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第24回:メルセデス・ベンツに物申す(後編) ―「EQE/EQS」の先に未来はあるか?―

2024.05.08 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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圧巻の統制力でカーデザインの統一を図るメルセデスだが、いっぽうで新しい造形にも果敢に挑戦している。その最右翼が、UFOみたいな電気自動車(EV)の「EQS/EQE」だ。過去の価値観をかなぐり捨てたデザインに未来はあるのか? いつもの3人が激論を交わす。

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シカクいのにマルいところが面白い

渕野健太郎(以下。渕野):個人的に、今のメルセデスで好きなデザインは、「Sクラス」と「GLB」ですね。

清水草一(以下、清水):ええっ! Sクラスはともかく、GLBって、ぬいぐるみのサイコロみたいなクルマですよね?

渕野:そうそう(笑)、それです。

清水:あれがいいんですか?

渕野:好きですね。

清水:あのカタチって、「ダイハツ・ムーヴラテ」に通じるものがあると思うんですよ。立方体の角を大きく丸めてるでしょう。

渕野:GLBは、最近のメルセデスの丸い断面や丸いイメージを、四角いプロポーションでやってるじゃないですか。その対比の面白さがあるんですよ。四角いプロポーションだったら面もパンとした四角だ! っていうのは、よくあるパターンじゃないですか。でもGLBは、今のメルセデス風のニュアンスを取り入れながら、シルエットが四角っていうのがおもしろい。なんかちょっとキャラクターっぽいじゃないですか。そこがいい。

webCGほった(以下、ほった):マニアックな見方ですね(笑)。

清水:つまり、私が嫌ってるポイントが、まさに長所ってことですね!

渕野:そうなりますね。

清水:GLBって、日本では売れ行きがいいんですよね。輸入車のモデル別ランキングでベスト10に入ってる。ウチの近所(東京都杉並区)でもよく見かけます。サイズがコンパクトで実用性が高いベンツ、っていうのが売れてる理由だと思うんです。つまり「ベンツならなんでもいい」っていう人が買ってるような気がしてしょうがないんですけど。

渕野:そうじゃないと思いますよ。

清水:そうじゃないんですか!?

伝統的なクルマの形を、本気で捨てにかかったメルセデス・ベンツEQシリーズのセダン群。このデザインを私たちはどう受け止めるべきなのか? ……さて問題です。このクルマは「EQE」でしょうか? 「EQS」でしょうか?(正解は当記事最後の写真キャプションで!)
伝統的なクルマの形を、本気で捨てにかかったメルセデス・ベンツEQシリーズのセダン群。このデザインを私たちはどう受け止めるべきなのか? ……さて問題です。このクルマは「EQE」でしょうか? 「EQS」でしょうか?(正解は当記事最後の写真キャプションで!)拡大
渕野氏が高く評価する「メルセデス・ベンツGLB」。小型車用のエンジン横置きプラットフォームをベースとした、コンパクト(?)SUVである。
渕野氏が高く評価する「メルセデス・ベンツGLB」。小型車用のエンジン横置きプラットフォームをベースとした、コンパクト(?)SUVである。拡大
角の丸いスタイリングや、後端をキックアップさせないガラスエリアの形状などで同門のSUVと類似性を持たせているが、こちらは空間効率を重視したわかりやすい2ボックススタイルなので、基本となるフォルムが大きく異なっている。
角の丸いスタイリングや、後端をキックアップさせないガラスエリアの形状などで同門のSUVと類似性を持たせているが、こちらは空間効率を重視したわかりやすい2ボックススタイルなので、基本となるフォルムが大きく異なっている。拡大
主要コンポーネントを共用する2代目「GLA」(写真向かって左)ともども、2020年6月に日本に導入された「GLB」(同右)。2023年における輸入車の登録台数ランキングでは8位に入っており、メルセデスでは「Cクラス」に次ぐ人気車種となっている。
主要コンポーネントを共用する2代目「GLA」(写真向かって左)ともども、2020年6月に日本に導入された「GLB」(同右)。2023年における輸入車の登録台数ランキングでは8位に入っており、メルセデスでは「Cクラス」に次ぐ人気車種となっている。拡大
全長4640mmの寸法で3列7人乗りを実現するなど、国産SUVに比肩する高効率なパッケージが自慢の「GLB」。清水氏は「その実用性こそ人気の秘訣で、デザインはあまり見られていないのでは?」と語るが……。
全長4640mmの寸法で3列7人乗りを実現するなど、国産SUVに比肩する高効率なパッケージが自慢の「GLB」。清水氏は「その実用性こそ人気の秘訣で、デザインはあまり見られていないのでは?」と語るが……。拡大
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魅力は「偉そうに見えないところ」

