第4回:“レベル3”よりも“車線変更”に驚いた「Honda SENSING Elite」
2021.06.29 カーテク未来招来 拡大 |
ホンダが「レジェンド」に採用した先進運転支援システム「Honda SENSING Elite」には、ドライバーの“よそ見”まで容認する「レベル3」の自動運転機能が搭載されている。世界初となる、公の認可を受けた“自動運転システム”を、技術ジャーナリストが試した。
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渋滞中なら“スマホ運転”可能
2021年3月にホンダの最高級車レジェンドに搭載され、商品化されたHonda SENSING Eliteを、やっと体験することができた。国土交通省は、いわゆる「自動運転レベル3」以上の機能を備えたシステムを「自動運行装置」、つまり自動運転システムと定義しており、レベル2以下のシステムは「運転支援システム」と位置づけている。そして、公な認可を受けた“自動運転システム”が実用化されるのは、これが世界で初めてになる。
Honda SENSING Eliteについての記事はすでにwebCGにも掲載されている(その1、その2)が、ここでも簡単におさらいしておこう。今回レジェンドに搭載された自動運転レベル3の機能は「トラフィックジャムパイロット」と名づけられている。高速道路で走行中、渋滞に遭遇すると、一定の条件下でシステムが周辺を監視しながらドライバーに代わってアクセル、ブレーキ、ステアリングを操作する自動運転に移行。システムは先行車の速度変化に合わせて車間距離を保ちながら、同一車線内を走行、停車、再発進する。そして最大の特徴は、このトラフィックジャムパイロットの動作中は、ドライバーがナビ画面でテレビやDVDを視聴したり、目的地の検索などといったナビ操作をしたりすることが許される点だ。
これを可能にしたのが、2020年4月に施行された道路交通法の改正である。この改正によって、自動運転システムを作動させているとき、すぐに運転を代われる態勢でいる場合に限っては、ドライバーは「ナビの画面だけでなく、スマホの画面を注視していてもいい」ということになった。ホンダは推奨していないものの、今回のトラフィックジャムパイロットでも、ドライバーが運転席でスマホをいじっていても法律違反にはならないはずだ。ただし、システムから要請があればいつでも運転を代われなくてはならない。
「自動運転レベル3」に至る手順
トラフィックジャムパイロットが作動するまでのプロセスは以下の通りだ。
【1】まず高速道路の本線に入ったら、ステアリングに備わるシステムの起動ボタンを押し、さらに「セット」ボタンを下に押し下げると、「渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロール(ACC)」と「レーンキープアシストシステム(LKAS)」が作動する(厳密には、システムが車線を認識し、メーターパネル上の車線表示が緑にならないとLKASは動作しない)。ただし、この状態ではまだドライバーはステアリングを握っている必要がある。
【2】ACCとLKASの動作中に、システムが「ハンズオフ運転(ステアリングから手を放した状態での運転)」が可能だと判断すると、警告音を鳴らすとともに、メーターパネルの車線表示やステアリング上のインジケーターの色を、青に変える。この状態では、ドライバーはステアリングから手を放すことができる。ただしドライバーは正面を向き、常に周囲の安全を確認することが求められる。この状態で目をつぶったり、よそ見をしたりすると警告音が鳴り、前方を見るよう促される。
【3】ハンズオフ運転中に渋滞に差しかかり、30km/h以下に速度が落ちてトラフィックジャムパイロットが動作可能な状態になると、警告音が鳴るとともに、カーナビ画面上端、およびグローブボックス上のインジケーターが青色に点灯する。この状態ではカーナビ画面やスマホ画面を見ることができるようになる。渋滞が解消し、先行車との距離が開き、車速が50km/h以上になると、車両は警告音と表示でドライバーに運転操作に戻るよう促し、システムの動作が切れる。その後、ドライバーがセットボタンを操作すれば、LKASとACCの動作が再開し、条件が整えば再びハンズオフ運転モードへと移行する。
【4】システムの動作中、ドライバーに運転動作を再開するよう促しても、ドライバーが運転を代わらない場合には、緊急事態と判断。クルマを路肩に寄せて自動的に停止させる機能が盛り込まれている(路肩に寄せず、同一車線内で停車する場合もある)。
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何よりもスムーズな作動に脱帽
首都高速道路で実際に各機能の動作を確認してみた。システムの起動ボタンを押し、さらにセットボタンを押し下げるという動作は、他社のシステムも含め、ほぼ共通しているので戸惑うことはない。ここからハンズオフ運転、さらにはレベル3の自動運転に移行するのにも、特別なボタン操作や確認操作は必要ない。ホンダの広報担当者からは「できる限りボタン操作を減らした」という説明があったが、その通りだと納得した。
渋滞時のレベル3運転も動作はスムーズで、安心して利用できたのだが、それよりも印象的だったのがハンズオフ運転時の確実なステアリング操作だ。従来のレベル2の運転支援システムは、道路の車線だけを見てステアリングを操作しているので、カーブなどに差しかかるとどうしてもシステムの動作が遅れ、操舵に頻繁な修正がかかる。カーブ手前での減速なども行われないから、システムに運転を任せていて大丈夫か不安になることもある。
これに対してレジェンドのシステムは、高精度デジタル地図を内蔵しているので、ステアリングの操作はレールの上を走っているように確実で無駄な修正がない。またカーブの手前では減速してくれるので、乗っていて安心感がある。渋滞中のレベル3運転というところが注目されがちなHonda SENSING Eliteだが、むしろメリットを感じるのは、利用時間が長いと思われるハンズオフ運転時の安心感だろう。
“自動車線変更”は大胆な判断
もうひとつ、Honda SENSING Eliteで印象深いのが“自動車線変更の実用化”である。他社でも「車線変更支援」の技術は実用化されているが、これは高速道路を走行中に、前方に遅い車両がいるとクルマから「追い越しますか?」という提案があり、それに対してドライバーが「車線変更スイッチ」を押す、もしくはウインカーを操作すると「意思確認した」ということになり、システムが車線変更動作を実施するというものだ。日産自動車の「プロパイロット2.0」やトヨタ自動車の「Teammate Advanced Drive」はこのタイプだが、特にAdvanced Driveの意思確認はかなり入念で、スイッチ操作での確認だけでなく、実際にドライバーが目視で安全を確認しているかどうかをドライバーモニタリングカメラでチェック。もし目視確認をしていないと、車線変更を実施しない。
これに対して、今回のホンダのシステムでは、ステアリング上の「車線変更支援機能」のスイッチをあらかじめ押しておくと、前方に遅い車両がいる場合に「右車線を確認してください。車線変更します」というクルマからの「お知らせ」があり、これに対してドライバーが何もしなければそのまま車線変更が行われる。つまりドライバーの確認がなくても車線変更されるわけで、これはかなり画期的な機能だと思う。今回はこの機能も試すことができたが、人間よりも慎重に車線変更が可能かどうかを判断している様子がうかがえ、不安を感じる場面はなかった。
Honda SENSING Eliteを搭載したレジェンドには1100万円というプライスタグが付いており、また100台の限定生産、3年間のリース販売のみということもあって、一般にはなかなか手を出しにくい商品といえる。しかし、ここで培われた技術はさまざまな角度から検証され、今後のHonda SENSINGの進化に生かされるはずだ。ここからは筆者の想像になるが、高精度デジタル地図を活用した安心感の高いハンズオフ運転が、普及価格帯のホンダ車に搭載されるのも遠い未来ではないだろう。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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