トヨタ・プリウスZ(FF/CVT)
パイオニアの宿命 2023.04.04 試乗記 これまでの4世代とはひと味違う魅力で人気を集め、中興の祖のようになりつつある5代目「トヨタ・プリウス」。2リッターエンジンをベースとした新しいパワートレインや室内装備などの使い勝手をリポートする。まだまだ譲らない
No.1ヒットを何度も飛ばし、ハリウッド進出も果たしたうえにデビュー25周年を超えても第一線で活躍しているなんて、エンタメ界なら異論の余地もない大御所だよなあ、と妙な連想をしてしまった。もう印税だけで悠々自適のはずなのに、なお大変身を迫られるのだから、自動車という商品を、しかも稼ぐ商品をつくり続けるのはつくづく難しいものだと思う。その名のとおり、他に先駆けて世界初の市販ハイブリッド専用モデルとして登場したプリウスがトヨタの代名詞となったのだから、先見の明があったのはもちろん(初代および2代目の初期は芳しい売れ行きではなかった)、大英断だったと言える。それを一気にタクシー専用車にするわけにはいかないだろう。
一時の勢いを失っているとはいえ(3代目は国内だけで年間30万台を超えたこともあった)、それでもまずまずのセールスを記録していた。2020年はざっと7万台、2021年は5万台、2022年は4万台弱で国内ランキングのベスト20にはほぼ常に入っていた。そもそもハイブリッドの民主化を進め、モデルラインナップを拡大して当たり前の存在にしたのはほかならぬトヨタ自身である。もちろん他のメーカーも追随するし、今やほとんどすべての車種にハイブリッドがあるというほど当たり前になってしまえば、いわゆる“ユニコーン”ではなくなり、その独自性が薄れて埋没してしまうのはこれまた当然である。それでもなお、売れ続けなければならないのだから何とも難儀な話である。
スポーツカー顔負け
従来型を改良しながらも踏襲したプラットフォームにもかかわらず、ここまでやれるのか! と驚愕(きょうがく)するのがそのボディースタイルである。5代目プリウスは先代よりもわずかに大きくなったが(ホイールベースは+50mm、全高は40mm低くなった)、ささいな数値よりも雄弁なのはボンネットから一直線につながるAピラーと大径だが細い19インチタイヤなどによる、スタイリッシュな4ドアクーペにしか見えない姿形である。煩雑なラインが行き交っていた先代とは似ても似つかない滑らかなモノフォルムへ、誰がどう見ても大胆な変身だ。
エアロダイナミクスも改善されているはずと想像するところだが、実際にはCd値は先代の0.24から0.27へ低下しているというから一筋縄ではいかない(ちなみに初代プリウスは0.30)。見た目のカッコよさと実際の数値はなかなか両立しないのだ。歴代プリウスは機能第一(もちろん燃費)に徹したちょっと変わったスタイルも特徴だったのだが、それを思い切ってクールなカッコよさを優先したというわけである。とはいえ、前面投影面積を加味した実際の空気抵抗は、低い車高と細いタイヤの効果もあって先代と遜色ないといわれている。
もうおとなしいハイブリッドではない
既にご存じのように3月には「PHEV」モデルも追加発売されたが、主力のハイブリッド(第5世代に進化)には従来どおりの1.8リッターと新しい2リッターモデルが設定されている。ただし、1.8リッターの「U」はサブスクリプションサービスのKINTO専用、同じく「X」は法人向けの営業車という位置づけであり(一般カタログにも掲載されていない)、一般人が普通に購入できるのは2リッターハイブリッドの「Z」と「G」グレードのみ(それぞれにFWDと4WDあり)というからちょっとモヤモヤが残る。
最上級グレードとなるZに積まれる2リッター4気筒エンジンはいわゆるダイナミックフォースシリーズのM20A-FXS型で、エンジン単体では152PS/6000rpmと188N・m/4400-5200rpmを発生。113PSと206N・mを生み出すフロントモーターと合わせたシステム最高出力は196PSと、先代1.8リッターの122PSに比べて格段にパワーアップしている。0-100km/h加速も7.5秒というから、もはやその辺のスポーツハッチ顔負けの俊足である(システム最高出力140PSの1.8リッターハイブリッドでも9.3秒という)。先代モデルの0-100km/h加速は実測で11秒ぐらいだったから、まさしく一足飛びの進歩である。燃費はいいけれど、まあおとなしいハイブリッドというこれまでの認識を改めなければいけない。実際の路上でもプリウスとは思えないほど身軽である。とりわけ、駆動モーターの高出力化によって、中間加速時にスロットルペダルを深く踏み込まなくても、必要な加速を得られる“余裕たっぷり”感がありがたい。当然エンジン始動の頻度も減るし、高速道路の合流などでもストレスを感じることはなくなった。
