第181回:マリオインプは三度死ぬ
2020.06.23 カーマニア人間国宝への道スバリスト・マリオ高野の半生
マリオ高野といえば、スバリストの世界では有名な自動車ライターだが、彼の身辺でいま重大事が起きている!
彼は20歳だった26年前、初代「インプレッサWRX」を購入した。当時彼は大阪の大ホテル勤務だったため、軽くローンが通ったという。
が、ホテル退社後は職を転々とし、次第に貧窮。インプを手放す瀬戸際まで追い詰められた時は、ダイハツ池田工場に期間工として働き、半年間の超ハードな溶接作業で、なんとか愛車を死守した。
しかし上京して念願の自動車メディアへの就職に成功すると、広報車で通勤するようになり、愛車を放置、そして不動に。「それが第1次放置期でした」(本人談)
その後復活するも、弊社(編集プロダクション)のスタッフ入りした頃は、オイル漏れから車検切れに至り、第2次放置期に入っていた。
「インプはヘッドガスケットからオイルが漏れると、それが排気管に落ちるので、臭いし煙いしで、とても乗れなくなるのであります!」(本人談)
当時の写真を見ると、駐車場には雑草が茂り、車内は古雑誌等のゴミ(本人いわく“宝物”)が満載されており、まさにゴミ屋敷状態だった。
その状態から、弊社が予算を出して修理し、車検を取得。その模様を自主制作DVD『スバリスト世界征服作戦』(絶版)としてネット発売することで、二度目の復活を果たしたのだった。
当時マリオはライターとして、生涯未曾有(みぞう)の年収600万円も達成。長年の夢だったサスペンション交換やBBSホイールの投入など、やりたかったことをすべてやり、気がついたら120万円もかけていた。それが12年前のことである。
過払い金で新車を購入
その後マリオは、リーマンショックによって仕事が激減し、国民年金も健康保険料も未納へと転落、弊社からも脱走したが、消費者金融への過払い金が約200万円返金されたことで、先代「インプレッサG4 1.6i」(MT)を新車で購入。過払い金で新車を買った自動車メディア関係者は、彼だけである。
新たな足ができたことで、初代インプは再び放置へと進んだ。第3次放置期である。「ここ3年ほどは、ほとんど動いておりません!」(本人談)
しかし彼は、その初代インプを、三たび復活させることにしたという! それが冒頭の「重大事」である。
清水:なぜ今になって復活させるのか?
マリオ:はっ。私のインプは、初代の初期モデル、アプライドA型というタイプでして、現在ではかなりレアな古参兵であります。その価値が、スバリストかいわいで上昇しているのであります!
清水:なるほど!
マリオ:個人的には、自分の貧窮の暗黒期も、あのインプに乗れば歓喜にむせぶことができ、命の恩人であります! 現在オドメーターは20万8000kmを刻んでおりますが、生涯インプを手放す気はみじんもありません!
それほどの愛車なのに、三度も不動にしてしまったのが、ダメ人間のダメ人間たるゆえんだが……。
そういうことで、マリオインプは現在ドッグ入りしており、復活の日は近い。それはそれでめでたいが、スバル門外漢には、スバリストがいまひとつ理解できない部分がある。
マリオインプに復活の兆し
清水:マリオよ。近年のスバル車は、MTやターボの設定が減少するなど、どんどん薄味になっているように思えるが、それでいいのか?
マリオ:はっ。薄味化は、すべての自動車メーカーに共通する課題でありますが、そのなかにおいて、スバルの技術へのこだわりは、やはり突出していると考えるであります!
清水:一理あるが、不思議なのは、スバル車がどんどん薄味化しているにもかかわらず、スバリストはどんどん増加し、その熱さも増す一方に思えることだ。高額な限定モデルが、あっという間に売り切れるな。
マリオ:スバルの販売台数増加にともなって、スバリストのすそ野が広がり、それが熱を生み、一部のモデルに集中すると考える次第であります! ただ、「昔は良かった」的な思いはスバリストに共通しており、インプにしても、やはり初代が一番人気があるのであります!
清水:なるほど! だからこそのマリオインプの復活ということだな!
マリオ:はっ!
個人的には、現在のスバル車に惹(ひ)かれるとするならば、「アイサイトの付いたこだわりの実用車」というレベル。「EJ20」の生産終了によって、スバル車の薄味化はさらに進むだろう。
しかし、この熱狂を維持するためのニンジンを、スバルは今後もなんとか用意していただきたい。でないと、現在スバル関連で収入の大半を得ているマリオが再び貧窮化し、マリオインプは四たび不動に陥ってしまいますからウフフフフ~!
(文=清水草一/写真=清水草一、マリオ高野/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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