「GTA」に「クアドリフォリオ」 アルファ・ロメオのモデル名に宿る伝統と走りへの情熱
2021.05.14 デイリーコラム性能にこだわりレースに情熱を燃やす
クルマ好きにとって思い入れが深いイタリア車のひとつであるアルファ・ロメオは、昨年(2020年)創業110周年を迎えた。コロナ禍ということもあって大きなイベントなどは催されなかったが、世界中の“アルフィスタ”に向け、特別な一台が用意された。それが復活を遂げた「ジュリアGTA」である。日本でも、2021年4月から5月にかけて期間限定受注を実施。約2100万円という価格には驚かされたが、きっと日本からもリッチなアルフィスタからオーダーが舞い込んだことだろう。
それはさておき、記念すべき110周年を彩るモデルとして「GTA」というネームにフォーカスしたことは、実にアルファ・ロメオらしいと感じられた。その理由を語るには、このブランドの歴史を振り返る必要がある。
現代のアルファ・ロメオは、コンパクトカーからSUVまで手がける総合自動車ブランドへと発展したが、その原点であるロンバルディア自動車製造有限会社(ALFA)は、1910年の創業より高性能なクルマの開発・製造に傾注し、ときにレースでも活躍をみせる存在だった。1915年にイタリアの実業家のニコラ・ロメオが経営権を獲得したことで、長く愛されることになる“アルファ・ロメオ”の名が生まれると、その名は時のグランプリレースを含むモータースポーツでの活躍とともに高まっていった。つまり、アルファ・ロメオには生粋のスポーツカーブランドの血が流れているのだ。しかし、第2次世界大戦後は経営難により少量生産の高性能スポーツカーメーカーから量産車メーカーへと転身。それでもアルファ・ロメオの走りへの情熱は冷めることはなかった。
このほど復活したGTAも、サーキットに由来するモデルである。起源となるのは、1965年に送り出された「ジュリア スプリントGTA」だ。
いつの時代も特別だった「GTA」の3文字
ジュリア スプリントGTA は、1963年に登場したアルファ・ロメオの主力車種、ジュリアのクーペ版「ジュリア スプリントGT」をベースとしたコンペティションモデルで、末尾の“A”はAlleggerita(アレッジェリータ/軽くする)の頭文字だ。この言葉が意味するように、ジュリア スプリントGTAでは徹底した軽量化が図られた。その気合の入りようはすさまじく、スプリントGTのスチール製ボディーを丸々アルミ製に変更。その結果、ベース車より295kgも軽い745kgまで車体をシェイプアップしてしまった。
軽量なGTAの多くが、アルファ・ロメオのレーシング部門、アウトデルタの手によってレーシングカー仕様にチューニングされた。その活躍には目を見張るものがあり、1966年から4年連続で欧州ツーリングカー選手権のチャンピオンに輝くなど、かの地のモータースポーツシーンを席巻。さらに活躍の舞台を世界へと広げていった。
最新のジュリアも、ボディーパネルにカーボンを積極的に取り入れることで約50kgの軽量化を実現。特にサーキット走行に主眼を置いた2シーターのモディファイドモデル「GTAm」は、ベース車より約100kgも軽く仕上げるなど、原点であるジュリア スプリントGTAの心意気をしっかりと受け継いでいる。
ただ、個人的には2000年代に復活を遂げ、日本でもヒットした「アルファ147」および「アルファ156」のGTAのほうに親近感を覚える。日本では、「“GTA”をブランド化した高性能モデル」というイメージが強いが、アルファ156はしっかりとGTレースに投入され、GTAの伝統を継承。そしてなにより、官能性を秘めたアルファ独自の3.2リッターV6エンジンを積んだ名車として、多くのクルマ好きの心に刻まれている。“アルファ生粋の最後のV6搭載車”といえば「アルファGT」になるのだが、生粋のV6とGTAという魅力を併せ持つアルファ147/156GTAは、これからも多くのクルマ好きの間で語り継がれていくはずだ。
レースでの勝利を願う四つ葉のクローバー
話を戻そう。モータースポーツ由来といえば、新生ジュリアGTAのベースとなった「クアドリフォリオ」のことも忘れてはならない。クアドリフォリオは歴代の高性能モデルに与えられてきたグレード名であり、その原点はGTAよりずっと古く、なんと1923年までさかのぼる。
この年、公道レースのタルガ・フローリオに挑んだアルファ・ロメオのレーシングカーには、勝利への願掛けとして四つ葉のクローバーが描かれていた。そのマシンを駆ったレーサー、ウーゴ・シヴォッチは見事に優勝。以来、アルファ・ロメオにとって白地に描かれた四つ葉のクローバー(クアドリフォリオ)は、幸運のお守りであるとともに自身のレーシングスピリットを象徴するものとなった。その伝統は、最新のアルファ・ロメオのF1マシンにもしっかりと受け継がれている。
