第598回:豊富なバリエーションで電動化時代の旗手となるか? アウディのBEV戦略を読み解く
2019.11.02 エディターから一言 拡大 |
ここ数年で急速にパワートレインの電動化を進めているアウディ。フォルクスワーゲングループの中で、プレミアムディビジョンを担うこのブランドは、どのような電動化戦略を立てているのか? 本国で開催された“テックデー”の発表内容から読み解く。
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車種に応じて4つのプラットフォームを使い分ける
数あるプレミアムブランドの中でも、最も電動化に積極的な姿勢をみせているアウディ。初のBEV(電気自動車)となる「e-tron」はすでに発売済みで(日本導入は2020年央予定)、さらに2018年11月のロサンゼルスモーターショーでは「e-tron GTコンセプト」、2019年3月のジュネーブモーターショーでは「Q4 e-tronコンセプト」を発表。PHEV(プラグインハイブリッド車)のラインナップ拡充も著しい。矢継ぎ早に電動車のコンセプトカーや市販車が発表されるので戸惑うが、今回開かれた電動車のワークショップで、その全容が見えてきた。
「ロードマップE」と呼ばれるアウディのeモビリティー戦略では、2025年までに30車種以上の電動車を発売する予定となっている。これは全販売台数の40%に相当し、そのうちの20車種はBEVになるという。
プラットフォームは4種類。e-tronはエンジン車と同じく「MLB evo」、e-tron GTコンセプトは「ポルシェ・タイカン」と共通の「J1パフォーマンスプラットフォーム」、Q4 e-tronコンセプトはフォルクスワーゲンがグループ全体に向けて開発した「MEB」、そしてもうひとつは、現在ポルシェと共同開発している「PPE(プレミアムプラットフォームエレクトリック)」となる。
e-tronが発表された当初は、プラットフォームがBEV専用ではなくエンジン車と同じMLB evoだったことから、「アウディはまだBEVの本格普及が進むかどうか確信が持てずに、様子見の段階だ」ともみられていたが、どうやらそうではなかった様子。たしかにMLB evoはエンジン車用に開発されたが、電動化も視野に入れた設計となっていたため、早いタイミングでBEVを発売するのに適していたのだ。後に出てくるPPEのモデルとセグメントがかぶることにはなるが、エンジン車やPHEVも当面は販売していくので、その役割を終えるのはまだ先の話だろう。PHEVは2019年だけでも「A7スポーツバック」「A8」「Q5」「Q7」と4車種が発表され、2020年以降にもまだ増えていくという。ちなみに日本市場では、いまのところ新たにPHEVを導入する予定はない。
それぞれに個性的なプラットフォームの構造
BEVに話を戻すと、e-tron GTコンセプトは市販車が 2020年末に生産開始の予定。ポルシェが開発したJ1パフォーマンスプラットフォームをベースとしていて、システム出力590PS(434kW)、システムトルク830N・m(84.6kgf・m)を発生する2つの同期モーターを搭載。0-100km/h加速3.5秒を誇る。800Vの充電システムに対応しており、350kWの急速充電を使えば約20分で容量95kWhのバッテリーを80%まで充電できる。航続距離は400km以上だ。
BEV専用プラットフォームの多くがフロアにバッテリーを敷き詰めているが、J1パフォーマンスプラットフォームは、後席足元部分だけが低くなる「フットガレージ」が設けられている。これによって、快適な座り心地と1.38mの低全高を実現しているのだ。市販車では出力の異なるモーター、容量が異なるバッテリーも用意される予定で、ネッカーズルム近くのべーリンガーホフ工場で「R8」とともに生産される。
フォルクスワーゲン開発のMEBは、コンパクトクラスからミディアムクラスまで、多くのモデルが展開されていく。アウディのBEVとしてはエントリーモデルに相当し、幅広いユーザーを獲得する役割を担う。
このクラスに属するQ4 e-tronコンセプトの市販版は、2021に発売予定。「Q3」と同じセグメントだが、BEV専用プラットフォームの利点によって、2.76mの長いホイールベースを実現し、室内空間はミドルサイズの「Q5」並みになるという。ベーシックモデルはリアモーターのRWD(後輪駆動)だが、フロントモーターを追加した「クワトロ」も用意される。
双方のノウハウを持ち寄って開発を加速
ポルシェと共同開発中のPPEは、アッパーミドルサイズからフルサイズクラス、ラグジュアリークラスまでをカバーするBEV専用プラットフォームだ。技術パッケージはMEBと近似しているが、より大型でハイパフォーマンスなモデルにも対応する。基本はやはりRWDで、フロントモーターを追加したクワトロが用意される点も同じ。基本の駆動方式にリアモーター・リア駆動を選択したのは、パッケージング面で有利なことが主な理由だという。
