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これは「MT車をやめない」という意思表明か!? スバルの“MT車用アイサイト”に寄せる期待

2023.06.22 デイリーコラム 堀田 剛資
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機能についてはかなりシンプル

ついにというか、ようやくというか、スバルがMT車にも先進運転支援システム(ADAS)「アイサイト」を設定すると発表した。2023年秋発売予定の、「スバルBRZ」の改良モデルから導入するという(参照)。

これはめでたい。スバラシイ。スバルBRZ(と「トヨタGR86」)といえば、今や貴重な“みんなの手の届くFRスポーツカー”。しかも購入者の半分以上がMTを選ぶという、希有(けう)な存在だ。「MTのBRZは欲しいけど、アイサイトがないんだよなぁ」とためらっていた人、今秋以降は憂いなく誓約書にハンコを押せるので、今のうちに貯金を確認しておきましょう。ついでにMT車用アイサイトの機能も振り返っておきましょう。

細かい内容は関連ニュースをご覧いただくとして、ざっくり言うと、そのあらましはBRZのAT車用アイサイトに改良を加えたものだ。車線逸脱・ふらつき警報機能や先行車発進お知らせ機能はそのまま踏襲。衝突被害軽減ブレーキと追従機能付きクルーズコントロールは、MT車向けに適応させて搭載した。一方、誤発進/誤後進抑制機能については非採用。後退時ブレーキアシスト機能も省かれており、代わりに後方警戒用のクリアランスソナーが装備されている。

とまぁ、こうして見ると、今どきのADASとしてはシステムはかなりシンプル。AT車のそれと同じく、車線維持支援などのステアリングアシスト機能は備わらず(操舵機構のつくり的に難しいのだそうだ)、同じアイサイトでも「X」やら「ver.3のツーリングアシスト」やらのハイテクに目を輝かせている御仁には、いささかガッカリな中身かもしれない。しかし許してほしい。他社のMT車用ADASにしたって、機能の設定は似たようなものだから。

……ここで、一部の読者諸兄姉からは「え?」と声が上がることだろう。そうなのだ。MT車向けのADASって、べつにこれが初というわけではないのだ。

スバル商品企画本部 プロジェクトゼネラルマネージャーの小林正明氏。
スバル商品企画本部 プロジェクトゼネラルマネージャーの小林正明氏。拡大
MT車用「アイサイト」は、「スバルBRZ」のAT車用のシステムをベースに改良を加えたものだ。例えば衝突被害軽減ブレーキは、エンストしてもブレーキの液圧が抜けず、制動力が継続するようシステムを改良。VDCのECUでホイールシリンダーに液圧をかけ、そこでピストンのバルブを閉じて液圧が抜けないようにしているのだ。停車後も3秒は停止状態を保ち、その後、徐々にブレーキが抜けていくという。
MT車用「アイサイト」は、「スバルBRZ」のAT車用のシステムをベースに改良を加えたものだ。例えば衝突被害軽減ブレーキは、エンストしてもブレーキの液圧が抜けず、制動力が継続するようシステムを改良。VDCのECUでホイールシリンダーに液圧をかけ、そこでピストンのバルブを閉じて液圧が抜けないようにしているのだ。停車後も3秒は停止状態を保ち、その後、徐々にブレーキが抜けていくという。拡大
追従機能付きクルーズコントロールは、車速35km/h以上から操作が可能。25km/h以下になったらシステムは自動でキャンセルされる。これは「BRZ」のエンジンが、ギアが6速に入っていても25km/hまでならストールしない設定となっているからだ。
追従機能付きクルーズコントロールは、車速35km/h以上から操作が可能。25km/h以下になったらシステムは自動でキャンセルされる。これは「BRZ」のエンジンが、ギアが6速に入っていても25km/hまでならストールしない設定となっているからだ。拡大
MT車用「アイサイト」に、走行モードなどに連動したシステムのオン/オフ機能はないので、スポーツ走行をするときは、ドライバーが自らシステムをオフにする必要がある。またエンジンを再始動すると、アイサイトも自動でオンとなるので注意が必要だ。
MT車用「アイサイト」に、走行モードなどに連動したシステムのオン/オフ機能はないので、スポーツ走行をするときは、ドライバーが自らシステムをオフにする必要がある。またエンジンを再始動すると、アイサイトも自動でオンとなるので注意が必要だ。拡大
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遅れたのは品質を重視したがゆえ?

