レクサスRZ450eプロトタイプ(4WD)
あくまでもナチュラル 2022.04.20 試乗記 「トヨタbZ4X」に続いて、そのレクサス版ともいえる「RZ」が早くもデビュー。レクサスとしては初めての電気自動車(BEV)専用モデルだ。完成度はまだまだとのことながら、テストコースで乗ったプロトタイプの仕上がりをリポートする。航続可能距離は450kmを想定
2021年末、2035年までに販売車両の100%をBEV化するという野心的な目標を掲げたレクサスにとって、このRZは言うまでもなく重要なスタート地点に立つ一台となる。BEVとしてはその前に「UX300e」があったとはいえ、あちらはガソリン車の居抜き的な一面も否めなかった。が、RZはBEV専用プラットフォームである「e-TNGA」を採用した言い訳のないBEV車両だ。これまで電動化で先駆けたブランドゆえのノウハウがどのくらい生かされているのか。どこまで本気でBEVに対峙(たいじ)しようとしているのか。いろいろな思惑を探られる、当然ながらそんな立ち位置にある。
RZのパワートレインは、前軸に最高出力150kW(204PS)の、後軸に同80kW(109PS)の2つのモーターを搭載する4WDのみの設定となる。同じアーキテクチャーを用いる「トヨタbZ4X」&「スバル・ソルテラ」の4WDモデルが前後に80kWのモーターを積むのに対して、フロントにFWDモデル用のモーターを用いて差別化を計ったのがRZのプレミアムという見方もできるだろう。ちなみに搭載されるバッテリー容量は71.4kWhと、e-TNGA採用車両間で違いはない。サプライヤーも同じくトヨタとパナソニックの合弁会社となるプライムプラネットエナジーソリューションズだ。一充電走行距離はWLTCモードで450kmを想定しており、インバーターのスイッチング素子にはSiCを採用。低損失を実現するなど車体側の効率向上技術も織り込んでいる。ちなみに空気抵抗係数のCd値は0.26程度に抑えられているという。
ツインモーターならではの自在な駆動力配分
レクサスが「DIRECT4」と呼ぶ4WDシステムは、モーターならではの素早く緻密な応答性を生かして、走る曲がるのみならず、姿勢制御などにも積極的に駆動配分を関わらせている。その制御は車輪速や加速度、舵角などから総合的に判定。基本特性は前:後ろが0:100~100:0の可変ロジックだが、発進時や加速時は60:40~40:60で配分。コーナーの進入時は75:25~50:50、脱出時は50:50~20:80付近でリニアに配分制御しており、ピッチングなどの不安定挙動を抑えながらトラクションや旋回力を最大限に高めるようにセットアップされている。また、ドライブモードを「レンジ」に設定すれば、駆動制御に加えて空調など補機類の稼働も含め、航続距離を引き延ばす状態に移行する。
この運動特性に合わせ込んで開発が進められているのがバイワイヤ式のステアリングシステムだ。左右150度の操舵角で車庫入れから高速コーナーまであらゆる旋回動作に対応するというそれは、物理的な直結要素を持たない純然たる電気信号式になるという。が、そのキャリブレーションはやはり一筋縄ではいかないようで、bZ4Xと同じく、市場投入はやや遅れる見通しだ。
そんなわけで今回機会を得たプロトタイプの試乗は、従来のメカニカルな円形ステアリングのグレードのみとなった。が、コースは2023年以降、レクサスのR&Dの拠点となる愛知・下山のテストコースだ。ことシャシーへの攻撃力でいえば、自動車メーカーの保有するあまたのコースのなかでも屈指のレイアウトといえる。
シャシーをがっちりと補強
プロトタイプゆえに質感自体は判断しかねるが、RZのエクステリアデザインは新章の第1弾としては適度な飛躍感で、個人的にはBEVだからと気張りすぎていないところに好感が抱けた。リアゲートの傾斜角を強めてエアフローをガラス側に配分した結果、リアワイパーレスを実現したという後ろ姿もすっきりとまとまっている。
インテリアデザインの基本造形はbZ4Xに比べるとオーセンティックで、先進性=前衛的とみれば刺激が足りないと思う向きもあるかもしれない。ただし使い勝手面でも現状の延長線上にあり、扱いに難しさがないところは好意的に受け止められる。ドライビングポジション面ではインパネ位置が低めに抑えられ、円形ステアリングではリム内からメーター情報を視認するかたちとなるあたりがbZ4Xとは異なるポイントだ。また、シート表皮にはバイオ素材を30%配合したウルトラスエードなどを採用してレザーフリー化を進めるなど、SDGs的な観点にも配慮されている。
