第273回:FFなのにまっすぐ走らない問題
2023.12.11 カーマニア人間国宝への道フェラーリ以外はまっすぐ走ってほしい
私はまっすぐ走らないクルマと縁がある。いや、縁というより深い絆というべきか。
最初に買ったフェラーリである1990年式の「348tb」は、路面の凹凸で1車線横っ飛びしてしまうくらいまっすぐ走らない臨死体験マシンだったし、5台目の「360モデナ」も、超高速域でリアがリフトしてとても怖かった。おかげでそのカイゼンに約5年ずつ心血を注ぐことができて、とても幸せだった。
フェラーリはまっすぐ走らなくてもいい。いや、魅力でさえある。しかし、普段乗るクルマがまっすぐ走らないと疲れる。
8年前に中古で買った「ランチア・デルタ1.6ディーゼルターボ」は、ルックスやインテリアは最高だったけれど、あまりにも直進安定性が低くて疲れてしまい、1年余りで手放した。これがフェラーリならカイゼンにまい進するところだが、超レアなランチアの変態モデルをまっすぐ走らせるために頑張るほどの根性は、私にはなかった。
その後、同じランチア・デルタのディーゼルターボを買った知り合いから、「僕のは矢のようにまっすぐ走りますよ」と聞き、個体差だったことを知った。ショック!
そして今。普段の足であるちょいワル特急こと「プジョー508 GT BlueHDi」も、驚くほど直進安定性が悪い。100km/h以下なら問題ないが、新東名で120km/h出すともうフラフラする。ランチア同様、鼻先に重いディーゼルエンジンを積んだFF車だというのに、どういうことなのだろう。
私は意を決しカイゼンを試みることにした。近所の杉並モータースに12カ月定期点検に出した際、「アライメント調整できますか」と聞いてみた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
練馬の工場でアライメント調整
「ここではできないんですが、練馬の工場でならできます。取りあえずタイヤ前後ローテーションをサービスしておきます!」(杉並モータース)
私は練馬の工場に予約を入れてクルマを受け取り、東北へと旅立った。
するとどうだ。直進安定性が驚くほどカイゼンされているじゃないか! タイヤ前後ローテーションだけで!
現在のタイヤは、クルマ購入直後に交換したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート2」。元からついていたタイヤは溝が0mm(前後ともマジで0mmの神業!)だったので、直進安定性を確認することもできなかったが、今のタイヤは、交換直後からずっと直進安定性が悪かった。
それを前後ローテーションしただけで大幅にカイゼンされてしまうというのは、一体どういうことなのだろう。「タイヤがおかしかった」というなら、前後交換するだけで直るのもおかしくないか?
おかしいけれど、カイゼンされたのはとってもうれしい。よかった~。
東北の旅から帰着後、予定どおり練馬の工場でアライメント調整を行った。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
キカイの調子が悪かったらたたいてみろ
私は、「左リアのアライメントがおかしいんじゃないか」と、おぼろげに予想していた。なぜなら納車時、左リアにあるマフラーが押しつぶされていたからだ(販売店が無償交換)。
これは、前オーナーがバックした際、石などの突起物にマフラーがガツンと当たったからじゃないか。あるいは左リアがドカンと脱輪したのかもしれない。それでアライメントが狂ったんじゃないか。
なにしろわがマシンは、プジョー508ディーゼルターボの中古車のなかで、2番目に安かった個体(299万円)だ。それくらいの訳アリはあってもおかしくない。私は「訳アリ中古車はカーマニアのドラマだ!」と思っているので、だとしても気にしない。直れば新たなヨロコビが得られるし。
アライメント測定の結果……予想は大ハズレ。フロントのトーイン0mm。リアは右のトーインが小さすぎたということで、4輪とも適正なトーインに調整してもらった。
そして新東名試走。
うおおおお、まっすぐ走る! 鼻先に重いディーゼルを積んでるFF車なんだからアタリマエだけど、そのアタリマエがとってもうれしい! これぞカーマニアのヨロコビ!
といっても、その効果はタイヤローテーションに比べるとだいぶ小幅だった。タイヤローテーションで6割がたカイゼンされてしまったので、アライメント調整の効果は2割というところだ。合計8割(推定)。
念のためメカさんに「脱輪とかしてませんかね?」と聞いてみたが、「これくらいの狂いは自然に出ますよ」で終了だった。
それにしても、タイヤ前後ローテーションの効果がこれほどデカいとは。キカイの調子が悪かったらまずはたたいてみろ! ということか? 昔のテレビみたいに。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
第315回:北極と南極 2025.7.28 清水草一の話題の連載。10年半ぶりにフルモデルチェンジした新型「ダイハツ・ムーヴ」で首都高に出撃。「フェラーリ328GTS」と「ダイハツ・タント」という自動車界の対極に位置する2台をガレージに並べるベテランカーマニアの印象は?
-
NEW
カタログ燃費と実燃費に差が出てしまうのはなぜか?
2025.9.30あの多田哲哉のクルマQ&Aカタログに記載されているクルマの燃費と、実際に公道を運転した際の燃費とでは、前者のほうが“いい値”になることが多い。このような差は、どうして生じてしまうのか? 元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.30試乗記大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。 -
なぜ伝統の名を使うのか? フェラーリの新たな「テスタロッサ」に思うこと
2025.9.29デイリーコラムフェラーリはなぜ、新型のプラグインハイブリッドモデルに、伝説的かつ伝統的な「テスタロッサ」の名前を与えたのか。その背景を、今昔の跳ね馬に詳しいモータージャーナリスト西川 淳が語る。 -
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.29試乗記「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。 -
ランボルギーニ・ウルスSE(後編)
2025.9.28思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・ウルスSE」に試乗。前編ではエンジンとモーターの絶妙な連携を絶賛した山野。後編では車重2.6tにも達する超ヘビー級SUVのハンドリング性能について話を聞いた。 -
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】
2025.9.27試乗記イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。