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第22回:ダイハツ・ミラ トコット(後編)

2019.02.06 カーデザイナー明照寺彰の直言 明照寺 彰
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ダイハツ・ミラ トコット
ダイハツ・ミラ トコット拡大

もっとシンプルに、もっとエフォートレスに。既存の“かわいい系”とは一線を画すデザインで話題を集めている「ダイハツ・ミラ トコット」。その新しい取り組みに理解を示しつつも、現役のカーデザイナーが指摘した“惜しいポイント”とは?

一応は“女性向けの軽乗用車”でありながらも、ユニセックスなデザインが特徴の「ミラ トコット」。もちろん、かわいい系のクルマからの代替え需要にも対応するべく、ファンシーな仕様も用意されている。写真は販売店オプション「アナザースタイルパッケージ(スイートスタイル)」装着車。
一応は“女性向けの軽乗用車”でありながらも、ユニセックスなデザインが特徴の「ミラ トコット」。もちろん、かわいい系のクルマからの代替え需要にも対応するべく、ファンシーな仕様も用意されている。写真は販売店オプション「アナザースタイルパッケージ(スイートスタイル)」装着車。拡大
明照寺氏からも好評価の「ホンダN-ONE」。その価格は120万0960円から177万2280円と、「ダイハツ・ミラ トコット」よりひとクラス上の軽乗用車である。
明照寺氏からも好評価の「ホンダN-ONE」。その価格は120万0960円から177万2280円と、「ダイハツ・ミラ トコット」よりひとクラス上の軽乗用車である。拡大
現在、ダイハツがラインナップしているもう1台の“オシャレ軽”こと「ムーヴ キャンバス」。「ミラ トコット」とはテイストが違うが、しっかりと突き出たボンネットに立ち気味のAピラー、後端まで水平基調のショルダーラインなど、クラシックでクルマらしいデザインをしている。
現在、ダイハツがラインナップしているもう1台の“オシャレ軽”こと「ムーヴ キャンバス」。「ミラ トコット」とはテイストが違うが、しっかりと突き出たボンネットに立ち気味のAピラー、後端まで水平基調のショルダーラインなど、クラシックでクルマらしいデザインをしている。拡大
2004年から2009年にかけて販売された「ムーヴラテ」。どこをとってもカドのない、丸いデザインが特徴の軽ハイトワゴンだった。
2004年から2009年にかけて販売された「ムーヴラテ」。どこをとってもカドのない、丸いデザインが特徴の軽ハイトワゴンだった。拡大

やりがいのある“かわいいカー”づくり

永福ランプ(以下、永福):トコットは、女性向けのいわゆる“かわいいカー”の派生形だと思いますけど、日本の“かわいいカー”に対して、明照寺さんはどんな思いを持ってますか?

明照寺彰(以下、明照寺):自分が買う、買わないではなく、デザイナーの仕事として、自分とは違う価値観の人に対してモノをつくるのはとても好きなので、肯定的です。自分の好みよりも、「お客さんの要望がこうだからこうしよう」というのは、プロとしてやりがいがあるんです。むしろ自分の趣味とは正反対なクルマをつくるのが好きですね。

永福:なるほど!

明照寺:でも、「ホンダN-ONE」だったら自分で乗ってもいいな~って思うんです。内装の質感もいいし、エクステリアもまあまあだし。

永福:N-ONEはいいですよ! あれは決して女性向けのデザインじゃないと思ってます。

ほった:女性向けかどうかは別にして、自分もこういう“おしゃれ重視”の軽自動車って、好きですね。

永福:えっ、ほった君が!? その時点でほのかに変態の香りが……。

ほった:いやいやいや(笑)。ボディーの見切りを重視した結果ではあるんでしょうけど、ピラーが立ってて、ボンネットがちゃんとあって、ショルダーラインがスコーンとまっすぐですから、みんなすごく“クルマらしい形”してるんですよ。

永福:うわー、そういうオタクっぽい理屈もキモい~(笑)。じゃあさ、トコットはともかくとして、モロにぬいぐるみ的だった、かつての「ムーヴラテ」なんかはどうなの?

ほった:ぜんぜんキレイな形だと思いますよ。潔いじゃないですか。

永福:ええーっ! あれに乗ってるほった君は、それだけでタイホされそうな気がするけど。それでも見切りを重視するなら、カーマニアとして本当に立派だね。

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あのライバルと比べてしまうと……

明照寺:トコットに話を戻すと、ムーヴラテみたいにファンシーな感じはないですよね。マンガ的ではなくシンプルなセンをねらっているところには、好感が持てます。

清水:うーん。前回の話を聞くと、トコットは「あまり工夫してない全身ユニクロ」っていう表現がピッタリかなって思っちゃうけど。

ほった:そうですね……。自分も、例えば「トコットと『アルトラパン』、どっちが好き?」って聞かれたら、悩んだ挙げ句に、アルトラパンってなっちゃいますね。

永福:おっ、さすが女性向けの軽に一家言あるほった君! 俺もだよ! アルトラパン大好き! 子犬みたいで頰ずりしたくなる!

