トヨタ・ランドクルーザー“70”AX(4WD/6AT)
“愚直”という美徳 2024.07.01 試乗記 熱心な顧客の要望に応え、再び国内市場で復活を果たした「トヨタ・ランドクルーザー“70”」。40年間変わらない、決して快適とも便利ともいえない愚直な4WD車は、なぜ今こうも輝いて見えるのか? おおらかな応答のハンドルを握り、その真価を考えた。ここもあそこも40年前のまま
みなさんは、1984年になにをしていましたか?
なにしろ40年も前なので、まだ生まれていないという方もいるでしょう。西暦1984年は昭和59年、オリコンの年間シングルチャートの1位はわらべの『もしも明日が…。』で、ビルボードの年間シングルチャート1位はプリンスのアルバム『パープル・レイン』に収録されている『When Doves Cry』だった。この年には新紙幣が発行され、一万円札の肖像画は聖徳太子から福沢諭吉に変わり、ロサンゼルスオリンピックでは男子柔道の無差別級で山下泰裕が優勝した。
こう書くとずいぶん昔のように感じるけれど、この1984年にデビューしてから一度もモデルチェンジされずにつくられ続け、世界の現場で活躍しているクルマがある。トヨタのランドクルーザー“70”だ。2004年に日本での販売を終了したものの、発売30周年を記念して2014年から2015年にかけて期間限定で国内販売を復活(参照)。そして2023年に再々復活(参照)を遂げている。
屈強なハシゴ型のフレームからサスペンションが生えるラダーフレーム構造、左右のタイヤを一本の軸でつないだリジッドアクスルサスペンション、4駆にすると前軸と後軸が直結となるパートタイム式4WDシステムなどなど、基本的な構造は40年前と変わっていない。
乗り込んでインテリアを見渡すと、つやのない樹脂類の質感が懐かしい。空調は、風量や風向きをレバーとダイヤルの操作で調整するマニュアル式で、これもあの頃のまんまだ。いっぽうで、その空調操作パネルの下にはタイプCのUSBポートが2つあって、その区画だけ時空がねじれているというか、不思議な味わいを醸している。
基本的な構造は踏襲しているものの、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警告装置、オートマチックハイビームなどの安全装備はしっかりと備わっている。クルーズコントロールは定速走行のみの対応で前車追従はしないけれど、ミリ波レーダーと単眼カメラでドライバーを支援してくれる。
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今日のSUVとは明らかに違う
2.8リッターの直列4気筒ディーゼルターボエンジンを始動して、6段ATをDレンジにシフト、まずは市街地からスタートする。
ディーゼルエンジンはコモンレール式の燃料噴射システムや尿素SCRシステムを備えた最新のもので、実に滑らか。「モリモリ」という表現を使いたくなるほど極低回転域から力が湧いてくる。6段ATもシームレスに変速するし、およそ10年前に乗った30周年記念のランクル“70”より明らかにパワートレインが洗練されていて、「今日はナナマルだから気合入れていくぞー! バッチこい!!」と気負っていたのに拍子抜けする。
けれども、最初の交差点を曲がるところで、切れ味の鈍い、ねっとりとしたステアリングフィールで、やっぱりこれはランクル“70”だということを思い知る。ステアリング機構は、いまや希少なリサーキュレーティングボール式なのだ。そしてタバコ屋の角を曲がるくらいのスピードでも感じる、車体の骨格部分と上屋の部分がねじれているようなラダーフレーム構造特有の感覚。路面の凸凹を突破すると、ビシッというショックが伝わるわけではないのに乗員が揺すぶられるリジットアクスルっぽい動きに、やはり最近のSUV にはないクセの強さを感じる。
助手席では、webCGのホッタ記者が目をつぶり、感に堪えないといった様子で「たまりませんなぁ、このフィーリング」とつぶやいた。ホッタ記者はかなりのヘンタイ(褒めています)なので、このフィーリングをネガティブな意味で「たまりません」と感じる人がいても不思議ではない、ということは付け加えておきたい。
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クルマの進化ってなんだろう?