MT車向けのADASについて、どこのメーカーのナニが世界初だったとかいう事実は、浅学ゆえに記者は存じ上げない。とりあえず過去の取材メモを掘り起こすと、2012年11月登場の「マツダ・アテンザ」(3代目)のディーゼルMT車には、早くもそれが備わっていたようだ。もう少し最近だと、Bセグメントのコンパクトスポーツ「スズキ・スイフトスポーツ」のMT車にも、追従機能付きクルーズコントロールが付いていておどろいた。

さらにさらに最近になると、「ドゥカティ・ムルティストラーダ」を皮切りに、バイクのかいわいでも追従機能付きクルーズコントロールなどの採用が進んでいるではないか! 無論、変速機はマニュアルトランスミッションだ。

これらの例を振り返ると、スバルの今回のMT車用アイサイトの採用は、必ずしも時代を先取ったお話ではない。むしろ「十余年の歳月を経て実現した悲願」とでも表したいところで、記者自身も今回の報に触れ、ちょっと前の「WRX STI」とか、初代BRZとか、「まだアイサイトを付けないんだ……」と思いながら取材していた各車のことを思い出した次第である。

もちろん、スバルだってサボっていたわけではない。商品企画本部の小林正明プロダクトゼネラルマネージャーによると、MT車用アイサイトの可能性についてはかねて検討しており、このたびは顧客を満足させられる品質を実現したことから、晴れて実装に至ったとのことだ。

ここで言う「顧客を満足させられる品質」とは、要するにスバルが他のアイサイトで実現してきた、自然で痛痒(つうよう)のない制御・作動のことだ。MT車ではドライバーがより深く運転操作に介入するぶん、このあたりのつくり込みが大変だった様子。例えばクルーズコントロールの作動中にドライバーが変速するとき、クルコンの制御がぎこちないと人間さまは非常にキモチワルイ。MT車のオーナーは運転操作が好きだからMT車に乗っているわけで、そうした人にも違和感のない制御を実現するべく、システムを煮詰めたのだそうだ。

スバル技術本部 車両開発統括部の藤井忠則主査はオンラインセミナーにおいて、アイサイトを積んだBRZのMT車を「これまで以上に楽しいクルマ」と述べていた。安全とか安楽ではなく、あえて“楽しい”にフォーカスした言葉選びが興味深い。ホントにそうなっているか、今から楽しみである。

「マツダ・アテンザ」(3代目)では、MT車にもオプションでADASが用意されていた。ちなみにマツダでは、「ロードスター」のMT車にも衝突被害軽減ブレーキなどの予防安全装備を採用している。
「マツダ・アテンザ」(3代目)では、MT車にもオプションでADASが用意されていた。ちなみにマツダでは、「ロードスター」のMT車にも衝突被害軽減ブレーキなどの予防安全装備を採用している。拡大
2017年9月に登場した現行型「スズキ・スイフトスポーツ」。現行のスイフトでは、「RS」や「XG」のMT車にも衝突被害軽減ブレーキや追従機能付きクルーズコントロールが装備されている。(写真:荒川正幸)
2017年9月に登場した現行型「スズキ・スイフトスポーツ」。現行のスイフトでは、「RS」や「XG」のMT車にも衝突被害軽減ブレーキや追従機能付きクルーズコントロールが装備されている。(写真:荒川正幸)拡大
バイクの世界では、ドゥカティが「ムルティストラーダ」の2021年モデルにADASを初採用。今日ではBMWやカワサキ、ヤマハなどでも実用化が進んでいる。(写真:山本佳吾)
バイクの世界では、ドゥカティが「ムルティストラーダ」の2021年モデルにADASを初採用。今日ではBMWやカワサキ、ヤマハなどでも実用化が進んでいる。(写真:山本佳吾)拡大
MT車用「アイサイト」の追従機能付きクルーズコントロールでは、ドライバーが自らの手で変速することを考慮し、その際に違和感を覚えさせないようエンジンの制御を開発。また車速が25km/h以下になるとシステムが切れ、停車についてはドライバーの手(というか足)で行うことになるため、低速域では通常のアイサイトより前走車との車間を開けるよう制御を変更している。
MT車用「アイサイト」の追従機能付きクルーズコントロールでは、ドライバーが自らの手で変速することを考慮し、その際に違和感を覚えさせないようエンジンの制御を開発。また車速が25km/h以下になるとシステムが切れ、停車についてはドライバーの手(というか足)で行うことになるため、低速域では通常のアイサイトより前走車との車間を開けるよう制御を変更している。拡大
スバル技術本部 車両開発統括部の藤井忠則主査。
スバル技術本部 車両開発統括部の藤井忠則主査。拡大

