トヨタGRカローラRZ“モリゾウエディション”(4WD/6MT)
真のクルマ好きに捧ぐ 2023.03.17 試乗記 わずか70台限定で販売された「トヨタGRカローラRZ“モリゾウエディション”」に試乗。高出力ターボエンジンとフルタイム4WDを備えた「GRカローラ」のさらなるハイパフォーマンスバージョンは、走り好きのこだわりが詰まった珠玉のマシンに仕上がっていた。「GRヤリス」も「GRカローラ」もある幸せ
「カローラ スポーツ」のシャシーを鍛え上げ、そこに「GRヤリス」のパワートレインをまるっとインストールしたのが、GRカローラ。そのGRカローラのなかでも、さらに走りの純度を高めた特別なモデルが、今回紹介するGRカローラRZ“モリゾウエディション”だ。
限定500台のGRカローラRZに対して、モリゾウエディションはさらに少ない70台。そしてそのどちらもが抽選での販売となり、その当落は、すでに2023年1月初旬の段階で申込者に通達されている。だから今、トヨタのホームページを確認すると、そこにはひとこと「抽選申し込みは終了いたしました」と書いてある。要するにGRカローラとこのモリゾウエディションは、もう欲しくても買えないモデルというわけだ。
この事実を受け、いまさらのこの試乗記に、「買えないクルマの話して、どうするの?」とつぶやく方は、きっと大勢いるだろう。ただGRカローラに関して言えば、これには「GRヤリスが販売されない北米に向けてつくられたホットモデル」という一面があった。つまりGRヤリスも普通に買える私たちは、それが数量限定といえども、恵まれたクルマ好きだったのだ。ここはひとつ、「どうするの?」なんて言わないで、ここ日本でクルマを楽しめる幸せをかみしめてくださいね。
またGRカローラRZについては、再販の可能性がないわけではない。トヨタでも当初はカタログモデルとして考えていたようで、それが昨今の状況……コロナ禍が引き起こしたサプライチェーンの動脈硬化や半導体の不足によって供給体制が整わないことから、日本ではまずは500台の限定で発売し、様子を見ながら追加販売も検討、というかたちに落ち着いたという。個人的にGRカローラRZについては、これが晴れて日本のカタログモデルとなったとき、真の評価が下されると考えている。ちなみに筆者は、その試乗経験から言うと、肯定派だ。
一方で、このモリゾウエディションは“正真正銘”の限定モデルだ。その数字もわずかに70台。2022年の東京オートサロンで発表された「GRMNヤリス」が500台限定だったことを考えると、非常に少ない数字だ。これも昨今の状況を考慮した結果なのだろう。
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全身に施されたマニアックな改良
しかし、結論から先に申し上げればこのモリゾウエディションは、希少性をありがたがる類いのモデルではない。モリゾウさんの情熱を素直に盛り込んだ、すこぶるマニアックな“走り”のモデルである。
ということで、まずはその概要から。基本的に外観は、ベースとなるGRカローラRZと同じだ。違いがあるとすれば、そのボディーカラーに専用色の「マットスティール」が与えられたこと。そしてフロントウィンドウにおなじみの「モリゾウサイン」が仕込まれ、タイヤがベース車比で10mm幅広い、245/40ZR18サイズの「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト」となったことくらいだ。
GRヤリス用に開発された1.6リッター直列3気筒ターボは、GRカローラRZの段階で、まずはその最高出力が272PS/6500rpmから304PS/6500rpmに高められた。かたや最大トルクは370N・mと変更なしだが、その発生回転域は3000-4600rpmから3000-5550rpmに拡大されている。これらの性能向上は、エンジン本体では排気側カムシャフトの軸受けを強化して、燃料ポンプの吐出量をアップ。補機類では、アルミ製オイルクーラーの冷却性能を強化。排気系では、高回転時にエキゾーストのバルブを開くことで排気圧力を低減。……という、実に細かな改良の積み重ねで得られたものだ。さらにモリゾウエディションでは、ここからレースで多用する中回転域のトルクを増強。最大トルクも400N・m/3250-4600rpmに高められた。
ここまででも十分マニアックだが、本番はここからだ。こうして出来上がったエンジンに対して、モリゾウエディションでは6段MTもクロスレシオ化。また室内では大胆にもリアシートを撤去し、リアワイパーや防振材をも省いた。そしてスーパー耐久の“水素カローラ”で開発した軽量サスペンションメンバーを投入し、トータルで30kgの軽量化を実現している。
さらに面白いのがボディー補強の方法だ。モリゾウエディションではもともと後席のあったリアスペースに、ジェットコースターの手すりのようなブレースと、Cピラーを結ぶバーを追加。その狙いは当然ハイパワー化に対応するリアセクションの剛性向上で、この補強パーツの重さを考えれば、リアシートの撤去は軽量化というよりむしろ「補強による重量増加をトレードオフにすること」が狙いといえるだろう。
またボディー全体では、ベース車にも採用された構造用接着剤の塗布長が3.3m延ばされ、パネル接合面の隙間を埋めるスポット溶接も、なんと349点も増し打ちされている。
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しっかりブレーキを使うように走るべし