渕野:タレントの藤田ニコルさんも、確かGLBを買ってましたよね。

ほった:ですね。2年くらい前に。

渕野:あれ、かわいいから買ったんだと思いますよ。

清水:か、かわいい!?

ほった:ちょっとそういう雰囲気ありますよね。わかります。

渕野:メルセデスっていうと、斜に構えたクルマしかない感じがするじゃないですか。

清水:そんななかでGLBは、一番イバリがないってことですか。

渕野:そう。GLBだけは明らかに違うでしょう。

清水:確かにぬいぐるみっぽいですからね。つまりGLBは、本当にメルセデスのムーヴラテだったってことか……。

ほった:女性に好まれる点も似ていますね。

渕野:GLBの前のモデルはすごくシャープなフォルムで、全然違うタイプでしたけど。……あれ、車名なんでしたっけ?

ほった:GLBの前のモデル? ……「GLK」のことですか?

渕野:(写真を見て)あ、それそれ。GLKです。

清水:GLKかー。これもカッコ悪かったなぁ。GLBよりもっとダメだった。ウケ狙いの四角いフォルムに、やたらパキパキしたラインが入ってて、ヘッドライトはじめディテールが無意味に複雑で。

渕野:違和感があるっていうのは、そんなに悪いことではないんです。正面切って「カッコいいだろう?」っていうクルマだけが魅力的なわけじゃない。GLKも、プロポーションがほかのメルセデスと違って四角い点が、違和感として頭のなかに残ったんです。ただこの頃のメルセデスって、こんなふうにボディーがパッキパキなんで、欲しいかって言われたら「結構です」だったんですけど。

「メルセデス・ベンツGLB」のデザインスケッチ。ちなみに同車を購入した藤田ニコルさんは、フロントマスクのデザインが一番気に入っているという。
「メルセデス・ベンツGLB」のデザインスケッチ。ちなみに同車を購入した藤田ニコルさんは、フロントマスクのデザインが一番気に入っているという。拡大
2019年の「コンセプトGLB」発表の際に先行公開された、ティザーイメージ。手前の人物が手にしているのはベンツ印の10徳ナイフだが、今思えばGLBのキャラクターを実によく表していた。
2019年の「コンセプトGLB」発表の際に先行公開された、ティザーイメージ。手前の人物が手にしているのはベンツ印の10徳ナイフだが、今思えばGLBのキャラクターを実によく表していた。拡大
2008年に登場した「メルセデス・ベンツGLK」。「Cクラス」系のエンジン縦置きプラットフォームを用いた、当時のメルセデスとしては最小のSUVだった。
2008年に登場した「メルセデス・ベンツGLK」。「Cクラス」系のエンジン縦置きプラットフォームを用いた、当時のメルセデスとしては最小のSUVだった。拡大

嫌悪感を乗り越えよ

ほった:GLKは左ハンのみの設定だったこともあって、日本だとあんまり受けなかったんですよね。生産終了は2015年で、メルセデスの言い分では「GLC」が後継ってことになってましたけど……ご存じのとおり全然キャラクターの違うクルマだったから、事実上はお家断絶だったんでしょう。それで、何年か間があってから、エンジン横置きプラットフォームで似たような車格とキャラクターのGLBが出てきた。

渕野:GLBはコンパクトで7人乗りだし、デザイン的にもこっちのほうが全然いいですね。

清水:そうかぁ。これがいいのかぁ。

渕野:GLB、カッコいいじゃないですか。GLKともども、リアゲートがカキーンと立ったメルセデスなわけですよ。GLKはともかく、GLBはすごくカッコいい。

清水:これがカッコよく見えてくるのかなぁ。あ、それは逆の意味、裏返しでカッコいいっていうことですか?

