トヨタFJクルーザー(4WD/5AT)【試乗記】
まさに“トヨペット” 2011.02.04 試乗記 トヨタFJクルーザー(4WD/5AT)……336万7850円
オフロード性能も本格的! 「FJクルーザー」はルックスだけでなく、ヘビーデューティさでもランクルの魂を継承していた。
史上初の(?)かわいい系SUV
去年の春、並行輸入屋さんで借りた「トヨタFJクルーザー」を撮影したことがある。その時点ではまだ、トヨタが日本で販売していなかったのだ。売り物だから走らせるわけにはいかず、左ハンドルの北米仕様は積載車に積まれて登場。カメラマン氏はクルマに全然詳しくない人だったけれど、一目会ったその日から恋の花咲くこともある。
「このクルマ、どうですか?」と尋ねられたけれど、乗ったことがなかったので「中身はランクルのプラドだし、日本の工場で作ってるから悪くないはず」と曖昧に答えた。カメラマン氏の熱を冷ますために「でも、もうしばらく待つとトヨタが正規モノを売るらしいですよ」とアドバイスしたのだけれど、燃えさかる恋の炎を鎮火することはできなかった。数週間後、カメラマン氏は満面の笑みとともに「FJクルーザー」で撮影現場に現れた…。
でも、カメラマン氏の気持ちはわかる。クルマって、欲しくなると今すぐに欲しくなるのだ。そして、FJクルーザーがクルマ門外漢をとりこにしたのは、もちろんデザインに力があったからだ。
FJクルーザーのデザインは「40系ランクル」(1960年〜84年生産の「ランドクルーザー40」)を意識しているとのことだけれど、真横や斜め後ろから見た時のルーフやフェンダーのラインは、最近のSUVよりモダンに見える。だから懐かしさと新しさが入り交じった、複雑なデザインだと思う。自分がこのクルマにそれほどレトロ風味を感じないのは、「MINI」や「フォルクスワーゲン・ビートル」「フィアット500」と違って、40系ランクルと言われてもあまりピンとこないせいかもしれない。
キャラクターラインが、などという小難しい話は抜きにして、丸目2灯のヘッドランプが効いている。最近のクルマはどれも目が吊り上がっていて、カッコはいいけれど怒っているみたい。今までSUVというと「タフ&ワイルド系」と「ゴージャス系」に大別されたけれど、「FJクルーザー」は「かわいいペット系」のSUVという新ジャンルを開拓したのではないか。あと、黄色が似合うSUVに出会ったのも、個人的には「いすゞ・ビークロス」以来、9年振り2度目だ。
インテリアはシンプルで高級な感じはしないけれど、肩の力が抜けたいい具合のユルさが楽しい。仕様によってインテリアは異なるけれど、個人的にはセンタークラスターだけでなくドアトリムまでがボディ同色となる「カラーパッケージ」がおすすめ。
キメの細かいアメ車
パートタイム4WDシステムを採用する「FJクルーザー」では、トランスファーレバーでFRと4WDを切り替えることができる。トランスファーレバーをH2にするとドライの舗装路に向いたFR(後輪駆動)、滑りやすい路面では四輪駆動ハイモードのH4を選び、オフロードでは四輪駆動ローモードのL4を選択。舗装路なのでまずはH2でスタートする。
4リッターのV型6気筒エンジンは、まったりした性格。5000rpm以上までスムーズに回るには回るけれど、回したところで「ゴー」という味気ない音が高まるだけ。パワーが気持よく盛り上がって心が躍るわけでもない。だから自然とあまり回転を上げない運転スタイルになるけれど、低い回転域から力持ちだからそういった使い方にはフィットする。1940kgの車体がホワっと加速する。目立たないけれど5ATのトランスミッションはスムーズに仕事をしていて、クルマ全体に洗練された印象を与えている。
ボディ構造には、本格的なオフロード走行に対応するラダーフレームを採用している。だから舗装路では多少ゴリゴリ、ゴロゴロするのではないか、と思っていたけれど、そんな予想は覆された。乗り心地は滑らか&軽やかで、足まわりのセッティングもソフト。高速コーナーではグラッと傾いてやや怖い思いをするものの、それ以外は実に温和なマナーを見せる。エンジンやトランスミッションも含めて、乗り味には上品なゆったり感があって、全体にキメの細かいアメ車といった印象。
そして今回の試乗では、うれしいことにオフロードコースを走る機会があった。
オフロード性能は本格的
クローズのオフロードコースに入って、まずはトランスファーレバーをH4に入れる。このコースは何度も経験しているので、どこが難所かはだいたい頭に入っている。
まずは、未舗装の急勾配登り坂。難なくクリア。下り坂、問題なし。大岩が連続する登りセクション。体が斜めになるほどボディが大きく傾いても、サスペンションがすうーっと伸びたり縮んだりして、タイヤは岩から離れない。あっさりクリア。
いろいろ走り回ってみたのだけれど、結局、H4だけですべて乗り切ってしまった。さらにヘビーデューティなL4を温存していることを思うと、「FJクルーザー」のオフロード走破能力は相当なレベルにあると思われる。
荷室は広いうえに防水カーペットが敷き詰められていて使い勝手が抜群。「ランドクルーザー プラド」よりホイールベースが100mm短くなっているのに、最小回転半径がプラドの5.8mから6.2mへと大きくなっているのは気になった。けれど、ボディの四隅が把握しやすいことから、取り回しに困ることはなかった。
アメリカの「FJクルーザー」ファンサイトをのぞくと、みなさんやってる、やってる。専用のパーツをごっそり取り付けた、 “俺だけのオフロードエクスプレス”が自慢げに並んでいるのだ。そして、「信じられないほどメンテにお金がかからない」「ほかのクルマが目に入らない」といった愛あるコメントであふれる。
サイト内のオンラインショップで売られるピッカピカの「4WD Shift Knob $44.95」があまりにステキで、今も買おうかどうか迷っている。約100万円割高の並行輸入車を買ってしまった、先のカメラマン氏にプレゼントしようと思って。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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