クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

アナタだって事故を起こすかも…… トヨタとホンダが実装する「急アクセル抑制機能」の有効性

2022.09.30 デイリーコラム 堀田 剛資
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

ペダルの踏み間違いによる事故を回避

助手席のスタッフの指示に従い、クリープでののろのろ運転から「急ブレーキを踏んだつもりで」アクセルを踏みつける。しかしクルマは加速しない。制御が介入して、エンジンをアイドリング状態に保つのだ。同時に警報が鳴り、メーターパネルのインフォメーションディスプレイに警告表示が映される。いわく「急アクセル抑制機能作動中 アクセルを戻してください」

これが、起きることのすべてである。最近ではハンドルまで操作するようになった他の予防安全機能と比べれば簡素だが、それで救われる命があるのだから、軽んじてはいけない。

2022年9月22日に発表された「N-WGN」の改良モデルで、ホンダは自社製品に初めて「急アクセル抑制機能」を採用した(参照)。ドライバーのペダルの踏み間違いを検知して、クルマが加速を抑制するものだ。類似の機能としては「誤発進抑制機能」が挙げられるが、あちらが進行方向の障害物を検知して作動するのに対し、こちらは障害物の有無は関係ない。ドライバーのペダルの踏み加減から誤操作か否かを判断し、加速を抑える仕組みとなっている。

読者諸兄姉のなかには、2019年4月に東京・池袋で起きた交通事故を覚えている人も少なくないだろう。母子の命を奪った暴走の原因は、ドライバーによるアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いとされた。翌2020年7月には、他社に先駆けてトヨタが「急アクセル時加速抑制機能」を実用化。無数のユーザーの走行記録から算出した誤発進のアルゴリズムを、日本自動車工業会を通して公開するとした。

今回のホンダによる急アクセル抑制機能の採用は、こうした事故予防の潮流に沿ったもので、もちろん歓迎すべき取り組みである(先例から2年も間が空いた理由は、ちょっと気になりますが)。先日、その急アクセル抑制機能を“体験”する機会を得た。

「急アクセル抑制機能」の体験試乗へと臨む、報道陣を乗せた「ホンダN-WGN」。
「急アクセル抑制機能」の体験試乗へと臨む、報道陣を乗せた「ホンダN-WGN」。拡大
記者にシステムの仕組みを説明してくれた、本田技研工業 ソフトウェアデファインドモビリティ開発統括部 先進安全・知能化ソリューション開発部 シャシーダイナミクス制御開発課の吉川史哲氏。
記者にシステムの仕組みを説明してくれた、本田技研工業 ソフトウェアデファインドモビリティ開発統括部 先進安全・知能化ソリューション開発部 シャシーダイナミクス制御開発課の吉川史哲氏。拡大
システムが急なアクセルの踏み込み操作を「ペダルの踏み間違い」と判断すると、アクセル開度に関わらずエンジンをアイドリング状態に保ち、急加速を抑制する。
システムが急なアクセルの踏み込み操作を「ペダルの踏み間違い」と判断すると、アクセル開度に関わらずエンジンをアイドリング状態に保ち、急加速を抑制する。拡大
5秒以上アクセルを踏み続けると、車速は最大30km/hまで上がるが、一度しっかりアクセルを戻さない限りは、それ以上加速はしない。
5秒以上アクセルを踏み続けると、車速は最大30km/hまで上がるが、一度しっかりアクセルを戻さない限りは、それ以上加速はしない。拡大
ホンダ の中古車webCG中古車検索

複雑な作動条件にみるメーカーの慎重さ

急アクセル抑制機能の体験会は、N-WGNのマイナーチェンジモデルの取材会と合わせて実施された。同乗する開発メンバーの説明を聞きながら、さまざまなシーンでその作動を体験するという内容だ。