明照寺:トコットとラパンを比べると、価格的には近いし、ターゲットもほぼ一緒なんですけど、ラパンのほうが非常にコストがかかってますよね。

永福:そうなんですか!?

明照寺:まず、ラパンは塗装にツートンがあるじゃないですか(※ミラ トコットにもツートン仕様はあるが、あちらはフィルムラッピング)。大きめのグリルがついていて、リアコンビランプもテールゲートで2分割してる。「こんなにコストがかかることを、わざわざやってるのか!」って、感心させられます。スズキは「ハスラー」などもそういう傾向にありますよね。それに対してトコットは、見事なほど何もやってない。

一同:ハハハハハハ!

明照寺:それが狙いだとは思いますけど、この差は、すごく“わかりやすい”じゃないですか。一般の人がクルマを手に入れて、「いいものを買った」って感じるのは、こういう構成の違いによるところが大きいんです。ラパンはリッターカーどころか、Cセグメントぐらいの部品構成なんですよ。スズキに対してはもともと尊敬の念を抱いてますけど、本当によくここまでやるなぁって思います。それに対してトコットは、ちょっと商品力が足りないんじゃないのかな。

永福:現役の自動車デザイナーとしては、そういう見方になるんですね~。

禁断のライバル2ショット。左上が「ダイハツ・ミラ トコット」で右下が「スズキ・アルトラパン」。こうして比べてみると、ターゲットユーザーも価格帯も似たようなクルマなのに、デザインの方向性はまったく異なる。
禁断のライバル2ショット。左上が「ダイハツ・ミラ トコット」で右下が「スズキ・アルトラパン」。こうして比べてみると、ターゲットユーザーも価格帯も似たようなクルマなのに、デザインの方向性はまったく異なる。拡大
ボディーとは別体部品のフロントグリルに、ボディー下部をぐるり一周するモール、そしてツートンカラーの設定と、「アルトラパン」の外装はとにかくコストがかかっている。
ボディーとは別体部品のフロントグリルに、ボディー下部をぐるり一周するモール、そしてツートンカラーの設定と、「アルトラパン」の外装はとにかくコストがかかっている。拡大
リアを見ても、デザインと使い勝手を両立すべく丸いリアコンビランプをテールゲートで2分割とするなど、非常に手が込んでいる。
リアを見ても、デザインと使い勝手を両立すべく丸いリアコンビランプをテールゲートで2分割とするなど、非常に手が込んでいる。拡大
「ミラ トコット」にもツートンカラー仕様はあるのだが、こちらはデザインフィルムによるラッピング。キャンバス地調の質感はユニークだが……。
「ミラ トコット」にもツートンカラー仕様はあるのだが、こちらはデザインフィルムによるラッピング。キャンバス地調の質感はユニークだが……。拡大
明照寺:「『アルトラパン』と比べてしまうと、『トコット』はちょっとデザイン面での商品力が足りないんじゃないかなって思ってしまいますね」
(写真=向後一宏)
明照寺:「『アルトラパン』と比べてしまうと、『トコット』はちょっとデザイン面での商品力が足りないんじゃないかなって思ってしまいますね」
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もっともっとシンプルに!

明照寺:ディテールの話でいうと、ほかにも気になった点があります。例えばトコットのフロントはすごく特徴的な面構成になっていて、ヘッドランプもカマボコ型の切り欠きにポコっとはめているだけで、良くも悪くも本当にシンプルなんです。それに対してリアは、Cピラーの付け根あたりとリアコンビランプに脈絡がないんです。わざわざショルダーラインを上に回していて、それとは全然関係のない形でリアコンビランプがポンとついてる。こっちもフロント同様、ただ切り欠いたカタチにしたほうが、すっきり見えたんじゃないかと思うんですけど。このあたり、ちょっと“古いクルマ”みたいです。

永福:「ちょっと古いクルマみたい」っていうのは、いい意味にも取れますが。

明照寺:いや、フロントとリアで、ややちぐはぐさが見えるという意味で。

ほった:そういや昔のクルマって、そういうところを気にしてないのが多かったですよね。他のクルマのテールランプをそのまま流用してたりして。

明照寺:さすがにトコットは、そこまでひどくはありませんが(笑)。やっぱりシンプルっていうなら、フロントもリアもシンプルに徹すればよかったんじゃないかな。

永福:そうすると、さらに低コストに見えてしまうってことはないですか?

