日産セレナ ハイウェイスターV(FF/CVT)
人気の理由はここにある 2023.03.29 試乗記 日産のミドルクラスミニバン「セレナ」が6代目にフルモデルチェンジ。このセグメントでは定番の一台となっている日産の実力派は、新型となってどのように進化したのか? ライバルに対するアドバンテージはあるのか? 2リッターのガソリン車で確かめた。驚くほどのキープコンセプト
昨2022年は、かつて「5ナンバーワンボックス」などと呼ばれてきたミドルクラス箱型ミニバンの3強すべてがフルモデルチェンジされるという、歴史的……は大げさだが、ちょっと珍事的な年になった。年初発売だった「トヨタ・ノア/ヴォクシー」(以下ノアヴォク)は8年ぶり、春の「ホンダ・ステップワゴン」が7年ぶり、そして11月に発表されたセレナが6年ぶりの刷新だった。各車のモデルチェンジ間隔がそれぞれ長期化したことで、偶然にも今回のような現象につながったというわけだ。
このセグメントは国内ではいまだに安定した台数が売れており、トヨタ、ホンダ、日産という日本のビッグスリーがガチンコで競合する厳しい市場でもある。ただ、同時にほぼ国内専用商品でもあり、右肩上がりの成長を見込めるわけでもない。よって、どうしてもモデルライフが長期化する傾向にあり、開発コストをふんだんに投入できるわけでもないのだが、ライバルに後れを取るわけにもいかない。
そんななかで、ノアヴォクがプラットフォームを21年ぶりに(というか、現在のFFベースになって初めて)完全刷新したり、ステップワゴンが「わくわくゲート」をあえて捨てたり、さらにともに5ナンバー仕様をついに廃止したりと、それなりに根本部分の変化があった。それに対して、セレナは超キープコンセプトである。
新型セレナは2005年発売の3代目以来、今回で4世代連続となる「Cプラットフォーム」の改良型を土台として、5ナンバーモデルも残した。「e-POWER」と2リッターの純ガソリンエンジンというパワートレインのラインナップもこれまでどおり(e-POWERのエンジンは1.4リッター化されたが)だし、独特のシートアレンジや「デュアルバックドア」、印象的なほど低いベルトラインも従来モデル同様である。先代は日産自慢の「プロパイロット」をいち早く採用したことでも話題となったが、今回も一部グレードに最新の「2.0」を投入して、先進的なイメージを維持する。
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この仕様はライバルを調べ尽くした結果?
セレナがかようにキープコンセプトなのは、先代の売り上げが好調だったからでもある。セレナはこれまで3世代にわたって年間平均8万台前後という台数を安定して稼いでいるが、日産によると、そのキモは「家族での使いやすさと快適さ」だという。独特のシートアレンジや開放的な視界、デュアルバックドアがその象徴的なアイテムという解釈のようだ。
とくに1列目~2列目を自由に往来できる「スマートマルチセンターシート」によって、2列目がキャプテンにもベンチにもなる“一粒で二度おいしい”シートレイアウトにはあらためて感心する。キャプテン化した2列目を“右寄せ”にして、左スライドドアから3列目へのダイレクトな導線をつくれるのもセレナならではだ。それは野球やサッカーの送迎など、大勢の子供を乗せなければならない向きにセレナを選ばせるキラーアイテムでもある。
3列目シートは従来どおりの左右跳ね上げで、しかも収納時にワンタッチでロックできるようになったノアヴォクに対して、セレナは先代と変わらないベルト固定のまま。操作の負担も先代とほぼ変わっていない。また、トヨタもホンダも新型から電動リアゲートが用意されたが、セレナにはない。
……なんてことを開発陣に指摘したら、3列目収納については、跳ね上げ時にリアクオーターウィンドウがふさがってしまうノアヴォクに対して、セレナはその場合でも室内の明るさと斜め後方視界が確保されるメリットがあるという。リアゲートについては、デュアルバックドアと電動開閉の両立は困難であり、それであれば絶大に支持されているデュアルバックドアの継承に迷いはなかった。……と、いちいち自信たっぷりの反論が即座に出てくるのは、さすがライバルをすみずみまで研究し尽くしているからか。
純エンジン車は“オマケ”にあらず