渕野:そうとも言えますね。要は正攻法ではなくて、裏をかいたようなデザインっていう面で。さっき言ったように、若い人には結構受けてるんじゃないかな。

ほった:若い人じゃないけど、キャラクター感があって俺も嫌いではないです。逆に言うと、これと「Gクラス」を除くと、最近のメルセデスのSUVはあまり印象に残ってないんですよね……。

清水:そうかぁ。そうなのかぁ。言われてみれば、かつてテリー伊藤さんがムーヴラテを絶賛したように、GLBもカッコいいのかもしれない。

ほった:「嫌悪感のあるものを受け入れなかったら成長はないんだよ!」でしたっけ?

清水:そう! 俺はGLBを受け入れないと成長できないのかな……。そう思うと、カッコいいかどうかはともかく、だんだんかわいらしく見えてきましたよ!

渕野:でしょう(笑)?

清水:藤田ニコルが買ったのもわかる気がしてきた! 「最悪!」って思ったものって、意外と評価が逆転したりするんだよね。

ほった:意志の勝利ですね。もしくは自己暗示というかなんというか。

このクラスのSUVとしてはメルセデス初のモデルだった「GLK」。2015年に廃止となり、代わって「GLC」が登場したが、サイズも価格も大幅にアップ。デザインも刷新されており、GLKのコンセプトが受け継がれることはなかった。
このクラスのSUVとしてはメルセデス初のモデルだった「GLK」。2015年に廃止となり、代わって「GLC」が登場したが、サイズも価格も大幅にアップ。デザインも刷新されており、GLKのコンセプトが受け継がれることはなかった。拡大
「GLB」のリアクオータービュー。明瞭な2ボックスのスタイルに切り立ったテールゲートと、この角度から見ると、「GLK」との類似性がわかりやすい。
「GLB」のリアクオータービュー。明瞭な2ボックスのスタイルに切り立ったテールゲートと、この角度から見ると、「GLK」との類似性がわかりやすい。拡大
上から最新の「メルセデス・ベンツGLC/GLE/GLS」。他モデルと同じく“金太郎アメ”戦略が採られているメルセデスのSUV製品群だが、こちらはまだ、セダン/ステーションワゴンよりはモデルごとの違いが把握できる。
上から最新の「メルセデス・ベンツGLC/GLE/GLS」。他モデルと同じく“金太郎アメ”戦略が採られているメルセデスのSUV製品群だが、こちらはまだ、セダン/ステーションワゴンよりはモデルごとの違いが把握できる。拡大
さあ、あなたも「GLB」を凝視してみましょう。ほら、だんだんカッコよく見えてきたでしょう……。
さあ、あなたも「GLB」を凝視してみましょう。ほら、だんだんカッコよく見えてきたでしょう……。拡大

メルセデス・ベンツ VS. BMW

清水:じゃ、EVのEQSやEQEについてはどうですか? 夜、首都高に走りに行って、「なんかUFOみたいなのがいるな」と思うとEQSかEQEなんですよ。本当に未来から来たクルマみたいに見える。謎の円盤UFOみたいな。

渕野:うーん……。なんか、スタンスのよさや踏ん張り感はあんまりないですね。従来の「C/E/Sクラス」のプロポーションに対して、確かに伸びやかなんですけど……伸びやかな電車にタイヤがついてるような(笑)。

清水:電車!?

