第268回:カーマニア的に是非もなし
2023.10.02 カーマニア人間国宝への道日本で買えるEVのなかで3番目にいい
多くの日本のカーマニアは、電気自動車(EV)に興味はあるけれどあまり好きではなく、ある意味「敵」として興味を抱いている……というのが現状ではないだろうか。これは、中国や韓国に対する感情にかなり近い。つまり中韓製のEVは「敵のなかの敵」ということになりますね!
BYDは中国、いや世界最大のEVメーカー。まさに敵のなかの敵だ。そのBYDが満を持して日本市場に投入したコンパクトEV「ドルフィン」はどうなのか?
かなりよかったです。
どれくらいよかったのかというと、日本で買えるEVのなかでは、3番目にいいんじゃないだろうか。
1位:日産サクラ
2位:テスラ・モデル3かモデルY
3位:BYDドルフィン
1位の「日産サクラ」は、いま日本人がEVに求めている理想形にかなり近い。コンパクトで安価なご近所用EVを、自宅の普通充電のみで使うというスタイルだ。サクラは内外装の質感も高くてオシャレさん。小さな高級クッキーみたいな短距離スペシャルである。カーマニア的にも、車庫(普通充電器付きの)が余っていれば1台欲しいところだ。もちろん、他に内燃エンジン車を持っていることが前提ではあるけれど。
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日本は充電インフラが弱すぎる
2位のテスラは、なんといってもテスラ専用の急速充電ネットワーク「スーパーチャージャー」が素晴らしい。スーパーチャージャーで充電しているだけでエリート気分に浸れる。ハード的にも、バッテリーマネジメント性能は世界一。電費の良さは謎レベルだ。ファーストカーとしてEVを選ぶならテスラ以外にない。今後テスラに追いつけるEVメーカーは現れるのだろうか?
その次にドルフィンがくる。ポジションはサクラとテスラの中間。ちょうど「日産リーフ」とかぶる。363万円というお値段も、サクラとテスラの中間だ。65万円の国の補助金を引いて298万円。まずまず安いけれど、「もう一声!」と言いたくなる。仮にあと30万円安い338万円なら、304万円の「サクラG」とどっちにしようかな、と真剣に迷ったはずだ(買う予定はないけど)。なにしろ航続距離がまるで違う。
ドルフィンのバッテリー容量は44.9kWh。一充電走行距離(WLTCモード)は400km。容量40kWhのバッテリーを搭載するリーフの322kmよりかなり長く、サクラの180kmとは比べるべくもない。ハード的なコスパはサクラよりはるかに上だ。
ただ、ファーストカーにするには、外で急速充電する必要が出てくる。日本はそのインフラが弱すぎるから、ドルフィンのせいじゃなく競争力が落ちる。充電インフラが自宅だけで済む(?)サクラや、独自の充電ネットワークを持つテスラにはかなわない。
値段がもうちょい安ければ、サクラ的にドルフィンを使う選択肢もアリだった。ドルフィンのベーシックモデル(30.7kWh)は、中国では補助金を含まず200万円以下で売られている。それを持ってくれば1位になれた。
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バッテリーは中韓製じゃないと勝負にならない?
日本では、中韓製のEVはまだわずかしか売れてない。「それだけは買わない」と固く決意している人も少なくないだろう。
でも、私はそこにこだわりはない。いや、こだわってもムダだと知った。
先日自宅に、家庭用蓄電池を導入した。EVを買って蓄電池としても使う(V2H)という選択肢もあったけれど、クルマ用の動力源はまだ内燃エンジンのほうが優れているので、電気は家庭用に特化したほうがいいと判断したのである。
導入したのは「スマートソーラー」という日本のベンチャー企業の製品だが、バッテリー本体は中国のCATL製(シェア世界一)。是非もなし。いや、むしろ歓迎だ。割高な日本製蓄電池なんて欲しくない。
10年前には、ソーラーパネルを自宅屋根に設置している。その時は、東日本大震災からの復興に貢献したいという気持ちが猛烈に強く、「絶対国産品を!」とこだわってパナソニック製を導入した。
ところが数年後、国産ソーラーパネルメーカーは価格競争に敗れて続々と撤退。現在は中国製が世界シェアの7割以上を占め、日本のシェアはミクロの決死圏に落ちている。
EVも似たような状況だ。サクラは日本では1位だけど、世界ではミクロの決死圏。あくまで日本というガラパゴスだからこその1位である。
今後、BYDがさらにコスパの高いEVを導入すれば、いかに中国車に無関心な日本人も、いずれ振り向かざるを得ないだろう。そうならないように頑張るべき国産EV勢も、バッテリーは中韓製じゃないと勝負にならなくなる日は近い気がする。カーマニア的に是非もなし。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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