「脱○○」は正解ではない! webCG編集部員が考える未来のジドーシャのあるべき姿とは?
2021.01.18 デイリーコラム過熱する未来のモビリティー論争
菅 義偉首相が所信表明演説で「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と言ったのが2020年10月26日。次いで12月初めには、「2030年代半ばにガソリン車の販売は禁止に!」というグレーなニュースが駆け巡り、かいわいが騒然となった。さすがにマズいと思ってか、12月17日には日本自動車工業会の豊田章男会長がオンライン会見を実施。大手メディアに冷や水を浴びせるとともに、ノーテンキな行政府に「お前ら、ホントに本気でやる覚悟あんの?」とクギを刺したのはご存じの通りだ。
以来、メディアやSNSでは諸子百家が大舌戦。学者先生ほど事情に詳しくない記者は、か烈極まるかんかんがくがく・けんけんごうごうに戸惑うばかりである。皆等しくエネルギー問題に精通しているはずなのに、なんでこうも意見が違うのか。
webCGでは昨年から『CarScope』と称し、クルマの未来にまつわる各記事をひとつのコーナーにまとめているのだが、最近ではそこに載るコラム/エッセイの編集を、ほとんど記者が独占している。なんでかというと、そりゃあ興味があるからですよ。日本や世界で模索されるさまざまな取り組みと新技術に、いい年こいてワクワクしたいのだ。
で、かような記者が思い至った理想の自動車社会はどんなものかというと、前にも書いたけど、「パワートレインのベストミックス」なのである。電気自動車(EV)で事足りるならEVでいいし、頻繁に遠出する人には燃料電池車(FCV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)が便利なはず。そもそも内燃機関車がベストな(あるいは内燃機関車しか使えない)使用環境もあるだろうし、燃料次第ではエンジンだってカーボンニュートラルにできるはずなのだ。
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電気という“現象”のアドバンテージと欠点
今、自動車業界は100年に一度の転換期を迎えているそうである。それでは、向こう100年のエネルギーインフラはどうなるのかと想像すると、それは恐らく電気が主流なのでしょう。今だっておおむねそうでしょ? 燃料が燃料としてそのまま使われるのは、電車を除く乗り物と、後は暖房と調理器具ぐらい。社会の原動力はすっかりエレキだ。ガソリンじゃPCもスマホも動かないしね。
また電気であれば、発電の方法次第でカーボンフリーにエネルギーを入手できる。燃やせばどうしたって二酸化炭素が出てしまう化石燃料とは、ここが決定的に違う。
だったらオマエはデンキ派か。エレキ万能説論者かと問われれば、実はそうでもない。専攻は文系だったが義務教育で多少の物理化学は学んだ身。電気というのが物質ではなく現象で、カンタンにためておけないことぐらいは知っているのですよ。
なんて書くと、今度はデンキ派の御仁から「じゃあ電池やバッテリーはなんなのよ?」と責められそうだが、あれって確か、電気そのものを蓄えているわけじゃないですよね? 例えばリチウムイオンバッテリーの充電は、電解液中のリチウムイオンを負極に集めているだけ。電気エネルギーを“化学的な状態”に置き換えて、いざとなれば電気を発生させられるようスタンバらせているのですよ。……まあ世の中には、電気というか電荷そのものを蓄えられるコンデンサーなんて装置もありますが(静電気を蓄える下敷きみたいなもんです)。
それはさておき、ここで中高文系レベルにしか物理化学の知識がない記者は思うのである。バッテリーだって電気を化学に置き換えているのだから、電気を物質(水素)に置き換える燃料電池だって、やってることは変わらないんじゃないかと。
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“電気社会”における水素の有用性
これまた世界七不思議のひとつで、イーロン・マスク氏を筆頭に、EV推進派の人ってFCVが大っ嫌いですよね。でも電気と水素って、そもそもそんなに反目する仲なのだろうか?
