第241回:「ボクスター」で黄金の老後を目指せ!
2022.09.19 カーマニア人間国宝への道実はボクスターが狙い目?
私は常に、おっさんの理想的なカーライフを模索している。その結果が現在の「フェラーリ328GTS」「プジョー508 GT BlueHDi」「ダイハツ・タントスローパー」という3台のラインナップだが、正解は無限にある。私は、無限の正解を模索する求道者なのである。
無限の正解のなかに、ふと「ポルシェ・ボクスター」が浮かんだ。「911」の購入が超絶困難となった今、ポルシェのスポーツカーを買うなら、ボクスターか「ケイマン」以外にないんじゃないか。結論として、「約300万円で買える2代目ボクスターを狙え!」ということになった。
ボクスターというクルマは、大量生産……まではいかないにせよ、中量生産くらいを目指してつくられていて、古いほうが味わいがあるわけではない。かつ、操る楽しみを目的としているので、速ければエライわけでもない。初代は完成度的にも経年劣化的にも避けたい気がするが、2代目ならもうパーフェクト。極論すれば、2代目以降は同じようなものじゃないか? なら一番お安い2代目がオススメ! という結論に至ったわけだが、そんなとき、タイミングよく担当サクライ君よりメールが入った。
「近いうちに『718ボクスターT』にお乗りになりますか」
Tとはツーリングの略で、質実剛健なグレードであるという。
「乗る乗る~!」
![]() |
![]() |
![]() |
おとなしくなったエンジンサウンド
いつものように午後8時、サクライ君がブツを転がしてやってきた。
黄色いボクスターTは、あらためて見ると実に小さい。全長×全幅×全高は4379×1801×1276mm(欧州仕様車値)。わがフェラーリ328GTSは4285×1730×1128mm。ほんのひとまわり大きいにすぎない。先日乗せてもらった「アルピーヌA110 S」ともども、おっさんが胸キュンな小柄な美少女である。人間の美少女にはもはや何の関心もなく熟女一本だが、クルマはいくつになっても美少女が好き。しかも試乗車は6段MT。涙が出る。
思えばボクスターに乗るのは6年ぶりか。4気筒化の直後に試乗して以来だが、お元気だっただろうか。
うおおおお! ボクスターってこんなだったっけ!?
まず、極低速トルクがヤケに細い。信号の変わり際、ノロノロ状態から2速でつないだら、エンストをぶっこいた。328なら3速でもイケるのに! 328はエンジンが冷えてるときは2速を使わないので、こういうときも3速常用でラクラク加速するトルクがある。つまり328は旦那仕様だけど、ボクスターはとんがってる!
一方、回したときのサウンドは、ずいぶんスムーズかつおとなしくなった印象だ。6年前は、初代「インプレッサWRX」みたいな4気筒ボクサーサウンドにシビレたが、あの音、不評だったのだろうか?
たぶんそうだろう。世界中のカスタマーから「インプレッサみたいだ」とクレームが入ったのだろう。仕方なくポルシェは、一瞬4発だか6発だかわからない音に修正したのだろう。まったくもってすべて臆測です。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
おっさんにもやさしいポルシェ
さらに驚くべきは、ターボラグのデカさだった。首都高に乗り入れ、2000rpmからアクセルを床まで踏みつけたところ、ほとんど加速しない! 3000rpm近くでようやくブーストがかかり始めた! ボクスターのエンジンってこんなとんがってたのか……。その割には、トップエンドでのパワーの伸びもそんなでもないので安心安全ナリ。
わかった! これは全部わざとやってるんだ! じゃないと運転がツマンナイから!
先日乗ったアルピーヌA110 Sは、どこからでもトルクが出ててつまんなかった。しかしボクスターTは、3000rpm以下だとタービンがまともに回らない! つまり、「ちゃんと加速したけりゃシフトダウンしろよ」ということなのだ、たぶん。かといって、ブチ回しても目がついていかないほどの超絶加速はしない。なんという親心だろう!
T=ツーリング仕様だけに乗り心地はカイテキで、おっさんの腰にも優しい。6段MTもある。エンストも簡単にできる。おっさんカーマニアが求める要素がすべてそろっている!
オレ:サクライ君、718ボクスターT、スバラシイね!
サクライ:スバラシイです。
オレ:これでおいくら万円?
サクライ:オプション込みで1000万円ちょっとです。
911で6段MTを買おうとしたら「GT3」しかない。それに比べるとウルトラ安い! この1000万円ちょいの718ボクスターTで、月に一度、夜の首都高をオープンで流せば、カーマニアとして黄金の老後ではないか!?
でもまあ、2代目ボクスターでもいいんじゃないかと思いました。300万円だし。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。