ほった:電車じゃなければリニアモーターカーとか。

清水:いやいや。通常のクルマに比べて、キャビン部分がはるかにでかくて長くて、そのぶんノーズ部が短いでしょう。これって、子供の頃見た未来予想図のクルマそのまんまじゃないですか。

渕野:まぁ、そうですね。確かに未来感はすごくあるけど、僕としてはもっとドシっとしててほしいんですよ。リアから見たときの印象が、なーんかボディーがタイヤにかかってない感じがする。それで遠目から見たときのプロポーションが、リニアモーターカーみたいなものにタイヤがついてるように見えるんです。

清水:それが新しいところじゃないかと。

渕野:それがイイという人がいるんだったら、イイのかなぁ……(笑)。

清水:EQSやEQEが走ってると、「すげえのがいる!」って感じますよ。これ、「BMW i7」とだいたい同じ時期に出てるんですよね。i7はロールスみたいな超コンサバな四角い形で出たのに対して、EQSは対極できた。BMWは完全に過去に振っているのに対して、メルセデスは完全に未来に振った。で、どっちがいいかって言ったら、やっぱりEQSじゃないかと。カッコよくないですか? これ。

ほった:コメントしづらい(汗)。

渕野:自分で買いはしないかな(笑)。

清水:もしも自分が富裕層なら欲しいけどなー、このカタチ。

メルセデス・ベンツが満を持して世に問うた、“電気で走る「Sクラス」”こと「EQS」。2021年4月にデビューした。
メルセデス・ベンツが満を持して世に問うた、“電気で走る「Sクラス」”こと「EQS」。2021年4月にデビューした。拡大
「EQS」は、2024年4月発表の改良モデルで顔まわりの意匠を変更。以前よりは「EQE」との見分けがつくようになった。
「EQS」は、2024年4月発表の改良モデルで顔まわりの意匠を変更。以前よりは「EQE」との見分けがつくようになった。拡大
「EQS」(改良モデル)のリアクオータービュー。フェンダーによるタイヤの強調は控えめで、またリアバンパーのボリュームが強い(=シルエットのラインがリアタイヤからかけ離れている)ことから、この角度だとスタンスのよさよりナローなイメージが強調される。
「EQS」(改良モデル)のリアクオータービュー。フェンダーによるタイヤの強調は控えめで、またリアバンパーのボリュームが強い(=シルエットのラインがリアタイヤからかけ離れている)ことから、この角度だとスタンスのよさよりナローなイメージが強調される。拡大
ディメンションは「メルセデス・ベンツEQS」が全長×全幅×全高=5225×1925×1520mm、ホイールベース=3210mmなのに対し、「BMW i7」は全長×全幅×全高=5390×1950×1545mm、ホイールベース=3215mmとなっている。ひとまわり大きく角張った意匠のi7に対し、EQEは伸びやかなフォルムと高さを抑えたルーフラインが特徴だ。
ディメンションは「メルセデス・ベンツEQS」が全長×全幅×全高=5225×1925×1520mm、ホイールベース=3210mmなのに対し、「BMW i7」は全長×全幅×全高=5390×1950×1545mm、ホイールベース=3215mmとなっている。ひとまわり大きく角張った意匠のi7に対し、EQEは伸びやかなフォルムと高さを抑えたルーフラインが特徴だ。拡大

既存のクルマとはなにもかもが違う

ほった:正直、車格感というかクルマのありがたみ感というかが、わかんないんですよね。

渕野:EQSとか、これが「未来のメルセデスの“S”です」って言われると……。

清水:そういうのを超えてますから! 新しいSクラスに対して、EQSのほうがデザイン的にはるかに進んでるのは間違いない。メルセデスはEQSに対して本気で、いっぽうで従来のSは保険的につくった。EQS、カッコいいじゃないですか!

ほった:GLBのときと完全に立場が入れ替わりましたね。でも俺にはコレはわかんないっす。

渕野:ドライバーズカーなんですかね? これって。Sクラスって、どっちかっていうとショーファーカーじゃないですか。EQSはどっちなんだろう?

