メルセデス・ベンツGLE300d 4MATIC(4WD/9AT)
中軸打者の底力 2020.09.24 試乗記 モデルラインナップは全7種類と、今や一大ファミリーとなったメルセデス・ベンツのSUV製品群。その中核をなすのが「GLE」だ。4代目となる現行型の出来栄えを、2リッターディーゼルターボを搭載したエントリーモデル「300d」の試乗を通して確かめた。ラインナップの柱に課せられる使命
メルセデス・ベンツのSUVラインナップは、電気自動車「EQC」も含めると全7モデルで構成される。ちなみに販売台数的にはがぜん多いトヨタが、日本やアメリカで展開するその数も7モデルと聞けば、メルセデスがいかに隙間を埋めまくってきたかが伝わるだろうか。
もはやビッグマーケットの中・米・欧では乗用車販売の約4~5割はSUV。そしてミニバンが一定の人気を占める日本でもほぼ3割と、SUVなしでは市場が成り立たない状態になっている。それがゆえの多品種化ではあるが、何せこのコロナ禍ゆえ、この先は自動車メーカーも戦略の変化を余儀なくされるだろう。モデル展開に何らしかの変化があってもおかしくはない状況だ。
もっとも、仮にそうなったとしても、メルセデスのSUVラインナップにおける基幹がGLEであることに揺らぎはないだろう。ブランドの“核”としての「Gクラス」に対し、“柱”としてのGLEは、多用途性や台数規模に関してあまたのライバルと戦いながらSUVのど真ん中を貫き、社に確実に利をもたらすことが必達事項とされている。2019年秋に市場投入されたW167型では、日本仕様では他地域ではオプション扱いとなる3列目シートを標準装備として「GLC」と差別化。機能的な尺度ではもはや隙(すき)がないほどのフルスペックとなった。どの方位からもライバルと比較される存在と言って過言ではない。
そのGLEの最もベーシックなグレードとなるのが300dだ。搭載されるエンジンは最新世代のディーゼルとなる2リッター4気筒直噴ターボのOM654型。245PSのパワーもさることながら、500N・mのトルクに驚かされる。同じディーゼルで考えても、従来であれば3リッタークラスのそれだ。これに9段ATを組み合わせることで、実に2.3tという車重との整合性を図っている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
抜け目のない製品構成
四駆システムは前後輪に100%の駆動力を配分することも可能な電子制御可変式。これは上位モデルと変わらない装備だ。悪路走破性を含めた機能面での最も大きな差はエアサスペンションということになる。300dの場合、これはオプションでも装着できず、コイル&ダンパーのコンベンショナルな組み合わせとなる。最低地上高がものをいう豪雪地域での移動が多い向きには、このあたりは気になるところかもしれない。
取材に供された300dは、20インチタイヤ&ホイールを筆頭にエクステリアやインテリアにスポーティーな施しが加わる「AMGライン」を装着していた。その関係で全幅は2mを突破するが、いわゆる“つるし”の状態であればタイヤは19インチとなり、ホイールアーチのエクステンションも省かれるため全幅は1950mmに収まる。そして全長は4930mmの全高は1770mm。このクラスとしては標準的な寸法構成だが、いかんせん日本の路上ではドカンと大きい。
従来モデルと比較するとホイールベースは80mm長く、1~2列目の席間も伸びているわけだが、それでも3列目のシートは大人では体育座り的に膝を抱えるしかなく、子供向けのエマージェンシーユースという印象だ。大筋は5人乗り、そして大きな荷物もしっかり積めるというところに利を見いだせるか否かがGLEを求める上でのポイントとなる。頻繁に3列目のシートに人を座らせるならさらに大きい「GLS」をどうぞということで、さすがにラインナップには抜け目がない。ただし、GLSは全長が5.2m超えといよいよ持て余しそうな図体(ずうたい)になってくる。
「400d」の直6がディーゼルとしては秀逸なドライバビリティーとフィーリングを両立していることもあって、どうしても直接的に比べられる300dの直4はフィーリング的な不利が否めない。エンジンを回す機会が多いこともあって、時にガラガラッというインジェクターノイズが車内に響く。振動はわずかに手のひらに伝わるくらいだろうか。
一番の得意科目はロングクルーズ
でも、「Sクラス」のような高級車的な期待値ではなく、実直な道具として見ればこの位の稼働感はかえってほほ笑ましくも思える。ざっくり1000万円のメルセデスを前にそんな豪気なことを言える人も多くはないかもしれないが、そもそもSUVとは人々の営みや楽しみのお供として、普通のクルマよりもちょっと奥のほうまで入り込んでいけるという多用途性こそが本領なわけだ。
ディーゼルとはいえ果たして2リッターでこの巨体が満足に走るのだろうかという不安は杞憂(きゆう)で、300dの動力性能は“有り余る”とはいわないが全域でちょうどいい案配に収まっていた。数値的にも0-100km/h加速は7.2秒、最高速は225km/hというから不満の抱きようもないが、頻繁に大人数が乗る、大荷物を載せるような使い方でなければこのエンジンでも十分事足りる。鼻先の軽さはやはりハンドリングにも効いていて、巨体は軽快に向きを変えてくれるから山道でもストレスはたまらない。
でも、このクルマが最も“らしさ”を発揮するのは、目的地までのロングクルーズだろう。自然できめ細かい制御のADASで車幅も気にせず淡々と距離が刻める。高速巡航の速度域での乗り心地は文字通りフラットで、特にリバウンド側の上屋の動きの抑え込みのうまさはメルセデスの真骨頂だ。低中速域では、エアサス装備車の路面に対するアタリの丸さに利があるが、高速域ではコイルサスでも納得できるボディーコントロールを実現している。同乗者にとってはAV環境の充実やシートのリクライニングが大事かもしれないが、ドライバーにとってはこの乗り味こそが最高の癒やしだ。そういう点ではGLEは、メルセデスのSUVラインナップにおいて見事にど真ん中にいると思う。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLE300d 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×2020×1795mm
ホイールベース:2995mm
車重:2350kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:245PS(180kW)/4200rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1600-2400rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113W/(後)275/50R20 113W(ピレリPゼロ)
燃費:12.5km/リッター(WLTCモード)
価格:954万円/テスト車=1099万1000円
オプション装備:スペシャルメタリックペイント<ヒヤシンスレッド>(19万4000円)/AMGライン(51万4000円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(56万円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(18万3000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:5083km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:635.8km
使用燃料:59.1リッター(軽油)
参考燃費:10.7km/リッター(満タン法)/11.8km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
NEW
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
NEW
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
NEW
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。 -
第343回:おやじ、涅槃で待つ
2026.8.31カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない? -
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】
2026.8.31試乗記フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。














































