬意を抱くひとでもある。とりわけ86 GRの場合はエンジンはそのままで、車両の洗練方向に技術とお金を使って、全体のバランス、完成度をごく自然に上げているので、わからないひとにはわからない。「安い。たったの160万でこれができるとは、さすがファクトリーチューンだ」と豪放かつポジティブに言える、そういうひとに私はなりたい。
(文=今尾直樹/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
トヨタ86 GR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4290×1790×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1240kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:207ps(152kW)/7000rpm
最大トルク:212Nm(21.6kgm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)215/45ZR17 91Y/(後)235/45ZR17 97Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:--km/リッター
価格:496万8000円/テスト車=529万4484円
オプション装備:GRラゲッジマット(1万7280円)/GRバルブキャップ(3888円)/T-Connectナビ「NSZT-W66T」DCMパッケージ(20万3040円)/バックモニター(1万7280円)/iPod対応USB/HDMI入力端子(9720円)/ETC 2.0ユニット<ナビ連動・光ビーコン機能付き>(3万2616円)/ドライブレコーダー「DRD-H66」(4万2660円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2572km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:336.3km
使用燃料:38.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.7km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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