ダイハツ・ロッキー プレミアムG HEV(FF)/トヨタ・ライズZ(FF/CVT)
あくまで良品廉価 2021.12.13 試乗記 人気の小型SUV「ダイハツ・ロッキー」「トヨタ・ライズ」にハイブリッド車が登場。その中身はエンジンから新開発したというシリーズ式ハイブリッドだ。シリーズ式で先を行くのは日産だが、やはりトヨタ(系)の“後出し”が強いのか!?インパクトの大きいマイチェン
2年前に発売されたコンパクトSUVのマイナーチェンジである。大したニュースバリューはないと考えるのが普通だろう。しかし、ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズの改良は、フルモデルチェンジ以上のインパクトを持っている。いくつもの新技術が盛り込まれているからだ。さらに、ダイハツにとっては将来に向けた道筋を示すトップランナーでもある。
何よりも注目されるのは、ダイハツ初のハイブリッドカーであることだ。2005年に商用車「ハイゼットカーゴ ハイブリッド」が発売されているので、厳密には2番目である。とはいえ、それは官公庁向けに特化した月間販売目標25台のモデルだったから、一般向けのクルマは今回が初と言っていい。ダイハツは1965年から電気自動車(EV)の研究に着手しており、1969年の「フェローバンEV」を皮切りにさまざまなEVを製品化した。2003年には軽自動車初となる燃料電池車の「ムーヴFCV-K-2」の国土交通大臣認定を取得しており、電動化に取り組んできた長い歴史がある。
しかも、ダイハツには他メーカーにはない有利な条件がある。親会社のトヨタが世界初のハイブリッドカー「プリウス」を1997年に発売して以来、世界トップレベルの電動化技術を蓄積しているのだ。これを利用しない手はない。ダイハツは延べ50人以上をトヨタに出向させ、モーターの制御技術を学んできた。そこで得られた知見がダイハツのハイブリッドに生かされているのは当然である。ただ、トヨタの誇るシリーズパラレル式ハイブリッド「THS II」は、ロッキー/ライズには使われなかった。
THS IIはトヨタの「ヤリス」や「アクア」にも採用されていて、コンパクトカーにも有用な技術であることが証明されている。ロッキー/ライズに搭載しても十分な性能を発揮すると思われるが、ダイハツは独自に開発したシリーズ式ハイブリッドを採用した。「日産ノート」と同じ方式である。ダイハツの商品ラインナップを見れば、それが妥当な判断であったことがよくわかる。販売の主力である軽自動車にも適用可能であることを優先したのだ。
エンジンは完全な新設計
カタログの冒頭に「ロッキーは、ダイハツ電動化のあくまで序章。電気の道を歩んでいく、これからのダイハツにご期待ください」という言葉が記されている。軽自動車にもハイブリッドモデルを投入するということは、既定路線なのだ。軽自動車はミニマムなクルマであり、小さなエンジンルームにパワーユニットを収めなければならない。複雑な機構のTHS IIより、シンプルで小型軽量化が容易なシリーズ式のほうが適しているのだ。
制御のノウハウを教わった以外にも、トヨタから得た恩恵がある。すでにトヨタのクルマで使われているパーツを利用することができたのだ。モータージェネレーターやバッテリー、PCUの中身などがトヨタ由来である。コストが抑えられるうえに開発期間が短縮できるというメリットがあった。実際に公道を走るクルマで実績を積んでいるのだから、信頼性は抜群だ。いいことずくめである。
もうひとつの重大な革新が新型エンジンだ。自然吸気の1.2リッター直列3気筒エンジンは、ブロックもヘッドも完全な新設計。従来の1リッターターボエンジンは4WDモデル用に残されているが、FFの純ガソリン車、ハイブリッド車ともにこの最新ユニットを使う。純ガソリンのFF車では燃費が約10%改善し、20.7km/リッター(WLTCモード)を達成した。
ハイブリッドモデルでは、1.2リッターエンジンを発電のためだけに用いている。こちらは40%という驚異的な熱効率を実現したという。まさに世界のトップに並ぶ性能であり、これは親会社の手を借りることなく独自に開発した。高タンブルストレートポートで高速燃焼を促し、デュアルポートと低ベネトレーション噴射で燃焼ガスを微粒子化するといった工夫で地道に効率を高めている。欧州には内燃機関の開発をやめるとアナウンスしている自動車会社もあるが、ダイハツはエンジンを改良することでCO2削減に寄与する余地がまだまだあると考えている。
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電動パーキングブレーキを採用
試乗車は2種類用意されていて、最初に乗ったのは純ガソリン車のライズである。ロッキーとライズでは微妙に価格設定が異なっていて、それぞれ専用のボディーカラーが設定されているが、大筋では同じクルマである。最上級グレードの「ライズZ」にはデビュー時の試乗会でも乗った。外観は何も変わっていないが、運転席に乗り込むと違いに気づく。センターコンソールの形状が変わったのだ。最新型では電動パーキングブレーキが採用され、大きなレバーがなくなったからだ。この変更でオートブレーキホールド機構が付き、ACC走行で停車した時にフットブレーキを踏み続けなくてもよくなった。
エンジンの排気量はアップしたが、ターボではないので最高出力と最大トルクの数値は少し下がっている。しかし、体感としてはパワーが落ちたという印象はなく、むしろ余裕が増したように感じた。エンジン回転を上げなくとも、街なかでは十分な動力性能を発揮する。レスポンスがよく、ペダル操作に対してリニアに加速していくことが好印象をもたらしているのだろう。
前モデルでは、静粛性や乗り心地の点でまだ改善の余地があると感じていた。5ナンバーのコンパクトサイズで1620mmという背の高さだから、ある程度は仕方がないところである。30分ほど都心を走っただけではあるが、静かさは向上したように思える。静粛性向上のための改良点はダッシュサイレンサーの3層化やフードサイレンサーの遮音性アップなど6つもの項目が挙げられており、地道な努力が実ったようである。
次に乗ったのがロッキーのハイブリッドモデル。こちらも最上級グレードだ。外観では、フロントグリルのデザインが専用となっている。「D」のエンブレムはブルーで、サイドとリアには「e-SMART HYBRID」のバッジが付いている。ハイブリッドカーであることを控えめにアピールしているのだ。
