第580回:ブランド初の電気自動車は買いなのか?
「メルセデス・ベンツEQC」の開発者に聞く
2019.07.25
エディターから一言
2019年7月18日に、メルセデス・ベンツの電気自動車(EV)「EQC」の国内予約がスタート。同年秋には先鋒(せんぽう)となる特別仕様車のデリバリーが開始される。そんなメルセデス初のEVには、どんな強みがあるのだろうか? 開発を取りまとめたミヒャエル・ケルツ氏に話を聞いた。
SUVになるのは必然
――EQCはメルセデス初の量産型EVという点で、エポックメイキングなモデルであると思います。メルセデス・ベンツブランドとしては「Sクラス」に象徴されるセダンのイメージも依然強いと思うのですが、今回、製品化にあたってSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)という形を選ばれたのはなぜでしょうか?
ミヒャエル・ケルツ氏(以下、ケルツ):それは、SUVがいま世界で最も成長しているセグメントだからです。EQCをSUVとして開発することは、より多くのお客さまの満足につながります。
もうひとつの理由は、車両そのものの利便性。実際に使う上で、全長は比較的短く、車高は相対的に高いものが好まれる(EQCのボディーサイズは、全長×全幅×全高=4761×1884×1623mm)。それはつまり、SUVなのです。形の上でも、EQCのデザインは“洗練されたメルセデススタイル”といえるのではないでしょうか。
――そのEQCには、ライバルが存在しますね。例えば、ジャガーの「Iペース」にテスラの「モデルX」といった、プレミアムブランドのEVです。くしくも、どれもが「SUVタイプの車種であること」をアピールしています。EQCは、これらとどのような点で差異化できると考えていますか?
ケルツ:競合モデルに対しては、クラシックなメルセデスである点、つまりユーザーに“ウエルカムな感覚”を提供できる点が特長といえるでしょう。ピュアEVの開発に際しては、それぞれのブランドがそれぞれのよさを打ち出していると思いますが、われわれの場合は、従来の(内燃機関を搭載した)モデルと同じ明らかなメルセデスらしさ……具体的には「静粛性」「乗り心地のよさ」「(所有物としての)価値」の提供を打ち出しています。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
重さは決して悪ではない
――開発において、走りについてのイメージはありましたか? 例えば、既存のSUV「GLC」などと同じテイストを念頭に開発されたのでしょうか?
ケルツ:EQCでは、(GLCに限らず、前述の)典型的なメルセデスらしいドライブフィーリングを実現しています。それはEVのEQCであっても変わりません。快適さについては最高レベルのものが得られるようにしていますし、スポーティーな走行感覚を望まれる向きにも、(モーター駆動の)EQCは適したクルマといえます。
――EVならではの開発の難しさはあったでしょうか?
ケルツ:EVは内燃機関のクルマに比べてアクセルに対する反応が速い、という点が挙げられますね。EQCは4WD車ですが、トルクをいかに制御するかは重要でした。これを繊細に制御できる独自のトルクマネジメントシステムを導入しています。
――EQCが搭載するバッテリーの重量は600kgもありますね。それだけの重量物を常に運んでいるという事実を考えますと、あまりエフィシエント(効率的)でないような気もするのですが……?
ケルツ:(600kgの電池が)重いのは事実です。ただ、その重さをカバーできる2つの側面があります。ひとつは、EQCには車重に対して効率的に電力を回収できる独自のシステムが採用されているということ。もうひとつは安全性です。特に側方からの衝突に対しては、バッテリーが(保護メンバーになるので)重要な役割を果たします。それに、快適性の面でも、重いクルマのほうが乗り心地はよくなりますね(笑)。
――今後、EVの最高峰レースであるフォーミュラEに参戦することも決まっていますが、これはEQCを含む市販EVの開発に関わってくるのでしょうか?
ケルツ:今回のEQCについては、タイミング的に、フォーミュラEとのコネクションは強くはありません。しかしこれから開発するEVについては、レースとのつながりは確実に強くなっていくはずです。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ニーズの95%はカバーできる
――ケルツさんご自身は、EQCの最大の魅力は何だと思われますか?
ケルツ:なんといっても、エミッションフリーであること。そして、静かである、快適である、スポーティーである……という複数の要素がひとつになっている点だと思います。それと、乗車する前に空調などのコンディションを整えることができるというのは、EVならではのメリットとして挙げられますね。
――他社のEVの中には、車両のリチウムイオンバッテリーに蓄えた電気をインフラとして供給する“有効活用法”を、セリングポイントのひとつに挙げているものもありますが。
ケルツ:われわれも検討はしたのですが、EQCにその機能はありません。この車両から家側に電気を供給するということは考えていないのです。世界の市場を見渡した場合、そうした環境は整備されているとは限りませんし、エネルギーサプライヤーとの関係も考える必要があります。いま、それができる日本は、(世界的には)特殊であるといえるかもしれません。
――一航続可能距離については400kmほど(国内のWLTCモードで400km、欧州の複合モードでは445~471km)と公表されています。数値としては、ライバル車にも多く見られるスペックですが、これはどういう使い方を想定して決められているのでしょう?