清水:そういうものもスッ飛ばした存在でしょう。

渕野:でも、誰が乗るんだろう? っていうところが腑(ふ)に落ちないんですよ。しかもEQEとほぼソックリ。

清水:そう、全然見分けがつかない。それは悩みです(笑)。

渕野:どっちも最初に見たときから、あまりピンとこなかったんですけど。

清水:そうですか。僕は、これこそ渕野さん好みのクルマじゃないかと思ったんだけど。

渕野:街を走ってるのをたまに見かけると、やっぱり「スタンスがよくないな」って感じちゃうんです。ドシッとした従来のSクラスのほうがかっこいいなって思ってしまう。発想が古いのかなぁ。

清水:そんなドシッとしてないところがいいんじゃないですか。

渕野:レールの上を走ってるんだったらいいんですけど、クルマとして、ロールしたときに踏ん張っている姿が想像しづらい。

清水:それはあえて外したのかもしれない。「浮かんでるみたいに走ります」っていうイメージで。

2023年のジャパンモビリティショーより、メルセデス・ベンツのブースに飾られた「EQS」。webCGほったとしては、クルマそのものの印象はよかったのだが……。
2023年のジャパンモビリティショーより、メルセデス・ベンツのブースに飾られた「EQS」。webCGほったとしては、クルマそのものの印象はよかったのだが……。拡大
同じブースに展示されていたコンサバな「Sクラス」(AMGモデル)のほうが、やはり“偉そう”に感じられてしまった。
同じブースに展示されていたコンサバな「Sクラス」(AMGモデル)のほうが、やはり“偉そう”に感じられてしまった。拡大
ひとまわり小さなEセグメントモデルの「EQE」。デザイン面における「EQS」との違いは少なく、もう間違い探しのレベルだ。
ひとまわり小さなEセグメントモデルの「EQE」。デザイン面における「EQS」との違いは少なく、もう間違い探しのレベルだ。拡大
「EQS」のデザインスケッチ。 
ほった「スケッチだと、かなりスタンスを意識しているように感じられるんですけどねぇ」 
清水「いや。世のカーデザイナーさんは基本的に、スケッチではどんなクルマもスタンスよく描くものなんだよ」
「EQS」のデザインスケッチ。 
	ほった「スケッチだと、かなりスタンスを意識しているように感じられるんですけどねぇ」 
	清水「いや。世のカーデザイナーさんは基本的に、スケッチではどんなクルマもスタンスよく描くものなんだよ」拡大
清水「結構ウエッジシェイプ気味なスケッチもあったんだね」 
ほった「『Honda 0』の『サルーン』みたいに、ドライバーズカーを志向していたのかも」
清水「結構ウエッジシェイプ気味なスケッチもあったんだね」 
	ほった「『Honda 0』の『サルーン』みたいに、ドライバーズカーを志向していたのかも」拡大

超越か、表現と技巧の放棄か

渕野:前にもお話ししたかもしれませんけど、自分みたいに職業でデザイナーやってたりすると、どうしても「どういうお客さんを目指して、このクルマをつくってるか?」っていうところに注目するわけです。EQEやEQSは、それがわからない。

ほった:同感です。

清水:そういう商売っ気のなさがまた、EQSの超越感でしょう。

ほった:そうですかね? ワタシは既存の形を捨てたのはいいけど、「じゃあこれからどうしていく?」って段階にまだ達してないのかなって思っちゃいました。個人的には私も憎からずなんですが、ニュートラルな目で見たらコレ、でっかいダンゴムシですよ。それで高級車だと言われても、やっぱり「へ?」ってなっちゃう。

他社のEVでもたまにそう感じるものがあるんですけど、それがファミリーカーなのか高級車なのかスポーツカーなのかなんなのかが、わからないんですよ。高級車はここで高級感を表現していて、スポーツカーはここがこうだからスポーティーで、ファミリーカーはここで身近さを感じさせて……っていうのが、ナイ。

清水:そういう分類、あえてする必要ないよ。

ほった:いや分類の話じゃなくて、クルマにキャラクターを持たせるための表現や技法は、これからもあるべきじゃないかってことです。俺たちはナニに金払ってるんですか?

清水:「おおっ、すげえ!」みたいなことだけでいいじゃない!

ほった:だから、「おおっ、すげえ!」ってなんないんですよ、ダンゴムシじゃ!

