第276回:思い出は美しすぎて
2024.01.29 カーマニア人間国宝への道これぞ伝説の「959」の再来?
担当サクライ君に「そろそろ何か乗せて~」とメールしたところ、「ポルシェのレアもの『911ダカール』でいかがでしょう」という返信がきたので、どんなクルマか知らないまま「乗る乗る~!」と返した。
当日午後8時、サクライ君はそれなりの爆音とともにやってきた。外に出ると、ソイツはとってもハデでカッコいいカラーリングをまとっていた。ダカールについての予習をさぼった私は思わず叫んだ。
オレ:これって「959」のオマージュ?
サクライ:そうです(自信満々)。
正確には959ではなく、1984年のパリダカで優勝した「953」こと「911カレラ3.2 4×4パリダカール」のオマージュで、ゆえにゼッケンは953だったが、そんな細かいことを知らない2名の中高年カーマニアは、「これぞ伝説の959の再来」と思い込んで発進した。
オレ:なんだかとっても乗り心地がいいね。
サクライ:そうなんですよ。
オレ:エンジンはフツーっぽいね。
サクライ:エンジンは「911カレラGTS」と同じです。
オレ:オートマだし、車高が高いから段差も気にならないし、ラクチンだなぁ。
サクライ:世界一ラクチンな911だと思います。
走りだして割とすぐに結論が出たので、そこからは中高年カーマニアの思い出話となった。
オレ:サクライ君は959が出た頃、どこの編集部にいたの。
サクライ:僕は『GENROQ』編集部に入ったばっかりでした。
オレ:ええっ! じゃあ959を運転したことあるんじゃない?
サクライ:よく覚えてないですけど、撮影のために駐車場内を動かしたことくらいはあるような気がします。
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首都高での足さばきに驚く
オレ:そうなんだ! オレは1回だけ助手席に乗せてもらったけど、運転したことはないんだよ。あの当時959っていえば、「フェラーリF40」と並ぶ世界最速・世界最高値のスーパーカーだったよねぇ。
サクライ:そうでしたね。
オレ:その後F40は何度も運転させてもらったけど、959に接する機会はゼロなんだ。そもそも、ほとんどクルマが残ってない感じがするけど、みんな壊れちゃったのかな?
サクライ:だいぶ維持が難しいクルマみたいですね。
オレ:超危なくてすぐ燃えちゃうF40がいっぱい生き残ってるのに、959ってまったく視界から消えたよね。
サクライ:ですね。僕もF40にはイヤというほど乗りましたけど、959はその後まったく縁がありません。
正確には、959とF40では生産台数が違うので、縁が薄いのも当然らしいが、ともにスーパーカー道を歩んできた中高年2名がここまで縁が薄いというのは、なんとなく「博物館にあるヤツ以外全部壊れちゃったのかも」みたいに感じるのだった。
オレ:その959の再来にいまこうして乗ることができてうれしいよ!
サクライ:よかったです。
オレ:しかも超ラクチン。故障もなさそうだね!
サクライ:なにしろ911カレラGTSですから。
世界一ラクチンな911は、ラクチンに首都高を疾走する。それにしても乗り心地がイイ。首都高C1内回り霞が関の先の大きなギャップを越えた時の収束は、生涯最高にスムーズだった。トラクションが抜けるどころか段差すら感じさせないのだからすごい。さすがのサスペンションストロークだ。よくわかんないけど。
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カバとコビトカバくらい違う
オレ:いまの段差の収束はすごかったけど、趣味車としては、この前に乗せてもらったヤツ(7段MTの「911カレラT」)のほうがぜんぜん楽しかったね。あれは「930」の香りがしたもんなぁ。
サクライ:同感です。でもこれは世界限定2500台なので。
辰巳PAに到着すると、911ダカールは外国人観光客に大人気だった。運転してきた当人たちはダカールについて詳しくは知らないのだが、どうやらみんなとてもクルマに詳しいらしく、一発で群がってきた。
そこに、シブいブルーのナロー(901型911)が姿を現し、ダカールの隣の枠に止めた! うおおおおおおお~!
オレ:こんばんは!
ナローオーナー:あ、こんばんは。いつも読んでますよ。
オレ:えっ、ありがとうございます。すばらしいクルマですね!
ナローオーナー:そちらこそすばらしいクルマですね。初めて見ました。
オレ:僕もさっき初めて見たんです。
2台が並ぶと、あまりの車体の大きさの差に愕然(がくぜん)とした。別に911ダカールがデカいとは感じなかったのだが、ナローと並べるとカバとコビトカバくらい違う。
いや、問題は車体の大きさではない。趣味性だ。速さがどうでもいいものになったいま、カーマニアに残された聖域は趣味性だけ。趣味性では911ダカールより911カレラTのほうがずっと上だったが、それもナローを前にすると勝負にならない。神の如き趣味性のカタマリであるナローに見向きもせず、ひたすらダカールの写真を撮っている外国人カーマニアたちは、実に単なるミーハーである。やはり中高年カーマニアは、古いのに走る以外に道はないらしい。
オレ:ところでさ、ダカールラリーってまだやってるの?
サクライ:やってると思いますよ。
オレ:考えてみたらオレ、パリダカの取材でダカールに行ったことあるんだよ。ホテルの水道水で歯を磨いたら一発でおなかこわしてさぁ、コーラだけで生き延びたんだ。
サクライ:そうですか。
いまとなっては、ダカールの思い出は美しすぎるのだった。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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