第799回:話題の「ダンロップ・シンクロウェザー」に試乗! 住友ゴムの挑戦はオールシーズンタイヤに革命をもたらすか?(後編)
2024.07.23 エディターから一言 拡大 | 
		
“水”と“温度”でゴムの特性が変わるという、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。その冬性能は実感できたが、このタイヤは春・夏・秋もドライバーを支えなければならない。今回はシンクロウェザーの“冬以外”の性能をリポートする。
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最新オールシーズンタイヤの“サマー性能”を試す
晩冬の旭川でウインター性能を試した、ダンロップの次世代オールシーズンタイヤ、シンクロウェザー。今回はそのサマータイヤとしての性能を、初夏の岡山、同社のテストコースと周辺道路で確認した。
ここでシンクロウェザーの特徴をダメ押しでおさらいしておくと、これは「水スイッチ」と「温度スイッチ」という、2つの“ウェザースイッチ”を持つオールシーズンタイヤである。冬の試乗会では、それぞれ「タイプ・ウエット」「タイプ・アイス」と説明されていたものだ(参照)。
「水スイッチ」とは文字どおり、水に反応して柔らかくなるゴムの特性を表している。水を含むと結合を緩める新開発のポリマー(連続したゴムの分子)を用いることで、雨が降ったときでもゴムを路面にグリップさせることが可能になる。オールシーズンタイヤにこの技術を投入するメリットは、ウエットグリップ性能を担保しつつコンパウンド剛性を高められることだろう。ゴムがしっかりすれば走行安定性は高まるし、転がり抵抗を減らすことでCO2の排出量も削減できる。
対して「温度スイッチ」は、低温になるに従いコンパウンドが柔らかさを増す技術の総称だ。ただ、こちらは現状まだ開発段階にあり、いまシンクロウェザーに配合されるのは「低温下でも硬くなりにくいゴム」にとどまっている。とはいえ、今後は温度に反応するゴムが配合されて、さらにその性能を高めていくのだろう。
ちなみに現段階でもその氷上性能はかなり高く、同社のスタッドレスタイヤ「ウインターマックスWM02」と同等のブレーキ性能や旋回性能を示しているのはリポートしたとおりだ(参照)。
ウエット性能は上級のサマータイヤと同等
ということでさっそくリポートに移るが、最初に試したのは、筆者も一番興味があったスキッドパッドでのウエット旋回だった。車両は、冬季に続き「トヨタ・カローラ ツーリング」(2WD)。比較用タイヤとしては、夏タイヤには同価格帯の「ルマンV+」が、冬タイヤにはスタッドレスのウインターマックスWM02が用意されていた。タイヤサイズはすべて195/65R15だ。
ここでシンクロウェザーは、いきなりかなりの“シンクロッぷり”を発揮した。ウエット路面に突入した際の感触はまさしくソフトで、ゴムだけでいえばルマンV+よりもしなやかに路面を捉えている。旋回性能そのものも、「滑り出すのは約60km/hから」と同等だ。
ただしコントロール性に関してはややトレッド剛性が低く、ゴムが動きすぎて操舵量が多くなってしまう傾向があった。粘った後アクセルをラフに戻すと反動がついて巻き込む動きが少し見られた。
これに対してルマンV+は、限界領域でゴムが追従し切れずトレッドが跳ねる傾向こそあったが、トレッド剛性そのものは高く、操作性がよかった。本当は両者の中間くらいのグリップ特性が望ましいのだが、ともあれシンクロウェザーが、現役のサマータイヤで、しかもプレミアムレンジのルマンV+と肩を並べていたことには驚かされた。
ちなみにWM02は、旋回に入った一発目のカーブから、大きくフロントが流れていってしまった。定常領域での速度もシンクロウェザーやルマンV+に比べて3~5km/hほど低く、舵角も一切り大きい。最終的にはスタビリティーコントロールで挙動も安定するが、緊急回避などで急激にハンドルを切るような場面を考えると、やはりスタッドレスタイヤはウエット性能が一段低いことを強く実感した。
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もう少しシッカリ感が欲しい
「ドライ性能体感」と銘打たれた試走は、テストコースの敷地内をフル活用したメニューとなっていた。配車場と周回路をつなぐ連絡路では乗り心地を、周回路のストレート(100km/h以下)では走行安定性を、テストコースの両側バンク(110R・70km/h前後/150R・80km/h前後)では高速コーナリングを、走安路(50km/h前後)ではハンドリングを確認する……といった具合だ。
