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第607回:2021年モデル以降の全車を180km/h制限に ボルボの安全宣言が未来のクルマ社会を変える!?

2019.11.23 エディターから一言 スーザン史子
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スウェーデン本国からセーフティーセンターのディレクターおよびシニアセーフティーテクニカルアドバイザーを務めるヤン・イヴァーソン氏が来日、氏によるプレゼンテーションが約1時間にわたって行われた。
スウェーデン本国からセーフティーセンターのディレクターおよびシニアセーフティーテクニカルアドバイザーを務めるヤン・イヴァーソン氏が来日、氏によるプレゼンテーションが約1時間にわたって行われた。拡大

ボルボ・カー・ジャパンは2019年11月13日、東京・港区のボルボ スタジオ 青山において、安全に関するセミナーを開催した。“セーフティーリーダー”を自認する同メーカーが、未来に向けて発信する新たな取り組みとは?

2019年3月20日にスウェーデンのイエテボリで開催されたセーフティーイベント「ボルボ・カーズ・モーメント」では「VISION 2020」に触れ、安全への取り組みが発表された。写真はボルボ・カーズ代表取締役社長兼CEOのホーカン・サムエルソン氏。
2019年3月20日にスウェーデンのイエテボリで開催されたセーフティーイベント「ボルボ・カーズ・モーメント」では「VISION 2020」に触れ、安全への取り組みが発表された。写真はボルボ・カーズ代表取締役社長兼CEOのホーカン・サムエルソン氏。拡大
「ボルボ・カーズ・モーメント」で「ケア・キー」について説明する、ヤン・イヴァーソン氏。
「ボルボ・カーズ・モーメント」で「ケア・キー」について説明する、ヤン・イヴァーソン氏。拡大
ボルボは、飲酒や薬物使用による酩酊(めいてい)および注意散漫に対処するため、2020年代初頭の次世代プラットフォームの導入と同時期に、すべてのボルボ車に車内カメラを導入することを決定した。
ボルボは、飲酒や薬物使用による酩酊(めいてい)および注意散漫に対処するため、2020年代初頭の次世代プラットフォームの導入と同時期に、すべてのボルボ車に車内カメラを導入することを決定した。拡大

すべてのボルボ車の最高速を180km/hに制限

ボルボでは2007年に安全な未来への指針として、「2020年までに新しいボルボ車に搭乗中の事故における死亡者または重傷者をゼロにする」ことを目指した「VISION 2020」を発表している。しかしながら、技術面だけでは難しいことを認識し、今後はドライバーの行動面にも焦点を当てていく予定だ。

そこで今回は、「VISION 2020」の提唱者でもあるヤン・イヴァーソン氏が来日し、今後の対策についてのより詳しい説明が行われた。

その中心に据えられるのが、2021年モデル以降のすべてのボルボ車の最高速度を180km/hに制限する、という思い切った対策だ。ハイパフォーマンス仕様となる、ポールスターのエンジニアードモデルもその例外ではない。

同時に、任意で速度を制限できる「ケア・キー」を発表、こちらも2021年モデル以降のすべてのボルボ車に標準で装備される。

スピード超過以外の酒酔いや酩酊(めいてい)、注意散漫に対処するために、車内カメラの導入も行う。具体的には、ドライバーの目の動きや姿勢、ステアリング操作やブレーキ操作を始めるまでにかかる反応時間といった操作パターンを解析し、ドライバーが警告に反応しないなどの危険状態にある場合には、ドライバーの意思に反してでも減速、完全にクルマが停止するまで介入する。

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ボルボのスピード対策

では、なぜ制限速度を180km/hに設定したのか。

イヴァーソン氏はこう答える。

「いろいろな検討をしましたが、一般的なドライバーのスピードレンジを考慮しました。速度制限をするのは、運転による自由を感じるうえで敏感になりやすい問題です。とはいえ、180km/hまで出すという人は通常はいないでしょう。もっと設定速度を上げることも考えましたが、若い人で検討したところ、スピードが上がれば上がるほど状況が悪くなるという結果が出ました。そこでトップスピードを180km/hに設定しましたが、そこからまた変えていく可能性もあります」