プラットフォームはキャリーオーバーで、ホイールベースも数値上は先代比で10mm長くなっているが、実質は同じだそうだ。というわけで、各席空間も基本的に広がっていないのだが、前席の足もとだけは拡大しており、前後や左右のウオークスルー性を向上させている。それが実現するための方法は一目瞭然、シフトセレクターをボタン式にしたことだ。
筆者のようなクルマ慣れした中高年男性は、ボタン式シフトに「ブラインド操作できない!」と条件反射的に拒絶反応が出てしまう。そのあたりは日産も先刻承知で、今回の採用にあたっても、セレナを実際に普段使いする人たち=子育て年齢の女性を中心にテストしてもらうと、「まるで問題なし」との結論を得た。というのも、レバーだろうがボタンだろうが、前記のみなさんは「シフトはきちんと見ながら操作する」のが普通らしい。つまり、筆者のようなしたり顔のツッコミは、そもそもお呼びでなかったわけだ。ショボーン。
セレナといえば新機軸のe-POWERに注目が集まりがちだが、今回の試乗車は2リッターの純ガソリンエンジン車である。先代途中にe-POWERが追加されてからも、2リッターの販売比率は45%前後はあったという。新型でも4割程度の販売を見込んでおり、けっしてe-POWERのオマケ的な存在ではない。
新型セレナのe-POWERについては、筆者は現時点でテストコースのちょい乗り経験しかない。それをもとにあえていわせていただければ、ハイブリッドに対する純エンジン車の相対的な魅力は、トヨタやホンダのそれと比較しても、日産の2リッターは高いと思う。
最大の理由は排気量だろう。ノアヴォクのハイブリッドは1.8リッター、ステップワゴンのそれが2リッターをベースとして、絶対的なパワーでも純エンジン車に大きく引けを取らないのに対して、新型セレナのe-POWERは1.4リッター。中低速の柔軟性や加減速特性、燃費などでハイブリッドのメリットはあれど、総合的には2リッターのほうが明らかにパワフルである。
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従来型からの改善点とライバルに対する優位性
また、ノアヴォクの2リッターやステップワゴンの1.5リッターターボに対しても、新型セレナの2リッターはパワー感やリニア感が心地よい。各車のピーク性能は最大で20PS、3N・mの差しかない横ならびだが、日産の開発陣は「CVTには自信あり」と胸を張る。
調べてみると、セレナのCVTは3車でもっともワイドな変速幅をもっていて、それを生かして最終減速比も低めとなっており、低速からも意外なほどパンチがある。また、新型セレナは静粛性にも力を入れており、車体各部の遮音・吸音対策は入念で、そうした努力もきっちり結果を出している。
「疲れにくい、酔いにくい」が最大の開発テーマだった新型セレナの走りは、ひとことでいうと、とても穏やかだ。ステアリングやアクセルを無意識にあつかっても、急の字がつく挙動が出にくい。リアは根が生えたように安定しているのも、ミニバンとしては好印象だ。ただ正直いって、ドライバーズカーとして見るとステアリング反応はマイルドすぎ=鈍く感じる場面もなくはない。
それでも、操舵速度や舵角を問わずに手応えが一貫していて、また鈍いながらもスムーズで正確なステアリングフィールは素直に優秀。そして、直進性も印象的なほど高い。聞けば、基本プラットフォームこそ前記のとおり旧来設計ながら、ラックアシスト式(別名デュアルピニオン式)のパワーステアリングやダイレクトマウントのフロントサブフレームなど、フロント周辺を中心に随所に最新プラットフォーム「CMF-C/D」の技術が投入されているという。この正確かつ滑らかなステアリングフィールも間違いなく、その恩恵のひとつだろう。また、直進性はステアリングに加えて、フロントバンパー左右に開けられたエアカーテンの効果も大きいらしい。
乗れば支持される理由が分かる
フロントまわりにCMF-C/Dのコンポーネンツが組み込まれる最大の理由は、最上級「ルキシオン」に装備されるプロパイロット2.0のためである。この“半自動運転”システムには、操舵システムを強力にアシストできるラックアシスト式パワステが不可欠といい、ステアリングフィールはいわばその副産物だ。
ちなみに、試乗した「ハイウェイスターV」を含む中級グレードは、プロパイロット2.0こそ未装備だが、高精度3D地図データを駆使した“1.5”ともいうべき「ナビリンク機構付きプロパイロット」がオプション装着可能。今回の試乗車にもついていたが、追従マナーや車線キープ能力は素晴らしい。ハンズフリー運転や分岐誘導はしてくれずとも、現状ではこれ以上は必要ないと個人的には思う。