ケルツ:まず、重さと距離を比較して考えた場合に400kmが現実的な落としどころになってきます。航続距離は運転の仕方や外気温でも変わってくるもので、時には260~360kmまで落ち込むこともあるでしょう。それでも、家庭でチャージできる環境であれば、たいていフルに使えるはずです。日本のCHAdeMO規格は60kW以下のものが多いのですが、欧州の充電器の出力は110kWあります。急速な充電環境があるか否かというのが、将来的にも重要な要素になってくるでしょう。
そうした中で、例えば私が本国で運転しているケースだと、ニーズの95%はカバーできています。残りの5%は、よほど遠くに行きたいときか、トレーラーのけん引に使いたい場合。でも、そんなときはカーシェアなどを利用すればいいのです。(EQCをはじめとするEVは)年間15万kmも運転するようなユーザーには薦められないかもしれませんが、そうでなければ問題はないと思っていますよ。充電するために2時間半ごとに止まって休憩するのも、私の家族は、むしろ喜んでいるんです(笑)。
(文と写真と編集=関 顕也)

webCG 編集部
1962年創刊の自動車専門誌『CAR GRAPHIC』のインターネットサイトとして、1998年6月にオープンした『webCG』。ニューモデル情報はもちろん、プロフェッショナルによる試乗記やクルマにまつわる読み物など、クルマ好きに向けて日々情報を発信中です。
-
第866回:買った後にもクルマが進化! 「スバル・レヴォーグ」に用意された2つのアップグレードサービスを試す 2026.4.17 スバルのアップグレードサービスで「レヴォーグ」の走りが変わる? 足まわりを強化する「ダイナミックモーションパッケージ」と、静粛性を高める「コンフォートクワイエットパッケージ」の効能を、試乗を通して確かめた。
-
第865回:ブリヂストンが新タイヤブランド「フィネッサ」を発表 どんなクルマに最適なのか? 2026.3.13 ブリヂストンが2026年1月に発表した「FINESSA(フィネッサ)」は、同社最新の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載する乗用車用の新タイヤブランドである。高いウエットグリップ性能と快適な車内空間の実現がうたわれるフィネッサの特徴や走行時の印象を報告する。
-
第864回:冬の北海道で「CR-V/ZR-V/ヴェゼル」にイッキ乗り! ホンダ製4WDの実力に迫る 2026.3.9 氷雪に覆われた冬の北海道で、新型「CR-V」をはじめとするホンダのSUV 3兄弟に試乗。かつては実力を疑われたこともあるというホンダ製4WDだが、今日における仕上がりはどれほどのものか? 厳しい環境のもとで、そのコントロール性を確かめた。
-
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す 2026.3.3 電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。
-
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して 2026.2.25 マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。
-
NEW
スバル・ソルテラET-HS(前編)
2026.4.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバル&STIでクルマを鍛えてきた辰己英治さんが、“古巣”スバルの手になる電気自動車「ソルテラ」に試乗。パワートレインの電動化以外にも、さまざまな試みが取り入れられた一台を、ミスター・スバルはどう評価するのか? -
第57回:スズキはなぜインドに賭ける? 変わらず牛が闊歩するインドの最新工場を小沢コージが直撃
2026.4.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージがインドへ。日本の自動車ファンにとってインドといえばスズキのイメージだが、実はスズキは現在、インドへの大型投資の真っ最中だ。なぜスズキはインドでこれほどまでに愛されるのか。最新工場を見学して考えた。 -
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.18試乗記2016年に上陸した2代目となるボルボのフラッグシップSUV「XC90」の最新アップデートモデルに試乗。パワフルなプラグインハイブリッドシステムを採用する3列シートSUVの走りを、先にステアリングを握った「V60」や「XC60」との比較を交えながら報告する。 -
谷口信輝の新車試乗――ディフェンダー・オクタ編
2026.4.17webCG Moviesブーム真っ盛りのSUVのなかで、頂点に位置するモデルのひとつであろう「ディフェンダー・オクタ」。そのステアリングを握ったレーシングドライバー谷口信輝の評価は……? 動画でリポートします。 -
第866回:買った後にもクルマが進化! 「スバル・レヴォーグ」に用意された2つのアップグレードサービスを試す
2026.4.17エディターから一言スバルのアップグレードサービスで「レヴォーグ」の走りが変わる? 足まわりを強化する「ダイナミックモーションパッケージ」と、静粛性を高める「コンフォートクワイエットパッケージ」の効能を、試乗を通して確かめた。 -
ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250リミテッド(6MT)【レビュー】
2026.4.17試乗記アメリカの大地が鍛えたアドベンチャーモデル「ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250」に、充実装備の上級モデル「リミテッド」が登場! 試乗して感じられた、日欧のライバルに勝るとも劣らない魅力と、どうしても気になるポイントを報告する。





























