「都会派」なんて言葉にだまされるな! 実車に感じた「スバル・レヴォーグ レイバック」の真の姿
2023.09.08 デイリーコラムスバル初の都会派クロスオーバー?
スバル車が大好きな読者諸兄姉の皆さん、ついに新型クロスオーバー「レヴォーグ レイバック」がデビューしましたね(といっても、正式発表はもうちょい先だが)。皆さんの目にはこのクルマ、どのように映っただろう?
記者としては、「また、えらいピンポイントにムズカシイ変化球を投げ込んできたな」という印象である。なにせ、タフが自慢のスバルが放つ都会派クロスオーバーというのだから、ややこしい。そうでなくても、この手の「SUVテイストを加味しました」系モデルは、ハッチバックにしろミニバンにしろ軽ワゴンにしろ、土くささをまぶしてナンボが定説だ。スバルがやってのけたことは、色んな意味で逆張りに感じられた。
そんなレヴォーグ レイバックだが、その出自は方々で語られているとおり、他社の“アレ”や“ソレ”の人気を見たスバルが、「ウチも都会的なSUVが欲しい!」ということで仕立てたのがこのクルマである。……が、それはまぁ多分に表のお話。物事には大抵裏がありまして、今回はやはり“テコ入れ”の意味が大きかったのだろう。
レヴォーグの販売実績を振り返ると、現行型が初めて通年で売られた2021年こそ年間2万5439台となっているが、翌2022年はいきなり1万4275台にダウンしている。先代モデル末期の2019年でも1万2718台が売れたわけだから(ちなみに2020年は1万2111台)、メーカーとしては、これは期待していた数字ではないはずだ。コロナ禍の残火に半導体を含むサプライチェーンの混乱等々、スバルにもいろいろあったのはわかりますが、それは他社&他車も同じこと。登録車の年間販売ランキングで35位というのは、鳴り物入りでデビューしたメーカーの看板車種として、納得のいく順位ではないだろう。
SUVにあらずんばクルマにあらず
この状態について、クルマの特性やハイブリッド車の非設定など、具体的な要因に理由を求める向きもあるが、実際はそんな易しい話じゃなさそうである。販売ランキングをつぶさに見れば察しがつくが、もうミドル~アッパーミドル級の車種は、SUVかミニバンしか売れんのだ。平家にあらずんば人にあらずなのだ。そういう意味では、クロスオーバーにレヴォーグの活路を見いだしたスバルの判断は、僭越(せんえつ)ながらまっとうだったと思う。……それにしても、四駆を得意とするスバルがSUV人気に苦しめられるというのが、皮肉というか今どきというか、そんな感じがいたしますな。
とにもかくにも、レヴォーグ レイバック誕生の背景には、かような事情もあったのだろう。「当初はレヴォーグにこういう派生モデルを設定する予定はなかった」という関係者の言葉も、それを裏づけていると思う。そこに付与される「スバル初の都会派~」というキャラクターは、現状におけるモデルラインナップの分布図や、「レガシィ アウトバック」とのカニバリ回避を考慮した、必然の結果だろう。
……と、そんなことを思いながら記者は新潟・佐渡島で実車と見(まみ)えたわけだが、そこで覚えたファーストインプレッションは、プレゼンテーションや配布資料から想像した印象とは、いささか異なるものだった。鋭敏なる記者の自動車オタク・センサーが、後年マニアの間でカルト的な人気を博す“隠れた名車”のにおいをかぎ取ったのだ。なんて言ったら、スバルの人から「発売前から不吉なことを言うのはやめてくれ!」とクレームがきそうだが、そんな気がしちゃったのだからしょうがない。
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見た目は都会派、中身は本格派
だって皆さん、見てくださいよ。読者諸兄姉の皆さんに愛されそうなにおいが、プンプンするじゃありませんか! なにせ化粧は都会派だけど、その実は全然都会派じゃないのだ。最低地上高は200mmで、全車フルタイム4WDで、足もとには「クロストレック」「フォレスター」でおなじみのファルケン製オールシーズンタイヤを指名で装着している。よそさまの看板SUVに比肩するスペックではないか。
例えば「最低地上高200mm」といえば、「日産エクストレイル」(のガソリン車。ハイブリッド車はもっと低い)や「三菱アウトランダー」と同等である。ここを180mmにしておけば、全高が1550mmになって、都会の機械式駐車場にも収まる寸法になったというのに、レヴォーグ レイバックはそれより走破性を選んだわけだ。タイヤにしたって、都会派を名乗るならエコタイヤやオンロード用のコンフォートタイヤで燃費を稼ぐ手もあっただろうに、それも潔しとしなかったのである。
もちろん、身内で比べたら、スバルの他のSUVよりスペックダウン(?)しているところは確かにあって、例えば悪路での走行アシストモード「X-MODE」などは搭載されていない。……が、スバル車オーナーの皆さん、あのボタン、年に何回押してます? マイカーがX-MODEに頼らざるを得ないほどの窮地に陥ったことってありますか?
また、4WDシステムについてはモードセレクターを含めて「ベース車から変更なし」とのことだったが、皆さまご存じのとおり、そもそもからしてレヴォーグの四駆は優秀にして盤石。筆者もニガテな雪道取材で(参照)、それを実体験として知るひとりである。
そんなわけで、レヴォーグ レイバックはあくまで “スバルからしたら”都会派のクロスオーバーという感じのクルマで、世間一般の目線で見たら、普通に立派なSUVである。さすがにガチの降雪地在住の方には力不足かもしれないが、その他の地域に住まわれる皆さまには、普通に「なかなかのSUVでっせ」とオススメできる逸材ではないか。
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このキャラクターは狙ってる?
それにしても興味深いのが、「メーカーがよくこのプロダクトを許したな」ということだ。都会派なのにガチすぎる。ほかのメーカーだったら「街っぽいのが欲しいって言っただろ! なんてクルマをつくってくれたんだ!」と言って、マーケティングが開発室に怒鳴り込んでくるんじゃあるまいか。
ただ、実家のマイカーに2台連続でスバル車を薦めた記者としては(参照)、こうした不器用さこそ「だからスバルは信頼できるんだよなぁ」と安心できるポイントなのだ。もしレヴォーグ レイバックの実車が、うたい文句どおりのシティーボーイだったら、記者は大佐渡スカイラインの展望台で『木綿のハンカチーフ』(太田裕美版ではなくて宮本浩次版)を歌い上げていたことだろう。
一方で、ふくよかな顔まわりや新鮮なインテリアの色使いなどが、既存のスバル車とはちょっと違う趣なのもまた事実。スイッチ類がゴチャっているのはベース車ゆずりでしかたないけど、これならメカメカしい造形を敬遠するライトな向きにも、受け入れられるのではないか。そうして、うっかり(?)購入したご新規さんが、スバル車特有のよさに触れ、そのまま沼にはまっていく……なんてかたちでファン層を拡大できたら、先述のキャラクターもけがの功名ということだろう。
……は!? まさかしてレヴォーグ レイバックの矛盾をはらんだキャラクターは、そこまで織り込み済みのスバルの戦略なのか? いや「自分、不器用ですから」(某日本生命のCMより)を地でいく彼らが、そんな手の込んだ商品企画をするわけがない。……いや、しかし、どうだろう?
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=スバル、荒川正幸/編集=堀田剛資)
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◆画像・写真:スバル・レヴォーグ レイバック リミテッドEX(65枚)
◆画像・写真:スバル・レヴォーグ レイバック用品装着車(44枚)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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