渕野:まぁまぁ(笑)。

「メルセデス・ベンツEQS」のデザインスケッチ。 
渕野「実際に使われるシーンが想像つかないというか、どういうお客さんへ向けたクルマなのか、ちょっとピンとこないんですよね……」
「メルセデス・ベンツEQS」のデザインスケッチ。 
	渕野「実際に使われるシーンが想像つかないというか、どういうお客さんへ向けたクルマなのか、ちょっとピンとこないんですよね……」拡大
ホンダの次世代EVブランド「Honda 0」のコンセプトモデル。メルセデスのEQ同様、こちらもいささか“車格感・価格感不明”の雰囲気が漂っており、取材現場では一部の報道関係者が“Honda 0=高価格帯のブランド”と勘違いしていた。
ホンダの次世代EVブランド「Honda 0」のコンセプトモデル。メルセデスのEQ同様、こちらもいささか“車格感・価格感不明”の雰囲気が漂っており、取材現場では一部の報道関係者が“Honda 0=高価格帯のブランド”と勘違いしていた。拡大

メルセデス・デザイン水掛け論

渕野:自分らにこのクルマがあんまり響いてない理由はなんなのか、写真見ながら考えたんですけど、やっぱり間延び感はありますね、凝縮感より。

清水:その間延び感がたまらないんですよ。クルマの常識を超えて間延びしている感じが。

渕野:だけど、普通のドアで普通のレイアウトなんですよね、このクルマ。だから、これまでのメルセデスのセダンのプロポーションを、グワーって伸ばしただけみたいに感じられる。元のメルセデスの形が崩れちゃった、みたいに。ここからもう一歩先に行ったときに、なんか違うものが考えられるのか……。

クルマのデザインって難しいんですよ。なにかを変えたらなにかしら弊害が出たりして、結局、元のほうがよかったとか、そういうことの繰り返しなのかもしれない。

清水:こりゃ結論は出ないですね。しかしまぁ、GLB派対EQS派ってのは、論争としてはイイ!

ほった:EQSなら、ホンダから出ててもよくないですか?

渕野:確かにホンダっぽいですね。

清水:それを言うならGLBはトヨタでしょ! 「クルーガーV」とか!

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=メルセデス・ベンツ、BMW、webCG/編集=堀田剛資)

既存のクルマとはかけ離れたフォルムの「EQE/EQS」だが、その実は前後ヒンジドアの4ドアセダンで、サイドビューに見るドアの切り欠きも、至って普通だ。そうしたあたりも、見る者をモヤモヤさせてしまう要因なのかもしれない。
既存のクルマとはかけ離れたフォルムの「EQE/EQS」だが、その実は前後ヒンジドアの4ドアセダンで、サイドビューに見るドアの切り欠きも、至って普通だ。そうしたあたりも、見る者をモヤモヤさせてしまう要因なのかもしれない。拡大
かたわらに立つ人物(ダイムラーグループのゴードン・ワグナー チーフデザインオフィサー)とクルマの対比に注目。単体だとわかりづらいが、「EQS」は実際には相当にデカいクルマだ。このサイズ感のつかみづらさは、多くの他社製EVにも言えるもので、そうした点も次世代EVのうろんなイメージにつながっているのかも。
かたわらに立つ人物(ダイムラーグループのゴードン・ワグナー チーフデザインオフィサー)とクルマの対比に注目。単体だとわかりづらいが、「EQS」は実際には相当にデカいクルマだ。このサイズ感のつかみづらさは、多くの他社製EVにも言えるもので、そうした点も次世代EVのうろんなイメージにつながっているのかも。拡大
「EQS」のデザインスケッチ。長いホイールベースと短いボンネットおよびリアフードからくる間延び感は、床にバッテリーを敷き詰めるEVをデザインするうえで、大きな課題となるのかもしれない。
「EQS」のデザインスケッチ。長いホイールベースと短いボンネットおよびリアフードからくる間延び感は、床にバッテリーを敷き詰めるEVをデザインするうえで、大きな課題となるのかもしれない。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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