乗員のつま先が床面のクロスメンバーと干渉して前席下への足入れが難しいという、e-TNGAに共通した後席のウイークポイントを抱えてはいるが、RZの場合、オプションのパノラマルーフを装着することで天地方向の開放感を高められる。このルーフには遮熱性や紫外線に優れるうえ、「ハリアー」にも用いられた調光機能付きガラスパネルを採用することでシェードレス構造を実現しており、ヘッドクリアランスも十分に確保している。
まずは様子見を兼ねてゆっくりとコースインすると、その時点から感じられるのが車体剛性の高さだ。骨格そのものにもレクサスならではの部材や工法を用いてさまざまな補強を加えているだけでなく、足まわりを支持するサブフレームの接合やバネ下の懸架からも濁りを伝える要素が入念に取り除かれていることが伝わってくる。さらに前後にはヤマハ製の「パフォーマンスダンパー」も加えられるなど、シャシーまわりのノイズが徹底的に排除されたおかげで、転がりのすっきり感が際立っていた。レクサスの十八番である静粛性という美点が、周囲のBEV化が進むにつれてハードルが高くなるなか、なにをもってレクサスライドとするかは悩みどころだろうが、対症療法的な面も含めて入念なシャシーづくりの向こうに、その模索や試行錯誤のあとが垣間見える。
伸びしろは十分
コースとクルマに慣れ始めたところでアクセルを踏み込んでいく。と、DIRECT4の緻密な駆動制御をもって目の覚めるような旋回が……と書き続けたいところだが、実はRZ、そういう分かりやすい刺激という方向に走らず、今までとは次元の違う限界能力に向かって努めて自然に過渡させていくという素直な味つけがなされていた。タイヤをかき鳴らしてコーナーのインをかっさばいていくような鋭さではなく、狙ったところにスッと動きながら徹頭徹尾、オンザレールできれいに弧を描いていく、そういうダイナミクスが基礎にある。
聞けば開発陣が共有して掲げた目標は、BEVならではの技術的特徴を際立てるというよりも、いかにその特徴をナチュラルにしつけて走らせるかというところにあったという。個人的にはその意向には賛成だし、おかげでRZはこれまで体験したBEVのなかでも三指に入るほど上品なドライバビリティーを手に入れていたように思う。
が、ともすればその提案は、未体験の新しい乗り物を買うんだから思い切り今までとの違いを感じさせてほしいと思っているカスタマーには物足りなさとして映ってしまうかもしれない。BEVといえばバカ加速という、まったく環境に優しくないイメージを植え付けたテスラは罪深い。が、商売上手でもあることは確かだ。こういった懸念をバイワイヤのモデルがうまく拭ってくれることを期待したいと思う。
ちなみに今回乗せてもらったRZは、ラインを使った量産試作よりも前の段階ということで、われわれのような部外者が触れる機会としてはかなり早いほうに入る。現状の完成度としては8割超えくらいというのが、エンジニアの実感だという。例えば停止寸前からの全開加速や、回生とメカニカルブレーキの端境を探るような制動といった意地悪なアラ探しをすれば、メカニカルなショックやジャークの立ち上がりなどで気になる場面もあるが、それらは年末の発売に向かってさらなる熟成項目として詰めているところだという。ましてやソフトウエア領域での改善幅が広く見込めるBEVゆえ、まだまだ進化し、変貌していく余地がたくさん残されている。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスRZ450eプロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1895×1635mm
ホイールベース:2850mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:204PS(150kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:109PS(80kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:--PS(--kW)
タイヤ:(前)235/50R20/(後)235/50R20(ダンロップSPスポーツマックス050)
一充電走行距離:450km前後(開発目標値)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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