タイヤのサイズはどう決まる?

2024.04.23 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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タイヤのサイズは、直径に加えて偏平率に幅まであって多様です。そのなかから特定の適合サイズを絞り込むプロセス(デザイン、走行性能)を教えてください。ユーザーとしてはクルマを前に「なんでこのサイズなのか」「どうして別の選択がないのか」と思うことはありますし、タイヤ交換その他、後々まで影響のあるスペックなので、その必然性について知りたいです。

タイヤサイズの選定については、安全性の観点から入るというのが大前提ですが、スポーツカーをはじめとする動力性能重視のクルマが対象なのか、あるいはそれ以外のモデルなのかで話が変わってきます。

まず耐荷重性と許容速度、さらにエンジンのパワーとトルク、車体の重量配分などから、タイヤの幅が決まります。幅は性能上、動力を路面に伝える決め手として重要です。幅広いサイズを選んだほうがトラクションはアップするし、旋回性能も上がる。かなり高出力なスポーツカーならば、サイズにこだわって高価なオプションを選ぶ意味があります。例えば、最近のナンバー付きの車両で競技に臨む場合、メーカー装着できるタイヤの幅はタイムに大きく影響します。

幅を定めたら、次は「プロポーションの点から、直径はこのサイズにしよう」という流れになります。特に近年は、見栄え重視ですね。タイヤのサイズはクルマの見た目を左右するので、デザイナーと相談しながら「なるべく大きく見えるものを選ぶ」というのが一般的です。スポーツカーの場合は、内側に大きなブレーキをおさめなければならないというのも、大径タイヤを設定する理由のひとつではあります。

サイズ設定には、商売上の要因もあります。タイヤというのは、お金が取れる。つまり、いい商売道具になるのです。標準の〇インチのほかに1インチ大きなものもオプション設定して、「ほら、こっちのほうがいいですよ」とやるのは、もはや定着した手法ですよね(笑)。

しかし正直に言って、走りの性能や乗り心地という点で、標準サイズでダメということはまったくありません。「直径が大きくて偏平率が低いから性能上ベターである」などということはないのです。どんなクルマだって、小さい標準サイズで万全の性能が出るように開発されるものだし、むしろそのほうが乗り心地が良かったりします。

前述のとおり、高性能スポーツカーでは“大きいほう”を選ぶ意味がありますが、そうでなければ“小さいほう”で十分。大きいタイヤな見栄えの要素が強く、走りや乗り心地の点では不必要、といえるのです。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。