第773回:テストコースで走りを体感 ポルシェの次世代BEV 新型「マカン」の実力
2023.12.12 エディターから一言次世代BEVプラットフォームの第1弾
ポルシェはいま、2030年までに80%超の市販車を内燃機関から電気自動車(BEV)へとスイッチしていく目標を掲げている。2019年にBEV第1弾となる「タイカン」が登場。そして2024年に第2弾となる新型「マカン」の発表を予定している。
2023年10月下旬、新型マカンの市販化に向けたテストは最終段階に入っており、報道陣向けにマカンの生産拠点であるドイツのライプツィヒ工場にて、プロトタイプカーを使ったワークショップが開催された。
既報のとおり、ポルシェとアウディはこの数年をかけて、タイカンおよび「アウディe-tron GT」が採用する「J1」に続く新たな電動車用プラットフォーム「PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)」を共同開発してきた。
そしてこのPPEをもとに、2024年にアウディは「Q6 e-tron」を、ポルシェは新型マカンを市販化する予定だ。PPEは後輪駆動と全輪駆動のいずれにも対応するもので、今後はフォルクスワーゲン グループのプレミアムブランドがこのPPEをベースに、BEVを開発することになるはずだ。
ポルシェは、第3弾として「718ボクスター/ケイマン」のBEVの導入を予定しており、その後には「カイエン」のBEV版、さらに主に中国とアメリカ市場に向けて、カイエンの上に位置するスポーティーなラグジュアリーSUVが登場する、と今回のプレゼンテーションで発表された。
よりスポーティーに、より先進的に
ワークショップの中身は、技術解説とタクシーライド(同乗走行)、そして工場見学の大きく3つのパートに分かれていた。ライプツィヒ工場は、日本にもあるエクスペリエンスセンターを併設しており、まずはそのエントランスに展示された実物のカットモデルやPPEを見学する。
エクステリアは、はっきりとよりスポーティーになった。ディメンションはまだ公開されていないのであくまで印象だが、サイズはホイールベースが延長されている以外はそれほど変わらなそうだ。ヘッドライトは4本のLEDでデイタイムライトを構成するタイカンをほうふつとさせるもの。バンパーの形状も丸みを帯びた現行とは異なるエッジの効いたシャープなデザインに。ボンネット上のフェンダーの峰もより高く筋肉質なものになっている。ルーフからリアにかけてのラインも明らかに傾斜が低くスポーティーなクーペスタイルで、ラゲッジスペースをかなりいじめてしまっているのではないかと心配になるほど。
インテリアは取材時にはまだ非公開とのことだったが、のちに送られてきた資料用の画像を見たところ、タイカン、そして新型カイエンの流れをくんだものになった。ドライバーの眼前にはメーターナセルのない12.6インチのフルデジタルの自立型カーブドディスプレイを配置。ギアセレクターはステアリングの脇に移設されている。インパネの中央には10.9インチタッチディスプレイを、そしてオプションで助手席にも10.9インチディスプレイを装着することが可能となった。拡張現実(AR)機能付きヘッドアップディスプレイや「ヘイポルシェ」で起動する音声アシスタントシステムなど、最新世代のインフォテインメントシステムを搭載している。
高い動力性能と500km以上の航続距離を実現
パワートレインはタイカンと同様に800Vのアーキテクチャーと永久磁石式同期電動モーター(PSM)を採用。当初はエントリーモデルと最上級モデル(おそらく「ターボ」)が投入される予定で、後者のシステム出力は最大約450kW(約600PS)、最大トルクは1000N・m以上。駆動方式は全輪駆動で前後重量比は48:52とややリア寄りになっている。トランスミッションはタイカンが2段なのに対して変速機構なしの1段に。これによりコンパクト化が図られた。
PSMは、フロントアクスルには両グレード共通で直径210mm(有効長100mm)のものを搭載。リアアクスルのものは、エントリーモデルが直径210mm(有効長200mm)なのに対して最上級モデルでは直径230mm(有効長210mm)へと強化されている。
