第595回:そのデザインは日本が由来!?
「メルセデス・ベンツ・ヴィジョンEQS」のデザイナーに聞く
2019.10.29
エディターから一言
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2019年9月のフランクフルトショーでお披露目されたメルセデス・ベンツのコンセプトカー「ヴィジョンEQS」が東京モーターショーにやってきた。このコンセプトカーを手がけた同社アドバンスドデザインのシニアマネージャー、ホルガー・フッツェンラウブ氏が来日し、ショーのプレスデー初日、そのデザインについて説明会を開いた。
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新たな高級車像を提案
ヴィジョンEQSの外観は、イルカがモチーフ。フロントまわりは、すでに日本市場でも販売が始まっているSUVの「EQC」や、2017年のフランクフルトに出品されたコンパクトカーの「EQA」同様、シームレス、つなぎ目のないツルリンとしたフロントまわりを特徴とする。EQファミリー共通のデザイン言語「シームレス」が採用されているのだ。
フッツェンラウブ氏、と書くとややこしいので、ここではホルガーさんと表記させていただく。そのホルガーさんが強調したのがプロポーションである。ショートノーズ、ややロングデッキで、現行「Sクラス」よりも長いホイールベースを持つ。先端から後端まで全体のシルエットは三日月型を描く。伝統的なセダンの3ボックスデザインに対して、彼らは「ワンボウ(=1本の弓)デザイン」と呼ぶ。
EQC同様、EQSもフロアにリチウムイオン電池を敷き詰めている。そのため、フロアが現行Sクラス比で20~30mm高い。当然、ボディーのハーフラインが上がって腰高、あるいは胴長になる。その不安定感を消すため、グリーンハウスの位置を低く見せる視覚効果を狙って採用されたのがブラックとシルバーの2トーンで、同時にメルセデスの最高級車であるマイバッハを連想させることも狙っている。
24インチ(!)の巨大なホイールと、ブラックに塗りつぶされたグリーンハウスは、全体をコンパクトに見せている。従来のように、ただ大きく立派に見せるだけが高級車のデザインではない、と主張しているわけだ。
ボディーをグルッと一周する“ライトベルト”はインテリアにも設けられている。自動運転中はブルーに点灯し、危険なことがあるとレッドに変わって警告する。そうやって内部の乗員と外部とのコミュニケーションを図り、“コネクテッドライト”としての役割も担っている。
インテリアは高級ヨットにインスピレーションを得ている。ダッシュボードはフラットに傾斜していて、メーターナセルは存在しない。ステアリング・バイ・ワイアのおかげで、ステアリングホイールの上半分は要らない。スペースが広くなって、心地よい空間が生まれる。
車内は丸ごとスクリーンになる!?
……というようなお話をひととおり聞いたあと、質疑応答の時間が設けられた。デザインのインスピレーションはどこから得たのか? という記者たちの質問に対して、ホルガーさんは次のように答えた。
「エクステリアのワンボウデザインは、空力の重要性から生まれました。EVにとって航続距離は重要で、シームレスな、イルカのようなカタチは航続距離にとって大事なのです」
Q&Aを続ける(他媒体からの質問も含む)。ワンボウデザインはEQファミリーのこれからの流れをつくるのか、それともメルセデス・ベンツブランド全体がこの方向に進むのだろうか?
「SUVは電池のためにフロアが高くなってもデザイン的に成立させることは簡単です。でも、サルーンタイプはむずかしいので、ワンボウを中心に考えています」
つまり、フロアに電池を敷き詰めるサルーンのためのデザインがワンボウということで、フロアが高くならないメルセデスには使わない、と解すことができる。
インテリアのデザインが将来的にシンプルになるのはなぜでしょうか?
「デジタルワールドはどんどん広がります。要は、それをクルマにどう取り入れるか、なのです。将来、スクリーンはもっと大きくなる。10~20年後、ダッシュボードはなくなり、室内全体がスクリーンになるでしょう」
室内全体がスクリーンになった場合、そのなかで乗員は何をやっているのだろう?
「自動運転にしてみんなで映画を観ているか……。ドライバーは運転に集中しているかもしれませんね」
ヴィジョンEQSは将来的な量産型と80%同じだ、とデザイン部門のトップから聞きました。それは本当なのですか?
「私のボスがそう言ったのならそれは正しいです。量産車のホイールはもうちょっと小さくなります。ウィンドウはちゃんと下がるようになり、ベルトラインとカラーリングはこれほどラジカル(急進的)ではありませんが、印象としては同じですね」
メルセデスの個性を創造したい
EVをデザインする上で、EVだからこそできることと、難しいことは?
「EVは30mmフロアが高くなり、エンジンがない分ホイールベースが長くできる、という特徴があります。われわれアドバンスドデザイン担当者の役割は、その条件を前にどのようなプロポーションが最適かを考えることです。家を建てるときと同じで、プロポーションは重要。インテリアについては、真ん中にプロペラシャフトのためのトンネルがない分、自由に使えます。『EVはスケートボードの上にクルマをつくるようなものだ』と言うひとがいるけれど、決してイージーではありません。新しいタイプのクオリティーやメルセデスのDNAであるクラフツマンシップも盛り込む必要があるのですから」
新しいプレミアムプレステージカーとして考えられた“電動Sクラス”がEQSである。伝統的3ボックスデザインの内燃機関搭載のSクラスは、伝統的なプロポーションを好むひとがいる限り、どちらもSクラスとしてワンボウデザインのEQSとしばらくは共存する。ユーザーは自分の好みによって選択できる。われわれが考える“これからの高級車”として、ワンボウデザインはスポーティー&エレガントで必ず受け入れられる自信がある――という意味のことを、ホルガーさんは語った。
ライバルは例えば、「テスラ・モデルS」か? という質問に対する答えは印象的だった。
「どこの会社であれ、EVはすべて注意深く見ています。テスラのモデルSはだれもが好むデザインで、スポーティーな4ドアクーペといえます。4ドアクーペならば、メルセデスが(「CLS」で)すでに手がけています。それをコピーする必要はないのです。われわれは、われわれ自身のパーソナリティーを創造したいと考えています」
2009年から2012年まで、東京にあったメルセデス・ベンツ・アドバンスド・デザイン・センターのゼネラルマネジャーを務めていたホルガーさん。最後に、日本で暮らしていたことで得たインスピレーションは? と尋ねたら、しばし考えてから、こう答えた。
「日本は周囲を海に囲まれています。イルカは、日本にいたから思いついたのです」
ちなみに、公表されているヴィジョンEQSの性能は、CO2排出量ゼロ、航続距離700km、最高出力476PS(350kW)で、0-100km/h加速4.5秒、最高速200km/h。駆動方式は4WD(可変式)というもの。
新しい価値観に基づく、イルカをモチーフにした量産型EQSは、さて、新しいプレミアムプレステージカーとして受け入れられるだろうか。その登場が待ち遠しい。
(文=今尾直樹/写真=峰 昌宏、ダイムラー、webCG/編集=関 顕也)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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