そんなモリゾウエディションの乗り味は、イメージに反して実はとても洗練されている。足まわりはダンパーがよりレスポンシブな単筒タイプへ改められているのだが、突き上げ感はベース車よりも上質。相対的に硬い部類であることに違いはないのだが、短いストロークのなかでダンパーがショックを素早く減衰し、サスを跳ねさせることなく路面に追従させる。そこにはダンパー自体の性能はもちろん、ボディー剛性を高めた効果がしっかり表れていた。
驚いたのは、ブレーキのタッチだ。その踏み応えは板のようにソリッドで、かなり踏力を重視したタイプになっている。こうしたバイト感の薄いブレーキは、一般的には「利きが弱い」と誤解されがちだが、それはむしろ逆。踏力に応じて制動力を高めるブレーキだからこそ強弱がつけやすく、深く踏み込んでからのリリースコントロールも可能になる。ただしドライバーには、繊細なタッチときちんとブレーキを踏み込む強い踏力の両方が求められる。
またそのターゲットはサーキットに合わせられているのか、ワインディングレベルの踏量だとブレーキペダルとアクセルペダルの位置が合わず、ヒール&トゥが少しやりにくかった。しかしここで「iMT」を使うと、オートブリッパーが自動でエンジンの回転を合わせてくれる。なるほどブレーキングに集中できるから、結果的にはうまくまとまっているなと感じた。
このブレーキフィールが抜群にいい。筆者はこのブレーキ特性に合わせて、クルマのすべてが調律されているとすら感じた。エンジンは高回転まできっちり回して、ちゃんとパワーを引き出す。コーナー進入ではそのスピードを確実にブレーキングで削(そ)ぐ。そして荷重をタイヤにしっかり乗っけて、ターンに臨む……。今回はオープンロードだからその片りんしかつかめなかったけれど、こうした走りをすると、モリゾウエディションと呼吸が合ってくる。それまでちょっと硬かったそぶりに柔らかさが表れ始め、切り込んだステアリングから、時折恐ろしく滑らかな感触が伝わってくる。
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“わかる人”のもとに届いてほしい
コーナーに入ってからは、カローラ スポーツ由来のロングホイールベースと、4WDシステム「GR-FOUR」が、高い安定性を与えてくれる。トルクスプリットは通常時の60:40と、30:70、そして「TRACK」(50:50)の3種類が用意されるが、自然な回頭性を重視するなら30:70で、弾丸のような一体感を求めるなら、TRACKがいい。
そして、こうしたフットワークのよさは、1.6リッター直列3気筒ターボの個性をも、より明確なものにしてくれた。このエンジンは確かに全域でトルクフルな特性だが、最もパンチが出るのは4500rpmあたりから。だからそのハイブースト領域を外さぬように走らせるのが、このクルマを楽しむうえでのポイントであり、そのときにクロスレシオの6段MTが、大いに威力を発揮する。またこのギアボックスは速さを引き出すための単なる道具というだけでなく、そのガッチリとしたシフトフィールやつながりのよさで、乗り手の笑顔やアドレナリンをも引き出してしまう。
モリゾウエディションとの対話は抜群に楽しく、筆者はそこに715万円の価値は、十分にあると感じた。でも誰彼なしに、その価値観を押しつける気はない。タイヤが冷えた状態で、路面も日陰でぬかるんでいたりすると、浅溝のパイロットスポーツ カップ2コネクトは簡単にグリップを失う。そうしたセオリーを熟知している乗り手であれば、この価値はわかると思う。
言ってみればこのGRカローラは、愛知県某所に店を構えるチューニングショップ「スピードショップ・モリゾウ」がつくった、こだわりの一台だ。クルマで走る楽しさってなんだ? ということを真摯(しんし)に考えた、ひとつの回答なのだと思う。
だからその販売台数がわずか70台だったとしても、筆者はそれでよいのだと結論づける。あとは本当にクルマを愛するドライバーのもとに、このモリゾウエディションが届いてくれることを願うだけだ。
(文=山田弘樹/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トヨタGRカローラRZ“モリゾウエディション”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1850×1475mm
ホイールベース:2640mm
車重:1440kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:304PS(224kW)/6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3250-4600rpm
タイヤ:(前)245/40R18 97Y XL/(後)245/40R18 97Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト)
燃費:--km/リッター
価格:715万円/テスト車=752万0700円
オプション装備:ボディーカラー<マットスティール>(35万2000円) ※以下、販売店オプション GRフロアマット(1万8700円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:937km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:343.9km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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