アンダーボディーには前世代よりも約30%高いエネルギー密度を達成した総容量100kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。バッテリーは角柱状のセルを持つ12個のモジュールで構成されている。正極材のニッケル、コバルト、マンガンの混合比は8:1:1。タイカンに比べても冷却能力が向上しており、最大270kWの超急速充電に対応する。そして温度や充電状況によるが、最大約240kWのエネルギー回生が可能となった。一方で、ドライバーがアクセルペダルをオフにし、しばらくブレーキを踏まなければ、いわゆるコースティングモードに入るなど低負荷走行時の効率も高められている。WLTPモードによる一充電あたりの航続距離は500km以上という。
そして、個々のモジュールやその他の重要なコンポーネントを交換可能とするなど、修理性も向上。車載AC充電器、高電圧ヒーター、DC/DCコンバーターの3つのコンポーネントを組み合わせた革新的な「インテグレーテッド・パワー・ボックス(IPB)」の採用により、サイズ、重量、コストの削減に成功している。
サスペンション形式はフロントにダブルウィッシュボーン、リアにはマルチリンクを採用。「PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)」電子制御ダンパーは2バルブ式となり、ドライブモード(ノーマル/スポーツ/スポーツプラス/オフロード)に応じてそれぞれで広い領域をカバーすることができる。また、最上級モデルにはエアサスペンションやリアアクスルに電子制御式ディファレンシャルロックである「ポルシェトルクベクタリングプラス」も装備。エアサスはモードに応じて-30mmから+40mmまで車高の変更が可能となる。マカンでは初となるリアアクスルステアリングも設定され、80km/h以下の速度では前輪と後輪は逆位相に、とくに駐車時等では後輪には最大5度の舵角がつく。これにより優れた走行安定性と小回り性能を両立する。
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悪路走行で感じたポテンシャル
タクシーライド用のプロトタイプカーは黒一色で、エンブレムの類いは一切なく、テールレンズまわりにはまだ偽装が施されていた。ぱっと見はエンジン車に見えるようにとテールパイプ部分も再現されているのがおもしろい。
タクシーライドは、ライプツィヒ工場の敷地内にあるエクスペリエンスセンターのオフロードトラックから始まった。132ヘクタールのオフロード地形に、全長6kmのコースだ。コース内には、約40度の勾配の坂や、長さ100m、深さ0.5mの川など合計15個のテストモジュールがある。
未舗装で砂利だらけ、ところどころ大きな水たまりのあるダートコースにいきなり全開で突っ込んでいく。スライドしながらも、とにかく足がしなやかに動くことに驚く。テストドライバーに尋ねるとやはりエアサス装着車だという。のちに確認してみたところタイヤは21インチの「ミシュラン・パイロットスポーツEV」だった。現行マカンでは登りきれないという勾配約40度の急斜面も難なくクリアしてしまう。水深0.5mの川にもためらいなく突っ込んでいき、水しぶきを上げながら勢いよく走りきった。最大渡河性能についての詳細は教えてくれなかったが、そのポテンシャルの高さは十分に伝わってきた。
アンベールが待ち遠しい
オンロード体験は、全長約3.7kmのテストコースで行われた。11あるコーナーは、ニュルブルクリンクをはじめ、セブリング、ラグナセカ、モンツァ、富士、鈴鹿など世界中のサーキットから取り入れたデザインになっている。デザインは改修後の富士をはじめ世界のF1用のサーキットを手がけるヘルマン・ティルケによるものという。
ドライブモードをスポーツプラスにしてコースインする。いきなりの全開加速は、もはやSUVのそれとは思えない。タイトなコーナーではきれいにドリフトしてみせてくれる。揺り戻しのない俊敏な動きは、予想をはるかに超えていた。ドライバーは、ライプツィヒのインストラクターではなく、ポルシェのヴァイザッハ開発センターからやってきた本物のテストドライバーだった。この車両ってきっとターボだよねと尋ねると、「そうだ」と教えてくれた。2チャンバー式のエアサスをはじめシャシーの仕上がりは素晴らしくよさそうだ。
実はつい先日、東名高速道路の上り、大和トンネル付近で渋滞にもまれていたら、黒塗りでエンブレムがなく、テールライトのデザインを隠し、テールパイプを偽装した新型マカンのテスト車両が突然、隣の車線に現れた。おそらく右ハンドル仕様だったが、まさにテストは最終段階というところだろう。アンベールを楽しみに待ちたい。
(文=藤野太一/写真=ポルシェ/編集=堀田剛資)

藤野 太一
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