メルセデス・ベンツCLS450 4MATICスポーツ(4WD/9AT)
エロスの化身 2018.10.08 試乗記 「メルセデス・ベンツCLSクーペ」に試乗。テスト車は新開発の直6エンジンを積んだアッパーグレード。その技術的な素晴らしさにひとしきり感心したのちにリポーターが見いだしたのは、この4ドアクーペが漂わせる、もっと根源的、人類的ともいえる魅力だった。新しいけどどこかで見た顔?
2018年6月に日本で発売となったメルセデス・ベンツの新型CLSクーペには、AMGをのぞくと、2リッターディーゼル4気筒の「220d」と、3リッターガソリン6気筒で4WDの「450 4MATIC」の2種類がある。どちらも車名の後ろに「スポーツ」の4文字が付く。そこにこのクルマの性格が表現されている。前者は799万円、後者は1038万円の高級車で、今回は高い方、「Sクラス」のマイナーチェンジでメルセデスとしては20年ぶりに復活したストレート6を搭載することでも話題のCLS450を路上に連れ出した。
あらためてマジマジとCLS450を眺めてみると、つり目の変型ヘッドライトとグリルとの位置関係から、フロントマスクは現行「マスタング」を思わせる。アメリカンな無頼の雰囲気が漂う。でっかくて、ぶっとくて、薄いタイヤは前245/40、後ろ275/35の、ともに19インチ。AMGもかくやの迫力だ。のちに発表された「AMG CLS53 4MATIC」は20インチで、さらに1サイズ大きいわけだけれど、エレガントというよりは粋がることでメルセデス・ベンツはブランドの若返り、再生を果たした、と表現できるのではあるまいか。
マットペイントは26万1000円のオプションだけれど、オーバー1000万円の高級車を購入しようという御仁にとっては望むところだろう。社有車には絶対に見えない。
運転席に座ってみると、試乗車には57万5000円のオプション「エクスクルーシブパッケージ」が選ばれていて、しなやかなナッパレザーが心地よい。「ベンガルレッド/ブラック」の内装色に、「グレーアッシュウッド」と呼ばれる銀色のウッドパネル、それにタービンエンジンをモチーフにしたというエアダクトがバロックというのかビザールというのか、男女の密会にふさわしい妖艶(ようえん)なムードを醸し出している。暗くなると、これらエアダクトにも仕込まれたアンビエントライトが室内を紫色に彩り、エロチックな夜をつくり出す。いいなぁ……。このライトは64色に切り替えができるけれど、たまたま設定してあった紫色、オススメです。いまでもあるのでしょうか、フランクフルト空港のセックスショップを思い出す。
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機構の複雑さを忘れるほどスムーズ
ボディーサイズは全長5000×全幅1895×全高1425mmで、ホイールベースは2940mm。ホイールベースは現行「Eクラス」と同じだけれど、デザインコンシャスな分、CLSのほうがベースのEクラスより若干長くて幅広くて低いのは従来通りである。
走りだすと、ものすごくよいクルマであった。まずもってエンジンがすばらしい。M256型と呼ばれるこれは、排気量3リッターで、ボア×ストローク=83.0×92.3mmのロングストローク。これにターボを装着して、最高出力367ps/5500-6100rpm、最大トルク500Nm/1600-4000rpmを発生する。
ただし、同じ“256”という型式で、同じ出力&トルクを数値的には発生しているのに、Sクラスにはある低速域用の電動スーパーチャージャーがこちらでは省略されている。その理由はCLSのほうが車重が100kgほど軽いから、ということだろうけれど、たかが100kg、されど100kg、コストも込みで考えるべきだろう。
驚くべきは、電動スーパーチャージャーの必要を感じなかったということかもしれない。エンジンと9段オートマチックの間に仕込まれた「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」の働きにもよるのだろう。48Vのバッテリーと組み合わされるISGは、最高出力16ps、最大トルク250Nmの、あるときは電動ブーストの役割を果たす電気モーター、またあるときはオルタネーター(発電機)、そしてまたあるときはスターターとして機能する。このISGのおかげでアイドリングは520rpmという低回転で安定している、ということだけれど、じつのところ、筆者はそれにさえ気づかなかった。エンジンが完全に停止していようが、そこからISGがひそかに再スタートしていようが、520rpmの低回転でエンジンをゆるゆる回していようが、そこから加速時に電動ブーストとしてエンジンをアシストしていようが、なんて静かなクルマなんだろう、と感心するのみで、電気モーターの、あるいは発電機としての存在をまったく意識させない。考えてみれば、ものすごくいろんなことをやっているのに、不自然なほどギコチないところがない。そこがこの直6×ISGのスゴイところだ。
乗り心地も素晴らしい!