新世代TNGAプラットフォームをいち早く採用した先代モデルのハンドリングや乗り心地も良い意味で“普通”だったが、新型はさらに煮詰められたようで、かつてのプリウス独特の癖を意識することなく、まったく自然に走れる。ステアリングフィールやブレーキタッチについても違和感はなく、どこか特別に突出している部分はないものの気を遣わずに操作できる。実用車としては水準以上の出来栄えだろう。
クーペと見るかセダンと見るか
もっとも、低くなった全高と思い切って寝かされたAピラーから想像できるように、前後席ともに乗り降りにはそれなりに気を遣わなければならない。これだけでタクシー用途には不向きなことが分かる。前後シートともに足元まわりには余裕があるが、リアシートの頭上と横方向はぎりぎりといったところで、低く座らされてルーミーではないことにも留意すべきだ。ミニバンやSUVのアップライトでルーミーな後席に慣れた家族からは不満が出るかもしれない。「bZ4X」と似たようなトップマウントメーターを備えるインストゥルメントパネルは、簡潔だがもう少しエクステリアと同等のチャレンジが欲しかったと思う。ステアリングホイールの上から見る7インチメーターは実質面積が意外に小さく、表示項目がチマチマとして見にくい。トヨタ車は表示ロジックやグラフィックを考え直すべきだと思う。
また荷室容量はZで410リッターと先代よりもはっきりと小さくなっている。195/50R19という特殊なサイズのタイヤも合わせて(2リッター車に標準、ただし195/60R17サイズも減額オプションで設定あり)、実用車としての使い勝手は最優先項目ではないことに注意すべきである。かつてのようにハイブリッドだからという我慢や遠慮は要らないし、もちろん燃費も依然として優秀だが(Z・FWDでWLTCモード28.6km/リッター)、今やそれが誰もかなわない決め球ではない。とすれば、やはり形にほれて買うのが新型プリウスだろうか。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタ・プリウスZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4600×1780×1430mm
ホイールベース:2750mm
車重:1440kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:152PS(112kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4400-5200rpm
モーター最高出力:113PS(83kW)
モーター最大トルク:206N・m(21.0kgf・m)
システム最高出力:196PS(144kW)
タイヤ:(前)195/50R19 88H/(後)195/50R19 88H(ヨコハマ・ブルーアースGT)
燃費:28.6km/リッター(WLTCモード)
価格:370万円/テスト車:409万9300円
オプション装備:ボディーカラー<エモーショナルレッドII>(5万5000円)/パノラマルーフ<手動サンシェード付き>(13万2000円)/ITS Connect(2万7500円)/デジタルインナーミラー&デジタルインナーミラー用カメラ洗浄機能&周辺車両接近時サポート<録画機能>&ドライブレコーダー<前後>(8万9100円)/コネクティッドナビ対応ディスプレイオーディオPlus<車載ナビ、FM多重VICS、12.3インチHDディスプレイ、AM/FMチューナー、フルセグテレビ、USBタイプC、スマートフォン連携、マイカーサーチ、ヘルプネット、eケア、マイセッティング、BlueTooth対応>(6万1600円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ラグジュアリータイプ>(3万4100円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1520km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:448.1km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.6km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