ちなみに、アルファ・ロメオの4WDモデルに与えられる「Q4」の名称も、実はクアドリフォリオを意味する。さらにグレード名に使われる「クアドリフォリオ ヴェルデ」は、イタリア語で「緑の四つ葉のクローバー」となり、こちらも同様、つまり“飛び抜けたアルファ”であることを語るものなのである。
このほかにも、最新のアルファ・ロメオには伝統のグレード名が受け継がれている。それが「スーパー」「ヴェローチェ」「スプリント」だ。このうち、スーパーは「ジュリア ベルリーナ(セダン)」の高性能モデル「ジュリアTiスーパー」として1963年に初登場する。「Ti」(Turismo Internazionaleの略)とは「1900」や「ジュリエッタ」のころから使われていたスポーツグレードの名称で、ジュリア ベルリーナにもTiと呼ばれるバージョンが存在した。「Tiスーパー/スーパー」は、その上位に位置する高性能車だった。近年でもたびたびTiの名がアルファのスポーツグレードに使われてきたが、かつては、Tiよりも高性能なのがスーパーであり、本当にスーパーな存在だったのだ。
一方、最新型のジュリアでは「より上級仕様のジュリア」という意味で「SUPER」が使われているが、これも唐突に表れた用法というわけではない。かつての「アルファ155」や「アルファ164」などでも、この名称が上級仕様車を示していたからだ。
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「ステルヴィオ」という名が表すアルファのこだわり
お次のヴェローチェ。その名を聞いて多くの人が思い浮かべるのは、アルファのグレード名よりむしろ、全国で約170店舗を展開するコーヒーショップ「カフェ・ベローチェ」のほうかもしれない。実は、これらの意味は共通で、イタリア語でヴェローチェ(Veloce)は「迅速に」という意味。あちらには「素早くコーヒーなどを提供するお店」という思いが込められている。それがクルマとなれば、もちろん“速さ”を指す。よりスポーティーで速いクルマとして、ヴェローチェと名づけられたのだ。
ジュリア スプリントGTAの兄弟でもある「ジュリア スプリントGTV」の「V」も、ヴェローチェの略である。その後も、ヴェローチェの名はアルファのスポーツグレードに多く採用され、またジュリア スプリントで使われたGTVという名称は、1994年に登場したクーペモデル「アルファGTV」に受け継がれた。
最後のスプリントについては、かつてはアルファ・ロメオの4人乗りクーペを指す名称として長らく使われていたので、セダンやSUVで使われるのにはやや違和感を覚える。しかし、そもそもの言葉の意味はイタリア語で「疾走」となり、スポーティーさを表現するワードなのだ。最新世代のジュリアと「ステルヴィオ」のエントリーグレードにスプリントの名を与えたのは、どんな仕様でも走りを忘れないという、アルファ・ロメオのこだわりを示すものなのだろう。彼らのグレード名には、その歴史にもとづく走りへのパッションが込められているのだ。
最後に余談をひとつ。ハッチバックのジュリエッタやセダンのジュリアは、往年の車名を現代によみがえらせたものだが、新生アルファ・ロメオを象徴するSUVのステルヴィオは、イタリアの峠に由来する車名である。この流れは、プラグインハイブリッド車となるコンパクトSUV「トナーレ」も同様だ。
そんなイタリアのステルヴィオ峠は、実は日本とも縁が深い。バブル期に誕生した日本とイタリアのコラボレーションモデル「オーテック ザガート ステルビオ」の名にも使われているからだ。これは“スカイラインの父”であり、オーテックジャパンの初代社長を務めた桜井眞一郎氏が、かつてステルヴィオ峠を訪れ、感銘を受けたことから名づけたそうだ。
アルファ・ロメオにしても、峠に由来するこれらの車名は、SUVの持つ万能さだけでなく、期待を裏切らない走りのよさを示そうとしたものなのだろう。桜井氏が、自身が手がけたラグジュアリーGTにその名を与えたのと同じように。
(文=大音安弘/写真=ステランティス/編集=堀田剛資)
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大音 安弘
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