ポルシェはJ1パフォーマンスプラットフォームのタイカンで、アウディはMLB evoのe-tronでそれぞれ経験を積んできており、PPEではたがいの経験を持ち寄ってスピーディーな開発がなされているそうだ。シミュレーションや実験車両での検証、分析なども一緒に活動しているという。ただし、バッテリーや駆動系など基本的な部分は共通ながら、モーターの種類や出力などは幅広いバリエーションが用意され、ポルシェとアウディで独自性を出すべくここは“競争領域”になっている。シャシーにしても、それぞれ独自に開発していくようだ。
PPEにはローフロアとハイフロアが用意され、セダンやスポーツバック、SUV 、CUVなど、幅広いバリエーションが生み出されることになる。ポルシェでは「マカン」に「カイエン」「パナメーラ」などのクラスが、アウディは「A4」以上のクラスがPPEのBEVとなるのだろう。PPEが完成すればMLB evoのBEVは必要なくなるが、先述の通りPHEVの需要がある限りMLB evoも存在し続けるはずだ。またJ1ハイパフォーマンスプラットフォームも、ハイエンドスポーツ用としてPPEと共存していくことになる。
アウディはそのポートフォリオの特性もあって、フォルクスワーゲンやポルシェと緊密な関係を保ちながらBEVを開発する立場にある。だからこそ年間販売台数200万台弱と、それほど規模の大きくないブランドでありながら、グループとしてのスケールメリットを存分に生かし、4種類ものプラットフォームを使って実に幅広いバリエーションをそろえることができるのだ。BEVの本格普及時代に入っていくと、ライバルのプレミアムブランドよりも商品力で優位に立てる可能性が少なくない。ディーゼルゲートによっていったんは停滞したかに見えた“技術による先進”が再び息を吹き返し、一気に加速していきそうな予感がある。
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一度乗るとガソリン車には戻れない
ワークショップの合間に、すでに欧州で販売されているe-tronにアウトバーンで試乗した。95kWhの大容量バッテリーを搭載した、全長×全幅×全高=4901×1935×1616mmというボディーの車両重量は2490kgと重量級。それでもシステム最高出力408PS(300kW)、システム最大トルク664N・m(67.7kgf・m)とパフォーマンスは十分なので、速度無制限区間の追い越し車線をわが物顔で突っ走ることができた。“エコカー”のBEVでこんな走りをするのもどうかと思いつつ、e-tronの完成度の高さには舌をまいたというのが正直なところ。一度でもこのハイパフォーマンスBEVを体験してしまうと、エンジン車には戻れなくなりそうでもあったのだ。
もっとも、感心したのは速さというよりシャシー性能の高さだった。e-tron試乗の前後に、それなりに優秀なエンジン車で同じようにアウトバーンを走っているのだが、その差は小さくなかった。e-tronはバッテリーがフロアに敷き詰められ、しかも前後アクスル内に収まっているため、低重心でヨー慣性モーメント的にも有利。さらに、エンジン車はよくできていたとしてもマウントで車体と連結しているパワートレインの揺動などが、どうしてもつきまとう。高速走行中に路面の荒れや横風などの外乱によって進路が乱されると、修正舵が多くなるのだ。e-tronはそういったもどかしさがまったくなく、200km/h近い超高速巡航でも最小限の修正舵で文字通り矢のように突き進んでいくのだった。
エンジンよりも緻密な制御ができるモーターならば、トルクベクタリングをはじめとする駆動コントロールも自由度が高まる。シャシーを開発するエンジニアやダイナミクス性能を評価するテストドライバーなども、BEVに出会ってしまったらエンジン車を過去のものと思い始めるのではないか。そんな気さえするのだ。
アウディは原材料の採掘、生産、クルマの利用、再生可能エネルギーへの転換など、自動車にまつわるライフサイクル全体で、CO2の排出量と吸収量を“プラスマイナスゼロ”とするカーボンニュートラルを目指しており、その一環として、電動化を進めると表明している。2025年までに対2015年比で30%削減、2050年にはカーボンニュートラルという目標を立て、持続可能なモビリティーを実現するという。
ただ、それだけではなくエンジン車ではできなかったことの実現、BEVだからこそできる新たなクルマづくりを楽しんでいるようにも思える。環境対応だけではない、生粋のカーガイとしての本音が、透けて見えるような気がしてならないのだ。
(文=石井昌道/写真=アウディ、ポルシェ、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)

石井 昌道
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