ホンダCR-V EX・マスターピース(FF/CVT)
さよならアメリカさよならニッポン 2018.10.11 試乗記 日本市場を去ってから2年あまり。いよいよ「ホンダCR-V」が帰ってきた。とはいえ、見た目にも中身にもメインマーケットであるアメリカの空気が漂っているのは否めないところ。日本の道路における使い勝手はどうなのか!?2年ぶりに帰ってきたSUV
思ったよりデカくないな、というのがCR-Vの第一印象。「ヴェゼル」の上位モデルというアタマがあったものだから、もう少し大きくて立派なSUVなのだろうと思いこんでいた。ディメンションを比べてみると確かにひと回り大きいのだが、いかついフォルムではないので圧迫感が薄かったのかもしれない。大きいはずだと信じて疑わなかったのにはもう一つ理由がある。要するに北米向けのモデルでしょ、という先入観だ。
CR-Vは2016年に5代目となっていたのに、日本ではこれまで販売されなかった。ヴェゼルが好調だったこともあり、コンパクトカー全盛の国では存在意義が薄くなったという判断だと考えられる。開発のどの段階で日本での販売を断念したのかはわからないが、北米をメインターゲットとしていたことは確かだろう。サイズのみならず、走りの味付けやデザインについても国外の事情が優先されたに違いない。
経緯はともあれ、約2年ぶりに戻ってきてくれたことは歓迎すべきだ。CR-Vが休んでいる間に日本のSUVのマーケットが急拡大したのは追い風になる。ただし、強力なライバルが多数出現しているのだから油断はできない。2016年8月にNMB48を卒業した渡辺美優紀が2018年9月に復帰したが、あまり話題になっていないように思う。大人気だったあのミルキーですら、2年間のブランクは想像以上に大きかった。クルマはどうだろうか。
7人乗り仕様はターボモデルのみ
新型CR-Vのパワーユニットは2種類ある。楽しみなのは2リッター直4エンジンに2つのモーターを組み合わせた「i-MMD」の4WDだが、このハイブリッドモデルの導入は11月を待たなければならない。試乗したのは、1.5リッター直4直噴ターボ+CVTというパワートレインを搭載したFFモデル。5人乗りも用意されるが、今回は3列シートの7人乗りだった。ハイブリッドモデルは5人乗り仕様のみの設定である。
東京~軽井沢往復という長距離の試乗コースが与えられた。「2.4リッター自然吸気エンジンに相当するトルク」という説明があるが、1.6tを超える車重だから驚くほど速いということはない。高速道路の巡航は得意なようで騒音は気にならず、乗り心地も悪くなかった。追い越し時にアクセルを踏み込むと、エンジン回転の上昇に合わせてストレスなくスピードが上がっていくのも好印象だ。ただし、エンジン音は気分が高揚するというような種類のものではない。
安全運転支援システムのホンダセンシングが装備されているので、アダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線維持支援システム(LKAS)を使って巡航する。雨が降っている中でも確実に機能するから安心して運転の一部を委ねられる。「N-VAN」でも十分な実用性を発揮していたホンダセンシングは、同種のシステムの中でかなり出来がいい部類だと思う。
関越道から分岐して上信越道に入ると、路面状況が悪化する。補修が追いついていないのか、アンジュレーションと凹凸に悩まされるのだ。新世代プラットフォームを採用したことが功を奏したのか、少しぐらいの入力はいなして滑らかな走りを満喫できる――と言いたいところだが、正直なところそれなりに衝撃は伝わってくる。背の高いSUVでスポーティーさと乗り心地の妥協点を探った結果がこの設定なのだろう。
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体育座りを強いられる3列目
高速道路を降りてワインディングロードに入ると、これまで好印象だったCVTに試練が訪れる。発進時や低速からの加速ではエンジン回転数の上昇がかなり先行する印象で、もどかしい思いをすることがあった。積極的にスポーツ走行したいならパドル操作が必須になる。むしろ、セカセカせずにゆったりとした気持ちで緩やかなアクセル操作を心がけるほうがいいのかもしれない。試乗したモデルは7人乗りなのだから、ファミリー向けの仕様なのだ。
SUVで3列シートというのは昨今のトレンドで、ミニバンの代替需要が期待されている。スタイリッシュなフォルムをもちながら大人数で乗れるというイイトコどりを目指しているわけだが、少々欲張りな企てである。2列目はいいとして、3列目は相当に我慢を強いられる場所だった。「レクサスRX450hL」に乗った時にガッカリしたことを思い出す。ガタイの大きさと空間の狭さのギャップに驚いたわけだが、CR-Vのシートにはそれを超える落胆を感じてしまった。