走りそのものは穏やかに安定しているとはいえ、わずかに倒れ込むようなロール感やロール量も小さくないのは、競合車よりナロー気味の全幅やトレッドに加えて、205/65R16というタイヤの影響もありそうだ。先代では15インチや17インチ(オーテック)の用意もあったが、新型セレナでは、この幅のわりには外径が大きいタイヤを全グレード共通で履く。
その理由は「タイヤ負荷率」という法基準が変わったためという。これはタイヤの荷重指数(ロードインデックス)に対する車両総重量(フル乗車+フル積載)の比率のことで、従来は乗員ひとりあたり55kgで計算されていたものが、欧米と同じ75kgに引き上げられたのだ。8人乗りのセレナだと、従来型より総重量が160kgも増える計算になり、プラットフォーム的にもタイヤサイズに限度がある新型セレナでは、その選択肢もかぎられたようだ。タイヤの荷重指数は基本的に、径が小さいほど、また偏平率が低いほど小さくなる、結果として、新型セレナのタイヤは65偏平の16インチ一択となった。
いずれにせよ、そうしてギリギリでバランスしている穏やかな走行性能や、独特のシートアレンジ、唯一無二のデュアルバックドア……と、セレナは指名買いが多いという事実は、実際の肌感覚で理解できる。あと、山坂道もそれなりに走ったのに、カタログ値に近い数字をシレッと出してくれた実燃費にも感心した。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
日産セレナ ハイウェイスターV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4765×1715×1870mm
ホイールベース:2870mm
車重:1690kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:150PS(110kW)/6000rpm
最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/4400rpm
タイヤ:(前)205/65R16 95H/(後)205/65R16 95H(ダンロップ・エナセーブEC350+)
燃費:13.0km/リッター(WLTCモード)
価格:326万9200円/テスト車=405万2403円
オプション装備:ボディーカラー<ターコイズブルー[PM]/スーパーブラック 2トーン>(8万8000円)/ヘッドランプオートレベライザー+アダプティブLEDヘッドライトシステム+インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物検知機能付き>+インテリジェントルームミラー+アドバンスドドライブアシストディスプレイ<12.3インチ>+ワイヤレス充電器+6スピーカー+NissanConnectナビゲーションシステム<地デジ内蔵>+車載通信ユニット+ETC2.0ユニット<ビルトインタイプ>+ドライブレコーダー<前後>+プロパイロット<ナビリンク機能付き>+プロパイロット緊急停止支援システム+SOSコール(48万8400円)/ホットプラスパッケージ<ヒーター付きドアミラー+ステアリングヒーター+ヒーター付きシート[前席、セカンド左右]>+クリアビューパッケージ<ワイパーデアイサー+リアLEDフォグランプ>+高濃度不凍液+PTC素子ヒーター(9万9000円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水 12カ月 フロントウィンドウ+フロントドアガラスはっ水処理(1万2903円)/フロアカーペットパッケージ<エクセレント>(9万4900円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3673km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:399.8km
使用燃料:32.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.4km/リッター(満タン法)/12.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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