エンジン単体では、完全バランスの直6はなるほどスムーズで、だけど、トルクの出方が穏やかだからだろう、エキサイティングというよりはどこかまろやかで、ほっこりする。100km/h巡航は9段ATということもあって1200rpmにすぎない。
それでもって、乗り心地がまたすばらしい。筆者は現行「E450」の前身の「E400 4MATIC」との比較しかできないけれど、あちらの「エアボディーコントロールサスペンション」による足まわりがフワフワであったのに対して、こちらはダイナミックセレクトのC(コンフォート)を選んでも適度に引き締まっている。S(スポーツ)、S+を選べば、さらにいっそう引き締まる。けれど、AMGのハードコア路線とは異なり、その適度な締まり具合が誠に適度で心地がよい。
6気筒で4WDで、しかも電気モーターまで付いているから致し方ないとはいえ、車重が1970kgもあることはどうなの? という疑問はないではないけれど、高級車のあり方として、いまはまだよしとしておきましょう。静かで乗り心地がよくて快適で、カッコいい。おまけに4WDで全天候。屋根が低い分、後席の乗り降りには若干の注意が必要だけれど、それも若干の注意でこと足りる。CLSクーペ史上初めて後席が3座になって5人乗りになったことは、家族で使うひとにとっては福音だろう。
エロスがなくては始まらない
2004年に初代CLSが発表になったのち、機能主義というタガの外れたこのEクラスを見るにつけ、「最前か無か」の堕落だ……と保守的な田舎もんの筆者なんぞは思っていた。あの時点からすると未来にいる筆者にも、いまならわかる。もしもあのとき初代CLSのチャレンジをしていなければ、こんにちのメルセデス・ベンツのビジネス的成功はなかっただろうことを。
いまやCLSは、「AMG GT 4ドア」を上にいただき、下に「Aクラス セダン」を従えて、メルセデス・ベンツ内にあるグループを形成しようとしている。性の多様化というようなこともいわれる昨今だけれど、メルセデスにおけるエロスの化身、CLSは3代目にして主役の座を射止めたのだ。
これは、現代のメルセデス・ベンツのもてるテクノロジーをテンコ盛りにし、セクシャリティーまで詰め込んだ傑作である! と筆者は思う。だって、この世のなか、SUVやミニバンがどれだけ増殖しようと、エロスがなくては始まらない。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツCLS450 4MATICスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5000×1895×1425mm
ホイールベース:2940mm
車重:1970kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:367ps(270kW)/5500-6100rpm
エンジン最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1600-4000rpm
モーター最高出力:16ps(10kW)
モーター最大トルク:250Nm(25.5kgm)
タイヤ:(前)245/40R19 98Y XL/(後)275/35R19 100Y XL(ダンロップSPORT MAXX RT2)
燃費:11.9km/リッター(JC08モード)
価格:1038万円/テスト車=1137万8000円
オプション装備:マットペイント<セレナイトグレーマグノ>(26万1000円)/エクスクルーシブパッケージ(58万1000円)/ガラススライディングルーフ(15万6000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1594km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:235.6km
使用燃料:30.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.8km/リッター(満タン法)/8.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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