ホンダWR-V Z+(FF/CVT)
クリエイティブ・ムーバーの最新形 2024.04.16 試乗記 ホンダの新たなコンパクトSUV「WR-V」がついに発売! 妙に角張ったスタイリングもさることながら、低価格を売りにしているところもホンダとしては珍しいタイプだ。はるばるインドからどんぶらこどんぶらこと運ばれてくるニューフェイスの実力を試す。価格コンシャスなSUV
抽選で割り当てられたWR-Vは「Z+」だった。最上級グレードである。本来ならばくじ運が強いと喜ぶべきなのだろうが、今回ばかりはハズレと感じてしまった。ホンダがSUVラインナップに投入するWR-Vは、価格コンシャスなモデルである。「ヴェゼル」とほぼ同じサイズで安いことが大きなウリなのだ。できればスタンダードタイプの「X」に乗りたかった。
価格を抑えることができたのにはいくつか理由がある。パワートレインは1.5リッター自然吸気直4エンジンにCVTの組み合わせのみ。ハイブリッドは採用されず、駆動方式はFFで4WDの設定はない。特に目新しい技術は盛り込まれておらず、飛び道具らしきものは見当たらない。オーソドックスな仕立てのベーシックなモデルである。ならば魅力がないのかというとそうではないのが面白いところである。スティーブ・ジョブズを持ち出すまでもなく、優れた製品に必要なのは何よりもビジョンなのだ。
四角張ったマッチョなフォルムが新鮮である。そう感じてしまったのだが、よく考えれば変な話だ。SUVはもともと悪路走破性を高めるために筋骨隆々のたくましいボディーを備えているのが当然だった。荒野を駆けるクロスカントリーという出自から離れ、昨今では都会派SUVという語義矛盾が横行している。洗練と高級感を得て、すっかりオシャレさんになってしまったのだ。イケメンがモテるのは当然なのだろうが、泥にまみれていた昔を懐かしく思っていたユーザーもいるはずである。
WR-Vは武骨ともいえるいかつい肢体を隠そうともしない。こんなに高い位置にあるフロントフードを久しぶりに見た気がする。切り立ったグリルで分厚いフロントセクションを構成しているが、中を見るとスカスカだったので明らかにデザインとしてこの形になっている。クーペスタイルのSUVが当たり前になっているなかで、こういうタフな形状を守るメーカーの代表格が三菱だろう。WR-Vのスタイルを説明するのにホンダは“ラギッド”という言葉を使っていて、これは三菱でよく聞く形容語である。
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後席はおもてなし空間
運転席から前を見ると、ボンネットがよく見える。両端に膨らみがあり、前端部分を把握しやすい。高い視点から見下ろすSUVの利点が生かされている。なんとなく既視感があると思ったら、初代「ポルシェ・カイエン」に乗ったときの記憶がよみがえったのだった。車幅が分かりやすいうえに最小回転半径は5.2mなので、狭い道でも取り回しは楽である。
車内のしつらえは極めてビジネスライクで、華やかさとは無縁。新奇な意匠はなく、ダッシュボードもシートも色気のない黒一色である。硬質な素材が多用されていて、ソフトパッドはドアトリムの一部に採用されているだけ。センターコンソールは最近ではあまり見なくなった仕立てだ。大きなシフトセレクターとサイドブレーキレバーが鎮座している。電子式のパーキングブレーキが普通になっている今では、ちょっと懐かしい感覚である。
WR-Vの最大の美点は、ボディーの後部にある。角張ったフォルムのおかげもあって、後席のスペースは広い。ヴェゼルに対して明らかなアドバンテージだ。しかも、独立したエアコン吹き出し口が設けられているのがうれしい。このクラスとしてはぜいたくな装備である。WR-Vの工場はインドにあり、販売もされる。現地のホンダ車ではWR-Vが価格も大きさもトップで、ショーファードリブンカーの需要もあるという。後席がおもてなし空間になっているのは当然なのだ。
荷室も広い。こちらもヴェゼルをはるかに上回っている。容量458リッターはクラストップレベルだそうで、収納力は高そうだ。6:4分割式のリアシートを倒せばもっと積載量は増えるが、残念ながら床面はフラットにはならない。
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平凡はメリットとなる
エンジンは電気的なサポートが与えられていない素のままである。最高出力118PS、最大トルク142N・mで、いわゆる“必要にして十分”というタイプだ。目の覚めるような加速力を期待するのは無理で、アクセルを踏んでいくと事務的にソツなくスピードを増していく。CVTにはステップアップ制御の「G-デザインシフト」が用いられているというが、ラバーバンドフィールが皆無というわけではない。
急加速すると、車内にはにぎやかな音があふれる。エンジン回転数の上昇につれて騒音も爆上がりだ。窓ガラスは薄いしコストのかかる遮音に力を注ぐのは難しかったようだが、買い物などで街乗りするぶんにはさしたる問題はない。アイドリングストップ機能はないので、燃費は16.2km/リッター(WLTCモード)と平凡な数字にとどまる。