試乗の途中で、三十数年前にランクル“70”に乗っていたという向後カメラマンが加わる。高速道路に上がると、後席に座った向後カメラマンが、「めっちゃよくなっているじゃないですか」と朗らかな表情で語り、「静かになっているし、乗り心地もすごいよくなっている」と続けた。
ただし向後カメラマンはホッタ記者に負けず劣らずのヘンタイなので、「めっちゃよくなっている」の基準は、良識があり、まっとうな生活を送っている方とはかなり異なるかもしれない。
10年前の30周年記念のランクル“70”よりも大幅に洗練されていることは認めるにしても、ラダーフレーム構造+リジッドアクスルによるゴワゴワした手触りや、上下左右に揺すられている感じは残っている。同じトヨタのSUVでも「ハリアー」とはまったくの別物だ。
けれども、なぜだろうか。ランクル“70”をドライブしていると、体の奥底からパワーが湧いてくるように感じる。ねっとりとしたステアリングをぐるぐる回し、バタつく4輪を抑え込み、2.3tの車体をねじ伏せようとガンバっていると、どんどん元気が出てくる。
かなり大げさですが、ランクル“70”に乗りながら、クルマの進化ってなんだろうと考えさせられた。クルマが安全に、快適に、環境にやさしく進化することは、もちろん素晴らしいことだ。そのいっぽうで、クルマとドライバーとの距離が広がったり、人間が本来持っている力を封じ込めたりしているようにも感じる。
思いあたるフシがある。先日、20歳代のクルマ好きグループと話をする機会があったけれど、彼らのほとんどすべてが1990年代のちょっと古いクルマに乗っていたのだ。新しいクルマに興味はないのかと尋ねると、ひとりはこう答えた。「だっていまのは全部一緒じゃないですか。モーター回してクルコンでついてって」。
う~ん、モーターを回すのはCO2削減のため、クルコンで追従するのは将来の事故ゼロを実現するためだから、どちらもいいことだ。こうした進化を果たしつつ、ドライバーとの距離が近いと感じさせることは、なかなかに難しい。
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このカッコよさの源にあるもの
撮影現場では、向後カメラマンとホッタ記者がはいつくばってリアサスペンションをのぞき込んでいる。乗り心地がよくなったのは、リアサスペンションのリーフスプリングの数を2枚に減らす“日本仕様専用セッティング”による。ちなみに、30周年記念のランクル“70”は6枚だった。ただし2枚に減らしつつも、耐久性などの性能を落とすことはできないので、リーフの形状に工夫を凝らした。
続いてホッタ記者が、ボンネットを見てくださいと向後カメラマンに言う。ディーゼルエンジンを搭載するにあたって熱量が増えることから、ラジエーターを拡大。これによりボンネットの形状も変更することになった。
ディテールを撮影しながら感じるのは、すべてが機能にひもづき、生活の役に立つことにつながっているということだ。強靱(きょうじん)で悪路をガンガン走っても長持ちするラダーフレーム構造、凸凹道や岩場でもビヨヨンと伸び縮みして路面を捉えて離さないリジッドアクスル、悪路からハンドルに伝わるショック、いわゆるキックバックを丸め込んでくれるリサーキュレーティングボール式のステアリング。基本的な構造を変えていないのは、それが世界中で求められているからだ。
運転しながらクルマの進化について考えさせられたけれど、撮影中はクルマのブランド力について考えた。プレミアムとか上質なライフスタイルとか、そうしたふんわりした宣伝文句ではなく、「自分、不器用ですから」と暮らしの役に立つことに徹することで、ランクル“70”は現在の地位を得た。だから超カッコいいし、日本の誇りだ。こんなクルマは、もう出てこないかもしれない。2年でも3年でも待つ価値がある。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トヨタ・ランドクルーザー“70”AX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4890×1870×1920mm
ホイールベース:2730mm
車重:2300kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.8リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:204PS(150kW)/3000-3400rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1600-2800rpm
タイヤ:(前)265/70R16 112S M+S/(後)265/70R16 112S M+S(ダンロップ・グラントレックAT23)
燃費:10.1km/リッター(WLTCモード)
価格:480万円/テスト車=500万6140円
オプション装備:ベーシックナビ(12万3420円) ※以下、販売店オプション 前後方2カメラドライブレコーダー(4万4220円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>(3万8500円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:394km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(4)/山岳路(1)
テスト距離:357.5km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:8.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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