静粛性に関しては、やはり内部にスポンジを仕込んで空洞共鳴音を低減するルマンV+が一枚上手だ。ただしシンクロウェザーも、雪柱の剪断(せんだん)性および水膜の排水性に優れるVパターンのトレッドデザインを搭載しながら、そのパターンノイズをよく抑え込んでいる。また連絡路に用意された乗り心地の確認コースでは、シンクロウェザーのしなやかさが荒れた路面や段差などで乗り心地のよさにつながっていることが感じられた。とはいえ、衝撃吸収能力と振動が減衰する速さ/早さ、そしてシッカリ感はルマンV+が優勢で、ここは好みが分かれるところだろう。ちなみにWM02は、ゴムの量が多いぶん段差ではバネ下のドタバタ感が強く、かつサイプ(圧雪路や氷盤路でのグリップ力を高めるための細かい溝)の数が多いことから、ロードノイズも低速から高速巡航まで、満遍なく聞こえてきた。
高速周回路では、ルマンV+の剛性バランスのよさが光った。低速のハンドリングセクションも同様で、操舵応答性がリニアだ。これと比較すると、シンクロウェザーは剛性感がソフトで、110Rや150Rといった大きなカーブでも操舵に対する応答がワンテンポ遅いから、これを予測して切っていく必要がある。またレーンチェンジでは、あえて荒っぽく操舵するとレーン内にクルマをとどめるための修正舵が必要になる。
とはいえ、スタッドレスタイヤのようにサイプが刻まれているというのに、ストレートでトレッド面がムービングすることもなかったし、その性能はサマータイヤの範疇(はんちゅう)にある。恐らく高速性能やハンドリング性能に関しては、同じレベルで比較するなら、よりスタンダードなサマータイヤを持ってくるべきだったのだろう。もしくは、現行オールシーズンタイヤの「オールシーズンマックスAS1」か。
今回ダンロップが比較対象にルマンV+を選んだのは、シンクロウェザーがおよそ同価格帯のタイヤになるからだろう。高性能なオールシーズンタイヤだけに、その価格はスタンダードな夏タイヤよりは少し高くなるためだ。もちろんスタッドレスと2セットそろえるコストを考えれば、それはかなりの節約となる。
ちなみに、筆者はAS1のサマー性能も試したことがあるのだが、その実力はかなり高かった。記憶をひも解けば、感触的にはこちらのほうが、シンクロウェザーよりも剛性バランスが高かったと記憶している。柔らかすぎず、しなやかないいタイヤだった。恐らくシンクロウェザーは、現状だとコンパウンド性能だけでなく、タイヤの構造も含めてしなやかさを出すことで、ウインター性能をカバーしているのではないか。加えて言えば、シンクロウェザーのこの柔らかさを“乗り心地のよさ”として歓迎するユーザーもいるだろう。全体的には、ソフトで乗り心地のよいタイヤというのが、テストコースにおけるシンクロウェザーの印象だった。
またあえて触れておくと、WM02はその剛性感、操舵応答性ともにウインタータイヤの域にあり、シンクロウェザーのサマー性能がサマータイヤのレベルにあることが、乗り比べでよくわかった。
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公道ではなぜか印象が逆転
最後はシンクロウェザーで一般道を走る。車両は冬季試乗のときと同じく「メルセデス・ベンツ GLC」で、タイヤサイズは235/60R18だ。車高が高く、そこそこ以上に車重もあるSUVを、テストコースではソフトに感じたシンクロウェザーはちゃんと支えられるのか? 最初はそう思ったのだが、結果的にはとても快適な乗り味となっていた。
その乗り心地は、トレッド面の当たりが柔らかくてとても優しい。にもかかわらずタイヤそのものはよく転がる印象で、不思議な快適さが味わえた。試乗時はまだ転がり抵抗のグレーディングは公開されていなかったが、開発陣いわく、そこにもかなり注力したのだという。
またワインディングロードでは、テストコースでの印象とは逆に、むしろ剛性の高さを感じた。コンパウンド自体は標準的なグリップ力なのだが、荷重がかかるほどにタイヤがしっかり荷重を支えてくれる感じが高まるのだ。クルマとの相性もあるのかもしれないが、もしかしたらテストコースだと、“ゴムだけの性能”でほとんどを走れてしまったのかもしれない。GLCは重心が高く重量もあるから、曲がり込んだカーブだとタイヤにしっかり荷重がかかって、とても走りやすかった。
総じてシンクロウェザーのサマー性能は、実にスタンダードで快適だった。確かに、ゴムとタイヤ構造とで役割をスイッチするような場面では、まだ“段つき”があるような気はする。走行安定性に関しても、もう少し本格的にダイナミック性能をテストしてみたい。そのキャラクターをきっちり理解するには時間が欲しいと感じたけれど、第一印象はまずまずだ。しかも、これがオールシーズンタイヤだというのだから、やはりアクティブトレッド技術は大きな可能性を持っていると感じた。
(文=山田弘樹/写真=住友ゴム工業、webCG/編集=堀田剛資)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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