先進運転支援システムの「ホンダセンシング」は、全グレードに標準で装備される。衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制機能などが備わり、アダプティブクルーズコントロールも使える。高速道路巡航は快適で、静粛性もまずまず。都内での試乗だったのでワインディングロードを走ることはできなかったが、それなりのスピードでコーナーに進入しても危なっかしさはなかった。乗り心地に関しては、これも標準的である。ロールを抑えるために足まわりは固められており、段差を乗り越える際の衝撃はある程度ガマンしなければならない。
というわけで、走行性能は総じて平凡だ。これは弱点ではなく、このクルマにとってはむしろメリットである。突出したポイントはないが、ネガティブな要素も見当たらない。よほどの運転マニアはともかく、多くの自動車ユーザーは不満も不足も感じないだろう。広い層にアピールするのなら、“可もなく不可もなく”はほめ言葉である。自動車価格が高騰している現状では、満足できる性能と安心感を担保したうえで安価に提供することが重要なのだ。
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「N-BOX」より安い!?
この業界では新モデルが発売されたら試乗会が開かれるのが通常だが、今回はなぜか時間を決めて貸し出すという方式。月間販売目標が200台の「アコード」は箱根で大々的に試乗会をやったのにひどい扱いではないかといぶかしんだが、これには理由があった。WR-Vの開発拠点はタイなので、ジャーナリストの質問などに対応する開発チームを日本に呼ぶのが困難なのだ。公道テストは主にインドで行われており、世界の2大カレー国が関わったことになる。
試乗車はオプションを含めると280万円を超えるが、エントリーグレードのXなら車両本体価格は209万8800円だ。ホンダの超人気軽自動車「N-BOX」の上級グレードより安価である。N-BOXと比較検討する人はあまりいないはずで、ライバルとなるのはコンパクトSUVということになるだろう。「トヨタ・ロッキー」と「ダイハツ・ライズ」は似通ったポジションだが、サイズ感はかなり違う。ロッキー/ライズの5ナンバーは有利な点でもあるが、居住性と積載性ではWR-Vに圧倒的な強みがある。
ホンダとしては「トヨタ・ヤリス クロス」あたりが直接の競合になると考えているらしい。ただ、ヤリス クロスにはハイブリッドも4WDも設定されているが、WR-Vは1.5リッターガソリンエンジンのFF車の一本勝負である。しかも、左ハンドルの設定がない。販売されるのは日本とインド、南アフリカで、いずれも左側通行の国なのだ。バリエーションを絞ることは、確実にコストダウンにつながっている。
見た目はタフなSUVで、最低地上高は195mm。でも、「トヨタ・ランドクルーザー」や「スズキ・ジムニー」のような本格的なオフロード車ではなく、実用的な悪路走破性を備える普通のクルマだ。内外装や機能は最先端ではないが、はやりの“平成レトロ”風味と解釈することもできる。街乗り志向が強まったことで、SUVも乗用車的なスタイルが一般的になった。しかし、誰もが都会的な洗練を求めているとは限らない。がっしりとしたボディーを持つ実用車の需要はあるはずで、WR-Vはホンダが誇る「クリエイティブ・ムーバー」の最新形として受け入れられそうな気がする。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダWR-V Z+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4325×1790×1650mm
ホイールベース:2650mm
車重:1230kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:118PS(87kW)/6600rpm
最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/4300rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:16.2km/リッター(WLTCモード)
価格:248万9300円/テスト車=282万8100円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(4万0700円)/ドライブレコーダー<フロント用>(3万7400円)/9インチHonda CONNECTナビ(20万2400円)/ETC2.0車載器<ナビ連動タイプ・アンテナ分離型>(1万9800円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1102km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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