そこでの体験、および開発者の説明によって確認できたシステムのあらましを箇条書きすると……、

(1)作動するのは車速が30km/h以下の場合。
(2)ペダルの踏み間違いを検知すると、5秒にわたりエンジンをアイドリング状態に保ち、出力を抑制する。
(3)5秒以降は最大30km/hまで車速を上げるが、それ以上は加速しない。またこのタイミングで警告音も切り替わる。
(4)アクセルを完全に(おそらくは一定時間)戻すと、システムは解除される。
(5)後退時にもシステムは作動する。ただし5秒以降の加速上限速度は12km/h。
(6)2度、3度……とアクセルを連続して踏んだ場合、2度目で30km/hまで加速。それ以上は何度踏んでも加速しない。
(7)シフト位置に関係なくシステムは作動する。「P」や「N」でも(取りあえず?)作動する。
(8)ブレーキペダルから足を離した直後は、システムは作動しない。
(9)ハンドルを切った状態でもシステムは作動するが、ウインカーが出ている場合は加速を容認する。

……といった感じである。

「強制的に加速を抑制する」というシステムの性格もあってか、作動条件はかなり考えられている印象で、(8)は信号青などでベタ踏みしがちなドライバーを考慮、(9)は縦列駐車枠からの急ぎの出庫や、急な合流などを想定したものだろう。

このシステム、基本的な部分は既存のトヨタのものと共通で、システムのオン/オフがリモコンキーに由来しているところも同じだ。つまり「急アクセル抑制機能を有効化するキー」でクルマを始動した場合はシステムが稼働し、そうでないキーの場合は、システムは非稼働となる。クルマ側のボタンで、随意オン/オフを切り替える……といったことはできない。

「急アクセル抑制機能」のオン/オフはリモコンキーに連動しており、販売店で機能をアクティベートされたキーでクルマをスタートした場合のみ、システムは稼働状態となる。
「急アクセル抑制機能」のオン/オフはリモコンキーに連動しており、販売店で機能をアクティベートされたキーでクルマをスタートした場合のみ、システムは稼働状態となる。拡大
「急アクセル抑制機能」を有効化するリモコンキーでクルマを始動すると、メーターのインフォメーションディスプレイには、写真のようにシステムがオンになった旨が表示される。
「急アクセル抑制機能」を有効化するリモコンキーでクルマを始動すると、メーターのインフォメーションディスプレイには、写真のようにシステムがオンになった旨が表示される。拡大
システムが作動すると、クルマはドライバーに警報を発し、インフォメーションディスプレイにもアクセルを戻すよう警告が表示される。
システムが作動すると、クルマはドライバーに警報を発し、インフォメーションディスプレイにもアクセルを戻すよう警告が表示される。拡大
警報は最初の5秒が「ピーピー」という連続したもので、その後は切れ間のない「ピー……」という音に変わり、車速が30km/hまで解放される。
警報は最初の5秒が「ピーピー」という連続したもので、その後は切れ間のない「ピー……」という音に変わり、車速が30km/hまで解放される。拡大
システムはハンドルを切った状態でも作動するが、ウインカーが出ていると加速を容認する。また“トヨタ版”とは違い、シフトポジションが「P」や「N」の状態でも“誤操作”と判断すればエンジンの回転を抑制する。
システムはハンドルを切った状態でも作動するが、ウインカーが出ていると加速を容認する。また“トヨタ版”とは違い、シフトポジションが「P」や「N」の状態でも“誤操作”と判断すればエンジンの回転を抑制する。拡大

誰だって事故の当事者になりうる

一方、ホンダが独自性を示したところが、標準装備のリモコンキーを販売店で「急アクセル抑制機能・有効キー」に変更できる点だ。既存のトヨタ版では、標準のリモコンキーとは別に“有効キー”そのものを購入する必要があった。もちろん、そのぶんホンダ版は価格が安く設定されており(5500円)、「より普及できれば」「手軽に手を伸ばしていただければ」と先述の開発関係者&広報担当者は語っていた。

