トヨタ・マツダ・デンソーのEV共同開発会社が業務を終了 2年9カ月の協業がもたらした成果を考える
2020.07.13 デイリーコラムEVの基本構想に関する技術開発の拠点
2020年6月、トヨタ自動車とマツダ、デンソーの3社が設立した「EV C.A. Spirit」(EVCAS)が、短い歴史に幕を下ろした。2017年の設立当初から「2年間の期間限定」であることが明言されていた会社だけに、ほぼ予定通りの展開ではあるが、ホームページは既に閲覧できない状態で、撤収の早さに驚かされた。
そもそもEVCASとはどういった会社だったのか。
2017年9月28日付のプレスリリースによれば、EVCASは「電気自動車の基本構想に関する共同技術開発」のために設立された。資本金1000万円の内訳は、トヨタ90%、マツダとデンソーがそれぞれ5%。つまり、各社の出資額はトヨタ900万円、マツダとデンソーが50万円ずつと、一部上場企業がつくった合弁会社らしからぬコンパクトな体制だった。
本社は、トヨタが共同所有する名古屋駅前の超高層ビル、ミッドランドスクエア内に置かれ、代表はトヨタ自動車の寺師茂樹氏が務めた。寺師氏は現在、Chief Competitive Officer(COO)兼Chief Project Officer(CPO)兼トヨタシステムサプライ トヨタZEV ファクトリー本部長の肩書を持つ(2020年7月1日時点)。ほかの役員もトヨタの人材だったが、設立当初の社員約40名の中には、マツダから出向したエンジニアも相当数在籍していたようだ。
また、具体的な事業内容について、前述のプレスリリースには「マツダの『一括企画』や『モデルベース開発』、デンソーの『エレクトロニクス技術』、トヨタの『TNGA』など、各社の強みを持ち寄ることで開発手法そのものを見直し」とあり、主に以下3項目に取り組むとしていた。
(1)ユニットおよび車両についてEVに最適となる性能および機能を規定する特性を研究
(2)上記①の特性を実現する各ユニットの搭載および車両としての性能を検証
(3)②を通して、車種群として考えた場合の各ユニットおよび各車両の最適構想の検討
トヨタがEVCASで手に入れようとしたもの
プレスリリースの内容だけではなかなか分かりにくいが、会社設立時の状況から推測するに、トヨタにはEVで成し遂げたい“何か”があった。それはトヨタ本体や既存の子会社では実行できないことで、新会社をつくってでもマツダを巻き込む必要があり、かつ2年間で完遂する計画だった。結果的には予定より9カ月ほどスケジュールが延びたものの、トヨタはEVCASを通して“何か”を手に入れたので、事業を終了した。そう考えるのが自然だろう。
ちなみに、EVCASには2018年からスバル、スズキ、ダイハツ、日野、いすゞ、ヤマハも参加している。前述のプレスリリースには「軽自動車から乗用車、SUV、小型トラックまでの幅広い車種群をスコープ」にすることが明記されており、当初からEVのタイプやジャンルなどは限定していなかったと考えられる。
また、ひとつ確かなことはEVの開発・生産体制に対して、トヨタが課題感を持っていたということだ。トヨタは世界トップレベルの開発・生産能力を誇るが、それは大量生産が前提で、多品種少量生産に適したものではない。対して、EVは依然として市場が未成熟。「プリウス」や「シエンタ」のような規模に達する見込みが立たないため、トヨタはEV市場が小さいうちに、マツダから「一括企画」や「モデルベース開発」のノウハウを学びたいと考えたのかもしれない。もっとも、“わずか2年間(実際には2年9カ月だったが)の会社”でどこまでできたかは疑問だが。
公式な声明もないので、実際にトヨタが手に入れたかった“何か”の本質は分からない。EVCASホームページに「理論分析とシミュレーションで最適特性を追求」と記載されていたことからも、共同開発の対象が個々の生産技術でなかったことは間違いない。むしろ新しい技術の開発というよりは、規格統一や制度設計なども含めた“すり合わせ”“調整”がテーマだったのではないだろうか。
いずれにせよ、マツダは初の量産EV「MX-30」を欧州に投入。トヨタもスバルとの協業や年内のEV市場投入をアナウンスするなど、両社は新しいフェーズに進んでいる。EV市場が今後どこまで発展するのか、懐疑的な声は依然として根強い。しかし、今回のコロナ禍で通勤客が激減したことを受けてJRが時間帯別運賃を検討し始めたように、何かしらのトリガーで世界の“当たり前”は変わり得る。自動車メーカーには、いつEV時代が到来しても対応できる生産体制を整えつつ、ユーザーとのコミュニケーションを密に取りながら、適正なEV市場を育てていくことを期待している。
(文=林 愛子/写真=トヨタ自動車、峰 昌弘、webCG/編集=堀田剛資)

林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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