彼の後ろに道ができた 鬼才・マルチェロ・ガンディーニの仕事
2024.04.10 デイリーコラム音楽家の家に生を受ける
すでに報じられたように、2024年3月13日、イタリアのカーデザイナー、マルチェロ・ガンディーニ氏が逝去した。享年85だった。
自動車の歩みのなかでは、数多くの辣腕(らつわん)デザイナーたちが作品を残してきたが、そのなかにあって、ガンディーニはまさに鬼才と呼ぶにふさわしい偉大な存在であった。スタイリングの優美さを描く敏腕デザイナーは他に存在しても、ことアバンギャルドさやアグレッシブさ、革新性では、他の追随を許すことはなかった。その象徴的な存在が「ミウラ」であり「カウンタック」であり、「ストラトス」であろう。
1938年8月26日、マルチェロ・ガンディーニは音楽家の両親のもとでトリノにて誕生した。幼いころから音楽を親しみ、ピアノを友として成長していった。そのまま成長すれば親たちと同じ道を歩んだはずだが、幼き日に買い与えられた機械工作キットに魅了されたことが転機となって、メカニズムへの関心を抱くようになった。やがてフィアットで「ヌオーヴァ500」や「600」など多くの秀作車を送り出したダンテ・ジアコーサの著書を読みあさるなどして、独学でクルマの知識を吸収していった。
高校卒業後はフリーランスデザイナーの道を選んでいる。活動の範囲は、機械製品の組み立て図や広告ポスター、照明やインテリア、ナイトクラブのしつらえなど多方面におよんだが、1959年に手がけたOSCAのレーシングボディー製作が転機となって、クルマへの関心が高まっていった。
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1965年にベルトーネに招かれる
1963年に友人の紹介でカロッツェリア・ベルトーネの門をたたいている。だが、このときは採用には至らなかったものの、2年後の1965年秋、ヌッチオ・ベルトーネ社長から声がかかった。採用までに2年の時を必要とした理由は、1963年当時はジョルジェット・ジウジアーロがチーフデザイナーの地位に君臨しており、ヌッチオは社内で両雄が並び立つことは不可能だと判断したからといわれている。
1965年トリノショーの前日、ジウジアーロがベルトーネを辞してカロッツェリア・ギアに転籍すると、ガンディーニは彼の後任として招かれた。だが、このあたりの経緯については説明が必要だ。ヌッチオはガンディーニの秘めた才能を高く買ったとはいえ、同じ27歳とはいえ数々の経験を積んだジウジアーロと同様の扱いで、新人に全権を委ねることには慎重であった。
まず、ミケロッティからベルトーネに移籍したばかりのパオロ・マルティン(1943年生)との共同作業体制を敷いた。これによってジウジアーロ体制からの円滑な移行を図ろうとしたのである。ミウラのスタイリングについては、しばしばジウジアーロが手を下したのではないか、あるいは彼が書き残した試案のスケッチがヒントになったのではとうわさされるゆえんがここにある。また、ヌッチオは1966年ジュネーブでの反響を見て、ガンディーニを正式にチーフの座に据えようと考えたのではとの臆測もある。マルティンはといえば、入社から1年でピニンファリーナに移籍して、チーフの地位についた。
話を1965年秋に戻すと、ガンディーニがベルトーネに入社したわずか4カ月後には、ジュネーブショーの開催が迫っていた。これに向けて彼は、短期間のうちにランボルギーニP400ミウラに「ジャガーFT」、「ポルシェ911」ベースの「スパイダー」の3台を完成させている。ジャガーFTとポルシェ911スパイダーは、ともに顧客からの注文を受けての製作であった。
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常に革新的であれ
筆者は1992年12月に単独インタビューをおこなったが、その席上で、ジュネーブで大きなセンセーションを巻き起こしたミウラの誕生について、「過去のしがらみや伝統にまったくとらわれることなくつくりたかった」と回想している。
ジウジアーロの後任という大役であったが、この環境のなかでガンディーニの才能は大きく開花することになった。それにはヌッチオ・ベルトーネの秀でた経営手腕が大きく作用したといえる。最たるものが、新興自動車メーカーのランボルギーニをベルトーネに引き寄せたことだろう。スーパースポーツカーファンに訴求する強烈なスタイリングを、伝統にとらわれないガンディーニが描き出していった。もしランボルギーニがフェラーリのテイストをほうふつとさせるスタイリング(伝統美)であったなら、おそらく強烈なスポットライトは当たらなかったであろう。その第1弾がミウラであった。
10日間ですべての元になるレンダリングを描き上げ、新婚でありながら一日あたり22時間を会社で過ごし、プロトタイプ製作チームは昼夜2交代制のシフトを敷いて1カ月後には原寸大モデルを完成させたと回想している。
彼が手がけた作品を俯瞰(ふかん)すると、伝統的な様式(クラシシズム)には沿わず、アグレッシブで革新的であることに重きを置いて、スタイリストとして成功していったことが見て取れる。スポーツカーだけでなく、それは小型乗用車も例外ではなかった。
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欧州の実用車市場を席巻
ガンディーニは1979年にベルトーネを辞してフリーランスの道を選んだ。最後の作品となったのは、シトロエンのために描いた「BX」であった。BXはそれまでのシトロエンとは趣が異なるスタイリングであったが、見る者にシトロエンらしさを感じさせる秀作であり、大きな成功をおさめることになった。
インタビューでは、ベルトーネを退社した理由を問うてみたが、明言を避けたものの、言葉の“行間”から、数十人のスタッフを束ねることに忙殺されたからと聞き手は感じ取った。
フリーランスとして1979年から1984年までは、主にルノーとの契約下で小型車からトラックまでを手がけている。そのなかでの最大の成功作は、累計生産が500万台を超えた「スーパー5」であり、その生産ラインでの効率化システムだった。すなわち1980年代半ば、欧州でよく売れたスーパー5とBXはガンディーニのスタイリングということになる。
1985年からは、フリーランスとしてコンサルティングやデザインを主な活動の場とした。マセラティやランボルギーニではデザイナー名を明らかにしているが、多くは黒子に徹した活動形態から生み出され、日本のメーカーとも関係が深かったようだ。さらにクルマ以外にも単座軽量ヘリコプター「CH-7イーグル」なども手がけていた。
マルチェロ・ガンディーニが手がけた顕著なモデルについては、そのいくつかをフォトにて紹介することにしたい。なお、本文と写真キャプションに記した年は、ガンディーニの発表資料によるもので、必ずしも発売年とは異なる場合がある。
(文=伊東和彦<Mobi-curators Labo.>/編集=藤沢 勝)
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伊東 和彦
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