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第34回:“レベル4”を5000ドル以下で実現!? モービルアイの格安自動運転の秘密

2022.02.08 カーテク未来招来 鶴原 吉郎
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「CES 2022」のプロモーションより、フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディースCEO(写真向かって右)と語り合うモービルアイのアムノン・シャシュアCEO。
「CES 2022」のプロモーションより、フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディースCEO(写真向かって右)と語り合うモービルアイのアムノン・シャシュアCEO。拡大

2024年に、自家用車で“自動運転レベル4”を実現すると発表したイスラエルのモービルアイ。しかも、そのシステムコストを5000ドル以下に抑えると表明したから驚きだ。インテル傘下の半導体メーカーである彼らが、「格安自動運転」を実現できる秘密とは?

モービルアイが示した自動運転技術実用化のロードマップ。2024年か2025年に実現するという「L4 Consumer AV」について、「Drives everywhere」と「Cost <$5K」と紹介されている。
モービルアイが示した自動運転技術実用化のロードマップ。2024年か2025年に実現するという「L4 Consumer AV」について、「Drives everywhere」と「Cost <$5K」と紹介されている。拡大
“レベル4”の自動運転は「特定条件のもとで、運転操作のすべてをクルマが担うシステム」を指すが、「Drives everywhere」は、(レベル4を名乗っている以上、制約や条件はあるのだろうが)かなり広範なシーンで使用可能なシステムを目指しているようだ。
“レベル4”の自動運転は「特定条件のもとで、運転操作のすべてをクルマが担うシステム」を指すが、「Drives everywhere」は、(レベル4を名乗っている以上、制約や条件はあるのだろうが)かなり広範なシーンで使用可能なシステムを目指しているようだ。拡大
世界で初めて“レベル3”の自動運転を実現した「ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite」。価格は1100万円と、724万9000円だった標準モデルより375万1000円も高いクルマだった。(写真:向後一宏)
世界で初めて“レベル3”の自動運転を実現した「ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite」。価格は1100万円と、724万9000円だった標準モデルより375万1000円も高いクルマだった。(写真:向後一宏)拡大

より低価格でより高度な自動運転を提供

前回は、中国吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)がプレミアムEV(電気自動車)ブランドのZEEKR(ジーカー)を介し、2024年までにモービルアイの自動運転システム「Mobileye Drive」を搭載したレベル4の自動運転車両を、個人向けに提供する計画であることを取り上げた。

このレベル4自動運転が、高速道路限定なのか、あるいは一般道路でも使用できるものかについて、モービルアイCEOのアムノン・シャシュア氏はプレゼンテーションでは触れなかった。しかし、プレゼン資料のなかに「Drives everywhere」という文言が盛り込まれていることから、一般道路を含めたさまざまなエリアで使えるものではないかと筆者は推測している。いずれにせよ、これが実現すればジーリーおよびモービルアイは、世界で最も早く自家用車でのレベル4を実現することとなる。

加えて、モービルアイの発表にはもうひとつ重要な内容が含まれていた。それは「システムコストを5000ドル以下にする」という目標である。5000ドルといえば1ドル=114円の為替レートで換算すると57万円となり、車載装備としては決して安い額ではない。しかも、これは部品レベルでのコストなので、製品段階では1万ドル程度(114万円)が車両価格に上乗せされると、シャシュア氏は推定している。それでも、高速道路での“レベル3自動運転”を可能にした「ホンダ・レジェンド」の「Honda SENSING Elite」搭載車がベース車両より約375万円高くなっていたことを考えれば、より高度な機能を114万円で提供できれば、Mobileye Driveは“格安”といっても大げさではないだろう。

ではなぜ、モービルアイはこうした低コスト化を可能にできるのか?

最悪を想定して演算量を減らす

ひとつ目の理由は、次世代の画像処理半導体「EyeQ ULTRA」の性能を176TOPS(1秒間に176兆回の演算)に“抑えた”ことだ。このあたりは前回の記事でも取り上げたことだが、例えば米エヌビディアの次世代自動運転用半導体の演算能力は1000TOPSで、EyeQ ULTRAの5倍以上である。当然、演算能力を高めればそのぶん価格は高くなり、消費電力も増える。これに対してモービルアイは、EyeQ ULTRAのコストを1000ドル以下、システムの消費電力を100W以下に抑える見込みだ。

では逆に、どうしてモービルアイは少ない演算量で自動運転を実現できるとしているのか? その理由のひとつは、「リーン・コンピューティング」すなわち「無駄を削(そ)ぎ落とした演算方式」にある。

自動運転の演算システムは、自車の動きに対して周囲の車両や歩行者などがどのように反応するか、無数のシナリオを想定し、その環境下で最も安全性の高い行動を割り出し、車両を制御する。しかし、当然ながら膨大な数のシナリオのそれぞれで計算を走らせるには、非常に高い演算能力が必要となる。これに対してモービルアイは、無数のシナリオを想定するのではなく、常に最悪のケースを想定しながら走行することで、必要な演算量を削減するというのだ。

