モデルチェンジで生産台数が10倍に!?
「ミライ」は燃料電池車の未来を変えるか?
2019.10.18
デイリーコラム
「エコ」以外の魅力が大事
トヨタが東京モーターショー2019に出展する新型FCV(燃料電池車)は、予想外のものだった。2020年の年末に発売されるというこのクルマ、現行の「カムリ」を思わせる大きな顔はともかく、4ドアクーペとでもいうべき流麗なデザインは、従来のFCVのイメージとはずいぶん異なる。ボディーの長さは5mに迫り(全長×全幅×全高=4975×1885×1470mm)、ホイールベースは3m近い2920mm。20インチの大径タイヤと相まって、ダイナミックで軽快なイメージが演出されている。
乗れば、ワインディングロードでも意のままになる走りが楽しめるとうたわれている。デザインやプラットフォームが新しいだけでなく、駆動方式も前輪駆動から後輪駆動へと変更されているのだ。
この「MIRAI Concept(ミライ コンセプト)」は、2014年にデビューしたFCV「MIRAI(ミライ)」の次期型という。初代は、ずんぐりとしたマッシブなスタイル。まるで違うクルマのような気がするけれど……。なんでまた、これほどの方向転換が必要になったのか?
初代からミライの開発に携わってきたチーフエンジニア・田中義和さんは言う。
「初代にあたる現行型は、とにかく環境コンシャスなクルマでした。でも、いまのようにいろんな環境コンシャス車が並ぶ中で選んでいただくとしたら、もう環境性能がいいのは当たり前。これからは“クルマとしての素性のよさ”をどれだけ出せるかが大事になってくるはずなんです」
そのひとつが、エモーショナルで魅力的なデザインというわけだ。でも冷静に見れば、見た目にも“異形のもの”だった初代に比べて、この2代目ミライは“フツーなカタチ”と言えなくないか。
「う~ん。もし皆さんが初代のデザインを支持されるなら、われわれもまた、そちらに変えていけばいいんですよ! でも実際に両車を並べて『新型のほうがカッコ悪い』と思われたら、今回の僕の企画は失敗ですね(苦笑)」
もちろん見た目だけではなく、航続距離を30%アップさせるなど、燃料電池車としての性能向上も図られている。しかし新型には、ほかに重要な役割があるという。
FCVの今後がかかっている
「水素を使う燃料電池車のインフラ運用を考えると、ある程度、台数を出していく必要があるんです。いまの台数では、全然ダメなんです。10倍のオーダーで増やしていかないと」
10倍ですか!?
「いや、関連するほかのメーカーの方は『100倍は欲しい』っておっしゃるかもしれませんけど」
ミライがデビューした当初の生産台数は、年間700台(日本国内は400台)。少数ゆえにテレビCMもうたなかったのに、生産キャパシティーは早々にオーバーし、納車3年待ちという状況になってしまった。
「供給能力がないのが問題でした。だから、それほど大きな広がりにならなかった。確かにその後、すぐに目標台数は増えたし、実際に生産台数も増えましたが、3000台でいっぱいいっぱいです。もう、ユニットのつくり方を根本から変えていかないとたくさんつくれるクルマにならないんです」
根本的な生産能力を改善するというのが、新型開発の最大の根拠というわけだ。しかしそれなら、こういうスポーツクーペ的なキャラクターでいいのだろうか? 世の中的には、箱っぽい、実用的なクルマのほうが数字を取れるような気がするが……。
「そこは自分の中ではクリアなんです。台数を増やす、ケタを増やすといっても、現時点では数十万台規模のオーダーは前提にしていませんから、SUVも含めて潜在的なユーザーが多いところに行かなくていい。今回は、乗り味で『いままでなかった』と言われる“別格のクルマ”を目指しています。この走りはミニバンでは実現できない。マニアックなクルマ好きではない、一般的なドライバーが飛ばさずに乗っても、思わず笑顔になる。それくらい違うんです」
もちろん、これはSUVやミニバンのFCVを否定するものではなく、今後台数が必要になれば派生モデルが増える可能性もあるという。田中さん、FCVの未来は明るいでしょうか?
「わかりません(笑)。この新型がどれだけ注目していただけるかですね。フルスイングでやってきましたから。これでダメだったら厳しいかもしれませんね。2代目へとフルモデルチェンジして、本当に皆さんに欲しいと思っていただけるクルマになるかならないか。それが、ミライ(に代表されるFCV)が飛躍するかどうかの分水嶺(れい)になると考えてます」
(文と写真と編集=関 顕也)

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。
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