日産リーフe+(FF)
もっと自由に 2019.03.07 試乗記 「日産リーフ」の高性能モデル「リーフe+」に試乗。バッテリーとモーターを大幅に強化し、航続距離は4割アップの458km! さらなる自由を手に入れた追加モデルの実力は? テスラ車との比較を交えてリポートする。航続距離の長さは自由につながる
自動車は自由を拡大する装置。ただ、どっちの方向に拡大したいかは、人それぞれだ。
私は「どこまでも走って行ける」という方向性が好きで、ふだんはディーゼルの「BMW 320d」に乗っている。燃料タンク容量は72リッターで、これまでの平均燃費は17km/リッター程度(実燃費。燃費計上では18.2km/リッター)。満タンにすれば楽に1000km以上走れる。燃料の給油などそんなに手間ではないけれど、なるべく安いスタンドで入れたいという思いが強いので(ケチですみません)、航続距離が長いのは実にありがたい。ココロの自由が得られる感じである。
一方、ガソリンスタンドの減少もあって、燃料給油から解放されたい、あるいは愛車が出す排ガスから解放されたいという方向に考える方もいるだろう。となるとEVが最適ということになる。
ただ、EVは航続距離が短い。正確には「短いクルマが多かった」と言うべきだろうか。やっぱりEVは、基本的に「超ロングドライブはしない」、あるいは「ロングドライブ用のクルマは他に持っている」という人のためのクルマではないか。
例えば「テスラ・モデルS」の100kWhバッテリー仕様(P100D)は、航続距離594kmをうたっているが、そこから先は充電しながらでなければ走れない。日本に設置されている一般的な急速充電器は、1回につき30分しか充電できないが、その1回分だとモデルSは実質80kmほどしか走れない(オーナー談)という。つまり、500kmちょっと走ったら、「一晩充電」みたいなことがほぼ必須。これは心理的にあんまり自由な感じがしない。あくまで私がそう感じるだけですが。
しかしそれでも、満充電でどれだけ走れるかは、EVにとって猛烈に重要なポイントだ。なにしろそれだけ自由が拡大できるので。
加速Gはスーパーカー級
というわけでリーフe+なのですが、コイツの電池容量は62kWh。これはすごい。なにせ初代リーフが出たときは24kWhしかなかったんだから。おかげでリーフといえば、いつでも電池残量を気にしながら走るカチカチ山のタヌキという固定観念ができたが、それとはもうまったく別のクルマといっていい。
これがもたらす航続距離は、JC08モードで570km、日本のWLTC(超高速モード含まず)で458km、欧州WLTCで推定最大385km、米国EPAでは同364kmという数字になる。
「テスラ・モデル3」の標準バージョンの航続距離は、米国EPAで約350km。つまりリーフはモデル3に勝ったのだ! これだけでも大快挙ではないだろうか。あの、1回の充電で100kmくらいしか走れなかったリーフがテスラに勝った! 364kmも走れる! まぁそれは電池がカラになるまで走った場合だから、実際にはもうちょっと短くなるが、それにしてもすごい。期待値が低いとヨロコビも大きくなりますね。
今回、試乗会の時間内で計測したところ、100km走って平均電費は5.8km/kWhだった。つまり航続距離は、計算上360kmということになりました。やっぱりこれはすごい数字です。
リーフe+は、モーター出力も大幅に強化されている。新型リーフの標準車(電池容量40kWh)の最高出力は110kW(150ps)だが、リーフe+は160kW(218ps)なのだ。
これについて日産側は、「40kWh版は50km/hを超えると加速Gが落ちるが、e+は70km/hまで同じ加速Gが続く」と説明してくれた。
が、実際にアクセルを床まで踏み込んでみると、初期の加速Gの強力さにビックリ。FFということもあって、ホイールスピンをかます勢いだ。踏み込んだ瞬間にグワーンと来る猛烈な加速Gはスーパーカー級とすらいえる。本当の話です。
先日「フェラーリ812スーパーファスト」に試乗した際、3速からのフルスロットルでクルマが横を向いて「やっちまったか」と思いましたが、低速域ならアレにも遜色ないだろう。本当に速い! これなら信号待ちでテスラ・モデルSが横に並んだって、そう簡単には負けないはずだ。少なくとも「P75D」なら互角くらいじゃないか。「ロータス・ヨーロッパ」で「ポルシェ911ターボ」と戦う風吹裕也みたいな気分になれる気がする。テスラオーナーはリーフなんか屁とも思っていないだろうから、実に痛快だ。
バッテリーの寿命が心配
乗り心地もいい。もともと新型リーフは乗り味がしなやかで、低重心ゆえにコーナリングも安定していたが、重いバッテリーがさらに大きく重くなり、それが床下部分にあるので、さらに低重心。同グレードの標準車に対して160kgの重量増は、クルマの動きをゆったりエレガントにしてくれている。公道でフツーに乗る限り、「標準車よりさらに乗り心地がステキ!」と感じた。
ちなみに、5割以上容量が拡大されたバッテリーだが、容積寸法はほとんど大きくなっていないので、標準車より居住空間に食い込んでいるということもない。
