第567回:スポーツカーの生産を担う伝統の生産拠点
ツッフェンハウゼン本社工場にみるポルシェの強み
2019.04.03
エディターから一言
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ポルシェ初の100%電動スポーツカー「タイカン」の生産を担う、ツッフェンハウゼンの本社工場を取材。高度なデジタル化とオートメーション化を実現した生産現場と、メーカーとファンをつなぐアナログな“おもてなし”に、ポルシェの強みを感じた。
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好調な流れに乗って電動化を一気に加速
独ポルシェAGは2019年3月15日(現地時間)、年次記者会見で2018会計年度(12月決算)の業績を発表した。販売台数は25万6255台、売上高は258億ユーロ、営業利益は43億ユーロで、販売台数、売上高ともに8年連続で業績拡大を果たしている。営業利益率は16.6%と、自動車製造業としては驚異的な数字だ。(参考までにいずれも2018年3月期の数字だが、日本メーカーで最も利益率の高いスバルで11.1%、トヨタが8.9%、マツダは4.2%)
会見でポルシェのオリバー・ブルーメ取締役会会長が、「2023年までに新製品に約150億ユーロを投資し、将来的にポルシェは、純粋なエレクトリックドライブシステムでも知られるようになる」と話していたように、好調な業績のもと積極的に投資を進めているのが電動化とデジタル化だ。
今年は、ポルシェ初の量産BEV(バッテリー電気自動車)であるタイカンが欧州で発売される。すでに先行予約がはじまっており、予約金(2500ユーロ)を支払った顧客の数は2万人を超えるという。
またこのタイミングで派生モデルである「ミッションEクロスツーリスモ」の名称が、「タイカン クロスツーリスモ」となること、さらに2020年に発売されることも正式にアナウンスされた。続いて、次世代の「マカン」もBEVモデルになることが公表されており(しばらくは内燃エンジンモデルとBEVを併売予定)、ポルシェでは2025年までに販売台数の半分がEVまたはプラグインハイブリッドモデルに、そして2030年にはポルシェの9割以上が電動モデルになると想定している。
生産を担うツッフェンハウゼンの今
タイカンはツッフェンハウゼンにあるポルシェの本社工場で生産される。現在、本社工場は「911」と「718ボクスター/ケイマン」という2ドアスポーツのみを生産しており、4ドアモデル(マカン、カイエン、パナメーラ)は、本社から北東に約500km離れたライプツィヒ工場でつくられている。
ポルシェの本社工場は都市部にあり決して広くはない。またタイカンは4ドアモデルであり、敷地も広く、生産設備の整ったライプツィヒ工場でつくるほうが効率的でないかと尋ねたところ、「タイカンはポルシェの歴史においてとても重要なスポーツカーであり、歴代911と同様にツッフェンハウゼンでつくりたかった」という答えが返ってきた。現在はほぼラインが完成し、プリプロダクションモデルの生産が始まっている。
残念ながら、タイカンのラインを見学することはかなわなかったが、992(新型911)の生産が始まっているアッセンブルラインを見ることができた。1990年代に財政危機に見舞われたポルシェが、トヨタ生産方式を取り入れて復活したのは有名な話で、量産が始まった1950年代の面影を残した赤レンガづくりの外観とは裏腹に、内部は「インダストリー4.0」(ドイツが推し進める製造業のデジタル化を目指す国家プロジェクト)による最新の仕組みを取り入れている。
塗装を終えた車台が3分に1台の割合で、一般道の上にかけられたブリッジを渡りアッセンブル工場へと流れてくる。992型の911や718ボクスター/ケイマン、そして991型の「911GT3 RS」などが、世界中からのオーダー順に流れている。ジャスト・イン・タイム、ジャスト・イン・シーケンスで、ピーク時には40種類以上にも及ぶ派生車種を、日産120~150台のペースで混流生産している。人間工学によって人体への負荷の少ない体勢で作業が行えるようになっており、また想像以上にロボット化も進んでいる。
日に150台の完成車と550基以上のエンジンを生産
窓の向こう側に見えるタイカンのラインは、ポルシェとしては最先端の工場になる。電気駆動系の生産工場をはじめ、専用塗装やアッセンブルラインなどが建設されている。一部工程は、911や718といったスポーツモデルと混流するところもあるという。アッセンブルラインでは従来のコンベアのような台車がなくなり、無人搬送ロボット(AGV)が自走する方式だ。コスト抑制にもつながり、短時間での設計変更が可能。そして、タイカン クロスツーリスモも同じラインで生産されるという。
タイカンの生産キャパシティーについて尋ねたところ、予想以上の反響によりいま調整を行っており、正式な回答はできないとのことだった。当初は年産2万台ともうわさされていたが、「本社工場については3年で75%の生産能力強化を図る」という発言もあり、それ以上の数字になる見通しだ。
戦後間もない1950年代に、約320人の従業員で1600台のスポーツカーをつくっていたポルシェの本社工場は、昨年(2018年)5500人の従業員で5万5100台を生産した。現在のシフトは7時間の2直制でタクトタイムは3分、日産約150台。また水平対向エンジンだけでなくV8エンジンも手がけており、エンジンも日に550基以上を生産し、アウディやベントレー、ランボルギーニにも供給している。
生産能力を増強する一方で、よりスペシャルな顧客へのおもてなしのシステムも強化している。1938年にポルシェ博士の設計事務所として建てられ、のちに第一工場となった本社工場内でも最も古い建屋の内部を改造し、一部をカスタマーエリアとして活用しているのだ。ちなみに「356」も初代911も、あの伝説のレースカー「ポルシェ917」もここで生産されていたという。その当時の面影がそのまま残っている。
ポルシェとファンをつなぐアナログな“おもてなし”
レンガづくりの建屋の門をくぐると、広場には色鮮やなポルシェモデルが並んでいる。
ポルシェAGには、これまでにもスペシャルオーダーに対応する部門が存在したが、生産能力の増強に合わせその部門の強化も図っており、2017年より「Porsche Exclusive Manufaktur(ポルシェ エクスクルーシブ マニュファクチュール)」へと改編を行っている。また「Porsche Tequipment(ポルシェテクイップメント)」部門は純正アクセサリーなどの開発を担っている。
外板色や内装など、あらゆるもののカスタマイズが可能。国内のディーラーを通じてのオーダーもできるようだが、もしポルシェにスペシャルオーダーをすることができる恵まれた人ならば、ぜひ現地へ足を運ぶことをおすすめする。
また、施設内には新車の納車エリアもある。ドイツや隣国では書類の提出のみで事前にナンバープレートが発行されるため、ポルシェ本社へやってきて、工場見学などを楽しみ、ナンバーを付けて乗って帰ることが可能なのだ。また米国の顧客向けには、欧州用の仮ナンバーを付けてアウトバーンなどで数日間のドライブを楽しみ、いったん本社へ車両をもどしたのちに米国へ輸送し、再び納車するサービスまで用意されている。ポルシェファンの多い米国だけにたくさん顧客がこの体験を味わっているという。
ちなみに、日本人もこのサービスを体験できるのかと聞くと、いったんドイツで登録したクルマを、再び自国で新車登録できるか否かは国の制度によって対応が異なるようで、試したケースはないとのことだった。この納車エリアでは1日約20台を納車、年間のべ約1万2000人が見学に訪れるという。
電動化、デジタル化を強力に推し進める一方で、こうした“アナログ”なサービスも忘れていない。その両輪をうまくまわせることが、ポルシェの強さの秘密なのだろう。
(文=藤野太一/写真=藤野太一、ポルシェ/編集=堀田剛資)

藤野 太一
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