明照寺:いえ、トコットは軽にしてはショルダーラインがしっかりしているので。そういうクルマの場合、全体をシンプルに見せるっていうのはすごくいいと思うんですよ。

「ミラ トコット」のヘッドランプはボンネットとバンパー、フェンダーパネルの境にできる切り欠きにはまる、カマボコ型のデザインをしている。丸と棒を組み合わせたランプ内のデザインもシンプル。(写真=向後一宏)
「ミラ トコット」のヘッドランプはボンネットとバンパー、フェンダーパネルの境にできる切り欠きにはまる、カマボコ型のデザインをしている。丸と棒を組み合わせたランプ内のデザインもシンプル。(写真=向後一宏)拡大
リアコンビランプ周辺の意匠に注目。2本のショルダーラインのうち、上の1本はCピラーにそって上へと回されており、もう1本の線はリアコンビランプにせき止められている。ランプが、プレスラインやパネル構成と脈絡のない格好で配されているように見えてしまう。
リアコンビランプ周辺の意匠に注目。2本のショルダーラインのうち、上の1本はCピラーにそって上へと回されており、もう1本の線はリアコンビランプにせき止められている。ランプが、プレスラインやパネル構成と脈絡のない格好で配されているように見えてしまう。拡大
ほった:「リアハッチの取っ手やナンバープレートを付けるバンパーのくぼみなんかもあるから、仕方ないところもあるんでしょうけど、『ミラ トコット』のリアビューは、ちょっと雑然としていて、フロントと比べてデザインテーマが徹底されてない感じがしますね」
ほった:「リアハッチの取っ手やナンバープレートを付けるバンパーのくぼみなんかもあるから、仕方ないところもあるんでしょうけど、『ミラ トコット』のリアビューは、ちょっと雑然としていて、フロントと比べてデザインテーマが徹底されてない感じがしますね」拡大
ボディーサイド、ボンネットの横からドアノブの上を通る強い陰影に注目。
明照寺:「こんな風にショルダーラインがしっかりしているクルマは、もっともっと、全体をシンプルに統一してもいいと思うんですけどね」
(写真=荒川正幸)
ボディーサイド、ボンネットの横からドアノブの上を通る強い陰影に注目。
	明照寺:「こんな風にショルダーラインがしっかりしているクルマは、もっともっと、全体をシンプルに統一してもいいと思うんですけどね」
	(写真=荒川正幸)拡大

「エフォートレス」というより軍用車?

明照寺:ただね、そのサイドビューにしても、ショルダーラインの下のこの凹(へこ)み……。

ほった:前後ドアの真ん中あたりの、単純なへっこみですね。

明照寺:これもまたシンプルさをやや阻害しているんじゃないかな。なんかブリキ缶みたいな感じがするじゃないですか。それが狙いなのかもしれませんけど、「エフォートレス」っていうコンセプトには合致しないんじゃないかと思います。

永福:この凹みはないほうがいいってことですか?

明照寺:いや、これだと“ユニクロ感”が強すぎると思うんです。もうちょっと洗練されたやり方のほうがいい。

永福:あー、白モノ家電感が強まりすぎるってことですね。

ほった:もう少し、コンセプトにそった処理にすべきだったと。

永福:この凹みは、ドアの強度を出すためですかね?

明照寺:強度もあるでしょうけど、何かしらプレスラインが必要だったのかもしれないですね、デザイン的に。でも、ほかにも処理方法はあるはずなので。

ほった:総合すると、トコットは一見シンプルに見えるけど、よおーく見るとシンプルに徹し切れていない、コンセプトにそい切れていない部分があるということですか。

永福:なるほどねえ。……それにしても、このプレスラインが3本ぐらい入ってたら「ダイハツ・ネイキッド」だな。そうすると、エフォートレスどころか、軍用車っぽくなる。

ほった:それじゃコンセプトにまるで合致してないですよ。

永福:カーキ色がどんどん似合ってくるよね!

明照寺:たとえ1本でも、コンセプトにはあんまり合致してないですよ(笑)。

(文=永福ランプ<清水草一>)

「ミラ トコット」のドアパネル中央に施された、バー状の凹み。
明照寺:「なんだかブリキ缶みたいで、『エフォートレス』っていうクルマのコンセプトにも合致しないと思うんですよね」
「ミラ トコット」のドアパネル中央に施された、バー状の凹み。
	明照寺:「なんだかブリキ缶みたいで、『エフォートレス』っていうクルマのコンセプトにも合致しないと思うんですよね」拡大
ちなみに、販売店のパッケージオプション「アナザースタイルパッケージ」の中でも、“上質感押し”の「エレガントスタイル」だと、件の凹みにはメッキのガーニッシュが施される。
ちなみに、販売店のパッケージオプション「アナザースタイルパッケージ」の中でも、“上質感押し”の「エレガントスタイル」だと、件の凹みにはメッキのガーニッシュが施される。拡大
1999年に登場したダイハツの軽乗用車「ネイキッド」。アウターヒンジのドアや、リベット打ち風の装飾が施された外装パネルなど、武骨なデザインが魅力的だったが、市場の反応はイマイチだったようで、後継モデルが投入されることもなく、2004年に姿を消した。
1999年に登場したダイハツの軽乗用車「ネイキッド」。アウターヒンジのドアや、リベット打ち風の装飾が施された外装パネルなど、武骨なデザインが魅力的だったが、市場の反応はイマイチだったようで、後継モデルが投入されることもなく、2004年に姿を消した。拡大
 
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明照寺 彰

明照寺 彰

さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。

永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。

webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。

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