既述の通り、これまでは電気というのは貯蔵するのが難しく、だから世の電気会社は「需要に合わせて発電量を調整し続ける」という手間を余儀なくされてきた。しかし、それは人の手で発電量をコントロールできる火力発電や原子力発電だからやれたこと。再生可能エネルギーを使った発電となると、太陽にしろ風にしろ、それはもうお天道さまの胸先三寸。人間の都合なぞ聞いちゃくれないのである。
ところが世は都合がいいもので、今度は大容量の二次電池が登場したことにより、電気インフラにおける大規模な“蓄電”が現実味を帯びてきた。電気をたくさんつくれるときにつくっておき、発電ができないときの需要に備えようというのだ。
実際、海外では大規模な蓄電施設が多数計画されていて、上述のイーロン・マスク氏率いるテスラも、カリフォルニアでプロジェクトを進めている。各プロジェクトの解説を見ると、基本的にはバッテリーを使用したものがメジャーなようだが、ひとつの手だてとして、記者は水素への変換による蓄電も結構アリだと思うのだ。
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水素の生成もカーボンフリーじゃないと意味がない
……なんて書くと、「電気を水素に替えるだけで○%のエネルギーロスが~」と反論する向きもおられよう。しかし、そもそも電気なんて送電するだけでロスが生じるシロモノである(東京電力管内で4.3%、2019年)。余剰分だけを水素に置き換えるためのロスぐらい、大目に見てくださいよ。それに水素なら、電気と違って運んでいる最中に熱になって逃げ出すことはないし、バッテリーやコンデンサーと違い、貯蔵量を増やすために延々機器を増設する必要もない。電気を水素に変換して輸入できるようになれば、EVの普及で懸念される電力不足の解消にも役立てられるだろうし。
ただ、だったらオマエは水素派か。ハイドロ万能説論者かと問われれば、実はそっち側でもない。経済産業省などは「水素は森羅万象なにからでも手に入るから」という理屈で水素社会の有用性を力説するが、記者は正直、この説法をかなりうさんくさいものだと思っている。
だいたい、「なにからでも手に入る」とか言っておきながら、経産省が水素の入手先として期待を寄せているのはオーストラリアの褐炭、要するに化石燃料である。褐炭から水素をつくると結局二酸化炭素が出るし、それを集めて地中に埋めるシステムも、何らかのかたちで再利用する技術も現時点では確立されていない。これでは日本が排出する二酸化炭素をオーストラリアに押し付けているだけだ。
個人的にはオーストラリアではなくて、地熱や水力といった自然エネルギーが豊富なアイスランドあたりから水素を輸入すればいいと思うのだが、そうもいかない事情もあるのでしょう。いずれにせよ「水素すなわちカーボンフリー」という考え方は、「EVすなわちカーボンフリー」という考え方と同じくらい短絡的だと思う。
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“EV対FCV”という構図、やめません?
……話がいささか脱線してしまった。エネルギーのインフラと自動車に話を戻しましょう。
さて、これまでに述べた理屈により、水素もエネルギーインフラの一端を担うようになるとしたら、わざわざそれを電気にもどして動力源とするEVだけでなく、水素をそのまま動力源にできるFCVだってあっていいはずだ。電気と水素の相性がいいように、EVが普及した社会ではFCVだって普及するのでは? というのが、漠然とした記者の想像である。
もっと言えば、普段はEVで電気が足りなくなったら燃料電池で発電して走る、PHEVみたいなクルマがあったっていい。EVとFCVのいいとこどり。いうなればPHFCEVである(舌かみそうだな)。ここまでくると“EV対FCV”なんて構図自体がバカバカしくなりませんか? いずれにせよ、かような多段論法により、記者は“EV&電気”と並んで“FCV&水素”の未来も、相応にポジティブに考えているのである。
ただ、こうした水素の使い方にも課題がないわけではない。いかに浅学な記者とはいえ、水素の貯蔵と運搬が、それはそれで大変なことも知っているのですよ。分子の小さな水素はいろんなスキマから逃走を図るし、高密度で蓄えるにはマッチョなコンプレッサーが必要だ。もちろん液化すればより貯蔵しやすい状態にはなるけれど、そのためには-253℃まで温度を下げねばならず、それはそれでエネルギーを消費する……。