さて。こうした急加速抑制システムの有効性について、記者は長いこと興味を持っていたのだが、メーカーがその実データを示したという話は聞いたことがない。せいぜいトヨタが、「把握する195件の踏み間違い事故において、約63%の事例で作動が期待できる」とふんわり説明している程度だ。そう頻発する事故ではなく、また初実装から2年しかたっていないので、データの蓄積が少ないのだろう。

一方で、今回のイベントでは興味深い情報が示された。ペダルの踏み間違いというと「高齢ドライバーの問題」と思われがちだが、実際には若年層による事故も多いのだ。公益財団法人 交通事故総合分析センターによる2018~2020年の統計では、全事故件数に占めるペダル踏み間違い事故の比率は、1位は75歳以上で2.71%だったが、2位は29歳以下で1.17%となっていた。そして事故件数そのものについては、75歳以上の2388件に対して29歳以下は2612件と、若年層のほうが多いのだ。もちろん、他の年齢層でも同様の事故は報告されている。ペダルの踏み間違いは、誰でも起こしうるトラブルなのだ。

「ドライバーの操作を無視する」というシステムの性質を思えば、この機能を忌避するユーザーがいるのも理解できるし、不要作動……ドライバーが「加速したい」と思ってアクセルを踏んでいるのに、システムが誤操作と判断して加速を抑制してしまう……が発生する可能性も確かにゼロではない。採用に慎重なメーカーや、あっても買わないというユーザーに無理強いするのは理不尽というものだろう。それでも読者諸兄姉には、こういうシステムがあるということと、こういうシステムが登場した経緯をココロにとどめておいていただきたい。死亡事故ゼロの社会は、メーカーのガンバリだけでは実現できないのだ。

(文=webCGほった<webCG“Happy”Hotta>/写真=webCG/編集=堀田剛資)

ドライバーがパニックになってアクセルを連続で踏んでも、システムは解除されない。2度目のアクセルで最大30km/hまで車速は上がるものの、その後は何度踏んでも、30km/h以上には加速しない。
ドライバーがパニックになってアクセルを連続で踏んでも、システムは解除されない。2度目のアクセルで最大30km/hまで車速は上がるものの、その後は何度踏んでも、30km/h以上には加速しない。拡大
取材会にはホンダの安全技術開発を統括する、髙石秀明エグゼクティブチーフエンジニアも参加。追突事故を82%、歩行者事故を56%減らせるという「Honda SENSING」のデータや、死亡事故ゼロへ向けたホンダの取り組みが説明された。
取材会にはホンダの安全技術開発を統括する、髙石秀明エグゼクティブチーフエンジニアも参加。追突事故を82%、歩行者事故を56%減らせるという「Honda SENSING」のデータや、死亡事故ゼロへ向けたホンダの取り組みが説明された。拡大
「トヨタ・シエンタ」の試乗会より、会場に展示された「プラスサポート」の解説パネル。「踏み間違い事故の約63%をカバーできる」という説明は、トヨタの公式ウェブサイトにも掲載されている。
「トヨタ・シエンタ」の試乗会より、会場に展示された「プラスサポート」の解説パネル。「踏み間違い事故の約63%をカバーできる」という説明は、トヨタの公式ウェブサイトにも掲載されている。拡大
「ドライバーの操作を無視し、強制的に加速を抑制する」というシステムへの不信感に加え、「いざというときに加速できないのでは?」という不安から、忌避するユーザーもいるという「急アクセル抑制機能」。普及には、システムのさらなる進化はもちろん、販売現場での丁寧な説明も必要となりそうだ。
「ドライバーの操作を無視し、強制的に加速を抑制する」というシステムへの不信感に加え、「いざというときに加速できないのでは?」という不安から、忌避するユーザーもいるという「急アクセル抑制機能」。普及には、システムのさらなる進化はもちろん、販売現場での丁寧な説明も必要となりそうだ。拡大
堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

デイリーコラムの新着記事
デイリーコラムの記事をもっとみる
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。