第9回:効率性に疑問アリ? バッテリーやモーターで独自色を出すルノーの電動化戦略
2021.08.03 カーテク未来招来 拡大 |
ラインナップのEV(電気自動車)化に前のめりに取り組む欧州の自動車メーカー。彼らの戦略はどれも似通ったものだが、細かく見ていくと各社の特色がうかがえる。なかでも仏ルノーの戦略は、モーターとバッテリーの分野で独自性を示すものだった。
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“似たり寄ったり”な欧州勢の電動化戦略
前回までのボルボに引き続き、今回はフランス・ルノーが「RENAULT EWAYS ELECTROPOP」と呼ぶイベントで明らかにした電動化戦略を取り上げる。この後にステランティスやフォルクスワーゲンについても紹介するつもりだが、各社の戦略には似通っている点が多いので、それぞれの特徴的なところだけを取り出しながら、簡潔にまとめていきたいと思う。
ルノーの戦略の要点は以下の通りだ。
- 2025年までにEVを10モデル商品化。そのなかには2022年に発売する「メガーヌE-Techエレクトリック(メガーヌE)」や、現在のEV「ZOE(ゾエ)」より33%低価格な「ルノー5(サンク)」、かつての「ルノー4(キャトル)」をイメージした「4ever(フォーエバー)」が含まれる。
- 2025年には欧州市場でEVおよび電動車の販売比率を65%以上に、2030年にはルノーブランドでEVの販売比率を最大90%に引き上げる。
- EVの生産体制強化のため、完全子会社のRenault ElectriCity(ルノーエレクトリシティー)を2021年6月に設立した。新会社はフランス北部にあるドゥエー、モブージュ、リュイッツの3工場をまとめ、EVの生産拠点として再編したもの。
- 中国エンビジョンAESCとのパートナーシップによって、ドゥエーに大規模なバッテリー工場(ギガファクトリー)を建設し、2024年に製造を開始する。
- フランスの新興企業Verkor(ベルコール)との共同プロジェクトで、2022年までに高性能なバッテリーを開発する。
- 2030年までにバッテリーパックレベルのコストを60%削減するため、すべてのセグメントでセルの寸法を標準化する。
- コストを30%低減し、かつエネルギー損失を45%抑えた新規の電動パワートレイン(e-パワートレイン)を開発する。
独自開発のEVプラットフォームも
ルノーの戦略でまず目についたのが、当連載の第8回で触れたように、他社との差別化のため、過去の名車のレガシー(遺産)を活用する方針を打ち出したことだ。確かに、サンクやキャトルのEVが出たら興味を持ってしまうのは、つい過去を懐かしんでしまうオジサンに共通する悲しい性(さが)である。ただちょっと意外だったのが、これらの車種には「CMF-BEV」なるプラットフォームが使われると発表されたことだ。
日産自動車が2020年6月に発表した事業構造改革計画「NISSAN NEXT」では、ルノー・日産・三菱グループにおいて商品セグメントごとにリーダー企業とフォロワー企業を定め、リーダー企業が開発したマザービークルをベースに、フォロワー企業はシスタービークルを開発することになっていた。そしてこの計画が発表されたとき、新しいEV専用プラットフォームである「CMF-EV」の開発では、日産がリーダー企業となることが示されたのだ。だからルノーは、EVに関しては今後かなり“日産頼み”になっていくのかと思ったのだが、あにはからんや、A/Bセグメントのリーダーであるルノーは、このセグメントでは独自のEVプラットフォームを開発することにしたわけだ。
もっともルノーの説明によれば、CMF-BEVプラットフォームは、EVに関連する箇所を除けばすべての部分が既存の「CMF-B」プラットフォームと共通だという。となると、EVとエンジン車では本来パッケージングが異なるのだから、プラットフォームの競争力に疑問符がつかないでもない。しかし、過去の名車のデザインイメージを生かした新型EVの投入は、「エンジン車と同じプロポーションになってしまう」というCMF-BEVプラットフォームの限界を、うまくカバーすることだろう。過去の名車のリバイバル作戦が、プラットフォーム戦略と併せて周到に練られたものだということがわかる。
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バッテリー戦略には疑問あり
一方、今回のルノーの発表で筆者が疑問を抱いたのは、要素技術についてだった。
まずバッテリーは、NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)を正極活物質として使うタイプのリチウムイオン電池を主力とするようだ。さらにこのバッテリーの形状を標準化し、それですべてのセグメントをカバーするという。2030年には、実に100万台に達するルノー・日産・三菱グループのEVに、このバッテリーが搭載される見込みだ。
