第736回:ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザックVRX3」の実力を冬の北海道で試す
2022.12.23 エディターから一言冬の生きた雪道で試走
これまでアイススケートリンクを舞台とした発進や制動といった極低速域での挙動や、逆に積雪・凍結路面に至るまでの日常走行シーンをイメージしたドライの舗装路面上での印象を数度に分けてリポートしてきた、ブリヂストンの「ブリザックVRX3」。2021年9月に発売された最新のフラッグシップスタッドレスタイヤである。
実は今から1年ほど前の2021年12月にその真の実力を確かめるべく北海道・千歳へと飛んだものの、積雪のタイミングにはわずかに早過ぎた。周辺道路はどこも完全なドライ状態で、目的とした雪道での試走は見事空振りに終わった。
そこで「今年こそは!」と今度は同じ北海道でも旭川へと場所を変え、再チャレンジ! 今回もテストドライブの実施1週間ほど前までの積雪量は1cm程度で、「もしやまたも“カラ出張”か?」と諦めの気持ちも芽生えかけたが、そこは日ごろの行いの良さゆえか到着日直前になってついに待望の本格降雪! 2年越しとなる雪上試走が見事達成されることになった。
試走日にあらためてチェックすると、旭川市内を縦断する幹線道路は多くの車両の通行によってすでにアイスバーン化。そこから車両交換地点に設定された標高2291mという北海道最高峰の旭岳へと向かうルートは、温度の低い橋上部で一部凍結しかけていたり、かと思えば巻き上げた雪が延々と漂うような視界に不安を感じる状態であったりと、まさに冬の生きた道路状況を呈していた。
こうして“百聞は一見に如(し)かず”ではないが、「100回のスケートリンクよりも1度のリアルワールド」といえる絶好の舞台を、まずは235/55R19サイズのブリザックVRX3を装着した「アウディQ5」でスタートした。
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寛容性の高さが信頼感の向上につながる
山岳部を目指す前に市街地での走りを試すべく、まずはベースとなったホテル近隣ルートを周回。まだ早朝ということで、道行く車両もまばら。加速やブレーキングに強弱をつけてみたり、少しラフなステアリング操作をしてみたりと、この段階ですでにスタッドレスタイヤのトップランナーと目されるブリザックVRX3が有する実力の一端を実感することとなった。
加速や制動シーンにおいて、「そろそろグリップ力の限界に達してトラクションコントロールやABSが介入してくるのでは?」との予想を軽く超えるレベルで、頼もしい接地感を提供してくれたのだ。
確かにホテル周辺には目立った凍結箇所などは少なく、市内の幹線道路に比べて路面コンディションがさほど悪くはなかったのは事実。けれども、それを差し引いても思った以上に力強く加速し、思った以上に短い距離で止まってくれる。それは、ちょっと誇張して言えば「舗装路上とさほど変わらなく思えたほど」と、そんな印象ですらあったのだ。
こうしてファーストインプレッションをつかんだ後、距離にして約50km、標高差にして1000mほどの中継地点へと向かう道中でも、遭遇するさまざまな路面状況や異なる走りのパターンに対して、常に高い信頼感を提供してくれるという印象が変わることはなかった。
ただし途中で舗装の工事区間に差しかかり、それまで雪に覆われていた路面から舗装面がむき出しとなった区間へと差しかかると、パターンノイズが思いのほか明瞭に耳に届き始めて「あれっ」と感じられたシーンも。以前、究極の平滑路面ともいえるスケートリンク上で従来型「ブリザックVRX2」との比較試走を行った際に、「もしかしてブリザックVRX3のほうがちょっとだけパターンノイズが大きいか?」とそんな印象を抱いたことを思い出した。
とはいえ仮にそうだとしても、これだけの性能を発揮するのであれば多少のノイズなら気にする必要もないだろう。一度溶け出した雪が再度凍結し、断続的に氷の凸凹が現れるようなポイントを通過したが、そうしたシーンでも不意に進路を乱されるようなこともなく、難なく突破してくれるタフネスぶりも頼もしかった。単に特定シーンでの性能に優れるだけではなく、こうしたさまざまな状況に対しての寛容性が高いことも、このタイヤへの信頼度につながっていった。
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頂点ゆえの考えどころ
旭岳ふもとにある中継地点へと難なく到着した後、そこを基点に「メルセデス・ベンツGLC」や「トヨタ・ヤリス クロス」、そしてSUV用として2022年10月に追加設定されたサイズを履く「トヨタ・ハリアー」など、さまざまなモデルを乗り換えながらテストドライブを続行。
この周辺は主にパウダースノーの積雪状態がメインだったものの、思った以上に自在に操れるという感覚を各車に共通して抱くことができた。一般に、接地面積の拡大が性能アップのひとつのカギになるとされる氷上性能において、従来比で「氷上性能120%到達」とアピールするブリザックVRX3の場合、雪上性能とのトレードオフという懸念もあったが、どうやらそうした心配は無用のようだ。すなわち、やはりこの点でも「スタッドレスタイヤのトップランナー」という評価は続くことになったわけだ。
旭川中心街を基点に旭岳へと向かうこのルートは、実は2022年2月に某ライバルブランドのスタッドレスタイヤでも経験したコースそのものだった。もちろん、厳密には走行した日時が異なれば路面状況も異なることになり、このあたりがスタッドレスタイヤの性能を見極める際の難しいところでもあるのだが、ひとまずそれは脇に置いて当時の記憶を探ってみれば、いずれもトップを争う性能の持ち主と認めたくなる一方で、加えるならば「ブリザックVRX3の実力はライバルと同等かそれをしのぐ」というのが今回の実感となった。
ただし、いざ自分で選択・購入となった段階ではちょっと迷うことになりそうだ。それはブリザックVRX3をブリヂストン自らが“プレミアムスタッドレスタイヤ”と紹介するように、実勢価格が他製品よりも高いことが多いからだ。
確かに「高価なものは良いもの」、あるいは「名の知られたものは優れたもの」という基準で選択しても間違いなさそうではあるものの、それを踏まえたうえで「冬道では特に注意深く運転するので、よりリーズナブルなアイテムを選びたい」といった判断を行ったとしても、それはそれで一理ある。
いずれにしても、リアルな雪道でのブリザックVRX3の実力を実感できたのは大きな収穫。そのうえで、確かに“太鼓判”を押したくなる手応え十分のスタッドレスタイヤであった。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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