と、そこでまたしても記者は思うのである。だったら水素ではなく、より貯蔵・運搬に適したモノに電気を変換すればいいのでは? 例えば常温で液体の、e-fuelとか。
カーボンニュートラルな燃料の可能性
これまでにも、諸所のコラム(これとかこれとか)で顔を出してきたe-fuel。日独の自動車メーカーも開発に取り組むこれはなんぞや? というと、水を電気分解して得た水素と、大気中の二酸化炭素からつくられた合成燃料のことだ。ミソは、生成時に吸収する二酸化炭素と燃焼時に発生する二酸化炭素が、±0になること。サンドウィッチマン伊達の「カロリーゼロ理論」みたいな話だが、こちらのカーボンニュートラルは京都議定書でお墨付きだ。記者としては、これまた「再エネ発電による余剰電力の貯蔵方法として、アリなのでは?」と考えているのである。液体だから水素より扱いやすいですし。
ちなみに、生成時に二酸化炭素を吸収することでカーボンニュートラルを実現する燃料としては、古来より伝わるバイオ燃料というものもある。これについては「トウモロコシや大豆からつくるアレでしょ?」とまゆをひそめる向きもおられるだろうが、最近では食用とバッティングせず、小さな耕作面積(?)で大量の燃料を生成できる藻類バイオ燃料の研究も進んでいる。日本でもいろいろな企業や研究機関が事業化に取り組んでいて、すでに自動車用燃料として使える品質を実現し、後の課題は藻類の培養効率の改善と、コストの低減……というところまで進んでいるのだとか。
読者諸兄姉ならご存じの通り、EVは生産時の環境負荷が大きいうえにバッテリーに希少金属を使わざるを得ず、航続距離が短く、充電に時間がかかり、使用環境(例えば気温とか)に性能を左右されやすいといった欠点・不便を抱えている。いくら地球に優しいと言われても、寒冷地や豪雪地帯のユーザーなど、おいそれとEVを選べない人もいるだろう。内燃機関車には内燃機関車のイイトコロがあるわけで、それをカーボンニュートラルで動かせられるe-fuelやバイオ燃料は、それはそれで魅力的な技術だと思うのだが、いかがでしょう?
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未来はもっと懐が深いもののはず
……うーむ。毎回、「お前のコラム、長いんだよ」とクレームをいただいているのに、今回もここまでで4000字近く文字を費やしてしまった。
回りくどい話をして結局何が言いたかったかというと、再生可能エネルギーによる発電の普及には、水素やe-fuelなどに置き換えてのエネルギーの貯蔵・運搬が有用で、だったら未来の道路でも(数の偏りはあるにせよ)EVとFCVと内燃機関車は仲良く一緒に走っているのでは? ということなのだ。
もちろんこれは、あくまで素人の想像だ。記者は電気を水素やe-fuelに変換するときのエネルギーロスを知らないし、カーボンニュートラルな燃料の採算性についても知らない。次世代バッテリーが登場したら、案外あっさりEVが万能自動車に化けてしまうかもしれないし、逆に燃費のいい内燃機関車を延々使い続けるほうが、ホントは地球に優しいのかもしれない。
ただ、これだけは「きっとそうなのだろうな」と思うのだが、未来のモビリティーのあるべき姿って、結構柔軟で、懐が深くて、多様なものなのではないの? 21世紀で令和な今日でも、オール電化の家もあれば赤い灯油タンクを備えた家もあるでしょう。つまり、そういうことですよ。
だいたい、細長い国土に山も海も田舎も大都会も亜熱帯も亜寒帯もあるニッポンで、モビリティーやエネルギーインフラの解がひとつだけのはずがないでしょ! それでも「自動車は○○以外まかりならん」なんて偉い人が言い出したら、記者はそんな環境ファシズム国家に住むのは御免である。マイカーとバイクを連れて海外へ勇躍。e-fuelやバイオ燃料をちびちびやりつつ、ポンコツを大事にするという古式ゆかしきローエミッションを実践したいと思う。
(文=webCGほった/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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