残る心配は、バッテリーの寿命だ。初代リーフの特に初期モデルは、バッテリーの劣化が問題になっている。なにせ実質100kmくらいしか走れなかったのだから、バッテリー容量が2割落ちれば80kmになってしまう。オーナーにすれば死活問題だ。
一方リーフe+は、もともと航続距離に余裕があるので、仮に2割落ちても死活問題にはならないだろうが、バッテリーそのものの劣化速度も、初代リーフの初期に比べると格段に改善しているらしい。日産は現行リーフに関しては、8年16万kmのバッテリー容量保証を行っている。
正確には、「正常な使用条件下において新車登録から8年間または16万kmまでのどちらか早い方において、アドバンスドドライブアシストディスプレイのリチウムイオンバッテリー容量計が9セグメントを割り込んだ(=12セグメントが8セグメントになった)場合に、修理や部品交換を行い、9セグメント以上へ復帰することを保証」している。決してバッテリー交換を保証するものではないが、まともな保証もなかった初代リーフの初期に比べると、安心感はある。
とはいっても、8年たったらもう保証はないし、劣化することも間違いない。こと耐久性に関しては、どう逆立ちしてもディーゼルの勝ちだろう。そこんところは覚悟する必要がありますね。20年乗ろうという人には絶対おすすめできません。
EVシバリならリーフe+
もうひとつ。リーフe+のバッテリー容量は62kWhだが、これを急速充電器で80%まで充電するのに約1時間かかる。つまり、1回30分の充電では半分くらいしか充電できず、主にソレで使用する場合は、バッテリー容量の大きさがムダになる。日産は、「バッテリー容量が大きいほど、急速充電の効率もアップする」と言っているので、全部ムダにはならないわけだけど、かなりムダになってしまいます。
このあたりまで考えると、標準の40kWh版でいい、と考えるユーザーも多いだろう。実際、e+を選んでいる人は、リーフ全体の4割ほどとのこと。大容量のバッテリーは自由を拡大するけれど、出費も拡大するし(同グレードで比較した場合、車両価格で約50~73万円高い)、通常の急速充電を使う限り航続距離のアドバンテージも小さいのだから、標準モデルのほうがお得という考え方も大アリだ。
ところで、リーフを買った場合、充電代はどれくらいかかるのか。月に800kmほど走ると仮定してみよう。
日産の充電サービス使いホーダイプランが月に2160円(税込み)。加えて、自宅車庫で月に60kWh分充電すると仮定すると、東京電力の夜トク12プランでの電気料金は1353円になる。合計3513円だ。一方これがディーゼルだと、私の場合、月に軽油が47リッター必要になる。現在の軽油価格は東京の安いスタンドで110円/リッター程度なので、5170円だ。
さすがにリーフのほうが安いけれど、それほど劇的に安くもないですよね? 私がEVに魅力を感じないのは、そんなところにも理由がある。
ただ、仮にEVしか買えないというシバリがあったなら、リーフe+を選ぶだろう。EVとしては、とてもいいクルマになったと思います。
(文=清水草一/写真=阿部昌也/編集=大沢 遼)
テスト車のデータ
日産リーフe+ G
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1790×1545mm
ホイールベース:2700mm
車重:1680kg
駆動方式:FF
モーター:交流同期電動機
最高出力:218ps(160kW)/4600-5800rpm
最大トルク:340Nm(34.7kgm)/500-4000rpm
タイヤ:(前)215/50R17 91V/(後)215/50R17 91V(ダンロップ・エナセーブEC300)
一充電最大走行可能距離:458km(WLTCモード)/570km(JC08モード)
交流電力量消費率:161Wh/km(WLTCモード)/125Wh/km(JC08モード)
価格:472万9320円/テスト車=498万2034円
オプション装備:チャイナブルー(M)+スーパーブラック2トーン<特別塗装色>(5万4000円)/寒冷地仕様<後席クッションヒーター+後席ヒーター吹き出し口+不凍液濃度アップ[50%]>(2万7000円) ※以下、販売店オプション LEDフォグランプ<ハロゲンフォグランプ付き車用>(6万8962円)/ドライブレコーダー<DJ4-S>(3万9054円)/ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面 はっ水処理>(1万0098円)/デュアルカーペット<フロアカーペット[消臭機能付き]、ブラック+ラバーマット>寒冷地仕様車用(3万3800円)/トノカバー(1万9800円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1170km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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