第677回:実際に乗って実感! “機械式”にこだわるホンダ製4WDの実力を雪上で試す
2022.02.23 エディターから一言 拡大 |
ホンダが、実に4年ぶりとなる雪上試乗会を開催した。これまでは北海道にある同社の鷹栖テストコースで行っていたのだが、今回の舞台は長野県・御嶽山の麓にある「御岳スノーランド」。ホンダにとって初の本州開催というだけでなく、環境の整えられたテストコースとは異なる、冬場閉鎖中の一般道での実施である。一般のユーザーが出くわすだろう実際の雪道により近いコンディションで、ホンダ製4WDの実力を体験できた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
機械式にこだわるホンダの4WD
今回のイベントで試乗できた4WDシステムは、シンプルなビスカスカップリング式4WDと、ホンダが言うところの「リアルタイムAWD」の2種類である。どちらも歴史の長い4WDシステムだから解説の必要はないかもしれないが、簡単に触れておくと、前者は粘性の高い液体で満たされたビスカスカップリングを介して駆動力を伝達するもの。普段は主に前輪駆動車として走行するものの、前輪がスリップし、前輪と後輪の間で回転差が生じた場合にはカップリング内で摩擦が生じ、後輪にも駆動力が伝わるというシステムである。シンプルで低コストな仕組みだが、後輪に駆動力が伝わる際のタイムラグが避けられないという限界もある。今回の試乗では、「フィット」のハイブリッド仕様である「e:HEV」と組み合わせた車両が用意されていた。
一方のリアルタイムAWDは、動力伝達にアクチュエーターによって制御する油圧多板クラッチを使うもので、こちらはビスカス式と異なり、アクセル開度や車速、ステアリング舵角やヨーレートなどのセンサー情報をもとに、前後の駆動力配分を能動的に変化させる。例えばコーナリング中にアクセルペダルを踏み込むと、そのときの走行状況から望ましい駆動力配分を導き出して、後輪にそれを伝える。今回の試乗車では、「ヴェゼル」や「CR-V」などのSUVに搭載されていた。
こうした試乗車のバリエーションからも分かる通り、ホンダは幅広い車種の4WD車に、ひとつの出力軸から提供される駆動力を、カップリングを介して前後輪に分割・伝達するシステム、いわゆる“機械式4WD”を取り入れてきた。
コストやスペース効率で優位性
一方、他社の例を見ると、特に最近のHEV(ハイブリッド車)では(フロントから駆動力を受け取るのではなく)後輪駆動に個別のモーターを使う例が増えている。例えばフィットと同じクラスでは、「トヨタ・アクア」や「日産ノート」の4WD車は、いずれも後輪を専用のモーターで駆動している。CR-Vの競合車種でも、「トヨタRAV4」のHEV仕様や、最近全面改良された「三菱アウトランダー」のPHEV(プラグインハイブリッド車)も、前輪と後輪を別々のパワーユニットで駆動する。HEVやPHEVでは、もはや後輪のモーター駆動は主流になりつつあると言っていい。
こうしたなかで、ホンダがあえて機械式を採用するのはなぜか。取材に対応してくれた車両運動性能開発課の富田孝文チーフエンジニアによれば、後輪に十分な駆動力を与えることを考えると、スペース効率やコストの面で、まだ機械式4WDに優位性があるという。例えばホンダのリアルタイムAWDでは、コーナリングなどの際に、駆動力の実に7割が後輪に配分される場合もあるという。瞬間的とはいえ、これだけの駆動力をモーターで発生させようとすればかなり高出力のものが必要となり、寸法がかさむうえにコストの上昇幅も大きくなる。実際、HEVの4WD車に後輪駆動用モーターを搭載するトヨタRAV4の場合、FF車と4WD車の価格差は25万3000円だ(「X」グレード同士の比較)。これに対して、CR-Vでは22万円(「e:HEV EX」グレード同士の比較)に抑えられている。
一方、フィットに搭載するビスカスカップリング式4WDも、やはり後輪にモーターを積むのに比べてコストが抑えられるのが魅力だという。同車のHEV仕様におけるFF車と4WD車の価格差は、19万8000円。これはトヨタ・アクアの場合とほぼ同じだが、アクアの後輪モーターの最高出力は4.7kW(6.4PS)と小さく、低速域でのアシストに割り切っていて4WDとしての機能は限られる。一方、最高出力50kW(68PS)というパワーで後輪を駆動する日産ノートの場合、FF車と4WD車の価格差は25万3000円に増大する。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
コーナーで実感する安定感
まず短い試乗コースでヴェゼルのFF車と4WD車を乗り比べてみたのだが、その差は歴然で、FF車だと前輪が滑り出してしまうようなコーナーでも、4WD車ではアクセルを踏んでいけた。後輪も駆動力を負担してくれるので、前輪がグリップを保持し続けるためだ。より長い試乗コースでは、ところどころぬかるんでいるコーナーもあったのだが、後輪がグリップしながら安定してコーナーを抜けていく感触があり、安心して走ることができた。
期待以上だったのはフィットのビスカス式4WDだ。前輪が滑り始めてから初めて後輪にも駆動力が伝わるパッシブ型のシステムだから、最初のうちはやや慎重に走っていたのだが、なかなかどうして、こちらも安定感のある走りを見せてくれた。ビスカス式4WDは、ホンダのなかではいわゆる「生活四駆」の位置づけなのだと思うが、実際に雪道を運転してみると、その範疇(はんちゅう)を超える走りを楽しめた。
