メルセデスAMG A35 4MATICエディション1(4WD/7AT)
隙のないホットハッチ 2019.10.25 試乗記 メルセデスAMGの新たなエントリーモデルとして「A35 4MATIC」が登場した。同じ2リッター直4ターボエンジンを積む最強モデル「AMG A45 S 4MATIC+」の421PSに対して、こちらは306PSとやや控えめな出力。峠道を模したクローズドコースでその実力を確かめた。まずは「A35」から
2019年10月に国内導入された現行の4代目「Aクラス」は、当初1.3リッター直4ターボの「A180」のみだったが、2019年の春には2リッター直4ディーゼルターボ仕様が追加され、さらには「セダン」と車種を増やしている。海外向けには2リッター直4ターボの「A220」も「A250」もラインナップされているが、それを飛び越してメルセデスAMGのA35 4MATICが導入されたところを見ると、どうやらハッチバックにA220およびA250は設定されないようだ。
それにしても、メルセデス・ベンツのニューモデル攻勢には目を見張るばかりである。特にメルセデスが近年強力にプッシュしているコンパクトモデルシリーズ(NGCC)の増殖が著しく、老婆心ながら心配になるほどだ。おかげで輸入車のなかでもメルセデスブランドは2019年上半期のシェアがナンバー1(JAIA調べ)であるなど健闘していることは事実だろうが、その件について関係者に水を向けると、あまり明るい表情が見られないことが気がかりだ。何しろ、いっぽうでいわゆる新古車が増えていることは周知の事実なのである。老婆心ではあるが。
それはともかく、Aクラスに追加された高性能版のホットハッチがA35 4MATICである。「35」というモデル名が示すように「45」の弟分に当たり、メルセデスAMGの中ではエントリーモデルの位置づけとなる。この35シリーズは今後他のコンパクトモデルにもラインナップされるはずで、ますますややこしくなる。
ただし、今回試乗したクルマは発表記念の特別仕様モデルである「エディション1」。最近ではよくある手法だが、スタンダードのA35ではオプションとなるAMGアドバンスドパッケージやAMGライドコントロールサスペンションなどが標準装備される上に、フロントのエアスプリッターや大型のリアスポイラー、ボディーサイドのデカールも加わる派手ないでたちの限定モデルである。
バンパー横にはGTレーシングカーのような小さな追加スポイラー(フリックと呼ぶらしい)も取り付けられており、オヤジ世代には正直言って気恥ずかしい。メルセデスAMGも最初からこういう派手な仕立てをする時代になったんだなあ、と驚くが、従来型「AMG A45 4MATIC」でも好評だったらしいので、2匹目のドジョウを狙うのは当然かもしれない。日本メーカーの“コンパクトロケット”がほとんど姿を消した今、飛ばし屋時代を忘れられない年配ユーザーが歓迎したくなるのはこういうモデルなのだろう。
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2リッターから306PS
従来型のメルセデスAMG A45 4MATICは2リッターから最高出力381PSと最大トルク475N・mを発生。世界一パワフルな2リッターエンジンを主張していたが、A35は律義に序列を守ってそこまでの高性能を突き詰めてはいない。
83.0×92.0mmというボア×ストロークと1991ccの排気量は従来型M270と同一だが、M260型は4代目Aクラスに搭載されて登場した新型ユニットで、A35用はA250(日本ではセダンのみに設定)に搭載されているエンジン(こちらは224PSと350N・m)をベースにAMGがチューンしたユニットという位置づけだ。
ベースエンジンとは異なり、A35用M260はツインスクロールターボを採用。最高出力306PS(225kW)/5800rpmと最大トルク400N・m(40.8kgf・m)/3000-4000rpmを絞り出す。2リッターでこのスペックなら十分以上に強力だが、さらにその上には間もなく導入が予定されているAMG A45 S 4MATIC+がある。この最強力版は同じ2リッターの排気量から421PSと500N・mを発生するというから驚く限りだ。
ちなみにA35のエンジンカバーには大きなAMGのロゴが輝いているが、組み立てたマイスターの名前を刻んだプレートはなし。フラッグシップモデルたるA45用のM139型とは異なり、アファルターバッハ製の“ワンマン・ワンエンジン”ユニットではないということだ。
モリモリと速い
インストゥルメントパネルは横長の巨大なディスプレイが並ぶ最新メルセデスのおなじみの光景。ただしハイバックのスポーツシートがただモノではないことを主張しているし、ステアリングホイールには「AMG GT」などと同じくドライブモードを切り替えるダイヤルが備わっている。
1.3リッターターボのA180ではさすがに非力を感じる場面もあったが、400N・mの大トルクを持つA35の場合は、軽く踏んだだけで7段DCTはトントンと軽やかにシフトアップしてスピードが乗っていく。低中速域の逞(たくま)しいレスポンスが印象的ながら、トップエンドではやはりちょっと苦し気になるから、マニュアルモードでも早めにシフトアップしたほうが気持ちいい。
ハンドリングは軽快そのもの。しかも路面がぬれたタイトコーナーで故意にスロットルを乱暴に開けても不安定なそぶりは一切見せず、ただ豪快に加速しながら回っていく様子は駆動力配分可変(100:0~50:50)の4WDシステムの面目躍如というところだろう。
トップエンドがやや頭打ちになるとはいえ、海外仕様のデータでは0-100km/h加速は4.7秒というから、もちろん俊足である。4WDの上にローンチコントロールも備わる利点はあるが、0-100km/hで4秒台はかなりの高性能車の証し。これは、従来型「ポルシェ911カレラ」と同等である。
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大人のホットハッチだが
すっかり後回しになってしまったが、まだ登録前でナンバー無しの状態ゆえ、今回の試乗コースは群馬サイクルスポーツセンターの中だけに限られていた。このコース内には何カ所かはっきりした段差があり、これまでの経験から言っても、ここで乗り心地について良い印象を与えるクルマはめったにない。
案の定、その段差ではスピードを落としてもガシンという強烈なショックに見舞われたが、それを除けば意外にも乗り心地が悪いという印象は受けなかった。もちろん足まわりは硬く締め上げられてはいるが(しかもエディション1は19インチタイヤ)、ボディーにラフな振動が伝わることもなく、頼もしい安心感があった。
少なくともこれまでに試乗したAクラスのように荒れた路面でラフなバタつきを感じさせることはなかった。これがボディーに補強が加えられたAMGならではものなのか、マルチリンク式リアサスペンションの効果なのかは定かではない。何しろ日本仕様のAクラスハッチバックは、発売記念限定モデル(エディション1)を除けば、皆トーションビーム式リアサスペンション仕様となるので、判断のためのサンプル数が少なすぎるのだ。
A35ならば日常使用でも不満はないと推察される。ただし、いかに最先端のADAS(先進運転支援システム)から“ハイ、メルセデス”のMBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)まで文字通りのフル装備だとしても、743万円(標準モデルは628万円)は気軽に手を出せる金額ではない。モデル数が増えて身近になったように感じられても、AMGはやはり別格ということかもしれない。
(文=高平高輝/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
メルセデスAMG A35 4MATICエディション1
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4436×1797×1405mm
ホイールベース:2729mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:306PS(225kW)/5800rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3000-4000rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y/(後)235/35R19 91Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:743万円/テスト車=747万4000円
オプション装備:AMGフロアマットプレミアム(4万4000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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