スバルのMT車は永久に不滅です!

それともうひとつ。これはスバルの関係者が言っていたわけではないのだが、それでも今回のMT車用アイサイトの実用化に影響をおよぼしたと思われる事柄がある。それが、2020年1月31日に公布・施行された道路運送車両法の改正だ。国産の新型車は2021年11月より、継続生産車では2025年12月より、衝突被害軽減ブレーキの搭載が義務化されたのだ。つまり、アイサイトを持たない既存のBRZのMT車は、あと2年ほどでお役御免となるはずだったのである。MT車用アイサイトの開発は、スバルの「将来にわたり、MTのスポーツカーはやめません」という意思表明だったように思う。

自動車業界では必ずしも巨大メーカーとはいえず、またプレミアムブランドでもスポーツカーの専売メーカーでもないスバルが、MTのスポーツカーなんてニッチな商品の存続に頑張ってくれるのは、本当にありがたい。日本のクルマ好きは、東京都渋谷区恵比寿(本社がある)と栃木県佐野市(研究開発所がある)に足を向けて眠れないだろう。

ついでに、これを機に海外で展開のあるWRXのMT車を、アイサイト付きで日本でも発売……なんてことにはならないだろうか? あるいは、先代でウワサのあった「レヴォーグ」のスポーツグレード(もちろんMT)登場とか!

……いや、実装第1弾となる改良型BRZもまだ発売前だというのに、さすがに気の早い話だったか。まずはBRZでそれに触れられるのを楽しみにしつつ、さらなる未来の展望にも、こっそり胸をふくらませておこう。

(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=スバル、マツダ、荒川正幸、山本佳吾/編集=堀田剛資)

道路運送車両法の改正による衝突被害軽減ブレーキの義務化のスケジュールは、(1)国産車の新型車が2021年11月から、(2)輸入車の新型車が2024年7月から、(3)軽トラックを除く国産車の継続生産車が2025年12月から、(4)輸入車の継続生産車が2026年7月から、(5)軽トラックの継続生産車が2027年9月からとなっている。
道路運送車両法の改正による衝突被害軽減ブレーキの義務化のスケジュールは、(1)国産車の新型車が2021年11月から、(2)輸入車の新型車が2024年7月から、(3)軽トラックを除く国産車の継続生産車が2025年12月から、(4)輸入車の継続生産車が2026年7月から、(5)軽トラックの継続生産車が2027年9月からとなっている。拡大
わざわざ開発したMT車用「アイサイト」を、「BRZ」にしか使わないなんていう非効率なことはしないはず。海外で販売される「WRX」のMT車とか、かつて東京オートサロンでファンをざわつかせた「レヴォーグ」のMT車とか……。スバルの前のめりな施策に期待である。
わざわざ開発したMT車用「アイサイト」を、「BRZ」にしか使わないなんていう非効率なことはしないはず。海外で販売される「WRX」のMT車とか、かつて東京オートサロンでファンをざわつかせた「レヴォーグ」のMT車とか……。スバルの前のめりな施策に期待である。拡大
堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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