興味深かったのは、ホンダが今後目指す走りを具現したという試作車「CR-V e:HEV(コアバリュー研究車)」である。この研究車両は、2025~2030年にホンダ車が一貫して目指す走りの方向性を、開発者の間で共有するためにつくられたという、いわば「ホンダ車の走りの“ものさし”」(ホンダの富田氏)である。実際に試乗してみると、ベースとなったCR-Vより明らかに「大人の走り」になったと感じる。路面から伝わってくる衝撃の受け止め方がしなやかで落ち着いており、揺すられ感が少ないので、安心して運転操作ができる。具体的には、サスペンションのセッティングや車体剛性の向上はもとより、シートの構造にまで改良の手が及んでいるという。
今回の雪上試乗会では、普段は出会う機会の少ない荒れた滑りやすい路面を走行することで、クルマの持つ走りのポテンシャルをより低い速度領域で体験した。機械式4WDは機械損失が増えるため、確かに燃費の面ではいくぶん不利だが、こと走りの面では決して時代遅れになっていないというホンダの言い分に、納得することができた。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
-
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気 2026.1.15 日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。
-
第857回:ドイツの自動車業界は大丈夫? エンジニア多田哲哉が、現地再訪で大いにショックを受けたこと 2026.1.14 かつてトヨタの技術者としてさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さん。現役時代の思い出が詰まったドイツに再び足を運んでみると、そこには予想もしなかった変化が……。自動車先進国の今をリポートする。
-
第856回:「断トツ」の氷上性能が進化 冬の北海道でブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」を試す 2025.12.19 2025年7月に登場したブリヂストンの「ブリザックWZ-1」は、降雪地域で圧倒的な支持を得てきた「VRX3」の後継となるプレミアムスタッドレスタイヤ。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて進化したその実力を確かめるべく、冬の北海道・旭川に飛んだ。
-
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末 2025.11.26 「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。
-
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記 2025.11.21 アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!?
-
NEW
スズキ・ワゴンR ZL(FF/5MT)【試乗記】
2026.1.28試乗記スズキの「ワゴンR」がマイナーチェンジ。デザインを変更しただけでなく、予防安全装備もアップデート。工場設備を刷新してドライバビリティーまで強化しているというから見逃せない。今や希少な5段MTモデルを試す。 -
NEW
クワッドモーター搭載で過去にないパフォーマンス BMWが示したBEV版「M3」の青写真
2026.1.28デイリーコラムBMW Mが近い将来に市場投入を図る初のピュア電気自動車の骨子を発表した。車種は明かされていないものの、「BMW Mノイエクラッセ」と呼ばれており、同時に公開された写真が小型セダンであることから、おそらく次期型「M3」と思われる。その技術的特徴を紹介する。 -
NEW
第100回:コンパクトSUV百花繚乱(前編) ―デザイン的にも粒ぞろい! 老若男女をメロメロにする人気者の実情―
2026.1.28カーデザイン曼荼羅日本国内でも、海外でも、今や自動車マーケットで一大勢力となっているコンパクトSUV。ちょっと前までマイナーな存在だったこのジャンルは、なぜ老若男女をメロメロにする人気者となったのか? 話題の車種を俯瞰(ふかん)しつつ、カーデザインの識者と考えた。 -
“走行性能がいいクルマ”と“運転しやすいクルマ”は違うのか?
2026.1.27あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの「走行性能の高さ」と「運転のしやすさ」は本来、両立できるものなのか? 相反するようにも思える2つ特性の関係について、車両開発のプロである多田哲哉が語る。 -
スバル・ソルテラET-HS(4WD)【試乗記】
2026.1.27試乗記“マイナーチェンジ”と呼ぶにはいささか大きすぎる改良を受けた、スバルの電気自動車(BEV)「ソルテラ」。試乗を通して、劇的に改善した“BEVとしての性能”に触れていると、あまりに速いクルマの進化がもたらす、さまざまな弊害にも気づかされるのだった。 -
【番外編】バイパー、磐越を駆ける
2026.1.27バイパーほったの ヘビの毒にやられましてwebCG編集部員が、排気量8リッターの怪物「ダッジ・バイパー」で福島・新潟を縦走! 雄大な吾妻連峰や朋友との酒席で思った、自動車&自動車評論へのふとしたギモンとは。下手の考え休むに似たり? 自動車メディアの悩める子羊が、深秋の磐越を駆ける。











