まずは180km/hでやってみるというスタンスだが、この取り組みをきっかけに、速度制限に対する議論を始めたい考えだ。

実は、ボルボの速度制限に関する試みは、2014年に欧州で発売された新世代「XC90」からすでに始まっている。「レッドキー」という、その名の通り赤い鍵だが、車載システム上で親キーと一緒に設定を行うことで、レッドキーを渡された息子や娘といったドライバーが、必要以上にスピードを出さないよう制限できるというものだ。

現時点では55~250km/hまでの速度域で設定できるが、ヨーロッパで他メーカーが販売したISA(インテリジェント・スピード・アシスタンス)搭載車のように、アクセルを踏み増すことでリミッターがキャンセルされ再加速する、といったことはない。

こういった試みはあったものの、2016年に日本でXC90が導入された際には、レッドキーが大きくアピールされることはなかった。ボルボ・カー・ジャパンの広報によれば「説明書に記載されている程度」だったというが、2019年3月の「ボルボ・カーズ・モーメント」で発表された取り組みや、日本国内で高齢者による事故のニュースが重なったこともあり、現在は問い合わせが増えているという。

スピード超過は欧州でも問題になっている。写真は今回のセミナーで紹介されたスライド資料。
スピード超過は欧州でも問題になっている。写真は今回のセミナーで紹介されたスライド資料。拡大
SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)を採用した現行型「ボルボXC90」から「レッドキー」が装備されるようになった。
SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)を採用した現行型「ボルボXC90」から「レッドキー」が装備されるようになった。拡大
2019年は3点式シートベルトの誕生から60周年を迎えることを記念して、ボルボは「プロジェクトE.V.A」と題し、安全に関する知識を集約したデジタルライブラリーを初公開、誰でも容易に利用できることをうたっている。E.V.AはEQUAL VEHICLES FOR ALLの略。
2019年は3点式シートベルトの誕生から60周年を迎えることを記念して、ボルボは「プロジェクトE.V.A」と題し、安全に関する知識を集約したデジタルライブラリーを初公開、誰でも容易に利用できることをうたっている。E.V.AはEQUAL VEHICLES FOR ALLの略。拡大
セミナーでは高齢化社会に向けての取り組みについても発表された。写真は2050年に60歳以上の人口が高まっていることを示す図。
セミナーでは高齢化社会に向けての取り組みについても発表された。写真は2050年に60歳以上の人口が高まっていることを示す図。拡大

セーフティーリーダーとしての自負

全車に180km/hの速度制限を導入するというのは、話をスピードに限れば、クルマに対する“去勢”とも捉えられかねないし、ネガティブな意見が飛び出すことも考えられる。実際、イヴァーソン氏の発表の中では、この方針を打ち出した際に「クルマが180km/h以上で安全に走れないなんて、弱さの証しだよ」「自分のことは自分で決めたい。おせっかいな国は嫌いだね。自分のクルマで自由に走れないなんておかしい」といった意見があったことも紹介された。

とはいえ、氏は力強くこう続ける。

「こういったネガティブな意見は、60年前に3点式シートベルトを装備したときにもあったんです。でも、今ではほとんどの人が使っていますよね」

ボルボがここまで思い切った改革に踏み切った背景には、「2022年以降に販売される新車にISAを義務付ける」とした欧州議会の決定によるものも大きいと推測する。が、おそらく同社もその動きに少なからず影響を与えているのだろう。決定に対していち早く対応し新たな宣言をしたところに、セーフティーリーダーを自負するボルボの覚悟が見てとれる。

3点式シートベルトから始まったボルボの取り組みは、新たなセーフティースタンダードを築くことができるのだろうか。今後の動きに注目したい。

(文=スーザン史子/写真=スーザン史子、ボルボ・カーズ)

ボルボは1959年に3点式シートベルトを開発。
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1978年には世界で初めて車内設置型のチャイルドクッションを開発。チャイルドセーフティーの先駆者としても貢献してきた。
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ボルボは未来のモビリティーに対しても、人を中心としたアプローチをしていくという。
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