例えば先行車両に追従して走る場合には、前のクルマが急ブレーキをかけても追突しないような速度・車間距離を保つ。車線変更は、後方から来る車両が最大限の加速で近づいてきても衝突しないようなタイミングで実行する。十字路では、たとえ自分が優先道路を走行していたとしても、一時停止を無視した車両が横切ることを想定して速度を落とす。横断歩道付近に停止しているクルマがいて死角がある場合には、横断する歩行者が見えない場合でも、歩行者が飛び出してくることを前提に横断歩道に近づく――といった具合だ。

よく運転免許更新の講習では「『だろう運転』ではなく『かもしれない運転』をしましょう」と言われるが、まさにモービルアイの考え方は、最悪を想定した「かもしれない運転」を徹底するというものだ。モービルアイはこの考え方を「RSS(Responsibility-Sensitive Safety:責任感知型安全論)」として理論化しており、「IEEE 2846」として業界で標準化するよう働きかけている。

モービルアイの新しい画像処理半導体「EyeQ ULTRA」。ライバルのものより演算能力は低いが、そのぶんコストが安く、商品電力も少ないといった特徴がある。
モービルアイの新しい画像処理半導体「EyeQ ULTRA」。ライバルのものより演算能力は低いが、そのぶんコストが安く、商品電力も少ないといった特徴がある。拡大

ミリ波レーダーの高性能化でLiDARを減らす

演算量を減らして半導体の負荷を減らすことに加え、もうひとつ低コスト化の柱となっているのが、センサー技術の革新だ。現在の技術でレベル4の自動運転を実現しようとすれば、周囲360°を監視するため、一般的にはレーザー光を使ったセンサーであるLiDARを3個と、6個のミリ波レーダーが必要とされる。しかしLiDARは非常に高コストなセンサーであり、このことがシステムの低価格化の障害になっている。

そこでモービルアイは、48×48という高い解像度の新型ミリ波レーダーを開発した。従来のミリ波レーダーは解像度が低く(せいぜい上下方向が1、左右方向が3程度)、同じ距離にある2つの物体を分離して認識するのが難しかった。しかし新型のミリ波レーダーなら、高い解像度で多くの物体を認識できるというわけだ。実のところ、こうしたレーダーの開発を進めているのはモービルアイだけではなく、世の趨勢(すうせい)になっているのだが、さらにモービルアイは深層学習(ディープラーニング)の技術を導入し、このレーダーで検知した信号を、LiDARで物体を検知したときのような信号に変換する技術を開発した。つまり、レーダーを使いながらLiDARのような周囲の物体画像を得られるようになったわけだ。

この新型レーダーを使うことで、3台は必要であるとされるLiDARを、車両前方を監視する1台だけに減らすことが可能となり、センサーコストを大幅に低減することができるという。

このようにモービルアイは、画像処理半導体、その上で動かすソフトウエア、組み合わせるセンサーなどをトータルで手がけることで、コストを抑えた自動運転技術を実現できることを今回のCESでアピールした。もっとも、他の企業ももちろん黙ってはいない。例えば米ゼネラルモーターズは、今回のCESで大幅に進化した次世代の自動運転技術について発表している。これについても、いずれこの連載で取り上げたい。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=モービルアイ、向後一宏、webCG/編集=堀田剛資)

モービルアイはLiDARのように高い解像度の周辺画像を得られる次世代ミリ波レーダー「SW(ソフトウエア)-Dfined Imaging Radar」の開発を進めている。
モービルアイはLiDARのように高い解像度の周辺画像を得られる次世代ミリ波レーダー「SW(ソフトウエア)-Dfined Imaging Radar」の開発を進めている。拡大
レーザーの照射によって障害物の有無や形状、距離などを確認するLiDAR。非常に高価な装備だが、「ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite」には実に5つも搭載されていた。(写真:向後一宏)
レーザーの照射によって障害物の有無や形状、距離などを確認するLiDAR。非常に高価な装備だが、「ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite」には実に5つも搭載されていた。(写真:向後一宏)拡大
2019年の「人とクルマのテクノロジー展」より、LiDARが捉えた来場者の様子。モービルアイの技術を用いれば、これに近い詳細な状況認知がミリ波レーダーでも可能となる。
2019年の「人とクルマのテクノロジー展」より、LiDARが捉えた来場者の様子。モービルアイの技術を用いれば、これに近い詳細な状況認知がミリ波レーダーでも可能となる。拡大
これまではレベル4の自動運転を実現するためには、車両の周辺監視のため3台のLiDARと6台のミリ波レーダーが必要とされていたが、新型レーダーを使うことでLiDARをフロントの1台だけに減らすことが可能となるという。
これまではレベル4の自動運転を実現するためには、車両の周辺監視のため3台のLiDARと6台のミリ波レーダーが必要とされていたが、新型レーダーを使うことでLiDARをフロントの1台だけに減らすことが可能となるという。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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