確かに、この材料系はバッテリーのエネルギー密度を高めるのに有利で、ルノーも「走行距離当たりのコスト」で競争力が高いと主張している。ただし、ニッケルやコバルトは供給不足や資源枯渇が懸念される希少材料であり、米テスラのように、コバルトを使わないバッテリーを発表した企業もあるのだ。今後10年を見通す戦略においてNMCバッテリーを主力に据えるというルノーの姿勢には、いささか不安を感じる。もっとも、今回の発表ではバッテリーのリサイクルにも力を入れることが表明されたので、そこに期待しているのかもしれない。
続いてはモーター技術に関する戦略だが、今回の発表でルノーは、2つのタイプのモーターを使っていくことを明らかにした。ひとつは小型EVのゾエに採用している、「EESM(Electrically Excited Synchronous Motor)」と呼ばれる独自構造のモーターだ。EESMは今日のEVで主流となっている希土類永久磁石をローターに搭載するタイプとは異なり、希土類磁石を使用しない点に特徴がある。ただ最高効率の点で永久磁石モーターに劣るため、多くのメーカーは永久磁石式モーターを主力に据えているのだ。一方で、永久磁石モーターにも、高回転になるとモーター自身が発電機となって逆起電力(駆動電流とは逆の向きの電力)を発生し、効率が低下するという難点がある。この問題がEESMには発生しないため、特に欧州のような高速走行が多い地域では、EESMのほうが実用的な効率は高いとルノーは主張する。
今後、ルノーは2024年からEESMに新しい技術的改善を組み込み、効率を向上させる計画を立てている。このモーターが彼らのもくろみ通りに競争力を発揮できるかは、同社の電動化戦略における注目点のひとつと言っていいだろう。
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今からHEV用のモーターを開発するのか?
また、ルノーはもうひとつ、これまでとは異なる構造のモーターの実用化を目指している。それがアキシャルフラックスモーターだ。アキシャルフラックスモーターは、一般にはアキシャルギャップモーターと呼ばれることが多い。通常のモーターでは、中空のステーター(固定子)の内部にローター(回転子)を配置する構造が多いのに対し、アキシャルギャップモーターでは薄い円盤のような形状のローターとステーターを向かい合わせに配置する。ルノーはこの開発のために、フランスのスタートアップ企業であるWhylot(ワイロット)とパートナーシップを結んだ。この技術は2025年からHEV(ハイブリッド車)向けに採用されるようだ。この計画が実現すれば、ルノーはアキシャルギャップモーターを量産する最初の完成車メーカーになるという。
アキシャルギャップモーターの発想そのものは昔からあり、小型で高トルクを出せるのが特徴だ。エンジンルームの隙間に搭載できるよう、薄型化が要求されるHEVに適しているのは理解できる。しかし、半径方向の寸法を小さくすることが求められるEV向けには、この形状は適していない。またモーターの体積(コンパクトさ)や効率が、一般的な構造のモーターと比べて格段に優れているわけではない。だからこそ、これまで自動車の駆動モーターとしては実用化されてこなかったともいえる。
先に紹介したように、ルノーは2030年に欧州でのEVの販売比率を最大90%に高めることを目標としている。一方で、既存のものとは構造が異なるため、新しい生産設備の導入も必要になる新型モーターを、向こう10年で自社製品の主流から外れるHEVのために実用化しようとしているのだ。なぜいまさらHEV専用モーターに投資するのか? という疑問を拭いきれなかったというのが正直なところだ。
筆者はCMF-EVプラットフォームの開発で日産がリーダー企業となったことで、これまでグループ内でばらばらに進んでいたEVや電動車の開発が、一本化されるのかと思っていた。しかし、どうやらルノーは、得意のBセグメントでも出遅れているHEVでも、主導権を日産に渡さない意向のようだ。ただ外野から見ると、バッテリー開発にしてもモーター開発にしても、日産とルノーで一本化してより効率化する道はないのかと思ってしまう。次回で紹介するステランティスが、EVプラットフォームの開発をグループ内で完全に一本化しているのを見ると、余計にそう感じてしまった。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=ルノー、日産自動車、テスラ/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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