レクサスGX550“オーバートレイル+”(4WD/10AT)【試乗記】 2026.3.30 スタッドレスタイヤ装着の「レクサスGX」でウインタードライブへ。クルマ好きにとってはいかにも胸がふくらむシチュエーションだが、刻一刻と変化する自然環境が相手ゆえに、なかなか一筋縄ではいかないものだ。山に分け入る際には引き返す覚悟もお忘れなく。
-
スズキeビターラZ(4WD)【試乗記】 2026.3.28 スズキが満を持して世に問うた、初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」。エントリーグレードは400万円以下! 500万円以下で4WDも用意されるというお値打ち価格のBEVは、走らせてみるとどうなのか? 東京-愛知を往復して、その実力を確かめた。
-
スズキGSX-8T(6MT)【レビュー】 2026.3.25 昨今のネオクラシックブームに乗り、いよいよスズキからも新型車「GSX-8T」が登場。しかし実車に触れてみると、既存のライバルとはちょっと趣の異なるマシンとなっていた。スタイリッシュないでたちとスズキらしい実直さが融合した、独創の一台を報告する。
-
日産セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)【試乗記】 2026.3.24 販売台数ではトヨタ勢に差をつけられながらも、日産の屋台骨として奮闘する「セレナ」。現行型の登場から3年、マイナーチェンジで磨きがかかった最新の「e-POWERハイウェイスターV」に試乗すると、人の感性に寄り添う開発陣のこだわりと良心が見えてきた。
-
BMW iX M70 xDrive(4WD)【試乗記】 2026.3.23 BMWが擁するSUVタイプの電気自動車「iX」。そのハイパフォーマンスモデルが「iX M70 xDrive」へと進化を遂げた。かつて、BMWの志向する次世代モビリティーの体現者として登場した一台は、今どのようなクルマとなっているのか? その実力に触れた。
-
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)/CR-V e:HEV RS(4WD)【試乗記】
2026.4.1試乗記ホンダの「CR-V」が日本市場に帰ってきた。先代モデルの発売時(2018年)も2年ぶりの復活で(少し)盛り上がっていたが、今回もまた3年半ぶりの復活である。モデルライフが途切れ途切れなところは気になるものの、新型のすっきりと上質な乗り味はまぎれもなくプレミアムな領域に達している。 -
NEW
今こそブランドの伝統と強みを前面に マツダと三菱のPHEVを乗り比べる
2026.4.1デイリーコラム日産自動車をはじめとした国産6ブランドがBEVとPHEVを集めた合同試乗会を開催。マツダと三菱のPHEVを乗り比べ、それぞれの特性や開発陣の考え方の違い、近い将来に向けたビジョンなどに思いをはせた。 -
NEW
第107回:さよならワグナー(後編) ―革新から正統へ 変節するメルセデスと欧州カーデザインの未来―
2026.4.1カーデザイン曼荼羅「EQ」シリーズの失敗を機に、保守的なイメージへ大転換! メルセデス・ベンツのカーデザインは、一体どこへ向かおうとしているのか? 名物デザイナー、ゴードン・ワグナー氏の退任を機に、スリーポインテッドスターと欧州カーデザインの未来を考えた。 -
NEW
目元にインパクト! 4灯式ヘッドランプのクルマ特集
2026.4.1日刊!名車列伝“コンビランプ”が当たり前になり、新車ではほとんど見ることのなくなった4灯式ヘッドランプ。今回は、そんな“4つ目”のフロントフェイスが印象的な、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
開発中にボツになった「素晴らしいアイデア」は、その後どうなる?
2026.3.31あの多田哲哉のクルマQ&A車両を開発するなかで生まれた良いアイデアや素晴らしい技術には、実際に製品化に生かされないものも多数あるという。では、時を経て、それらが再び日の目を見ることはあるのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いた。 -
メルセデスAMG GTクーペ/メルセデスAMG GT 4ドアクーペ【試乗記】
2026.3.31試乗記メルセデスAMGの「GT63 S Eパフォーマンス クーペ」と「GT53 4MATIC+(ISG)ファイナルエディション」は、同じAMG GTを名乗りながらも片や2ドア、こなた4ドアのクーペモデルだ。この両者には、どんな特徴や違いがあるのか。クローズドコースで確かめた。



























