ちょうどいいスマートペダル
ブルーのスタートボタンを押すと、システムが始動。もちろん、エンジンはかからない。ハイブリッド専用のマルチインフォメーションメーターにモーターの作動状況やバッテリーの充電状態などが表示され、電動車に乗っていることを知らされる。バッテリー残量が十分であれば、発進は無音だ。ゆっくりと加速していけば、40km/hぐらいまではそのままEV走行が続く。室内の静粛性は圧倒的で、むしろロードノイズが気になってしまう。
その気になれば、モーターの特質を生かして素早い急加速も可能だ。ただし、その場合にはすぐにエンジンが発電を開始する。アクセル開度に合わせてエンジンの回転数が上がるので、エンジンで駆動しているような錯覚を起こしてしまった。緩やかな加速でも、速度が上がればエンジンは頻繁に電力供給を行うことになる。バッテリー容量が小さいので、常に発電する必要があるのだ。ノートは2代目になってエンジンによる発電のコントロールが進化し、静かな走行の時間が長くなった。バッテリー容量が大きいノートと単純に比較するのは酷だが、追いつくのは簡単ではない。
ロッキー/ライズは、アクセルペダルの踏み加減で車速をコントロールできる「スマートペダル」を採用している。アクセルから足を離すと、わかりやすく速度が落ちていく。完全停止のためにはブレーキを踏まなければならない。初代ノートはワンペダル運転を強くアピールしていたが、2代目になると減速力が弱められた。ロッキー/ライズは初代ノートと2代目ノートの中間ぐらいの感覚だろうか。街なかで運転するにはちょうどいいと感じたが、嫌な人もいるだろうからオフにすることもできる。渋滞の多いタフな環境で30分ほど走り、メーターに表示された燃費は22km/リッターを上回っていた。純ガソリン車は12km/リッターほどだったから、燃費性能の違いは大きい。
チーフエンジニアは「エンジンがかかった時の振動感などはまだまだ途上だと思っています」と話していた。確かに、改良するべき点は多く残されている。でも、驚嘆すべき低価格でこれだけのものを商品化したことには素直に敬意を表したい。ダイハツが掲げているスローガンは「良品廉価」「最小単位を極める」「先進技術をみんなのものに」というものである。プレミアムとかエモーショナルとか言わない実直なメーカーなのだ。この技術を生かした低価格で高性能なハイブリッド軽自動車が登場するのが待ち遠しい。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ダイハツ・ロッキー プレミアムG HEV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1620mm
ホイールベース:2525mm
車重:1070kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:82PS(60kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/3200-5200rpm
モーター最高出力:106PS(78kW)/4372-6329rpm
モーター最大トルク:170N・m(17.3kgf・m)/0-4372rpm
タイヤ:(前)195/60R17 90H/(後)195/60R17 90H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:28.0km/リッター(WLTCモード)
価格:234万7000円/テスト車=284万1142円
オプション装備:パノラマモニター対応純正ナビ装着用アップグレードパック(4万8400円)/ブラインドスポットモニター(6万6000円) ※以下、販売店オプション 9インチプレミアムメモリーナビ(25万1922円)/アクセサリーコンセント(4万4000円)/カーペットマット<ブルー・HEV用>(2万8226円)/ETC車載器<ビルトインモデル>(2万0834円)/ドライブレコーダー<スタンドアローンモデル>(3万4760円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:865km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
トヨタ・ライズZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1620mm
ホイールベース:2525mm
車重:980kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:87PS(64kW)/6000rpm
最大トルク:113N・m(11.5kgf・m)/4500rpm
タイヤ:(前)195/60R17 90H/(後)195/60R17 90H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:20.7km/リッター(WLTCモード)
価格:203万9000円/テスト車=242万3450円
オプション装備:ボディーカラー<ブラックマイカメタリック×ターコイズブルーマイカメタリック>(5万5000円)/ブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックアラート(6万6000円)/スマートパノラマパーキングパッケージ<9インチディスプレイオーディオ+パノラミックビュー+スマートパノラマパーキングアシスト+ステアリングスイッチ>(14万7400円) ※以下、販売店オプション フロアマット<デラックスタイプ>(2万7500円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/ETC2.0ユニット<ビルトインタイプ>(2万5300円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1260km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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