背もたれの出来や横の広さはまずまずだが、座面があまりにも低すぎる。膝が浮いてしまって体育座りのような姿勢を強いられてしまうのだ。以前「トヨタ・シエンタ」と「ホンダ・フリード」を乗り比べた時に、明確な設計思想の違いを感じたことがある。シエンタが横幅が狭い代わりに良好な姿勢をとることができたのに対し、フリードは横幅に余裕があって座面が低かった。ホンダの考える優先順位の中で、座面高はあまり上位に位置づけられていないのかもしれない。
2列目には縦のスライド機構があり、足元に余裕をもたせることができる。困ったことにこのレールが3列目に座る人にとってはじゃまで、足の置き場に困るのだ。通常は3列目をたたんで荷室を拡大する使い方をすればいい。2列目は倒すだけでなくタンブルしてスペースを稼ぐ使い方も可能だ。しかし、シートアレンジとしては標準的な機能で、日本のミニバンがマジックのような仕掛けを取り入れていることを考えれば驚きはない。各メーカーがシートの機構をめぐって技を競い合う日本が特殊なのであって、アメリカではこれで十分なのだろう。
アメリカンな巨大コンソールボックス
アメリカ感が最も強烈だったのは、センターコンソールボックスである。日本車のスタンダードからすると、かなり大ぶりな作りなのだ。巨大なトレーには「iPhone Xs Max」のような大きめスマホでも余裕で置ける。大きいことは使い勝手のよさにつながるともいえるが、日本ローカルのモデルならもう少し別な配慮をしたような気がする。
アメリカンな感覚を、「大ざっぱ」ととるか「おおらか」ととるかで評価は変わってくる。CR-Vに限らず、北米市場を重視している日本車は多い。日本の自動車メーカーにとって、日本よりアメリカのほうがたくさんクルマが売れるマーケットなのだ。トヨタですら「カローラ」の日本独自仕様を廃して完全グローバル化を決断している。CR-Vがバタくさい流儀を身につけたことは、それ自体としてはプラスでもマイナスでもない。日本が誇るハイブリッド技術を搭載したモデルが発売されるのを待てば、もう少し日本らしさが感じられるかもしれない。
アメリカから大きな影響を受けながら日本語のロックを確立しようと苦闘したはっぴいえんどは、『さよならアメリカさよならニッポン』という曲をリリースした直後に解散を決めた。簡潔な歌詞にどんな思いを込めたのかを知ることはできないけれど、アメリカにも日本にも別れを告げて孤高の道を歩むことが大切なのではないか――ときれいにまとめようと思ったのだが、これでは何も言っていないに等しい。アメリカと日本のはざまで自動車メーカーも苦労しているんだろうな、とあらためて思った次第だ。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダCR-V EX・マスターピース
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4605×1855×1680mm
ホイールベース:2660mm
車重:1630kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:190ps(140kW)/5600rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)235/60R18 103H/(後)235/60R18 103H(ブリヂストン・デューラーH/L33)
燃費:15.4km/リッター(JC08モード)
価格:381万4560円/テスト車=397万1160円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムクリスタルレッドメタリック>(6万4800円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(6万4800円)/ドライブレコーダー(2万7000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:2262km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:485.5km
使用燃料:41.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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